挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
人狼への転生、魔王の副官 作者:漂月

本編

315/407

恋模様三態

315話


 工芸都市ヴィエラのクソオカマことフォルネ卿が「あ、そうだ。あの人にも声かけとかないと……」と言いながらどっかに行ってしまったので、俺はウォーロイと二人だけで客間に残される。
「それにしても、貴殿がフォルネ卿と懇意だったのには驚いたな」
 俺がそう言うと、ウォーロイが笑う。
「リューニエを預かってもらっている。あいつもフォルネ殿の援助で猛勉強していてな。フォルネ殿はああ見えて立派な男だ」
「確かにな」


 フォルネは演劇論や創作論、そして経済学や政治学の論文も執筆している。
 特に彼が昨年著した「王と劇」は、娯楽をいかに民衆の統治に役立てるかについての緻密な論文であり、前世に持って帰りたいぐらいの完成度だった。きっとミラルディアの歴史に残るだろう。
 ウォーロイは深くうなずく。
「リューニエには良い師の下で、まだまだ学んでもらわねばならん。俺には責任がある」


 ウォーロイの甥にあたるリューニエは、ドニエスク家嫡男の遺児だ。
 移住してきたドニエスク派貴族たちも、リューニエのことはずいぶんと気にしている。
 だから俺は、ウォーロイにこう尋ねた。
「兄君への責任か?」
「それもある。もちろん親父への責任もな。だがそれだけではない」
 ウォーロイは困ったように頭を掻くと、こんなことを言い出した。


「貴殿、アイリア殿と恋仲になったそうだな?」
「ん? ああ、そうだ」
 特に何かが変わった訳ではないが、前よりもアイリアと過ごす時間が楽しくなった気がする。とても落ち着くのだ。
「ヴァイト卿、幸せそうな顔だな」
 ウォーロイは溜息をつく。


「貴殿も恋の虜になったのなら教えてやろう。俺はな、リューニエの亡き母のためにも、あの子を立派に育てねばならんと思っているのだ」
「貴殿の兄嫁のためか」
 別に不思議なことではないな。
 だがウォーロイは眉間にしわを寄せて、たくましい腕を組む。
「俺はな、義姉上に惚れていたのだ。義姉上が兄貴のところへ嫁ぐ、ずっと前からな」
「ほほう」
 こいつの恋話か。


「ドニエスク家は、北ロルムンドの大領主であるボリシェヴィキ家と政略結婚を続けていた。だから義姉上も、いずれはドニエスクに嫁ぐ予定だった。……ただ、その相手は俺ではなかった。それだけだ」
「なるほどな」
 どうやらウォーロイは、ずっと兄嫁への恋心を胸に秘め続けていたらしい。
「兄貴に嫉妬しなかったといえば嘘になる。だが兄貴は良い夫であり、良い父親であり、俺にとっても良い兄貴だった。恨むことなどできん」


 そう言って、ウォーロイは「ふうっ」と大きな溜息をつく。
「この話をしたのは貴殿が最初だ。ロルムンド人にはなかなか打ち明けられん」
「それほど秘密にすることもないだろう。兄嫁に恋したのではなく、恋していた相手が兄嫁になっただけだ。不義ではないぞ」
 するとウォーロイは不満そうな顔をする。
「いいや。嫡男である兄の嫁に惚れているなど、あってはならんことだ。ドニエスク家の名誉に関わる」
「そういうものか……?」


 そしてウォーロイは遠い目をして、窓の空を見上げた。
「リューニエは義姉上の遺児でもある。惚れた女の一人息子だ。俺が守り、歴史に名を残す英傑に育て上げてみせる」
「それが貴殿なりの心の決着という訳だな」
「ああ、そうだ」
 にっこり笑ったウォーロイの表情には、一片の迷いもなかった。
 やっぱり立派な男だ。
 殺さずに済んで本当に良かった。


 ただ、ちょっと気になることもある。
「だがそれでいいのか? 貴殿の人生はどうなる?」
「今は恋どころではないからな。俺の作る街が完成したら、ミラルディアで二番目の美女を探して嫁にもらうとしよう」
「一番は?」
「おいおい、俺は貴殿の恋人を奪ったりはせんぞ? 二番目でいい」
 ニヤリと笑うウォーロイ。
 こいつ、アイリアのことを遠回しにミラルディア一の美女だと褒めてくれたぞ。
 やっぱり立派な男だな。


 そこにフォルネが戻ってきた。
「リューニエ殿の家庭教師なら引き受けるって言ってくれたから、あの感触だと多少は期待が持てそうね……あら? どうしたのよ?」
 ちょっと恋話などしてました。
 ウォーロイは肩をすくめる。
「なに、独り者同士で少しな。ところでフォルネ殿は結婚しておられるのか?」
「ええ、まあ」
 こうみえてフォルネは既婚者だ。第一子が生まれてパパになっている。家庭を大事にしているし、私生活はびっくりするぐらいまともだ。
 見た目はオカマだけど。


 ただやはり、ウォーロイは意外だったらしい。
「貴殿と結婚する女性がいたとは、正直に言って意外だな」
「あら、言ってくれるじゃない?」
 フォルネは笑うと、がらりと口調を変えた。
「私も男なのだぞ、ウォーロイ殿? 美しく聡明な妻と、愛する息子がいる。私自身が少々変わり者なのは認めるがな」
 フォルネは演劇で鍛えたいい声をしているので、男言葉になると不必要にかっこいい。


 俺は横からウォーロイに教えてやる。
「フォルネ卿の奥方は慎ましい方でな。あまり表には顔を出さず、ヴィエラの芸術家たちを支援する役割をなさっているのだ」
「そうだったのか……」
「しかも芸術にも学問にも秀でた、ヴィエラ随一の才女だ。美人で温厚だし、フォルネ殿にはもったいないな」
「あらやだなあに、アタシに惚気話でもさせる気? 長いわよ?」
 嬉しそうにくねくねしているフォルネ。
 評議会屈指の愛妻家なんだよなあ。
 見た目はオカマだけど。


 フォルネは笑っていたが、ふと首を傾げた。
「そういえばヴァイト殿、結婚式はまだ?」
「え、いや……まだ心の準備が……」
 俺も遊びのつもりではないので結婚は意識しているが、ハードルが高すぎてまだ何の相談もしていない。


 フォルネは厳しい顔をして、つつつと寄ってくる。
「ダメよ。恋の駆け引きで焦らすのはいいけど、そうやって無為に待たせるのは良くないわ」
「ああ、そうだな。恋は戦と同じだ。機先を制するべきだぞ」
 ウォーロイまでなんか言い始めた。


 俺は冷や汗をかきながらも、こう釈明する。
「しかし俺は平民だし、何より魔族だ。子供ができるかすらわからんのだぞ?」
 人狼と人間が結婚したという記録は残っていないし、子供ができたという話も聞かない。
 一方、アイリアは名門アインドルフ家の当主だ。
 やはり色々と逡巡してしまう。


 するとフォルネは困ったような笑みを浮かべる。
「あんたみたいに真面目な男は、そうなっちゃうわよね。でも大切なのは、アイリア殿がどう思っているかよ? あんた一人で決めることじゃないわ。ちゃんと相談した?」
「してない……」
 もう少し考えてからにしたかったが、ずるずる引き延ばすのは確かに良くないな。
「帰ったらアイリア殿に相談してみる」
「そうね、それがいいわ」
 フォルネがにっこり笑った。


 そこへ、俺の随行員であるカイトとラシィの魔術師コンビがやってくる。歩きながら口論していた。
「だから報告書は全部俺に出してくれって言ってるだろ!」
「でも最後はヴァイトさんに読んでもらうんだから、ついでに渡してもいいじゃない?」
「あの人が今処理してる仕事量、メチャクチャ多いんだからな!? 俺が精査して整理して、毎日一日分に収まるようにしてるんだよ。だからいったん俺に預けてくれ」
 いつもお世話になってます、マネージャーさん。


 カイトの地道で正統派の副官業務に、ラシィはうんうんとうなずく。
「なるほど、そういうことか……。カイトさん、本当に何でもできちゃう人なんだね。元老院時代から有名だったけど」
「いや、まあ……書類仕事なら探知魔法が少しは役に立つからな……」
 書類の束を抱えたまま、ちょっと照れているカイト。
 横にはラシィがにこにこ笑いながらくっついてきている。


 フォルネが肩をすくめる。
「長い風雨を耐えて、これからどこも実りの季節ってとこかしらね」
「平和になって、みんな余裕が出てきてるからな」
「ヴァイト殿も、もう少しがんばりなさいよ? せめてあの子たちよりは早くね?」
「……そうする」
※次回「不器用な求婚」の更新は8月19日(金)の予定です(更新日変更の可能性があります)。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ