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人狼への転生、魔王の副官 作者:漂月

本編

300/414

魔狼帰還

300話


「無理をして死ぬな、今誰かゾンビ化すれば終わりだぞ!」
「盾をかざせ! おい、こいつに傷の手当てを!」
 怒号が飛び交う中、カイトは死を覚悟していた。探知魔法を使って五感以外で情報を収集できる彼には、今の絶望的な状況がよくわかっている。


 味方は既に数十名が死亡している。ゾンビ化した味方に不意打ちで殺害された者が大半だ。
 わずかな死者が、その何倍もの被害を生み出す。
 そしてカイトたちが立てこもる入り組んだ通路は、退避や白兵戦のための十分な空間がなく、見通しが利かない。
 今うめいている重傷者が一人でも死亡すれば、大惨事になることは容易に想像できた。


「外はもう敵だらけか……」
「頭を出すな! 矢が飛んでくるぞ!」
 ウォーロイに頭を押さえつけられた瞬間、カイトのすぐ近くに錆びた矢尻が突き刺さる。
「殿下、もう無理です! 殿下だけでも逃げてください! バルナークさんがいれば逃げきれるはずです!」
 カイトは叫んだが、ウォーロイは振り向きもしない。


「俺は生まれてからずっと、親父や兄貴の背中に守られていた。そして今は、あいつの背中に守られている」
 ウォーロイがヴァイトのことを言っているのは、カイトにはすぐわかった。
 ウォーロイは声に笑みを含ませて、槍を振るいながらこう続けた。
「だからせめておぬしたちぐらいは、俺の背中で守らせてくれ」
「殿下……」


 カイトは目元をごしごし擦って、空を見上げた。
 この人を死なせる訳にはいかない。
 カイトは愛用の魔術書を取り出し、この状況を打開できる術がないか、もう一度調べてみることにした。
 そのときだった。


「あれ?」
 周囲の魔力が大きく波打つのを感じて、カイトは手を止める。
 上だ。上空から魔力の歪みを感じる。
 見上げたカイトの視界に飛び込んでくるのは、冷たく輝く満月。
 その満月に重なるようにして、何かが空間を切り裂いた。


 カイトは見上げたまま、ハッとしたように叫ぶ。
「ヴァイトさん?」
 その直後、人狼の雄叫びが轟いた。


*     *     *


 着地のときの衝撃が凄かった。
 数十メートル落下したんだから当たり前だが、死ぬかと思ったぞ。
「間に合った……とは言えないか」
 積み上げられた石材の上に着地した俺は、重い気持ちで周囲を見回す。
 仲間のピンチに颯爽と現れるヒーローに昔から憧れていたが、実際にはそうそうタイミングは合わないな。ちょっと遅れたようだ。
 もう少し早く到着できていれば、誰も死なずに済んだかもしれない。


 だが今はそれを悔やむより、生きている者を誰も死なせないことのほうが重要だ。
「ヴァイトさーん!」
 カイトが手を振っている。よかった、無事だった。
 隣でウォーロイが槍を振るいながら驚いていた。
「ヴァイト!? なぜここに!?」


 俺は飛んでくる敵の矢を払いのけながら、手短に答える。
「助けに来た」
 師匠の転移魔法で飛ばしてもらったんだが、のっけから酷い目に遭った。
 師匠もこの場所の高度がよくわからなかったらしく、「地面に埋まるよりはええじゃろ」とばかりに上空に放り出されてしまった。
 だが高度以外の位置座標は完璧だ。さすが師匠だな。


 俺は師匠からもらった魔力を体内で消費しながら、力を溜める。
 この三ヶ月間、師匠から久しぶりにマンツーマンで指導を受けていたので、新しい術を覚えた。
 しかも死霊術だ。
 俺は足下に拳を叩きつけ、大地から力を吸い上げるイメージを形成する。この術はまだ覚えたてで、動作や詠唱が必要だ。


「命なく、声なく、力なき者よ!」
 拳を突き上げ、俺は叫ぶ。
「ここは命ある、声ある、力ある者の世界なり! 我が力ある命の声を聞け!」
 そして俺は、ありったけの力で吼えた。
 必殺の「ソウルシェイカー」が炸裂する。


 ぶっつけ本番だったが、効果は劇的だった。
 ソウルシェイカーによって周囲の魔力は変質し、それがアンデッドたちの持つ魔力に干渉する。
 こいつらは魔力だけを動力とするドローンみたいなものだから、魔力に干渉されると人間より弱い。
 師匠が考えた「対アンデッド用のソウルシェイカー」は、うまくいったようだ。
 だがひとつだけ、誤算があった。


 円形の波状に広がるソウルシェイカーによって、骸骨兵が粉々に砕け散っていく。停止させるだけのはずが、完全に破壊してしまう。
 師匠からもらった魔力が桁外れの量だったせいもあり、威力が高すぎたようだ。
 人狼の目には、暗闇で爆散して塵になる骸骨兵が見える。資材置き場周辺にいるアンデッドは全滅したようだ。
 一撃でこれか。なんて威力だ。
 やっぱり師匠は凄いな。


「割とあっけないな」
 俺がうなずくと、武器を構えていた男たちがあっけにとられた様子で周囲を見回し、俺を見上げていた。
「な、なんだ今のは……」
「敵が全部いなくなっちまったぞ……」
「なあおい、あれ黒狼卿じゃないのか?」
「知らねえよ、もう長いこと街で暮らしてねえんだから」


 するとウォーロイが槍を振りかざして叫んだ。
「今だ! 敵の侵入を阻止せよ! 総員出撃!」
「お、おお!」
「そうだ、今のうちに全部塞いじまえ!」
「押し返せ!」
 男たちが斧や鎚を振り回しながら、資材置き場の各所に散っていく。


 資材置き場周辺の敵は全滅しているし、ソウルシェイカーの影響でしばらくはここにアンデッドは近寄れないので、十分な時間がある。
 ソウルシェイカーの波長を調節するというのは、なかなかいいアイデアだった。
 師匠が言うほど簡単じゃなかったが、がんばって今後もバリエーションを増やしていきたい。
 なんせ俺、他に派手な魔法が何もないからな……。


「ヴァイト!」
 ふと気づくとウォーロイが俺を見上げていたので、俺はよっこらしょと石材の山から飛び降りた。
「ウォーロイ、無事で何よりだ」
「すまん、またおぬしに助けられてしまったな」
 あれだけの窮地に追い込まれたにも関わらず、ウォーロイは落ち着いていた。


 ウォーロイ指揮下の荒くれ作業員たちは、重そうなハンマーや戸板で作った大盾を振りかざしながら突進していく。突破された部分を丸太などで塞いでいるのだ。
 この窮地でこれだけの士気と統率を保っていられたのは、ウォーロイの人望と統率力のおかげだろう。
 俺は負傷者たちを魔法で治療しながら、ウォーロイを讃える。


「さすがだな、ウォーロイ。全滅を免れたばかりか、被害を最小限に食い止めていたとは」
 だがウォーロイは溜息をつく。
「いや、また大勢死なせてしまった。こんなことなら無理矢理にでも逃げるよう命じておけばよかったな」
「そんなことはないぞ」
 俺は首を横に振る。


「師匠……魔王陛下の話では、骸骨兵は既に周辺都市を包囲しつつあるそうだ。逃げても街に入れたかどうかはわからん」
「そうか……。ではここで踏みとどまるしかなかったのだな」
 敵はどうやら、元老院残党の誰かがアンデッド化したものらしい。
 元老はエレオラ支配下のミラルディアしか知らないので、ここに新しい街ができつつあることにはすぐには気づかなかった。
 だから他の街の包囲はとっくに完了している。


「それと既にミラルディア中央部の大半が、敵の『霊的支配下』にあるらしい」
「なんだそれは」
「要するに、死者を自由に扱える状態ということだ」
 実は俺にもさっぱりわからないが、死霊術師にとっては制空権みたいなものらしい。
「死霊術師同士の戦いは陣取りゲームのような一面があって、この辺りは敵の支配下だ。死人を出すと危ない」


 幸い、俺が治療した重傷者たちは一命を取り留めたようだ。
 俺はウォーロイに向き直る。
「大樹海の奥にいたから、気づくのが遅れてすまなかった。怪我はないか?」
「当たり前だ。俺はおぬし相手に生還した男だぞ。そんなことより、救援と治療に感謝する。かたじけない」
 ウォーロイはようやく笑顔を見せた。


 するとカイトが魔法で周囲を警戒しながら、俺に質問してきた。
「あの、ヴァイトさん。魔王陛下は今どちらに?」
「師匠なら北部の都市に救援に向かっている。あっちは死霊術師が少ないからな」
「じゃあ北部は大丈夫そうですね。南部はどうするんですか?」
「おいおい、超一流の死霊術師が二人いるのを忘れてないか?」
 そう、南部にはメレーネ先輩とパーカーがいる。


 俺はカイトの頬にできた擦り傷をついでに治してやりながら、遅刻したのをごまかすために笑ってみせた。
「さあ、反撃開始だ。みんなでアイツをぶん殴ろう」
「は、はい!」
 うまくごまかせた。
 救援に来る予定のパーカーと合流したら、俺もボルツ鉱山に向かうとしよう。
※次回「十七都市の反撃」の更新は7月15日(金)です。
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