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人狼への転生、魔王の副官 作者:漂月

本編

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秘宝の封印者ヴァイト

368話


 山頂付近の崖には、小さな横穴が開いていた。ちょっとした洞窟だが、天然のものに見える。中には風化した獣骨も散らばっていた。
「大岩豹の巣穴にみせかけて作ってあります。まともなクウォールの人間なら、まず近寄りますまい。生きて帰れませんから」
「なるほど」
 魔物の巣穴に偽装するのは悪くない手だな。


 洞窟の中は真っ暗だったが、人狼の俺には薄明かりがあるのと同じだ。
 途中に横穴が隠されており、そこの突き当たりに重厚な金属製の扉があった。
 その扉に奥が、戦神の宝珠を納めた秘密の宝物庫だ。


「どうぞ、ヴァイト殿。カヤンカカの守護者、人虎族の長老として、あなたに宝物庫への立ち入りを許可します」
「ありがとうございます」
 俺は長老に礼を言うと、扉を開いた。


 宝物庫の中に入った俺は、その瞬間にぎょっとした。
 事情を聞いたときに一個じゃないのは想像していたが、ざっと見ただけで百ほどありそうだ。
 形も様々だ。
 杯の形をしたものもあれば、剣や兜の形をしたものもある。
 水晶球のような形状が一番多い。


「長老、これが全てそうなのですか?」
「ええ。もっともほぼ全て破壊されております。我らの手には余る品物が多く、先祖たちが用心のために破壊しました」
 ドラウライトの秘宝みたいに、自律稼働するようなのもいるからな。


 長老は宝物庫の奥にあった宝珠をごそごそやっていたが、俺の興味は破壊された秘宝のほうに移っていた。
 秘宝はそれぞれに魔術紋が淡く浮かび上がっており、メンテナンスモードで停止している。
 俺はそれに触れないよう気をつけながら、記されている魔術紋をじっと読み取った。
「ヴァイト殿、そしてこちらが……。ヴァイト殿?」
 ちょっと待って、今いいところだから。


「長老、これは大変素晴らしい。この壊し方、実に無駄がない。丁寧な仕事です」
「はあ……」
 俺は軽い感動を覚えて、長老に秘宝のひとつを示した。剣の刀身に魔術紋がうっすらと浮かんでいる。
「魔術紋が二ヶ所だけ消してあるでしょう。これでもう絶対に起動はできませんが、復元自体は極めて容易です。前後の文脈から類推すれば、削除された文字はひとつに絞られますので」
「そ、そうですか」


 長老はあまり魔法に詳しくないらしく、感動が薄い。
 俺はもどかしくなり、さらに説明した。
「これを破壊した古代の人虎は、魔術理論について深い知識と技術があったのですよ」
「すみません、わしは魔法に疎いもので……」
 よし、説明しよう。
「古代の人虎たちは、秘宝が悪用されたり、不意に起動したりしないよう、きちんと破壊しています。しかし同時に、後世に遺すために最小限の破壊に留めているのです」


 これだけの数の資料があれば、構造の解析も容易だ。
「これは非常に素晴らしいことで……そう、例えば秘宝の魔力容量!」
「はあ」
「戦神を生み出すのに、どれだけの魔力が必要かはまだわかっていません。しかしここにある秘宝を全て調べれば、『戦神を生み出すのに必要な魔力量』について手がかりが得られます」
 一番容量の少ないヤツでも戦神を誕生させられるはずだから、それを測定すればひとつの目安になる。


 俺は長老にこの宝物庫の重要性を理解してもらうために、さらに訴えた。
「ここは過去の遺物を封印するだけの場所ではありません。禁断の知識を詰め込んだ場所であり、未来を変えるだけの力を持つ場所です」
「未来を……?」
「そうです。戦神など関係なく、この世界を一変させるほどの知恵が眠っているのです」
 長老は「ほほう」とうなずき、虎の髭を撫でた。
「そう言われると、悪い気はしませんな。と同時に、責任も感じます」
 少しは理解してもらえたようだ。


 俺は長老と相談し、ここに調査官を派遣することで合意を得た。
 さらにカヤンカカ山全体の警備を強化する約束も取り付ける。当面は骸骨兵の大軍に守らせることにしよう。
 これは秘宝を守るためでもあるが、将来的に人間と人虎の力関係が逆転したときに、人虎たちを守るためでもある。
 人間は怖いからな。過去の関係や約束など忘れて、人虎を滅ぼしにかかる可能性もある。
 人間は怖い。
 本当に怖い。


 長老が秘宝を持って外に出る。俺もそれに続いた。
 山頂に朝日が射していた。
 北側の眼下にはカヤンカカの森と、流れ出すメジレ河のうねり。
 反対の南側には、カヤンカカ山に連なる山脈が遠くまで続いている。
 スマホがあれば撮影してSNSに投稿するんだが、今世では登った者にしか見られない光景だ。


 夜の闇が切り裂かれ、万物が黄金色の光に包まれていく中で、長老は俺にひとつの宝珠を差し出した。
 野球のボールぐらいの大きさで、その中では帯状の魔術紋がスノードームのようにキラキラと流れている。不思議な光景だ。


「これこそが現存する戦神の宝珠、我らは『ジャーカーンの秘宝』と呼んでおります。我らの祖先が最後の戦神ジャーカーンを倒したとき、その力を封印したと伝えられております」
 せっかくの荘厳な景色の中で、一瞬だけザカルのドヤ顔がちらついた。
 あいつ、ジャーカーンの子孫を名乗っていたよな。
 これを手に入れていたら、あいつの歓喜は絶頂に達していただろう。
 危ない危ない。


 俺はザカルのドヤ顔を振り払い、ついでに彼の冥福を祈ってから、この宝珠を恭しく両手で受け取る。山の民の流儀に従い、二度捧げ持った。
「ジャーカーンの秘宝、確かにお預かりいたしました。これよりはミラルディア魔王軍が秘宝の守護を務めさせて頂きます」
「よろしくお願いします、ヴァイト殿」


 俺は持参した布で秘宝を厳重に風呂敷包みにすると、しっかり握った。
 集落に戻ったら木箱に梱包して、二個分隊八人に警護させよう。
 長老はそれを見て、俺に問う。
「ヴァイト殿はこれを用いて、戦神にはなられぬのですかな?」
「なりませんよ。必要がありません」
 なんで毎回、みんなこの質問をしてくるんだ。


 長老はゆっくりと昇る朝日を見上げながら、おかしそうにつぶやく。
「不思議な方だ。魔族でありながら、力を望まれぬとは」
「今の力だけで十分ですよ。『足るを知る者は富む』、分相応で満足することを知っている者は心豊かに生きられるのです」
「ほう、それはミラルディアのことわざですか?」
「ええまあ、そんなところです」
 たぶん老子だったと思うけど、こっちの世界に老子はいないので適当にごまかす。


 強さなんて望めばキリがない。
 誰かが戦神になったところで、今度は戦神同士で争いになるだけだ。クウォールの歴史が証明している。
 これから俺の子供が生きていく時代は、俺のときよりも平和であって欲しい。
 そう願わずにはいられなかった。


 そういえばこの秘宝、なんでひとつだけ残ってるんだろう。
「ときに長老。あれだけあった秘宝のうち、魔力を蓄えているのがひとつだけというのはなぜですか?」
 すると長老が笑いながら、両手を広げた。
「クウォールを豊かにするため、先祖たちが惜しみなく使いましてな。メジレの恵みもカヤンカカの森も、そのおかげでここまで力強くなったそうです。一時は戦神同士の争いでメチャクチャになっておりましたから」
「なるほど……」


 長老は続ける。
「とはいえ、さすがに最後のひとつだけは残しておこうと誰かが言い出しまして。それでひとつだけ残っているのだと、先代から聞きました」
「そうですか」
 俺は眼下に広がる雄大な景色を見つめてうなずいた。
 戦神の秘宝の魔力を空っぽにして、その魔力で荒れた土地を復興させたのか。


 俺はふと、アイリアのことを思い出す。
「今のミラルディア魔王もまた、同じことをしました。得た力の大半を、ミラルディアの加護に使い果たしたのです」
「ほう、では我らの先祖と同じ結論を?」
「ええ。魔王陛下は我が妻でもありますが、実に聡明で慈悲深く……」
 俺は誇らしい気持ちになり、荘厳な光の下で魔王アイリアについて長老に語る。
 ミラルディアに秘宝を置いておけば安心だと知ってもらいたいし、何より我が魔王陛下は素晴らしい人物だからな。


 そのため、俺たちが下山したのは昼前になった。
※次話「急報」更新は12月19日(月)の予定です。
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