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人狼への転生、魔王の副官 作者:漂月

本編

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静寂の海の向こうで

324話


 俺がそんなこんなで比較的平穏な日々を過ごしている頃、海の向こうではクウォール王と沿岸諸侯が対立を続けていた。
 南静海に面するワの国でもクウォールとの交易を考えているそうだが、誰と交渉したらいいのか悩んでいるそうだ。現地に忍者たちを送り込み、情報収集を続けているらしい。
 もちろんミラルディアも、海運都市ロッツォ太守のペトーレ爺さんが中心となって、情報収集にあたっている。


「ペトーレ殿、クウォールの政情はどうだ?」
 最近ちょっと足腰が衰えてきたペトーレ爺さんは、評議会の集まりに孫をよこすようになった。祖父譲りの才覚があり、リューニエとも良い学友になったらしい。
 今日は珍しく爺さん本人がやってきたので、久しぶりにゆっくり話をする。


「クウォールはもうメチャクチャになっとるぞ。あのアホ王が他の諸侯も巻き込みおったからな」
 内陸の冷え込みが堪えると言っていたペトーレ爺さんだが、まだまだ元気そうだ。
 俺はペトーレのために暖炉の薪を追加しながら、彼の話を聞く。


 クウォールはもともと、大河メジレの恵みを受けて発展した国らしい。そのため、曲がりくねったメジレ河の流域に古い都市が並んでいる。
 この流域諸侯たちは河川の権利を独占しているが、海に面した港は持っていない。だから今回の騒動とは全くの無関係だ。
 しかし沿岸諸侯との対立で困ってしまったクウォール王は、メジレ河流域諸侯に泣きついた。
 結果、この騒動は沿岸諸侯と流域諸侯の対立に発展してしまったという。


 俺は呆れながら、ペトーレに熱い薬湯を勧める。
「厄介な話だな。ああ、この根菜茶は冷え性に効くぞ」
「おう、こりゃすまんな。相変わらずお前さんは気が利くのう」
 年寄りの相手は慣れてますから。
 俺はラシィが大量に焼いたジンジャークッキーも山盛りにしてテーブルの上に置き、会話を続けた。


「上に立つ者は皆の利害を調整して対立を回避し、集団を維持していかねばならん。国王などその最たるものじゃ。それが自ら不和を招いておるようでは、先が知れるわい」
 元老院相手に長年渡り合ってきたペトーレ爺さんは、何かのスイッチが入ったのかヒートアップしていく。


「だいたい港にいきなり課税なんぞしおって、おかげで砂糖も糖蜜酒も高騰しとるんじゃ。まったくけしからん」
「ああ、それなら助けてやる義理はないな……」
 砂糖がクウォールと交易をする最大の理由だ。
 あちらではサトウキビのようなものを広く栽培しているため、砂糖は比較的安い。それを太守の独自ルートでさらに安く仕入れて、ミラルディア国内で売りさばけば非常に儲かる。
 甘いものに勝てる人間なんてそうそういないからな。魔族だって勝てない。


 ぷんすか怒っているペトーレ爺さんにどんどんクッキーを食わせつつ、俺は今後のことを考える。
「内戦になるかな?」
「わからん。内戦前に国王が暗殺されるかもしれんし、逆に流域諸侯に免じて沿岸諸侯が黙るかもしれん」
 堅いクッキーをぼりぼり噛み砕きながら、ペトーレはまだ憤っている。
「じゃが国王と沿岸諸侯の不和はすでに決定的じゃ。もうあんな王など知らんわい。わしゃ沿岸諸侯さえおればええんじゃ」
 そうだろうね。


 そうこう言っているうちに冬になり、クウォールの政情はわかりにくくなった。風や海流の影響で、船の行き来が減るからだ。
 その間にウォーロイがルール作りを続けている新スポーツ・戦球の試合に参加させられたり、畑で泥だらけのアシュレイにつかまったり、いろいろした。
 大学の開校準備もしたし、魔王軍の再編もした。


 魔王軍で雇った人間たちは、魔戦騎士や魔戦兵という肩書きで活動している。
 彼らには念のため、クウォール語の日常会話も学ばせることにした。
 同様に評議会で雇用している文官たちにも、より本格的なクウォール語を学ばせる。
 何かあれば彼らに渡航してもらわないといけない。


 やがて俺の元に、クウォールからの急報が届く。
 クウォール王が流域諸侯に召集命令を発し、沿岸諸侯との対立を決定的なものにしたのだ。
 すでに各地から流域諸侯の軍が集まり、宮殿を守っているという。
 沿岸諸侯も自分たちが攻撃されることを警戒し、武装を開始したようだ。ミラルディアにも非公式ではあるが救援要請が来ている。
 それを聞いた俺は緊急評議会を召集した。


「どうする? 派兵するか?」
 俺が単刀直入に尋ねると、真っ先にペトーレ爺さんが発言した。
「派兵したいのう。クウォールの港が戦火に巻き込まれれば、ロッツォとベルーザの交易は大打撃じゃ。大型の輸送船が入港できる場所は限られとるからの」
 海運都市として発展を続けているロッツォの太守としては、交易商たちの生活を守らねばならない。


 同様に海賊都市ベルーザの太守ガーシュも挙手する。
「ウチもクウォールとは取引があるんでな。ベルーザ建設の頃からのなじみだし、見捨ててはおけねえ。義理というか、まあ今後の信用の問題だ」
 知らん顔はしづらいというのが、港を持つ太守たちの意見のようだ。
 俺も彼らの気持ちはわかる。
 ただやはり懸念はあったので、こう釘を刺しておく。


「他国の内戦に首を突っ込むと、ロクなことにならないぞ」
「なんじゃ? そういう話でもあるのか?」
 ペトーレ爺さんが眉を寄せたので、俺は首を横に振った。
「考えてもみろ。ミラルディアから送れる戦力には限りがある。仮に一万の兵を用意しても乗せる船がない」
 俺は前世でこの手の厄介な歴史を見てきたので、派兵には慎重な立場だ。
 アウェーでの危険な戦いになるし、勝っても得られるものは少ない。


 北部太守たちも未だにロルムンドの再侵攻を警戒しているので、派兵には否定的だ。
 南部太守のうち、交易都市シャルディールの太守アラム、迷宮都市ザリアの太守シャティナの二人は、クウォールに対して同情的だ。
「先生、何とかなりませんか?」
 シャティナが心配そうに言うと、アラムが言葉を補う。
「我々の先祖はクウォール人です。心情的にはやはり、クウォールには平穏でいてもらいたいのですよ」


 気持ちはわかるし、俺だってクウォールの人々には平和に暮らしてもらいたい。
 ただやはり、まだ派兵しないほうがいいと思う。一度兵を送ると、もう後戻りはできないからな。
 慎重にいこう。
「ではミラルディア商船の保護と現地の情報収集を名目にして、外交官と魔戦騎士たちを少し派遣するか。ペトーレ殿、軍船を出してくれ」
「軍船だけでええのか?」
「陸上戦力を大量に送りつけると、クウォール王を刺激して何が起きるかわからないからな……」
 俺たちの派兵が原因で内戦勃発とかになったら、クウォール人に末代まで恨まれるぞ。


「今回の決定は、ミラルディアがクウォール沿岸部に持つ影響力を維持するためだ。クウォール沿岸部が焼け野原になったら、外貨を稼ぐ場所が減って困る。ミラルディア南部だけの問題ではない」
 クウォールとの貿易が拡大すれば国庫が潤い、教育や医療や土木などに予算を十分に回せるのだ。近代化のためにも、ここは何としても貿易を守らなければならない。


「だからこそ、俺たちが内戦の原因になったら本末転倒だ。戦に一度肩入れしたら、途中で引き返すのも容易ではないぞ」
 何が正解なのかは俺にもわからないし、たぶんここにいる誰にもわからないだろう。
 だがこの選択なら、ミラルディアが滅亡したりはしないはずだ。


 魔王アイリアがうなずく。
「では我が副官の提案を採用しましょう。異論はありますか?」
 特に異論もなく、ただちに決定が実行に移された。
 ロッツォとベルーザから軍船を一隻ずつ出して、外交官と魔戦騎士たちを派遣することにする。
 外交官はクウォール人を先祖に持つ静月教徒を中心に選抜した。
「現地の情報はどんな細かいものでもいいから伝えてくれ。何かの手がかりになるかも知れない。可能であれば、流域諸侯との人脈作りも頼む」


 軍船はそのまま、どこかの港の警備に就く予定だ。
 評議員でもあるウォーロイが腕組みして、ニヤリと笑う。
「ミラルディアの軍船がいる港をクウォール王が攻撃すれば、我々は正面切って沿岸諸侯に協力する大義名分ができる。そういうことだな?」
「そういうことだ。だから一番攻撃されそうな港に送り込もう。クウォール王も手出ししづらいはずだ」
「悪党め、また異国に嵐を呼び込む気だな」
「嬉しそうな顔をするな。貴殿は行かせんぞ」
 沿岸諸侯もこちらの意図は理解するだろうから、これで多少は恩を売れるはずだ。


 あ、そうだ。ペトーレ爺さんたちには念を押しておこう。
「もし本当に軍船が攻撃を受けたら、ミラルディア人やクウォール市民を救出して即座に洋上に脱出させてくれよ」
「わかっとるわい。軍船で歩兵や騎兵とやりあっても意味がないからの」
 ペトーレ爺さんは不機嫌そうにムスッとしているが、内心で喜んでいるのがわかった。
 年寄りの相手は大変だな……。


 本格的な冬の到来と共にミラルディアのガレー式軍船二隻が出航し、クウォール最大の港バッザに入港した。
 外交官たちは魔戦騎士の護衛のもと、ミラルディア商人の通訳を雇って各都市に散り、沿岸諸侯に面会して情報収集を開始する。
 後は何も起きないように祈るが、きっと何か起きるんだろうな。
 俺の知る歴史では、だいたいそうだった。


 最初に届いたのは乾燥させた穀物だった。トウモロコシに似ているが、もっと小さい。トウジンビエがこんな感じだったかもしれない。
 魔王アイリアが不思議そうな顔をしている。
「こんなものを送ってきて、外交官たちは何をやっているのでしょうか……」
「いや、これは俺が頼んだんだ。やはり評議会直属だけあって、みんな優秀だな。これがクウォール人の主食だよ。頼んだ通り、実がついたままで、葉や茎も送ってくれた」


 葉を見ただけで、これが単子葉類なのがわかる。トウモロコシもトウジンビエもイネ科の植物なので、これもおそらくはイネ科の何かなんだろう。
 クウォール語では「メジ」といい、「メジレの恵み」が省略されたものだという。
 大変に由緒正しい名前だが、省略しすぎな気もする。


「クウォールではこの作物を、大河メジレの流域で栽培しているそうだよ。クウォールでは、みんなこればっかり食べてるらしい」
「おいしいのでしょうか?」
「どうだろう……」
 全く輸入されていないところをみると、たぶんミラルディア人の好みではないと思う。


 アイリアは添付されていた調理法のメモを読みながら、ふと首を傾げた。
「それでこれをどう役立てるつもりなのですか?」
「とりあえずこれを粉に挽いて、パンでも焼こうか。みんなで試食しよう」
 それから外交官たちに次の指示を出そう。
 運が良ければ、これが流域諸侯への突破口になるかもしれない。
※次回「ペラグラ」の更新は9月9日(金)の予定です。
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