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人狼への転生、魔王の副官 作者:漂月

本編

302/413

鉱山決戦

302話


 彼は焦っていた。


 本来ならば、これだけの魔力を投じて作った「根」ならば、ミラルディア全域を覆い尽くしているはずだ。山脈の向こうのロルムンドの一部にまで支配下に置けるはずだった。
 それなのに、各地で敵対者が「根」の構築を阻んでいる。


 彼の最大の力は、「根」を張り巡らせることによって無限に近い死者を支配下に置き、意のままに操ることだ。
 そのために莫大な魔力を注ぎ込み、「根」を張り巡らせてきた。
 しかしこのまま「根」を駆逐されてしまえば、使った魔力分を回収することさえできなくなる。


 現時点で、彼は四つの敵対者を把握していた。
 最大の敵対者はミラルディア北部全域を覆い尽くす、強大な魔力の持ち主だ。
 強固な「根」をたやすく分断する力を持ち、しかも無駄がない。おまけに無尽蔵ともいえる魔力を有している。


 そしてミラルディア南部の、二つの敵対者。
 どちらも魔力は大したことがないが、南西部の敵対者は「根」の破壊速度が恐ろしく早く、こちら側がじりじり押されている。どうやらかなりの人数を動員し、効果的に配置しているようだ。


 一方、南東部の敵対者はゆっくり移動しながら「根」をたどり、北部の敵対者同様に「根」の急所を破壊していく。
 それを防ぐためにこちらは骸骨兵を送り込んでいるのだが、どういう訳か進軍を阻止できていない。
 骸骨兵の状態を監視しようにも、骸骨兵の視覚に接続できない状態だ。


 そして最後が、ミラルディア中央部に陣取っている敵対者だ。
 これはどうやら死霊術師ではないようだが、正体不明の攻撃で骸骨兵ごと「根」を吹き飛ばしてくる。
 骸骨兵は魔力を消費して生み出しているので、骸骨兵の損耗は「根」に投資する魔力に影響する。
 一発で数百から数千体の骸骨兵を破壊されるため、戦力の補充にかなりの時間と魔力を奪われていた。


 どいつもこいつも目障りだ。
 現在、こちらの魔力の「根」は、十七ある都市の周辺から完全に駆逐されている。
 人間が住んでいない場所にいくら「根」を伸ばしても、魂を吸い上げることも、死者を召喚することもできない。
 このままでは魔力が枯渇してしまう。
 しかも今この瞬間にも、「根」は数を減らしている。
 ここに至って、彼はとうとう計画の変更を決断せざるを得なかった。


   *   *   *


「骸骨兵にも色々あるのさ」
 パーカーが歩きながらカイトに説明しているのを、俺は気怠い気持ちで聞いていた。
「僕が普段召喚するのは、強引に術で縛られた……そう、臨時雇いの骸骨兵だね。先生やメレーネ君が作り出すのは、長期雇用の骸骨兵だよ」
「時間がかかるヤツですね」
「うん。なんせ霊ひとりひとりと面接して、死因から未練から全部聞き出して、霊を説得しなくちゃいけないんだ」


 パーカーは「最後の扉」を開けた真の死霊術師だから、臨時雇いの規模も桁違いだ。同じことを人間の死霊術師がやっても、数体呼び出せたら大したものだろう。
 だがそれを指摘するとこいつが調子に乗るので、俺は知らん顔をしてやる。


 パーカーはカイトにペラペラ説明を続けていた。
「僕が思うに、敵側の骸骨兵は臨時雇いタイプだね。術で縛ってるだけだから、長距離や妨害などで術が届かなくなると霊が逃げてしまうんだ」
「ああ、だからパーカーさんが来たときに全部崩れちゃったんですか」
 カイトは聞き上手だから、こいつのどうでもいい話に真顔で相づちを打っている。
 あんまり構わないほうがいいぞ。


 俺たちはパーカー率いる骸骨兵の軍勢に救出され、みんなでぞろぞろボルツ鉱山に向かう途中だ。
 ウォーロイ配下の荒くれ男たちも「落とし前つけなきゃ気が済まねえ!」と荒ぶっていて、くっついてきている。
 俺たちが敵の骸骨兵を駆逐しながらボルツ鉱山に到着した頃には、鉱山の麓にあちこちの軍が集結していた。


「ここは工芸都市ヴィエラ所属、第三儀仗隊の陣地だ! 隊列が乱れる、あっちに行け!」
「黙れ金ぴか軍隊! 伝統あるヴェスト衛兵隊の邪魔をするな!」
「両方とも邪魔だよ、トゥバーンからやってきた魔王軍所属の人馬隊が先陣なんだから」
「こ、これはトゥバーン太守フィルニール殿!?」
「太守御自らの御出陣とは……失礼いたしました!」
 なんかフィルニールが太守の威光をかさにきて好き勝手やってるので、後で説教することにする。


 十七都市のうち、ボルツ鉱山に近い都市からは衛兵隊などが鉱山に逆侵攻をかけている。師匠が各都市を回って、ボルツ鉱山の包囲攻略を依頼したからだ。
 ミラルディアは各都市が互いに交易で依存しているので、交易路に骸骨兵がうろついていると困る。
 だから骸骨兵の駆除も本気だ。


 そしてなぜか、ウォーロイが北部の軍勢を統率している。
「長期戦は我々に不利だ、一気に制圧せよ! 山岳戦に慣れている我が手勢を先陣とし、登山道までを制圧する! 俺に続け!」
 すると先陣を切るつもりだったフィルニールが慌てた。
「あっ、ボクは!? ボクも先陣……」
「フィルニール卿は平地での戦が専門であろう。麓で待機するがいい」
「えー……」
 しょげるフィルニール。
 気の毒だがウォーロイのほうが正しいので、俺は知らん顔をした。


 元山賊や遊牧民などを率いたウォーロイは、破竹の勢いで登山道を進軍していく。
 もちろん俺も肩を並べて戦った。
「俺も戦わせてもらおう。ソウルシェイカーは温存しておく」
「おう、すまんな!」
 笑うウォーロイ。根っからの戦場好きだな、こいつ。
 背後からフィルニールが「センパイずるーい!?」と叫んでいるのが聞こえたが、俺は聞こえないふりをしておいた。


 死霊術的な分野はパーカーたち死霊術師が処理してくれるので、俺とウォーロイは競いながら骸骨兵を処理していく。
 単純な戦闘力では、人狼に変身した俺のほうが圧倒的に上だ。
 しかしここに俺の強化魔法が加わると、ウォーロイも劇的な強さを発揮する。


「おお、これがミラルディアの魔法の力か!」
 ウォーロイが槍を薙ぐと、数体の骸骨兵がバラバラに吹き飛びながら崖の下に落ちていく。
 槍の一突きで盾ごと三体ぐらいぶち抜いてるし、向かうところ敵なしだ。


「ウォーロイ様の強さを見たか!?」
「ありゃまさに鬼神だ!」
「こうしちゃいられねえ、俺たちも続くぞ!」
 荒くれ男たちの士気も上がる。


 負傷兵は合間合間に俺が治してやるので、こちら側の勢いは衰えることがない。
 もっとも俺は治療も担当している分、ウォーロイほど暴れられない。
 このへんがヒーラーを兼務するアタッカーの難しいところだなと、ネットゲームみたいなことをチラリと思った。


 なお俺たちの後ろからは「正規の軍人でもない連中に負けてたまるか!」「ロルムンドの皇子にミラルディア兵の精強さをお見せしろ!」といった、若干心配な声も聞こえてくる。
 お願いだから友軍同士で喧嘩しないでくれよ。
 喧嘩したら俺は叱るからな。


 俺は背後をちらちら振り返りながら、骸骨兵を蹴り砕き、殴り潰しながら進んでいく。
 骸骨兵なら気兼ねなく攻撃できるし、この人狼の力で思う存分暴れてみたいのだが、とにかく責任としがらみが多すぎる。


「どうだい僕の弟の強さは!? ヴァイトはね、強化魔法の使い方が抜群に巧いんだ! 体の構造をよく理解しているからね! これは僕が思うに……」
 パーカーが上機嫌にまくし立てているのも聞こえる。
「なんでもいいから通してよ! あー! ボクがやっつけるぶんがもうない! うあー!」
 フィルニールも叫んでいる。
 なんだこの集まりは。


 北部と南部、人間と魔族。みんなごちゃごちゃにまとまり合いながら鉱山を下から上へ制圧していく。
 みんなは気づいていないが、上空では師匠が魔法で敵本体と交戦中だ。おかげで新しい骸骨兵は召喚されず、倒せば倒したぶんだけ進軍できるようになっている。
 今のうちだ。


 坑道の入り口に到達した俺たちは、手分けして鉱山内部になだれ込む。
 ここから先は衛兵隊の出番だ。彼らは屋内の戦闘に慣れているし、制圧戦闘が専門だ。
「そこの角を抑えろ! 明かりを持ってこい!」
「盾で押し込め! 酔っぱらいの暴徒どもの鎮圧に比べりゃ楽なもんだ!」
「我がヴェスト衛兵隊は坑道の反対側から挟撃する! おい金ぴか、こっちは頼んだぞ!」
「いいから早く行け、骨董品ども! さもないとヴィエラ儀仗隊だけで片づけちまうぞ!?」
 仲がいいんだか悪いんだか。


 細かい坑道は各部隊に任せることにして、俺はカイトの先導で隠し部屋に突入した。
 さすがに敵本体の潜む本陣だけに骸骨兵も手強かったが、本気を出した人狼がそんなものに負けるはずはないので蹴散らす。
 壁や天井があるとこだと飛び跳ねて立体的に戦えるから、もともと有利だというのもある。
 骸骨兵は人狼みたいに壁を駆け上がったり、天井を蹴って襲いかかったりできないからな。


「意外と大したことないな」
 俺が最後の骸骨兵の頭蓋骨を粉砕すると、後ろからカイトがおそるおそる顔を出す。
「相変わらずメチャクチャな強さですね、ヴァイトさん」
「師匠のとこで、骸骨兵相手の組み手はさんざんやったからな……」
 実験するときのダミー人形も、全部これかゾンビだからな。
 もう慣れた。


「こいつらパーカーと違って、関節の可動範囲は人間と同じだからな。カイトもコツさえつかめば、こいつらの関節をバラバラにして倒せるぞ」
「蟹やエビの漁師みたいな口振りで無茶言わないでくださいよ」
 そんな会話をしながら、俺は干からびた死骸が金属製の杯を手にしているのを遠目に確認する。
 アンデッドの親玉でもいるのかと警戒していたが、なんだか拍子抜けだ。


 カイトがそっと告げた。
「今、あの杯を何種類かの探知魔法で調べましたが、いずれも不活性判定です。魔力が枯渇したんでしょうか?」
「わからんから警戒しておこう。師匠がリュッコを連れて戻ってくるはずだ。それから収容するぞ」
 見れば見るほど、ワの国から回収したアソンの秘宝によく似ている。
 これは分析が必要だな。
※次回「侵蝕」の更新は7月20日(水)です。
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