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人狼への転生、魔王の副官 作者:漂月

本編

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373/415

旅路の果てに

373話


 俺が起き上がると、その大きな人影はこちらを振り向いた。
 嘘だろ!?
 あの大きくたくましい姿と、威厳に満ちた竜の横顔は……。


 あれは、フリーデンリヒター様!?
 俺は夢でも見ているのか!?
 いや、夢に違いない。
 死んだ者は決して蘇らない。あれは夢か幻か、どちらかに決まっている。
 決まっているのだが。
 それでもいい。


「陛下!」
 俺が声をかけると、初代魔王フリーデンリヒター様は口に人差し指を当てた。
 静かにせよ、幼子が起きてしまうではないか。
 そう仰せられた。
 それから竜人族特有の迫力ある顔で、フッと微笑んだ。


 俺はたまらなくなり、駆け寄ってフリーデンリヒター様を見つめる。
 あなたが死んでしまうから、俺たちは遺されてしまって。
 それから苦労して、戦って、悩んで、必死で。
 それでもあなたの理想と生き様を追いかけて。
 言いたいことはたくさんあるし、聞いてほしいこともたくさんあるのに、何を話せばいいのかわからない。


 するとフリーデンリヒター様は微笑を浮かべたまま、小さくうなずいた。
 言わずともよい。余は常におぬしと共に在ったぞ、と。
 ああ、そうか。
 そうだったのか。


 俺はこの瞬間、全てわかった。
 生と死の宿命も、転生の秘密も。我々が何のために生きていて、どこに向かうのかも。
 なんだ、悲しむことなんか何もなかったんだ。
 こんな簡単なことがわからなくて、俺たちは悩んでいたのか。


 俺はおかしくなり、思わず苦笑してしまう。
 するとフリーデンリヒター様も笑った。
 余の遺志を継いでくれたことに感謝しておるぞ、我が副官よ。おぬしばかりに苦労をかけてしまったな。すまぬ。
 そう言ってくれた。
 今度は泣けてきた。


 フリーデンリヒター様は寝台の上の赤ん坊、つまり俺の娘を、そっと撫でた。
 新生児の腕よりも太い指を、俺の娘は目を閉じたままつかむ。小さな小さな手だ。
 この子は果報者だ。おぬしの築いた平和な時代を生きていけるのだからな。フリーデンリヒター様は笑った。
 この子の人生に幸多からんことを。
 そっと祝福してくれた。


 フリーデンリヒター様は俺に向き直る。
 こうしておぬしの子の誕生も見届けられた。もう思い残すことはない。
 新たな命の誕生を幕引きに、古き者は行くとしよう。
 そう言って、フリーデンリヒター様はゆっくりと歩き出す。


「待って! 待ってください! 陛下! どこに行かれるのです!」
 背を向けたフリーデンリヒター様はおかしそうに笑う。
 今のおぬしなら、わかっておるだろう?
 確かに今の俺にはわかった。
 わかったが、それはとてもつらいことだった。


「今しばらくここに! 陛下! せめて我が娘の成人まで、見守ってやってください!」
 そうもいかぬ。次の戦場が待っているのでな。
 フリーデンリヒター様はそう言う。


 そのとき俺は、妙なことに気づいた。
 フリーデンリヒター様の後ろ姿が、竜人のそれではない。人間の姿になっていた。
 背は高くないが、まっすぐに伸びた背筋。
 制帽と詰め襟の制服、そして肩章に……あれはサーベルか?
 あの出で立ちはまるで前世の……。
 もしかして、あれがフリーデンリヒター様の前世の姿なのか!?


「陛下、お顔を! せめて最後にお顔を拝させてください! それにあなたの本当の名を……」
 フリーデンリヒター様はまばゆい光の中に向かって歩きながら、楽しげに言う。
 余の真の名は、フリーデンリヒター。平和の仲介者である。


 フリーデンリヒター様はさらに続けた。
 ヴァイトよ。いつか再び、果てなき輪廻の巡る中でまみえようぞ。そのときは……。
 光の中で背を向けたまま、フリーデンリヒター様は片手を挙げてみせる。
 また余の副官になってくれぬか?
 そう、言った。
 最高に楽しそうだった。


「陛下!」
 俺は叫び、自分の声で目を覚ます。
 やっぱり夢じゃないか。完全に眠っていた。
 窓のない部屋なので時間がわからないが、俺以外誰もいない。みんな目を覚まして退出したようだ。アイリアと娘の姿もない。
 やれやれ、置いてきぼりか。


 そう思ったとき、ふと俺は枕を見た。
 どうやら俺は、そのへんに転がっていた魔法の兜を枕にしていたらしい。
 これはずっと前に師匠が作った、「英霊の兜」だな。
 死者の面影と再会することができ、助言を授かるというアイテムだ。


 リューンハイト全域に満ちあふれる濃密な魔力。
 今回の手術で使われた多くの魔法と、それが生み出す魔力の複雑なうねり。
 壁に描かれた死の魔術紋に、師匠の張った強力な結界。
 魔術的には何が起きてもおかしくないシチュエーションだ。
 しかし……まさか?


 するとそこにモンザが欠伸をしながら入ってきた。
「ふぁーあ……。あ、おはよ隊長」
「ああ、おはよう。今どれぐらいだ?」
「翌朝」
 ニッと笑うモンザ。


「アイリアは大丈夫か? 娘は?」
「二人とも元気で無事だよ。あと手術に参加した人たちはみんな、ベッドでぐうぐう寝てる」
 良かった。
 本当に良かった。


 俺が大きく安堵の溜息をついていると、モンザが頭の後ろで手を組みながら、ふと首を傾げた。
「あ、そうだ。ねえねえ隊長」
「なんだ?」
「昨日のお産に、人間の男って誰かいた? カイト以外で」
「いないぞ」


 モンザがますます首を傾げる。彼女は体が柔軟なので、ぐにょりと曲がって気持ち悪い。
「おっかしいなあ……」
「どうしたんだ?」
「それがね、夜中にこの部屋から出ていく人を見たんだけど、ジェリクもガーニー兄弟も気づかなかったって」
 おいおい、怪談はやめてくれ。
 いや、待てよ。


「その人ってもしかして、帽子と詰め襟じゃなかったか? 腰にサーベルっぽい剣を吊ってて」
「あ、うん! それ! 一瞬だったから、よくわかんなかったけどね」
 モンザが笑って、ほっと溜息をつく。
「なんだ、隊長の知ってる人かあ。心配して損しちゃった。アタシしか気づけないぐらい、気配も匂いも感じさせないんだもん。びっくりしちゃった」
 そうだろうな。
 うん……。そうか。


 俺はよっこらしょと立ち上がると、頭を振って意識をはっきりさせた。
 あれは夢、あるいは意識が朦朧とした状態で見た幻覚だ。
 その証拠に、今の俺には生と死の宿命も転生の秘密もわからない。
 夢の中で真理を理解できたのに、目が覚めるとやっぱりわからないというのは、魔術師のあるあるネタだ。俺にも経験がある。


 何にせよ、あのとき俺の頭がまともに働いていなかったのは間違いない。
 だから夢だと思うことにした。
 そう思わないと泣いてしまいそうだったからだ。


 相変わらず、本当に不器用な人だ。あと勝手すぎる。
 次に会ったら、今度こそたっぷり苦情を言わないとな。
 そのときに俺が逆にあの人から叱られないよう、これからもしっかり生きていくとしよう。
 楽しみだ。


「よし、とりあえず娘の名前でも決めるか」
「それなら早くしたほうがいいよ。大魔王様が『キュワペテ』にするか、『シュポリン』にするかで迷ってるとこだから」
「なに勝手に人の娘の名付け親になろうとしてるんだ、あの師匠は」
 しかもネーミングセンスが最悪ときた。
 自分がされて嫌だったことを、無自覚にまた繰り返す気か。


「急いで食い止めよう、みんなはどこだ?」
「二階の病室」
「よし、行くぞ」
 俺は白いローブを脱ぎ捨てると、娘の名付け親になるために廊下に飛び出した。
※本編最終話「終わりなき戦い」更新は12月30日(金)の予定です。
※本編終了後は後日談を週1~2回連載していきます。
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