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人狼への転生、魔王の副官 作者:漂月

本編

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評議会の苦悩

266話


 リューンハイトに帰還した数日後、俺は臨時の評議会で正式な報告を行う。
 今回は南部太守だけでなく、北部太守も同席している。俺の留守中に、北部太守たちも評議会に加入してくれたようだ。
「ロルムンドの政情および軍事的能力については、配布した資料を御覧いただきたい。再侵攻の恐れはほぼなくなったが、ロルムンドの軍事力は依然として高いままだ」
 俺がそう説明すると、一部の北部太守たちが真面目な表情でうなずいた。


「まずは一安心ということですか。ヴァイト卿のおかげですね」
「ですがロルムンドの急な政変にも備え、北部の守りを固める必要がありますな」
 俺はうなずく。
「ええ。エレオラ帝の治世が続く限りはおおむね安泰でしょうが、彼女が急死あるいは失脚する可能性もあります」
 そんなことのないよう祈っているぞ、エレオラ。
 もちろん祈るだけではなく、ミラルディアの評議員としては最悪の事態に備える義務がある。


「魔王軍のうち、特に規律正しい竜人の部隊を北部に駐留させることもできますが」
 俺は提案してみたが、やはり北部太守たちは渋い顔をした。
「お気持ちは大変嬉しいですし、そうして頂ければ万全なのはわかります。ただ、市民感情が……」
 北部太守たちはともかく、北部市民たちはまだ魔族への警戒心を捨ててはいない。
 やっぱりまだ無理か。


 俺は少し考え、こう提案するしかなかった。
「では人間の兵士に守らせましょう。旧元老院所属の傭兵隊や騎士団を再編し、都市固有の守備隊として配備してみては?」
「ええ、それは問題ないと思います」
「ただ、予算の面で少し厳しくて……」
 色々と注文がつくが、本格的な軍隊は金食い虫だから仕方ない。


 南部太守たちとも意見交換し、とりあえずは「ロルムンドの侵攻はミラルディア全体の危機だから、評議会から予算を出す」ということで話がまとまった。
 しかしもちろん、南部太守たちにとっては頭の痛い話だ。
 南部市民は北部のことがよくわからないから、自分たちの都市の金庫が北部防衛のために使われることを快く思わないだろう。


 北部太守たちが一足先に帰った後、南部太守たちがさっそく文句を言い始めた。
「事情はわかるし、協力したい気持ちはあるのよ。でも税を納める商人たちがうるさくて」
 工芸都市ヴィエラのクソオカマことフォルネが、額を押さえながら溜息をついている。
 ヴィエラは商売上手でミラルディア屈指の豊かな都市だから、負担の割合も大きい。


 フォルネは少し悩んだ後、こう提案してくる。
「ねえヴァイト殿、せめて北部の軍隊にヴィエラの文字でも入れさせてよ。盾でも鎧でもいいわ。宣伝に使うぐらいいいでしょ?」
 サッカーチームじゃないんだから。
「北部を守るために命がけで戦う兵士が、自分の鎧に南部の都市名を入れられたら困惑するだろう?」
「まあ、そうよねえ……」
 でもそのアイデア、何百年後かには実現してると思うよ。


 漁業都市ロッツォの太守、頑固爺のペトーレも険しい表情だ。
「軍というもんは一度金を払ったら終わりではないからの。維持せねばならん。今後も費用を出し続けるとなれば、ちと財政が厳しいのう」
 俺も溜息をつく。
「それはわかる。魔王軍も資金に余裕がある訳ではない。人手を出す以外では、あまり役に立てないな」
 経済力はまるでない魔王軍だった。


 ミラルディアは貨幣経済で、高額の取引で信用手形が使われるぐらいだ。国債や軍票という禁断の魔法のアイテムを使うことはできない。
 しかし何とかして金を稼がないと、せっかくまとまったミラルディア連邦が瓦解してしまう。
「せめて他国と交易でもできればいいんですが」
 そう言ったのは、交易都市シャルディールの若き太守アラムだ。
 会った頃からだんだん痩せてきていたが、また一段と痩せたな。


「ところでアラム殿、随分やつれておいでのようだが」
「いえ、これが私の元々の体型ですよ。やっと元に戻りました」
 驚くほどスリムになったアラムが、頬を撫でながら苦笑する。
「私は元々、食が細いんです。恰幅を良くするために岩塩などを取り寄せ、かなり無理して食べていたのですが、もう必要ないかなと思いまして」
「なるほど……」
 そういう事情だったのか。


 話がそれてしまったが、アラムの言うことも一理ある。
「交易するにしても、北のロルムンドとの交易じゃ南部に金は落ちねえからな。それにロルムンドは政変の心配もあるぞ」
 最南端に位置する海賊都市ベルーザの親分、ガーシュが腕組みをした。
「西に向かっても樹海が続くだけだし、後は南方の大陸だが……往復に時間がかかるから、取引できる品目が限られる」


 そのときメレーネ先輩が、ふと顔を上げた。
「なら東はどう? 先生から聞いたことがあるけど、東にも国があるんでしょう? ワの国とかいうのが」
 するとペトーレとガーシュが顔を見合わせる。
「あるにはあるがの」
「あそこはなあ……」


 ペトーレの話によると、東の風紋砂漠を越えた先にある「ワの国」とは、交易の実績があまりないらしい。
 元老院は南部の都市が交易で力をつけることを警戒して、ワの国との交易を禁じてきた。
 もちろんペトーレたちのことだから街ぐるみでこっそり密輸はしていたが、金額にするとたかが知れているそうだ。


 迷宮都市ザリアの少女太守シャティナが、ふと首を傾げる。
「ザリアも大幅に街を作り直しているところなので、かなり財政が苦しいのですが……。でも先生、そんな異国に頼らずとも、ヴィエラのような方法で財をなせば良いのではありませんか?」
 ヴィエラのような方法って、演劇からのグッズ販売か。
 俺は首を横に振った。
「相手が自分の領民だから限界があるな。銅貨を十枚しか持っていない客に、十一枚払わせることはできないだろう?」


「なるほど……」
「他国との取引なら、もっと自由に取引ができる。もちろん油断すると大変な目に遭うが、それだけに利益も大きい」
 俺はシャティナにそう教えてから、ふと気になってフォルネを振り返った。
「あの劇、まだやってるのか?」
「もちろんよ。カイトたちから色々聞いてるわ」


 フォルネはニヤリと笑い、歌うような口調でこう続けた。
「恐るべき氷の帝国から来たりし皇女エレオラ。彼女を虜にした黒狼卿は氷の帝国へと乗り込む。あまたの陰謀と難敵を打ち砕き、いざエレオラに宝冠を授けん」
 確かにそれは実際にやったけど。
 フォルネはさらに言う。


「そして黒狼卿との死闘の末、魂の盟友となった皇子ウォーロイ。かの者のミラルディアでの新たな戦いは?『漂泊の白虎公ウォーロイの英雄譚』乞う御期待!」
 それもやるの!?
 俺がちょっと目を離している隙に、スピンオフで外伝が始まっていた。ウォーロイに勝手な異名までつけている。
 油断も隙もないな、こいつ。


 フォルネはニヤニヤ笑いながら着席し、俺に物欲しそうな視線を向けてくる。
「ほんと、あんたの周りは血沸き肉踊る冒険が絶えないわね。評議会の功績を市民に伝える効果もあるし、どんどん頼むわよ」
「頼まれてできるようなものじゃないんだが……」
 俺を評議会専属の武勇伝製造機みたいに思わないでほしい。
 とはいえ、フォルネもミラルディア経済を回すために必死なのだろう。ヴィエラを儲けさせるためだけにやっているのではない。


 そこでアイリアが新しい書類を提出する。
「ウォーロイ殿からも、新都市建設のために必要な費用について見積もりが届いています。これまでに視察してきたミラルディア人の気質や物価を考慮すると、最低限これぐらいは必要だそうです」
「うわ!?」
 フィルニールが金額を見て思わずつぶやいた。
 こちらでも見積もりは出していたが、やはりこれぐらいにはなるか。


 元老院がこの百年ほど色々ほったらかしにしていたせいで、これから色んな分野で出費が予定されている。
 財政を何とかするために、俺も何か協力しないとな。
「交易については、魔王軍内部でも検討してみよう。大樹海にいる魔族たちは通貨を持たないが、交易品ならありそうだ。少し選定してみる」
 大樹海の魔族も経済圏に組み込んで市場を大きくすれば、潤うかもしれないな。


 評議会が終わって、俺はアイリアと二人で相談する。
「ワの国については、どれぐらいのことがわかっているのかな?」
「文化圏が異なる上に風紋砂漠で隔てられているので、あまりわかっていません」
 アイリアはそう言って、残念そうに首を横に振った。
「彼らはロルムンドやミラルディア、それに南方の大陸とは違う文化を築いています。それだけに交渉相手としては難しい面もあるかと」


「なるほど」
 魔王の副官としては、色々考えることがありそうだな。
 だがそれ以上に、転生者として気になっていることがある。
 ワの国。
 俺が偶然こちらの世界で見つけた醤油のような調味料だが、その由来はワの国らしい。製法も味も前世の醤油によく似ている。


 それに「ワの国」という名前だ。
 もしかして「和の国」だったりはしないだろうか。以前から少し気になってはいた。
 先王様も元は日本人だし、俺も日本人。
 ということは、過去に日本人の転生者がいたとしても不思議ではない。
 交易のためにも、一度調査に行ってみたいな。


「どうされましたか、ヴァイト殿?」
「いや……」
 今度はワの国に出張したいと言ったら、アイリアは何と言うだろうか。
 怒るかな?
 調査だけならカイトあたりに頼めばいいんだしな。
 アイリアに怒られると嫌なので、俺はひとまず溜まっている書類仕事を片づけることにした。
※次回「笑う追跡者」の更新は4月29日(金)です。
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