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人狼への転生、魔王の副官 作者:漂月

本編

357/408

カルファル奪還

357話


 バッザ傭兵隊長のザカルは、バッザ公との雇用契約が切れる直前に傭兵隊をまとめてカルファルから出ていくことになった。
 武官の正装をしたザカルが、刺繍の入ったマントを翻しながら俺に笑いかける。
「ヴァイト殿、俺は沿岸諸侯の使者として王都に赴く。ここの留守をお願いしたい」
「お任せを、ザカル殿。後続の沿岸諸侯軍と共に、ザカル殿の後詰めとしてお役に立とう」
 俺とザカルは笑顔を交わし、互いに一礼する。
 ひどい茶番だ。


 モンザ隊からの報告によると、やはりザカルは王都に入ったら裏切る気のようだ。
 彼は誰にも忠誠を誓わない。自分に最も都合の良い者につく。そのへんの嗅覚は鋭い。
 ただ彼の判断が的確なせいで、次に何をするかはだいたい予想がつく。与えられた情報の中で、最適解を常に選択するからだ。


 今回、ザカルは「港への課税を撤回するよう国王に再考を求める使者」という立場で王都に進軍している。
 表向きは沿岸諸侯の忠実な手下、というわけだ。
「使者が四千人も兵を連れていくかってんだ、なあヴァイトの旦那?」
 ベルーザ陸戦隊のグリズ隊長がぼやきながら、傭兵たちの行軍を見送る。


 俺は苦笑するしかなかった。
「おかげでカルファルにはほとんど傭兵がいない。残っているのは連絡員程度だ。簡単に制圧できる」
「んじゃ、掃除しちまいますかい?」
 グリズが凶悪な笑みを浮かべるが、俺は首を横に振った。
「いや、まずは沿岸諸侯軍の撤退準備だ」
「撤退? これからがあのクソ野郎の本領ですぜ?」
 グリズが首を傾げたので、俺は簡単に説明する。


「だからだよ。あいつは武功を立てるために戦争をする男だ。そんなヤツの近くに軍を置いておいたら、適当な理由をつけて攻撃されるぞ。沿岸諸侯軍は陸戦の素人だ、いい餌になる」
「そりゃそうかもしれやせんが、カルファルの防衛は?」
「まだしなくていい。あいつはここを一度占領していて、表向きは今もその状態だ。自分の街を攻めるバカはいないよ」
 心配なのは王都やカルファルの市民だが、ザカルは市民相手に戦っても戦功にならないのはわかっている。
 大規模な反乱でも起きない限り武力行使はしないだろうし、反乱が起きてしまったらその時点でザカルの名声は失墜する。


「ザカルは戦いが好きなんじゃない。勝利が好きなんだ。もっと言えば、名誉や富を得られる勝利がな」
「それを与えないための撤退、ってことですかい」
「そうだ。俺たちはミラルディアの兵だから、ザカルも手出しはしないだろう。してきたら人狼隊がザカルを討ち取るだけだ」
 殺そうと思えばいつでも殺せる。
 しかしそうなれば、統制を失った傭兵隊が手練れの盗賊団に変身するのは目に見えている。だからザカルに管理させているだけだ。


「ベルーザ陸戦隊は当面、カルファルの治安維持を担当してくれ。市民からも好意的に受け止められているようだし、問題ないだろう」
「へい、わかりやした」
 世紀末風モヒカンたちの治安維持は、そのギャップもあってか意外と好評だ。普通にしているだけで「あれ、見た目よりいい人たちなんじゃない?」と思ってもらえる。


「俺たち人狼隊は、ザカルを追いつめるためにあちこち動き回る予定だ。陸戦隊はカルファルの治安維持と防衛を頼む。カルファル衛兵隊を呼び戻すから、彼らと協力してくれ」
「わかりやした。ここは俺たちに任せてくれ、旦那」
 グリズがうなずいた。
 彼に任せておけば安心だな。


 沿岸諸侯軍は撤退するし、流域諸侯は上流も下流も挙兵しない。
 つまりザカルには戦う相手がいないので、これ以上どうがんばっても戦功は立てられない。
 彼の周りに手頃な餌はない。せいぜい王都の親衛隊ぐらいだが、親衛隊と交戦したら逆賊になる。


 戦場で地位を築けないのなら、戦場以外でやるしかない。四千人の傭兵も、戦場以外ではそれほど役には立たないだろう。
 さて、そうなるとザカルはどう出てくるか。
 彼はいつも「正解」を選ぶ。
 だとすれば方法はありそうだ。


 俺は人狼たちを呼び集める。
「何日かしたら、カルファルにいる傭兵どもを全員拘束する。ザカルは軍資金の大半を持ち去ったが、投石機など王都に持ち込めないものは置いていった。それらも全て押収するぞ」
「わかりました、隊長」
「隊長ほんと投石機好きだな」
 好きとか嫌いとかじゃなくて、あれ危ないからね。


 俺はわざと難しい顔をして、腕組みしてみせる。
「また俺に石弾を蹴らせたいのか?」
 そう言ったら、その場にいた全員に大笑いされた。
 まあいいや、やるべきことはたくさんある。
「ザカルが王都に到着してしばらくしたら、カルファル周辺の農村にいるカルファル衛兵隊を集めよう」
「いいの? ザカルが怒らない? 攻める口実にされちゃうかも」
 モンザが首を傾げているので、俺はニヤリと笑った。


「衛兵たちは臨時のミラルディア兵として雇う。費用はカルファル公が出してくれる」
「え……どういうこと……? 全然わかんない」
 モンザが瞬きしているのが面白くて、俺はますます笑う。
「カルファルが陥落してカルファル公は追放されたので、衛兵隊も解散させられてるんだよ。実態はどうあれ、彼らは無職だ。だから俺が雇う」
「そんなむちゃくちゃな……」


 モンザが呆れているが、俺は笑ったまま書類を手にする。カルファル公との間に交わした密約だ。
「カルファルの衛兵隊には、すでにミラルディア魔王軍の軍旗を渡してある。それを掲げた部隊に攻撃してきたら、俺はザカルを殺す名目が立つな」
 言いがかりをつけてきそうな相手には、こっちも言いがかりをつける準備をする。
「魔王軍の軍旗を掲げたカルファル衛兵隊には、カルファルの治安維持を命じよう。それで元通りだ。市民も喜ぶ」


 しかしモンザはまだ悩んでいる。
「いいのかな……?」
「ミラルディア軍に攻撃してくるヤツは、遠慮なくブッ殺せるぞ? 敵を殺すのは嫌か?」
 その瞬間、モンザは満面の笑みで叫ぶ。
「大好き!」
 そう言うと思った。


 しばらくして傭兵隊が王都エンカラガに入ったと聞いた俺は、翌日ただちに行動を開始した。
「城館にいる傭兵どもを全員拘束しろ。抵抗するヤツは叩きのめせ」
「あは、やったぁ!」
 誰かが嬉しそうな声を上げて、変身して跳んでいった。
 あいつ監視任務があるのに、こんなとこで何やってるんだ。


 俺もカルファル公の城館に入り、酒瓶を抱えてたむろしていた傭兵たちに羊皮紙をつきつける。
「バッザ公からの命令書だ。契約違反の容疑でお前たちを拘束する。抵抗すれば命の保証はしないぞ」
 どうやら意味が通じなかったようで、全員が酒瓶を投げ捨てて身構えた。
 新入りらしい傭兵が曲刀を抜き、荒っぽい口調で吠える。
「あぁ!? だこらぁおっどすっぞ! らぁ!」
 クウォール語でスラングを叫ばれても、何言ってるのか全然わからない。


 ありがたいことにそいつが斬りかかってきたので、俺は前に思いついた強化魔法を試してみることにした。
 この程度の相手なら変身する必要もないので、魔法で強化された身体能力で攻撃を避ける。
 太刀筋は鈍いし動きも単調、雑魚も雑魚だ。


 避けたついでに、そいつの頭をポンとたたく。
「寝ていろ」
 その瞬間、そいつは顔から床に突っ込んでいった。
「おごっ!?」
 痛そうな音がする。
 傭兵はじたばたもがくが、床に顔をくっつけたまま身動きできない様子だった。


 あれは俺が最初に覚えた、体を重くする魔法だ。
 より正確には下向きの力を発生させる魔法だが、これを敵への攻撃手段に使えないかと思ったのだ。
 敵に対して強化魔法をかける場合、抵抗される可能性が高い。
 しかし今の俺はカイト千人分の魔力を持っているので、強引にいけるんじゃないかと考えた。


「おごごっ!? おごごう!?」
 うまくいったようだな。
「無理すると首の骨が折れて死ぬぞ。心配するな、そのうち解ける」
 いつ解けるかはわからないので、今後のために記録させてもらおう。
 もう二~三人試させてもらうか。


 そう思って振り返ったら、見渡す限りの傭兵どもが全部ひっくり返っていた。
「ね、もうおしまい? もっと抵抗してよ?」
 呻いている傭兵たちを積み上げながら、モンザが笑っていた。
 楽しそうで何よりです。


 こうして特にトラブルもなく城館を奪還したので、俺はカルファル公の侍女たちをさっそく通した。
 ここは元々、彼女たちの職場だ。
「シューラ殿、館をお返しする。本来の主であるポワニ殿にお返しする前に、掃除と手入れをお願いしたい。人手は融通する」
「かしこまりました、ヴァイト様」


 俺が館の鍵束を手渡すと、三人の侍女は深々とお辞儀をした。
「無法者たちから大切な館を取り戻してくださった御恩、決して忘れません。今後はより一層、ヴァイト様のお役に立ちましょう」
「ありがとう。衛兵隊ももうすぐ戻ってくる。もう大丈夫だ」
 これで俺もやっと、肩の荷が下りた。


「さて、カルファルは返してもらった。後はザカルと傭兵隊を分断し、ザカルを捕らえる。後は……」
「どうするんだ、大将?」
 補修用の木材を担いだジェリクが聞いてきたので、俺は答える。
「ザカルの野望に蓋をする。後は排水口から流すだけだ」
「蓋?……排水口?」
 ジェリクは首を傾げた。
※次回「野心の疼き・5」更新は11月21日(月)予定です。
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