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人狼への転生、魔王の副官 作者:漂月

本編

320/413

未来への投資(下)魔王養成コース

320話


 カイトに魔力解明の基礎研究を命じた結果、カイト率いる研究チームによって魔王軍の魔力測定が行われた。魔王軍以外の人間たちにも協力してもらう。
「変身前の人狼は、だいたい6~8カイトですね。高めの人で9カイトでした。ガーニー兄弟です」
 リュッコとの共同開発で作った測定銃をテーブルに置いて、カイトがうなずいた。
 人狼用の魔撃銃は持ち主から勝手に魔力を吸い取るので、その仕組みを利用して持ち主の魔力を測定しているらしい。


「人間はだいたい0.8~1.2カイトの範囲で収まります。たまに凄い人がいますけど」
「つまり魔力の保持量をみるだけでも、人狼か人間かの区別がつくということか」
 ロルムンドに行ったときに魔法で調べられたが、カイトとラシィの協力でうまくごまかせた。
 今にして思えば、ラシィたちが優秀だったおかげだな。


 人狼たちは普段は魔力を蓄積し、変身時にこれを使って肉体を変貌させる。常人の数人分の魔力を使って自分自身を強化するんだから、そりゃ強くて当たり前だ。
 ただし、人間にも例外はいる。
「で、その凄い人っていうのは誰だ?」
「リューンハイト衛兵隊のヴェンゲン隊長が3カイト、ベルーザ陸戦隊のグリズ隊長とウォーロイ様が4カイト、そしてバルナーク卿が7カイト。以上です」
 俺が前々から目をつけていた猛者たちだな。


 個人の戦闘能力と魔力に直接の関係はないが、魔力を有効活用する手段があれば役立つ戦力になる。筋力を高めたり、負傷や激痛に耐えたり。
 俺は強化魔法の使い手だから、この方法のスペシャリストだ。
 さらに勇者クラスになると、魔力を水鉄砲みたいにそのまま射出して攻撃が可能だ。勇者アーシェスがやっていた。
 なんせ無限に近い魔力があるから、こんな効率の悪い方法でも魔力は枯渇しない。


 測定銃の調整をしていたリュッコが振り返り、首を傾げた。
「人間ってヤツぁ、たまに妙な連中が出てくるんだな。バルナークのおっさんなんか、人狼並みじゃねえか」
「この四人は基礎的な身体能力もずば抜けているが、たぶん無意識に魔力を使ってるな。ほんの一瞬だが、ときどき人間離れした動きをする」
 魔法のような系統立てられた技術ではないが、自己流で強化魔法のように身体能力を底上げしているのだろう。


 バルナーク卿なんかロルムンドで剣聖と恐れられた猛者だが、それでも7カイトだ。そして魔術師でも魔族でもないから、魔力を全て有効活用できる訳ではない。
 変身という形で魔力を効率的に使いこなす人狼が相手だと、やはり分が悪い。人間が一騎打ちで人狼に勝てない訳だ。
 数値にするとわかりやすいなあ。


「うん、これは面白いな。蒼騎士と名高いバルツェ殿は8カイトもあるぞ。お、フィルニール凄いな。12カイトもあるのか」
「ええ、人馬族の平均は1.3カイト前後ですから、これも異常な数値です」
 あいつが本気出すと恐ろしい加速力で疾走するけど、この魔力を使ってたのか。
 そりゃ強い訳だ。


 こういう連中はもちろん、一般人と戦えば圧勝する。鬼神のような強さといってもいい。
 しかし勇者の数十万カイトとも数百万カイトとも予想される魔力と比べたら、誤差のようなものだ。
 昔の俺は10カイトほど、今の俺だと1000カイトほどあるが、勇者相手じゃもちろん誤差だ。
 俺は魔力をフル活用して実力以上に戦えるが、それでも勝ち目なんか全くない。


「やっぱり勇者規模になると、自然界も魔力の平衡を保とうとするんだろうな」
 俺がつぶやくと、リュッコがぴくりと耳を動かした。
「あの、アレか? 氷と熱湯が混ざると必ず水になるけど、水は勝手に氷と熱湯には分かれないってヤツ」
「ああ、よく覚えてたな」
 熱的平衡の話だ。師匠とこの話をしてるときに、リュッコも一緒にいたな。


 自然界はエネルギーをなるべく「平ら」にしようとする。
 魔力もそのルールに従っているのではないか。
 そしてそれが「勇者」を打ち消す「アンチ勇者」、つまり魔王とかとして現れるのではないか。
 ここ一年ほどはそんな話を師匠としている。


 リュッコは工具を置いて、難しい顔をしながら野菜スティックを取り出す。そしてニヒルにくわえた。
「しかしやっぱ、数字にするとわかりやすいな。勇者やべえよ。そんなのが大勢いたら、大陸規模でメチャクチャになるぞ」
「だろ? だから対策を立てておかないとな」
 勇者は歩く天変地異といってもいい。
 こんなもの、人間と魔族の歴史にはもう必要ないんだ。


 その代わり、これからの人間と魔族の歴史のために必要なものがあった。
「リューニエ殿、惚れ惚れするほど優秀だわ。人を感動させる物語の作り方がわかってるから、脚本家に向いてるわ。そのせいか弁論術も長けてるし」
 定例評議会の後、工芸都市ヴィエラのオカマ太守フォルネが、しみじみとつぶやいた。
 リューニエは確かヴィエラでの勉強を一通り終えて、今はロッツォに留学してるんだよな。


 すると漁業都市……いや最近は海運都市とか貿易都市とか呼ばれているロッツォの太守ペトーレが、それに賛意を示す。
「今はうちで預かっておるが、確かにあれは逸材じゃ。当人は軍人を志望しとるが、商人にも向いとるな」
「そうなのか?」
「うむ。単に算術が上手いとか、そういう小手先のもんではないぞ。基本はあくまでも手堅くいくが、勝負に踏み切る度胸もある。計画性も高くてな、先々のことまでよう考えとる。わしの後継者にしたいぐらいじゃ」


「ペトーレ殿がそんなに人を褒めるなんて珍しいな」
 俺が笑うと、ペトーレ爺さんは仏頂面で鼻を鳴らす。
「ふん、あの子は賢いだけではないからの。何にでも興味を示すし、何よりも素直じゃ。ありゃまだまだ伸びるぞ」
「では次期魔王はリューニエ殿でもいいかもしれませんね」
 現魔王のアイリア陛下がクスッと笑ったので、副官としてうなずいておいた。
「大魔王陛下がお聞きになれば、喜ぶだろうな」


 師匠は「魔王なんか誰がなってもええんじゃよ。能力と資質さえあればのう」と常々言っている。
 ロルムンドの人間がミラルディアで魔王になったら、かなり面白いと思う。
 もちろん、リューニエがミラルディアで功績と人望を高めることが必要だが。
 だがペトーレ爺さんは腕組みをした。


「しかしのう、リューニエ坊や一人にこれだけ手間をかけたとしても、結局はリューニエ坊や一人しか育てられん。次の世代を育てるには、ちょいと効率が悪すぎやせんか?」
「確かにな」
 リューニエ一人の教育のために、評議会からどれだけの費用と人材を提供しているか。
 ロルムンドの元皇子だから許されているようなものの、正直手間暇かけすぎだとは思う。


「そういえば評議員のみんなは、子弟をどうやって教育している?」
 俺が尋ねると、一同は互いに顔を見合わせた。
「当家では子供たちに家庭教師をつけています。それと将来有望そうな市民にも目を配り、学ぶ環境を整えています」
 そう答えたのは北端の採掘都市クラウヘンの太守ベルッケンだ。
 うちのラシィがお世話になりました。彼女もベルッケンの推挙で進学できた一人だ。
 他の太守たちもおおむね、学者や軍人などを招いて家庭教師にしているらしい。


 俺は少し考えて、こう切り出す。
「いっそ俺たちで学校を作ったらどうだろうか? 未来の評議員や指揮官を育成する、高度な学校を」
 姉弟子の吸血鬼メレーネ先輩が、うんうんとうなずく。
「あら、いいんじゃない? 私たちも先生のおかげでここまで成長できたんだし、やっぱり教育は大事よね。学友を作れば、その後の人脈にもなるし」
「そうでしょう?」
 俺はニヤリと笑う。


「魔王軍には竜火工兵隊という一流の技官集団がある。さらに大魔王ゴモヴィロア陛下率いる魔術師の一門もいる。学校を作るのなら、協力は惜しまないぞ」
 俺はこう提案したのには理由がある。
 今の太守たちは元老院に選ばれた者がほとんどだから、一定の能力は保証されている。どの一族にも太守候補者はそれなりにいるから、元老院だって一番優秀そうな人物を選んできたのだ。
 だから今は、どの都市も無難に治められている。


 しかし今後は、評議会が選ぶ太守へと徐々に世代交代していく。身内で選ぶのだから、当然腐敗の心配がある。
 同僚の子弟を推挙されたとき、その子弟が微妙な能力でも反対しづらいからな。
 将来のことを考えると、今から有能で高潔な人材を大量に育成しておかなければならない。
 それも、できるだけ魔族に理解のある人材をだ。


 人間の支配階級の教育に魔族が参加すれば、労せずして魔族との協調思想を植え付けられる。
 無垢な子供のうちから魔族の姿や価値観に慣らしていき、やがてそれを不思議とも思わない大人に育て上げるのだ。
 そして我々にとって都合のいい、人間と魔族の共存を模索してくれる指導者を作り出す。
 ふふふ。遠大な野望だ。


 ペトーレ爺さんと海賊都市ベルーザ太守のガーシュが、ひそひそ会話している。
「またあいつが悪い顔しとる……」
「でもどうせ、まともなことしか考えてねえぞ。あいつはそういう男だ」
 もちろんだとも。
 なんせ地味な副官だからな。


 子弟の教育や後継者の育成、あるいは側近の補充などに悩んでいた評議員たちからも賛同を得られたので、俺はさっそく未来の指導者を養成する学校を作ることにした。
 人間と魔族の両方から、優秀な教官を招聘することになりそうだ。
 未来の魔王は、ここで学ぶかもしれない。


 そしてこの計画に大変乗り気なのが、我が師ゴモヴィロアであった。
「ヴァイトよ、でかした。教育は国の礎じゃ。人間と魔族が机を並べる学び舎として、魔都に立派な学校を作るとするかのう」
「はい。つきましては、師匠にはこの学校の学長をしていただきたいと思ってます。評議員一同からの要望なんですが、どうですか?」
 その瞬間、にんまりと笑う師匠。まるで子供だ。
「ふふ、おぬしもなかなかのワルじゃのう。わしの喜びそうなことを熟知しておるわ」
「いえいえ、大魔王陛下に比べたら俺などほんの小物にございます」
 なんだこの会話。


 こうして魔都リューンハイトには、「ミラルディア大魔王立大学」というなんだか凄そうな学校が誕生することとなったのだった。略称どうなるんだろう。
 初代学長となるゴモヴィロア陛下が魔王軍の予算を惜しみなく使い……というか使いすぎて蒼騎士バルツェが悲鳴をあげ、兄のクルツェ技官は興奮して眼鏡を落としたという。


 やっぱり学者に予算を握らせるとダメだなと思った俺だが、もちろん俺も学者の端くれのつもりなので一切止めなかった。
 湯水のように予算を使って、最高の大学を作ろう。人材の質と量を確保しなくてはいけない。
 そして優秀な軍人や政治家や研究者をたくさん輩出して、さっさと近代化しよう。
 なんせミラルディアは、ロルムンドやワと比べるとだいぶ遅れてるからな。三ヶ国のうちでは近代化までの道のりが一番遠い。
 ミラルディアが学問と教育を重んじる文明国であることも、内外にアピールしておかないと。


 なお魔王アイリアもアインドルフ家の資産からかなりの額を出資してくれたので、魔王軍が破産することは避けられた。
 資産家の魔王様だと助かるな。
「すまないな、アイリア」
「いいのですよ」
 新調した大きめのベッドに寝転がって、俺とアイリアは同じ天井を見上げる。
 一緒の寝室にも最近ようやく慣れてきた。


 俺たちはしばらく無言のままだったが、アイリアがぽつりとつぶやいた。
「もし私たちの間に子が生まれなくても、これで誰かがあなたの志を継いでくれるでしょう」
「アイリア……」
 かわいい嫁さんが寂しそうにしている。やっぱり子供のことは気にしているのか。
 ここは夫として、きちんと言っておかねば。
 でも何を言えばいいのだろうか。
 いや、もしかすると何も言わないほうが逆に伝わるのかもしれない。


 よし、思いっきり簡潔にいこう。
 俺は緊張しながらアイリアに接近し、そしてにっこり笑ってみせる。
「子供をあきらめるのは、手を尽くしてからでも遅くはないだろう?」
 そして言い終えるより早く、自分の言葉の意味に気づいた。思わず顔が熱くなる。


 アイリアも真っ赤になっていた。
「あっ、あの……そうですね、本当に……て、手を尽くして……」
 もじもじしているアイリアが可愛い。
 それから彼女はちらりと上目遣いに俺を見た。


 確かに言葉はいらないな。
 俺は思わず苦笑しながら、ランプの灯を消した。
※次回「対岸の火事」の更新は8月31日(水)の予定です。
※読みやすさを考慮し、算用数字と漢数字の表記を併用しました。
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