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人狼への転生、魔王の副官 作者:漂月

本編

254/407

野望の残滓

254話


 ディリエ皇女をクリーチ湖上城に放り込んだ後、俺はエレオラに先行して帝都に戻っていた。
 帝都はこの数日、骸骨たちに占拠されている。彼らは街角のあちこちで隊列を組み、臨戦態勢で行進を続けていた。
 さすがにそろそろ、市民も参ってきた頃合いだろう。人によっては、逆に恐怖が薄れてきたかもしれない。


「そろそろこのバカ騒ぎも終わりにしよう」
 俺は北側の城壁に立って、パーカーたちと共に夜明けを待っていた。
 エレオラ軍は先日クリーチ湖上城に戻り、ディリエ皇女を護送しながら帝都に向かっているところだ。
 夜明けと共に到着するよう、俺が頼んでおいた。


 細かい段取りを整えてくれたマオが、こう報告する。
「エレオラ殿下から『本当に戦闘はしなくていいのか?』と念を押されましたが、大丈夫ですよね?」
「どうしてもっていうのなら、演習感覚でやってもいいんだがな」
 それは俺も少し考えたが、市民に被害が出ないとも限らない。演出としては悪くないが、迷惑だからやめておこう。


 その代わり、マオには別の手配を頼んでおいた。
「旗の準備はできたか?」
「急だったので大変でしたが、何とか都合をつけておきました。エレオラ軍はオリガニア家と輝陽教の旗印を掲げながら、夜明けと同時に帝都に帰還する予定です」
 よしよし。
 ちょうどそのとき、エレオラ軍の隊列が見えてきた。


「パーカー、頃合いだ」
 俺がパーカーに声をかけると、彼は名残惜しそうな笑みを浮かべてうなずいた。
「じゃあ、おひらきにしようか」
 夜明け前の薄暗がりの中、パーカーはマントを翻した。そしていつもの不気味な声で、死者たちに命じる。
「死せる者たちよ、我らの宴は終わった。彼方へと去りて、暗黒の微睡みに沈め」


 北の城門が開かれ、オリガニア家の軍旗と輝陽教の旗を掲げながらエレオラ軍が帝都に入ってくる。
 それと同時に、東の稜線から太陽の光が溢れ出した。輝陽教が求めてやまない夜明けの光が、帝都へと差し込む。
 帝都を占領していた骸骨兵たちは、揺らめきながら次々に消えていく。
 まるで陽光に照らされて消えていくようだ。


 そして何者もいなくなった帝都の大通りを、エレオラ率いる軍勢が行進していく。
 彼らは皆、戦いと行軍で泥だらけだ。包帯を巻いた者もいれば、鎧がへこんでいる者もいる。
 しかしまばゆい朝日の中で、彼らは聖者のように輝いていた。


「いい演出ですね」
 マオが皮肉っぽく笑うので、俺も思わず笑う。
「だろう?」
 早朝なのでエレオラ軍は静かに行進しているだけだが、市民たちは徐々に異変に気づいてきたようだ。
 骸骨兵がいなくなったのを見て、おそるおそる人々が通りに出てくる。


「エレオラ様だ……」
「エレオラ殿下がお戻りになられたぞ!」
「骸骨どもがいなくなってる!?」
「どういうことかしら……?」
「わからんが、もう大丈夫だ! エレオラ様がおられれば、俺たちを守ってくださるぞ!」
「それもそうね!」


 あちこちでざわめきが生まれ、人々がエレオラ軍の周りに集まってくる。
 エレオラはというと、馬上で静かに微笑んでいた。
「エレオラ様!」
「姫様、おかえりなさいませ!」
 市民の声に、彼女は笑顔で悠々と手を振る。
「皆の者、このエレオラがこれより帝都の治安を回復させる。恐れることなく戸を開くがいい」
 あのお姫様もなかなかの役者っぷりだ。


 俺はほっとして、城壁の手すりにもたれかかった。
「これで骸骨兵の代わりにエレオラ軍が、ボリシェヴィキ兵の動きを封じてくれる。もう変な真似はできないだろう」
 パーカーがうなずく。
「皇帝の警護もエレオラ軍で行うんだろう? だけどこれは事実上、エレオラが皇帝を誘拐してるようなものだね」
「それは言わない約束だよ、兄弟子殿」


 エレオラ軍が宮殿前に到着する頃、帝都からは全ての骸骨たちが消えていた。
 配下の骸骨兵たちを片づけた古代の死霊術師たちが、静かに消えていく。
 そのうちの一体が近くにいたので、俺は片手を挙げてみせた。
「お疲れさん。またやろうな」
 甲冑を着た古代の骸骨王ユグスフォリトスは俺の顔をじっと見ていたが、やがて揺らめきながら消えていった。


 さてと、俺もミラルディアからの客将としてエレオラのそばにいないといけないな。隣国への軍事協力をアピールしないと。
「よし、骨の後始末は終わりだ。エレオラと合流しよう」
「おいヴァイト、まだ一体残ってるぜ」
「それは僕だよ!?」
 リュッコとパーカーの掛け合いは放っておくことにして、俺はマオや人狼隊と共に宮殿前に駆けつけた。


 骸骨たちが消え失せたので、帝都各所にある神殿からは避難民たちがぞろぞろ出てくる。その護衛として、聖堂騎士団もやっぱりぞろぞろ出てくる。
 彼らは市街の安全を確認した後、エレオラ軍と合流するために宮殿前に集まってきた。結構な数だ。
 その先頭に立っていたのが、甲冑姿のクシュマー枢機卿だった。


「エレオラ殿下、御帰還をお待ちしておりました」
 兵士や市民が見守る中、クシュマー枢機卿はエレオラに恭しく頭を下げる。
「帝都を脅かす不浄な者どもも、殿下の威光に畏れをなした様子にございます」
 この人、俺が躊躇した自作自演のマッチポンプをやるつもりらしい。


 するとエレオラもごく普通にうなずき返した。
「いえ、これこそ輝陽教の加護にございましょう。亡者たちも聖なる神殿には近寄れなかった様子」
 こいつもこいつでいい度胸してるな。
 クシュマー枢機卿が続ける。
「殿下がお戻りになられた今、もはやこの帝都には一片の曇りもございません」
「輝陽教徒たる臣民のためにも、そのように努めます」
 二人の悪女は顔を見合わせ、にっこりと笑う。


「エレオラ殿下、万歳!」
「輝陽の加護のあらんことを!」
 集まってきた市民や兵士が、次々に歓声をあげる。
 骸骨たちがいなくなってほっとしたので、その感情の行き先がエレオラになっているのだろう。
 瞬く間に市民の歓呼は大声援となり、エレオラとクシュマー枢機卿は手を振ってそれに応えていた。
 真相を知る者としては少々後ろめたいが、みんな喜んでるからこれでいいか。


 エレオラは声を張り上げる。
「我が配下の軍勢が、宮殿の治安を回復した!」
 アシュレイ帝は人狼隊によって護衛され、エレオラ邸から密かに宮殿へと帰還。ようやく肩の荷が下りたぞ。
 だがまだまだ、俺の地味な裏方仕事は残っていた。


 俺は人狼隊を集めると、魔撃銃を装備するよう命じた。
「よーし、人狼隊は俺に続け! ボリシェヴィキ公の手先を捕まえるぞ! エレオラ皇女の権限で、帝都の怪しいところを片っ端から調べる!……変身はするなよ?」
「わかってるって、隊長」
「抵抗されたときは、こいつで始末すりゃいいんだろ?」
 そういうことだ。


 パーカーが目星をつけていた数ヶ所の地点で、俺たちは潜伏していたボリシェヴィキ兵と遭遇。
 物資も士気も底をついていた彼らは、ほとんど抵抗することなく俺たちに投降した。
 尋問の結果、彼らは意外と素直にボリシェヴィキ公の命令だったことを自白する。
 もちろんそれは帝室と輝陽教の両方から、大々的に公表してやった。
 これであいつもお尋ね者だな。


 こうしてボリシェヴィキ公のクーデターは未遂に終わり、ほぼ完全に幕を閉じたのだった。
 ただひとつ、彼の行方を除いては。
 捕虜をどれだけ尋問しても、彼の行方だけは誰も知らない様子だった。
 あいつ、どこに消えたんだ?
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