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人狼への転生、魔王の副官 作者:漂月

本編

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旅支度の人狼

269話


 ロルムンドに行ったときと違って、今回は兵を率いていく必要はない。
 人狼隊も全員連れていく必要はないし、今回は船旅の予定だから人数は減らす。船賃が恐ろしく高い上に、食糧の問題が出てくる。
 人狼は変身のために、常にタンパク質と魔力を蓄えておく必要があるのだ。


「そんな訳で何人か選んで連れていこうと思うんだが、ファーンはどうする?」
 人狼隊の影のボスと名高いファーンお姉ちゃんに相談すると、彼女はふと寂しそうな顔をした。
「私もついて行きたいんだけど、たぶんあんまり役には立てないかな……」
「どうして?」
 あの問題児、ガーニー兄弟ですらファーンお姉ちゃんには逆らえない。
 おかげでロルムンドでも大きなトラブルは起きなかった。


 するとファーンお姉ちゃんは悩んだ表情をして黙ってしまったが、やがてこう答えた。
「だって……ヴァイトくんって、普通の人狼じゃないもん。君の考えてること、私にはぜんぜんわからないんだから」
 確かにそうかもしれない。
 俺の主な相談相手は、人間や元人間だった魔族たちだ。
 人狼たちは頼もしい戦力ではあるが、相談相手ではない。彼らには人間の考え方は理解しにくいからだ。


 ファーンお姉ちゃんは溜息をつき、それでも俺に笑いかけてくれる。
「ヴァイトくんの考えを理解できない私が、足を引っ張るといけないでしょ? だから最近は君が突っ走っても、あんまりうるさく言わないようにしてるんだよ」
「そうだったのか」
 最近あまり怒られなくなったと思ったら、そういう理由だったのか。


 ファーンお姉ちゃんは頬杖をつき、遠い目をしてみせる。
「ヴァイトくんは昔から、ちょっと変わってたものね。そのおかげで、私たちはこうしてうまくやっていけてる。だから邪魔しないことに決めたの」
 人狼はあまりくよくよ考えずに行動で解決する傾向があるが、ファーンお姉ちゃんはだいぶ悩んでいたらしい。
 仕事に夢中になっていたあまり、知らないうちに負担をかけていたようだ。
 悪いことをしてしまった。


「ありがとう、ファーン」
「いいよ、これからもヴァイトくんの背中は私に任せて」
 ファーンお姉ちゃんはニコッと笑うと、俺の頭を昔のようにくしゃくしゃと撫でてくれた。
 もう子供じゃないんだけどな。
 まあいいか。


「じゃあ早速、俺の背中を預けたい。人狼隊の大半を置いていくので、隊長代理を頼む」
 引き受けてもらえるかどうか心配だったが、ファーンは笑顔でうなずいた。
「いいよ。アイリアのことも心配しなくていいから」
「ああ、頼……」
 今なんて?
「怒られないか心配なんでしょ?」
「まあ……」
 アイリアにも苦労を押しつけてばかりだしな。


 俺は咳払いをして、用意していた書類を取り出す。
「それはそれとして、ファーンには魔王陛下から称号が授けられることになったよ」
「へ? 私?」
「これまで人狼隊の若手を監督してくれた功績と、今後の活躍への期待が理由だ。あと俺も推挙しておいた」


 魔王軍の管理職は竜人が多数派で、人狼は俺しかいない。
 これはバランスが悪いだろうということで、人狼隊の若手からもう一人誰か推薦してほしいと師匠から頼まれていたのだ。
 若手となると、もうファーンお姉ちゃんしかいないだろう。


「いやでも、私なんかが称号もらっちゃうのは……」
 珍しく後ずさりしているファーンお姉ちゃんを、俺は書類を持って壁際まで追いつめる。
「俺は魔王軍全体の仕事が増えてきているし、評議会の仕事もある。人狼隊を預けるためにも、将になってもらわないと困るんだ」
 逃がさないぞ。


 そこに絶妙なタイミングで師匠が現れる。
「ヴァイトよ、ファーンの承諾は得られたかの?」
「今しがた、おおむね得られたところです。な?」
「待って待って」
 ファーンお姉ちゃんがうろたえまくっているが、俺の仕事を減らすためにも諦めてもらおう。


 師匠は俺とファーンお姉ちゃんの顔を見比べていたが、苦笑しながら小さく溜息をつく。
「ファーンよ」
「はっ、はい!?」
「魔王軍の幹部が竜人ばかりでは、竜人に都合のよい施策ばかりが優先されてしまう。それでは先王様もお嘆きになろう」
 相手が魔王ゴモヴィロア陛下なので、今はまだ一兵士に過ぎないファーンお姉ちゃんはかなり緊張している。


 そんな彼女の緊張を解きほぐすように、師匠はにっこり笑った。
「それにの、ヴァイトは魔族のみならず人間たちをも支えるべき男じゃ。ヴァイトを支えてやる者がもっと必要であろう?」
「それは……はい」
 ファーンお姉ちゃんの表情から緊張が消え、少し照れたような笑みが浮かぶ。
 それを見取った師匠は、杖を掲げて厳かに宣言した。


「人狼のファーンよ。ときに猛く、ときに優しく、同胞を守る者よ。汝に『衛月』の称号を授ける。闇夜のごとき未来を月のごとく照らすがよい」
「はっ、ははっ!」
 びしっと背筋を伸ばし、敬礼するファーンお姉ちゃん。
 こうしてついに、人狼にも二人目の将が誕生したのだった。
 人狼族をよろしくお願いします。


 こうして人狼隊を預ける相手ができたので、俺は三個分隊十二人を引き抜いて連れていくことにした。
 諜報分野の担当としてモンザ隊、技術分野担当としてジェリク隊、そして軍事分野担当がウォッド隊だ。
 というかウォッド爺さんが連れていけとうるさかったので、最後の一枠は埋まってしまった。


「他の年長者たちと一緒に、しばらくリューンハイトでのんびりしてくれればいいのに」
 俺はウォッド爺さんにそう言ったが、歴戦の元傭兵は古傷を撫でながら笑った。
「後ろから死神が追っかけてきよるのに、のんびりなどしとれんわい。まだまだ戦い足りん。経験を積まんとの」
 あれだけ戦ってまだ足りないとか、どんだけ戦闘狂なんだよ。


「それにのう、何もせんでも歳は取るし、若い連中はどんどん強くなっていく。群れの中で今と同じ強さをこれからも保つためには、強くなり続けにゃならんじゃろ?」
 ……アリスの徒競走理論をこんなところで聞くとは思わなかった。
 ウォッド隊のベテラン勢たちも同じ意見らしいので、俺は彼らを連れていくことにした。


 もちろんガーニー兄弟や最年少のスクージ隊が文句を言ったが、これ以上護衛が増えても統率するのが面倒だ。何かあれば戦わずに逃げるつもりだから、脱落者が出やすくなる。
「ヴァイト、俺たちも連れて行けよ! 腕っ節ならウォッド爺さんにだって負けねえぞ!」
「そうだよヴァイト兄ちゃん! オレたちも経験積みたい!」


 しかし旅支度を整えながら、ウォッド爺さんたちがニヤニヤ笑う。
「お前さんらには、次の機会があるじゃろ。わしらはいつまで戦えるかわからんでな」
「そうそう、ここは年寄りに譲れ」
「くそぅ!」
 悔しがる若手たちだが、そこにファーンお姉ちゃんが現れる。
「ほら、決まったことにいちいち文句言わないの。ヴァイトくんの命令には絶対服従。長の命令に文句つけてたら、狩りは成功しないでしょ?」


「わかったよ……」
「はぁい……」
 さすがは魔王軍の将、見事な統率力だ。
 もし本当にワの国が日本人と関係あるなら、血の気の多い連中は少し危なっかしい気がするからな。外交問題になっても困る。
 俺も荷物をまとめつつ、ガーニー兄弟やスクージ兄弟たちに笑いかける。
「次にワの国に行くときには、みんなにも来てもらうつもりだ。今回は様子見だから、最低限の護衛でいい」


 人狼以外の随行員は、マオとパーカーで決定した。
 マオはワの国の出身だから頼りになる。逃亡犯として国を出た彼だが、フミノに相談した結果、身分は保証されることになった。
 パーカーは死霊術師だから転生について詳しいし、フミノを笑わせる道具としても使えそうだ。
 ただ残念ながら、カイトとラシィはウォーロイ皇子が連れていってしまったままだ。頼りになる二人だが、今回は諦める。


 そして出発当日。
「ではアイリア殿、またしばらく留守にしてしまうが……」
 俺が少し申し訳ない気持ちで言うと、アイリアはにっこり微笑んだ。
「留守はお任せください。人狼隊の大半も残ってくれていますし、何も心配はいりませんよ」
「ありがとう。……土産は何がいい?」
 今度は「早く帰る」などと約束しないことにしたが、やっぱり悪い気がするのでお土産で許してもらうことにする。


 するとアイリアは照れくさそうに笑った。
「ヴァイト殿が無事でお戻りになるのでしたら、何もいりません。……どうかくれぐれも、無茶はなさらずに」
「わかった。いつも通り慎重にやるよ」
「わかってないです……」
 アイリアに溜息をつかれてしまった。
 死ぬか生きるかの瀬戸際は勇者と戦ったときぐらいなので、ここしばらくは無茶していないと思う。


 ともあれ俺たち一行はワの国の使者フミノと共に、漁業都市ロッツォの港へと向かったのだった。
※次回「フミノの密書」の更新は5月6日(金)です。別視点パートの都合で短いので、土曜日も更新します。
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