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人狼への転生、魔王の副官 作者:漂月

本編

223/415

ウォーロイ開拓公

223話


 そのときアイリアが、ウォーロイ皇子の後ろでもじもじしているリューニエ皇子に気づいた。
 さすがにリューニエ皇子も、初めて訪れる土地で知らない外国人ばかりだと不安らしい。
 そんな気配を察したのか、アイリアが柔らかい笑みを浮かべる。


「あなたがリューニエ殿ですね? お話はうかがっております。私はリューンハイト市の太守を務めております、アイリアと申します。……ヴァイト卿の婚約者ではありませんが」
 その話題は蒸し返さないでくれないかな?
 だがリューニエ皇子は、アイリアのそんな自己紹介に少し和んだらしい。


「は、はじめまして。リューニエ・ボリシェヴィキ・ドニエスク・ロルムンドです。ヴァイト卿にはとても助けられて、すごく感謝しています。ヴァイト卿のことは大好きです」
 背筋を伸ばして、一人前の男のように振る舞おうとしているリューニエ皇子。
 そんな彼を見て、アイリアも心を動かされたらしい。


「お父上を亡くされたばかりだと聞いています。私たちを家族だと思って……というのは難しいかもしれませんが、私たちは味方ですので、どうか御安心くださいね」
 にこっと笑うと、アイリアは腰を落としてリューニエに目線を合わせる。
 そして彼をそっと抱きしめた。


「あっ、あの!?」
 ミラルディア南部は前世の日本より開放的な雰囲気なので、初対面の子供をハグすることも普通にある。身分の差もあまりない。
 しかし厳格な身分制度と厳しいマナーが存在するロルムンドの少年にとっては、これはかなりカルチャーショックだったようだ。
 顔を真っ赤にして硬直している。


 俺は微笑ましい光景をそのまま見ていたが、ウォーロイ皇子が申し訳なさそうにアイリアに告げる。
「すまないが、そいつは形式的には一応成人していてな」
 その一言で、アイリアは風習の違いにハッと気づいたらしい。
 慌てて手をほどき、リューニエに謝罪する。


「申し訳ありません、リューニエ殿。私が迂闊でした」
「い、いえ……あの……」
 視線を落とし、もじもじしているリューニエ。
 君の匂いで気持ちは読めるぞ。
 今とてもリラックスできたんだろう?
 きっと母親に抱きしめられたような気分だったに違いない。


 ウォーロイ皇子もそれは察したのか、そっと溜息をつく。
「よかったな、リューニエ。お前を大切にしてくれる人々が、ここにもたくさんいるようだぞ」
「は、はい!」
 リューニエは耳まで赤くなっていたが、口元が緩みっぱなしだ。


 リューニエは祖父の希望で少し早めに成人させられたぶん、逆に親に甘えたい気持ちが残っているらしい。まだまだ子供だ。
 だから彼がここで心安らかに成長していけるよう、俺は心の底から願っている。


 それから俺たちはいったんクラウヘン市街に入り、太守の館で今後の相談をすることにした。
 俺がウォーロイ皇子たちに説明をする。エレオラが一度捕虜になり、それから俺たちの同盟者となった経緯も説明した。
 リューニエ皇子は目を丸くしていたが、ウォーロイ皇子はある程度予想していたようだ。
「密約がありそうだとは俺も兄貴も思っていたが、まさか捕虜になっていたとはな! なるほど、あいつも少しは成長する訳だ」
 嬉しそうだな、ウォーロイ皇子。


 脱線しかけた話を元に戻し、俺は今後の予定について説明する。
「ミラルディアは南北で対立していた頃の名残で、緩衝地帯となっている土地がある」
 例の「不和の荒野」だ。
 実際には豊かな土地だが、現時点では手つかずの森や草原になっている。


「ここに新しく街を作り、ミラルディアをさらに豊かにしたい。そのためには開拓や統治の指導者が必要だ」
 完全にゼロから街を作っていく大仕事なので、これを成功させるには相当な手腕が必要になる。
 大勢の人間を集めてうまく率いなくてはいけない。魔族がやってもうまくいかないし、人間でもこれができる者はかなり限られる。


 現太守たちはみんな自分の街のことで忙しいし、かといって太守未経験者にやらせるのも不安だ。やはり民衆を率いていた人物がいい。
 それも、ミラルディア人と気性が合いそうな人物が。
「ウォーロイ殿なら安心して新しい街作りを託せる。世が世なら、ロルムンドの皇帝になっていたかもしれない男だ。そのくせ気さくだから、ミラルディア人にも受け入れられやすい」
「おいおい、それは持ち上げすぎだ」
 過剰な評価だと思ったらしく、ウォーロイ皇子がしかめっ面をする。
 俺としてはあんたが一番、皇帝に向いてると思ってるんだけどな。


 ウォーロイ皇子は咳払いをして、それから俺にニッと笑顔を向ける。
「だが面白い。我が父祖たちがロルムンドで行ってきたことを、俺がここでもう一度やる訳だ。ロルムンドでドニエスク家の次男坊のままだったら、こんな名誉ある大役は回ってこなかっただろうな」
 そういう考え方もあるか。
 前向きだなあ。


 ウォーロイ皇子は立ち上がると、太守たちや俺に向かって熱く語りかけた。
「その大役、俺に任せていただこう。名誉も地位もいらん、ただ責任ある仕事を果たせればそれで満足だ」
「いや、さすがに太守にはなってもらうぞ。もちろんミラルディア評議員にもな」
 歴史の浅い評議員の地位では物足りないが、元皇子としてこれぐらいは身分を保証したい。
 俺はあんたを平凡な庶民で終わらせたくないんだ。


 彼に太守の座を辞退させないため、俺はわざとらしく溜息をついてみせる。
「まったく、貴殿は欲がなさすぎる。頼みごとがしづらいだろう?」
 するとウォーロイ皇子は俺より深く溜息をついた。
「おい、貴殿にだけは言われたくないぞ?」
「俺は平民の出で、今の待遇自体が分不相応なのだ。これ以上欲を出したら破滅する」


 ウォーロイ皇子はまじまじと俺を見つめる。
「……本気で言っているのか?」
「本気だ」
 俺が即答すると、なぜか今度はアイリアとベルッケン、それにカイトやラシィまで全員が溜息をついた。


「もう本当にヴァイト殿は……」
「どうにも困ったものだ、自覚がなさすぎる」
「ヴァイトさん、これさえなけりゃなあ」
「私より空気読めてない……」


 なんで俺が悪者みたいになってるんだ。
 みんなで寄ってたかって俺を出世させるから、せめて地位に見合う仕事をしようと悪戦苦闘してるというのに。
 ああ、有象無象の「副官」の一人だった頃が懐かしい。
 今回もだいぶがんばったから、御褒美に降格してくれないかな……。
 地位と期待が重すぎてつらい。


 そして俺はこの席で、カイトとラシィに正式に帰国を命じた。
「お前たちはウォーロイ殿と一緒にリューンハイトに戻れ。ロルムンドの習慣や言語に詳しいお前たちなら、ウォーロイ殿の助けになるはずだ」
 そう言ったのだが、二人とも不満そうな顔をする。


「でもヴァイトさん、ロルムンドでの任務はまだ終わってませんよ? 俺がいないと困るでしょう?」
「そうですよ。私の幻術だって、これから火を噴くんですから」
 噴かなくていい。
 それどうせ熱くないし。


 俺は思わず苦笑して、二人をなだめた。
「気持ちは嬉しいし、確かに二人がいないと心細いが、もうそろそろ限界だろう?」
 慣れないロルムンドで一冬を越し、おまけに戦場の最前線で戦ってきたのだ。
 一般人よりは遙かに度胸の据わっている二人だが、それでも彼らは軍人ではない。精神的にもかなり疲弊していた。


「ロルムンドにはマオとパーカーがいる。あいつらなら修羅場にも動じないだろうし、もうひとがんばりしてくれるだろう」
「それはそうかもしれませんけど……」
 心配そうな顔をしているカイトとラシィだが、俺としては二人のほうが心配だ。
 まだまだ二人には活躍してもらわないと困る。


 するとアイリアがぽつりと、こんなことを言い出した。
「叶うものなら、私がお供したいのですが……」
「貴殿はリューンハイトの太守だろう!? 警護の対象をこれ以上増やさないでくれ」
 なんでみんな、あんな寒くておっかない国に行きたがるんだ。
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