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人狼への転生、魔王の副官 作者:漂月

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「ウォーロイの窮地」

299話「ウォーロイの窮地」


「不和の荒野」と命名された肥沃な土地で、ロルムンド帝国を追われた元皇子・ウォーロイは声を張り上げていた。
「ここもすぐに亡者どもが来る! 避難できる者は南を目指して逃げよ!」
 北西のボルツ鉱山から大量の骸骨兵が攻め寄せてくるという話は、すでに彼らにも伝わっていた。


 だが建設工事に集まっていた数百人の男たちは、誰一人として逃げようとはしない。
 頬に傷のある男が進み出て、こう言った。
「殿下、あっしらは逃げやせんぜ。あっしらは元々、都市を追放された罪人ですから」
「心配するな。避難のためなら受け入れると、アイリア殿もシャティナ殿も確約してくれた。構わんから逃げろ」


 ウォーロイはそう言ったが、男たちは首を横に振る。
 彼らは山賊や追放者、それに傭兵たちだ。頬に傷のある男も、元々は山賊の頭だ。
 彼らは、ウォーロイに叩きのめされたり助けられたりして、彼に忠誠を誓った男だちだ。


「あっしらは今、新しい街を作るっていう大仕事をしてるんです。そうすりゃこの街で暮らせるし、もう山賊なんてやらなくてもいい。それどころか、街の功労者として一生自慢できるんですぜ。逃げろなんて言わねえでくださいよ」
「落ち着け、一時避難するだけだ。いずれまた帰ってくればいい」


 ウォーロイは彼らを説得したが、いつもは従順な彼らが、今日は頑として言うことを聞かない。
「この敵襲、聞けばあのクソ元老院の仕業だそうじゃねえですか。逃げてたまるかってんですよ、殿下」
「そうですぜ。せっかく日の当たる道に戻ってこれたのに、元老院から逃げたんじゃ男が折れちまう」


 アウトローらしい言い分に、ウォーロイは溜息をつく。彼らの心情も多少は理解できたからだ。
 そこにカイトが駆けつけてくる。
「殿下、まずいです! 骸骨兵の進軍速度が予想以上に早く、夜明け前にはここに到達する見込みです!」
「そうか。疲れを知らぬ兵であれば、長距離の行軍では人間を超えるのは当たり前だな」


 時刻は夜。カイトが骸骨兵に襲われたのは、一昨日の夕刻だ。
 周辺都市との交易路が整備されておらず、ここへの連絡は遅くなった。
 剣聖と名高いバルナークが、思案するようにつぶやく。
「皆、日中の重労働を終えて疲れ切っており、今からどこへ逃げるとしても道中で野営が必要になりましょう」
「そうだな。逃げきれるとは限らん」
 長距離の行軍では必ず脱落者が出る。自身の経験で、それはよくわかっていた。
 そして今回、脱落者はほぼ確実に死ぬ。


 民を逃がすか、それともここで守りを固めるか。
 ウォーロイは覚悟を決めた。
「幸い、ここには大量の建築資材がある。資材を使って陣地化するぞ。ただちに作業を開始しろ」
「合点でさあ、殿下!」
 荒くれたちは力強くうなずいたが、カイトは慌てる。
「殿下、危険ですよ!? 相手は何万いるかわからないんですから!」


 だがウォーロイは汗だくのシャツを脱ぎ捨てて笑う。
「今から逃げたとしても、逃げきれぬ者も多い。俺は残って皆を守る。おぬしは逃げろ」
「逃げる訳ないでしょう! あんたをここで死なせたら、ヴァイトさんに何て報告すりゃいいんだよ!」
 カイトはウォーロイの鎧を手に取ると、彼に手渡しながら言った。


「俺がヤツらの動きを探知して、殿下に報告します。殿下はロルムンド一の名将なんですから、なんとかしてくださいよ?」
「ロルムンド一かどうかは知らんが任せておけ。昔の俺とは違う。もう部下は死なせん」
 ウォーロイは鎧を手早く身につけると、ワの十文字槍を手にした。
「決闘卿と戦ったときに比べれば、亡者の軍団など脅威とも呼べぬ。一年でも二年でも籠城してやろう」


 ウォーロイはカイトたちを連れて、建築資材置き場へと向かった。
「ここは……?」
 カイトが何かに気づいた様子なので、ウォーロイはニヤリと笑う。
「気づいたか? 資材置き場はそのまま、臨時の砦として利用が可能になっている」


 石材を積み上げて簡便な防壁とし、木材は組み合わせて逆茂木とせよ。これをもって敵襲に備える陣地とする。
 勢力圏外での築城は敵の襲撃を受ける危険性が高く、ロルムンドでは資材と人員を守るためにこのような手法が使われている。


「ただし、これはあくまでも資材の山だ。きちんと積み上げている訳ではないし、櫓も塔もない。平地で迎え撃つよりはマシという程度のものだ」
 ウォーロイはそう言い、カイトや作業員たちを石材で囲まれた陣地に収容する。大量の資材のおかげで敵を防ぐことはできるが、居住性はいっさい考慮されていない。
 だがそれでも、今はここより安全な場所はなかった。


 ウォーロイも防戦が可能かどうか自信はなかったが、指揮官が不安がっていては皆が動揺する。
 彼は大声を張り上げ、堂々とした態度で皆に命じた。
「入り口を丸太で完全に塞ぎ、防壁上には戸板を置いて鼠返しとせよ! 敵の侵入を防げば、戦わずとも退けられよう!」
 相手は疲れ知らずの骸骨兵だ。まともに戦えば人間側は疲労が蓄積し、必ず負ける。


 松明と月明かりを頼りに、荒くれ男たちは作業を開始する。
「クソ、逃げてたまるかってんだ」
「おうよ、元老院の残党なんざ蹴散らしてやる」
 男たちの士気は高いが、猶予は少ない。
 資材置き場を完全に陣地化するには、時間が足りなかった。


 カイトが叫ぶ。
「殿下、来ました! 西北西、距離二十四弓里! 総数不明ですが、数万規模です!」
 ウォーロイはうなずき、一同に命じる。
「現在の作業が終了し次第、持ち場を離れろ! 全員籠城せよ!」
 ウォーロイは十文字槍を振り上げ、一同の士気を奮い立たせる。


「俺たちは運がいい! 語り継ぐ武勇伝が、またひとつ増えるのだからな! 生き延びて『俺は数万の骸骨の軍勢と戦って、この街と真の男たちを守り抜いた』と自慢してやれ! ミラルディアの美しい女たちにな!」
「おお!」
 鎚や斧を振り上げ、叫ぶ男たち。


 バルナークは鞘から剣を抜き放ちながら、小さく苦笑した。
「殿下は荒くれ男の扱いにかけては天下一ですな」
「好きで上達した訳ではないが、流浪の身だからな」
 そう言ってウォーロイも苦笑する。


 やがて骸骨の軍勢が、錆びついた鎧の音を立てながら静かに迫ってきた。
「敵方の動きは今、こんな感じです」
 カイトが砦の見取り図の周囲に小石を置き、骸骨兵の動きを説明する。
 それを見たウォーロイは微笑んだ。
「用兵の基礎がなっておらんな。指揮官不在とみえる」
「骸骨兵は術者が命令しない限り、単純なことしかできませんからね」
「なるほどな」


 ウォーロイは十文字槍を振り上げ、荒くれ男たちに命じる。
「松明を持ち、陣地の内部を警戒せよ! 敵は刃を携えた濁流だ、隙間があれば入ってくるぞ!」
 彼の言葉はすぐに現実のものとなった。
「親分! 骸骨兵が壁を登ろうとしてます!」
「板で返しを作っているから、そうそうたやすくは登れまい。上がってきた敵は一体につき三人がかりで叩き落とせ!」


 その頃には壁という壁から、金属と石がぶつかり合う音が響いていた。
 バルナークが剣を携えてつぶやく。
「連中、壁を叩いておりますな」
「どこか脆いところはないか探しておるのだろう。せっかく用意した良質の石材が刀傷だらけになってしまうな」
 ウォーロイは軽口を叩いてみたが、この無数の音は想像以上に威圧感があり、兵の休息を妨げることは容易に想像できた。


 そして急拵えの陣地に、次々と劣勢を伝える報告が舞い込んでくる。
「殿下、大変です! 入り口の丸太を敵が乗り越えてきました! あいつら仲間を踏み台にしてやがる!」
「案ずるな、入り口はせいぜい二体ずつしか通れん。槍隊で鎧ごと突き倒し、鎚や斧で頭蓋を叩き割れ!」
「ウォーロイ様! 壁に載せていた戸板が引きずり落とされました! あいつら、作業場の梯子を拾って登ってきます!」
「盾で囲んで突き落とせ、まともに相手しては消耗を招くぞ」


 カイトが額に汗を浮かべながら、ウォーロイを見上げてきた。
「殿下、骸骨兵が意外と手強いですね……」
「梯子を使えるというのは予想外だったな。武器を扱うしか能がないと聞いていたが」
「はっきりとは言えませんけど、術者が直接命令しているような感じです。骸骨兵の動きがコロコロ変わってますから」
「であれば、ここで粘ることは他への支援となるな。敵将の動きを封じれば、それだけミラルディア勢が有利となる」


 そこに新たな報告が飛び込んできた。
「大変です! 敵が矢を!」
「何!?」
 骸骨兵は槍や盾を構えて「前進する壁」となるのが普通だが、中には弓を扱えるよう調整された骸骨兵もいる。
 カイトはそう説明した後で、こう続けた。


「骸骨兵に弓を持たせても、射程や精度が悪くてあまり当たらないらしいんですけど、俺たちは動けませんから……」
 この資材置き場には屋根がほとんどなく、曲射によって上空から降り注ぐ矢に対しては全くの無防備だ。
 即座にウォーロイは叫ぶ。
「盾を自らと仲間の頭上にかざせ! 敵の矢種が尽きるまで耐えよ!」


「うおぉっ!」
「ぐわっ!」
 あちこちで悲鳴が聞こえ、続いて決定的な報告がもたらされる。
「殿下! あいつらが! やられた連中が動き出した! ゾンビになっちまってる!」
 矢が散発的に降り注ぐ中、矢傷で死んだ男が次々に起きあがってきていた。真新しい死体は武器や盾を携え、暗がりの中からかつての仲間たちを襲う。


「おいくそっ、やめろ! 仲間だろ! やめ……」
「うわっ、やめろ! 俺は味方だ! 生きてる!」
「おい後ろ! だっ、誰か……」
 あちこちで戦いの音が響き、男たちが叫ぶ。
 見通しの悪い砦の構造と夜間なのが災いし、戦況が全くわからなくなってしまった。


 ウォーロイはありったけの大声で怒鳴った。
「総員後退せよ! 砦の最奥部まで後退! 内部のゾンビを撃滅し、安全を確保する!」
 砦の内部は石材と木材で折れ曲がった通路になっていて、狭い通路には斜めからの矢は届かない。
 ウォーロイは生存者を指揮しながら通路の奥へと後退を開始したが、その間にかなりのゾンビが増えてしまっていた。


 通路の奥に身を潜めながら、カイトが告げる。
「殿下、外側の防壁が骸骨兵に占拠されました。しかも骸骨弓兵がいます」
「では奪還は困難か」
 通路ではバルナークが剣を振るい、ゾンビたちを次々に斬り捨てている。老いたとはいえその太刀筋は鋭く深く、ゾンビたちはもう動き出しはしない。


 だがゾンビを全て片づけたとしても、外にはまだ骸骨兵が無数にひしめいている。
 この状態で籠城を続けることは不可能に近かった。
「殿下、これはもはや……」
 バルナークが振り返るが、ウォーロイは十文字槍でゾンビを突き伏せながら首を横に振った。
「まだだ。資材で通路を塞げ。諦めるのは全て失敗してからでいい。あの男ならそうする」


「決闘卿のことでございますか?」
「そうだ。それにこの程度でくたばったら、あの世の親父と兄貴に叱られよう。リューニエにも申し訳がたたん」
「左様ですな」
 甥のリューニエは評議会の援助を受け、ミラルディア各都市に留学中だ。今は工芸都市ヴィエラにいるはずだった。


 ウォーロイはさっきまで部下だったゾンビを十文字槍で突き伏せ、次の敵が踏み込んでくる前に木箱を押し込んでバリケードを作った。すかさず荒くれたちがそれを補強する。
 バリケードを乗り越えようとしてくるゾンビの頭を貫きながら、ウォーロイは不気味に輝く月に吼える。
「戦はまだまだこれからよ!」
 骸骨兵は砦の中に続々と侵入を続け、次第にその密度を増していた。
※次回「魔狼帰還」の更新は7月13日(水)です。
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