挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
人狼への転生、魔王の副官 作者:漂月

本編

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

218/415

騎士百合の花言葉

218話


 俺は騎士百合の花壇の前で、リューニエ皇子を待つ。
 俺は園芸には詳しくないので、百合の開花時期なんて知らない。たぶん春か夏だろう。
 そして今は真冬だ。
 もちろん百合は咲いていない。


 戻ってきたリューニエ皇子が花壇を見た後、少し落胆したような表情で俺を見上げる。
「そういえば、騎士百合は初夏に咲くんでした……あの、僕が違う花を探してきましょうか?」
 俺は待ってましたとばかりに微笑む。
「その必要はない。母君の墓前に供えるなら、やっぱり騎士百合がいいだろう?」
「え? は、はい」


 俺は花壇の前に膝をつき、得意の強化魔法を使う。
「たとえ真冬でも、リューニエ殿の母君を慕う気持ちがあれば……ほら、このように」
 みるみるうちに蕾が生まれ、それが育ってゆっくりと開花していく。
 そして赤い百合の花が一輪、静かに咲いた。
「わああ!?」
 リューニエ皇子が目を丸くする。


「す、すごい! すごいよ! ねえ、今なにをしたの!?……したんですか、ヴァイト卿?」
 いや、急に冷静になって敬語使わなくてもいいから。
 真っ赤になって気まずそうなリューニエ皇子に、俺は思わず苦笑してしまう。
 だから俺はわざと芝居がかった仕草と声で、重大な秘密を打ち明ける演技をする。


「実は私は、悪い魔法使いだったのですよ。あなたをさらって連れ去るために、遠い国からやってきたのです」
 半分ぐらいは真実だし、残り半分も真実になりそうだが、俺は咲いた騎士百合を摘んでリューニエ皇子に捧げる。
「どうぞ、リューニエ殿」
「ありがとうございます、ヴァイト卿!」
 リューニエ皇子の笑顔は、とても素直な笑顔だった。


 墓参りを済ませた後、俺はリューニエ皇子に執拗に話をせがまれる。
「ヴァイト殿、さっきのは本当に魔法なんですか!?」
「ああ、そうだよ。エレオラ殿ほどではないが、私も魔法を習ったことがあるんだ。人の体にいろんな魔法をかけて、少しだけ強くすることができるよ。動物や植物にかけることもできる」


 他者に魔法をかける練習として、植物に魔法をかけるのは修行時代によくやった。
 自分にかけるときは些細な変化もわかるから楽なんだが、他者にかけるのは案外難しい。加減がわからない。
 最初の頃は芋やカボチャを爆発させて、故郷の母やファーンお姉ちゃんに叱られていたものだ。
 後半も「大きいだけで味がしない!?」とか「葉っぱばっかり茂ってどうすんのよこれ」とか、評判はさんざんだったが……。


「一度に全ての花を咲かせるのは無理だし、失敗することも多い。私は庭師ではないから、この一輪だけで我慢してもらえるかな?」
「はい、一輪で十分です。……おかげで、母上にお別れを言えましたから」
 少し寂しそうなリューニエ皇子。
 母の墓から引き離されるのは、彼にとってはつらいだろう。


 俺は死霊術師の弟子だし、自身が転生者だから、親しい人の墓でもそれほど思い入れはない。
 そういう意味でも普通の人とは感覚がかけ離れているから、気をつけないとな。
 俺は彼を慰めるために、自分の話をしてみる。


「私は母が存命だが、父は物心つく前に亡くなっている。顔も知らないんだ。だからリューニエ殿とは、少しだけ境遇が似ているかもしれない」
「そうなんですか?」
「ああ。そして父親代わりだった方も、最近戦死した。なんとか仇は討てたが、もう戻ってはこない」


 その方は俺を引き立ててくれた上司でもあったし、人生の師でもあった。
 転生者の秘密を共有する仲間でもあったしな。
 もう少し長生きして欲しかったんだが、本当に困った方だ。
 全く、どこに苦情をぶつければいいんだろうな。


「あっ、あの、ヴァイト殿? お顔が……」
 リューニエ皇子がひどく慌てた声を発したので、俺は慌てて笑顔を浮かべてみせた。
「大丈夫だ。すまない、昔のことを思い出していただけだよ」
「は、はい」
 リューニエ皇子が俺を心配そうに見上げている。
 俺はさっき、どんな表情をしていたんだろう。


 俺は慌てて話題を変えようと、リューニエ皇子が大事に持っているイヤリングを指さした。
「ところでそのイヤリング、なぜ青い宝石なのかな? 騎士百合は確かに赤い花だったが」
 リューニエ皇子は急に話題を変えられ、慌ててイヤリングを見る。
 ごめんね、めまぐるしく話題を変えちゃって。


 リューニエ皇子は記憶を探るような口調で、こう答えた。
「ええと……騎士百合には、名前の由来になった言い伝えがあるんです。もともと、騎士百合は青い花だったらしいんですけど……」


 ある若い騎士が、戦場で卑劣な裏切りによって殺された。
 彼は騎士百合の野原に埋められたが、彼の土塚の周りにだけ血のように赤い騎士百合が咲いたという。
 人々は騎士の祟りを恐れ、赤い騎士百合の噂は彼の故郷にまで広がっていった。
 それ以来、赤い騎士百合は「無念」「復讐」を意味する花として恐れられるようになった。


「でも騎士の恋人がその噂を聞いて、騎士の埋められた場所を探し出したんです」
 恋人は形見として赤い騎士百合を一株持ち帰り、自分の庭で大切に育てた。
 すると騎士百合は再び、青い花を咲かせるようになったという。
 そのため青い騎士百合は「心の絆」や「赦し」を意味する花として、大切に扱われるようになった。


 リューニエ皇子は少し照れながら、こんな言葉で物語を締めくくる。
「だから青い騎士百合は恋人を守る聖なる花なんだって、父上がいつも言っていました」
 クソ真面目な癖にびっくりするぐらいロマンチストだな、イヴァン皇子。
 惜しい男を亡くした。


 そんな伝承があるので、三十年ほど前にこの辺りが赤い騎士百合ばかりになったときは大変だったそうだ。全体的に迷信深い北ロルムンドの民衆は、赤い騎士百合を何かの祟りだと思いこみ、非常に恐れたらしい。
 たぶん違うと思うぞ。
 しかしこの話、妙にひっかかるものがある。


 墓の周りだけ色の変わる花か。
 前世でそれに近い話を聞いたような記憶があるな。……なんだっけ。
 思い出した、アジサイだ。


 アジサイは土壌が酸性になると青くなる。
 日本は酸性土壌だから、そのへんのアジサイはだいたい青か青紫だ。
 もし赤い花を咲かせたければ、アルカリ土壌に改良してやればいいらしい。
 アジサイの根元に死体を埋めたら、それで土壌の酸性値が変わって花の色も変わり……という展開のミステリーを読んだ記憶もある。


 そして、騎士百合が赤くなった時期。
 三十年前というとドニエスク公が河川の治水事業を終え、北ロルムンドに流れ込む川に大きな変化のあった時期だ。
 もしかして、その時期に北ロルムンドの土壌に何か変化があったのではないだろうか。


 農作物には酸性に強いものと、そうでもないものがある。
 たとえば稲は酸性土壌でも平気だ。日本は酸性土壌だから、実に頼もしい。
 一方、麦はどれも酸性にあまり強くなかったはずだ。特に大麦とかが酸性に弱かった記憶がある。
 ロルムンドの主要な穀物は麦だから、これはもしかすると関係あるかもしれないな。


 まだ断定はできないが、意外なところからイヴァン皇子の悩みを解決できるかもしれない。
「あの、ヴァイト殿? どうかしましたか?」
 俺はしゃがみ込み、不思議そうな顔をしているリューニエ皇子に目線を合わせた。
「リューニエ殿の話のおかげで、今とても大事なことに気がついた」
「え? な、なんですか?」


「もしかすると、父君が心配なさっていた北ロルムンドの農業を立て直せるかもしれないんだ」
「よくわからないけど、本当ですか!?」
「ああ、貴殿のお手柄だ。すぐにエレオラ殿に会って話をしてみる」


 でも俺、化学や農学はぜんぜんわからないんだよな。
 後のことはエレオラに相談して、適当な専門家に任せるしかなさそうだ。
 そこで俺は人狼隊に命じて、花壇から騎士百合を何株か運び出させた。土と一緒に鉢植えにして持っていこう。
 よしよし、エレオラにいいお土産ができたぞ。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ