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人狼への転生、魔王の副官 作者:漂月

本編

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湖上城の戦後処理

211話


 俺はその後、クリーチ湖上城に籠城していたウォーロイ軍を降伏させ、開城と武装解除に成功した。
 これにはウォーロイ皇子の停戦命令があったことも大きい。
 どのみちもう勝ち目がないことは誰の目にも明らかだったし、ウォーロイ軍も今はおとなしくしているようだ。


 俺はエレオラ配下の軍を全て湖上城に駐屯させた。武装解除させたウォーロイ軍は、そのまま捕虜として湖上城に拘留する。
 彼らを逃がす訳にはいかないが、かといって拘留しておくのも一苦労だ。数が多すぎる。
 おまけに敵兵とはいってもロルムンドの民、それも郷士や自由民だから待遇には気を遣う。


 そんな感じで戦後処理に忙殺されていた俺だが、ここに鬱陶しい連中が口を挟んできた。
 帝都周辺でだらだらしていたアシュレイ軍の貴族たちだ。
「そいつらが俺に面会を求めてるのか?」
 食料の納入にやってきたマオと久しぶりにゆっくり話をしていたら、彼は面倒な用件を持ち込んできた。


 マオはワインの伝票を帳簿と照らし合わせつつ、小さくうなずく。
「ええ、用向きはあくまでも慰問や表敬訪問となっていますが、実態はヴァイト様との人脈作りですね」
「俺と人脈を作ってどうする気だ」
 俺はエレオラの手先ということにしているので、表向きの権限はほとんどないぞ。


 するとマオは思い出すのも憂鬱だといわんばかりに、肩をすくめてみせた。
「ドニエスク家の反乱がもう終わりそうなので、彼らも焦ってるんですよ。捕虜の監視でも湖上城の守備でも、とにかく軍務が欲しいんです」
「形だけでも前線に来たことにしたいのか」
 俺たちが死闘を繰り広げていたときに何もしなかったくせに、厚かましい連中だ。


 別に手柄を横取りされても俺は構わないが、それでは命がけで戦った将兵たちが浮かばれない。先日の戦いでは、魔撃兵にも少なくない被害が出ている。
「話にならんな。湖上城にはエレオラ殿下の兵と、俺と共に戦ったアシュレイ軍の魔撃兵しか入れる気はない」


 死闘を経験した兵士たちと違って、後方から今頃やってくるような兵士は気が緩んでいる。
 功績欲しさに何をしでかすかわからんし、近づけたくない。
「だいたい俺が湖上城に駐留しているのも、後方のアシュレイ軍からウォーロイ軍を守るためだ。今となってはウォーロイ軍より始末が悪い」


 後方のアシュレイ軍が湖上城に入った場合、「戦場で何かした」という実績欲しさに捕虜の処刑や城への放火などに及ぶ危険性があった。
 俺はそういう無意味な破壊行為が好きになれないので、大急ぎで湖上城を占領したのだ。
 ウォーロイ軍の兵士が一人でも処刑されたら、ウォーロイ皇子に対して申し訳が立たない。


 するとマオはフッと笑い、こう言った。
「では、ヴァイト様が北進するときに共に進軍したいという申し出も却下ですね?」
「当たり前だ。絶対認めないぞ」
 行軍する軍隊はトラブルの火種だ。
 俺の指揮下にいない連中と同行して、そいつらが村々で略奪でも始めたら目も当てられない。
 俺の権限では彼らを処罰できないのだ。


「マオ、後方にいるアシュレイ派貴族は適当にあしらっておいてくれ。露骨に敵に回すのはまずいが、会いたくない」
「そう言うと思っていましたよ。手配しておきます」
 なぜか妙に嬉しそうな顔をしているマオ。


 俺はエレオラからの書状をマオに見せた。
「キンジャール城攻略は大詰めに入っている。量産した魔法道具を使って水脈を探し出し、キンジャール城の井戸を使用不能にさせることに成功したそうだ」
 同封されていた魔法道具のサンプルは、鎖に吊された青い宝石だ。この石が魔法で加工されている。


 マオがそれを手に取り、納得したようにうなずく。
「ああ、私が調達した原石の使い道はこれでしたか。納入数が多く、目立たないよう買い付けるのに苦労しました」
「お前、ほんとに何でも用意できるんだな」
「岩塩を商う関係で、鉱物には多少詳しくなりましたから。こちらの鉱山組合には真っ先に挨拶に行きましたよ」
 彼は水鳴石を鎖で吊し、ゆらゆらと振ってみせる。
 前世でこういう占いを見たことがあるな。


 エレオラはこれを魔撃兵全員に持たせ、キンジャール城周辺の水脈を徹底的に調べたらしい。
 そして城に通じる水脈を特定すると、工兵を派遣して上流の水脈を破壊してしまった。
 おかげでキンジャール城には現在、凍っていない水が供給されていない。


「うちの陣営にはカイトがいるが、あいつ一人で水脈を探し出すとなったら何年もかかるだろうな」
「確かにミラルディアで同じことはできませんね」
 そこそこの能力を持つ道具を量産して、人海戦術で一気に処理できるのはロルムンド独自の強みだ。魔撃兵と同じスタイルだな。
 突出した個人の能力に頼っているミラルディアの魔法技術も、そろそろ変革が必要か。


 そこにカイトが疲れた顔をして、書類の束を運んできた。
「検品終わりました。異常はありません」
「お疲れさま」
 カイトの探知能力は万能といってもいいが、こいつが疲れてしまうと交代要員がいないんだよな。
「カイト、今日はもう退勤でいいぞ。後の仕事はパーカーと人狼隊にやってもらう。茶でも飲んでいけ」
「いいんですか?」
 魔王軍はブラック企業じゃないからな。


 俺とマオとカイトは三人で炒り豆茶を飲みながら、エレオラが使った魔法道具の話題をした。
 カイトが鎖のついた宝石を手に取り、じっと見つめる。
「これ、よく見ると地下水に反応してる訳じゃないみたいですね。地下空洞に反応するようです」
「おや、そうでしたか」
 マオが興味深そうな顔をする。


「『水鳴石』は誤作動が多く、精度はあまり高くないのですよ。しかしただの空洞にまで反応していたのなら、それも納得できます」
 彼の言葉に俺もうなずいた。
「ああ、地下の空洞に水があるとは限らないからな。だがそうなると、使い道は色々ありそうだな?」


 カイトがそれにうなずき返した。
「ええ、俺も元老院にいた頃、探知魔法でよく地下を調べてました。悪い商人が資産を隠すので、徴税官から捜査の協力を求められてたんですよ」
 マオが嫌そうな顔をする。こいつも不正蓄財してそうだな。


 それを見たカイトがニヤリと笑って、俺にこう言う。
「鉱脈なんかと違って、空洞を見つけるのは割と簡単なんです。隠し階段とか、秘密の地下室とか」
 ますます嫌そうな顔をするマオ。
 もしかして作ってるのか。
 かっこいいな。


 俺は税務を担当していないので、気楽な気分で思いつきを口にする。
「ということは、城の抜け道を探したりもできそうだな」
「ああ、いけると思います」
 よし、採用決定だ。
「それならエレオラから調査記録の写しをもらおう。何かわかるかもしれない」


 エレオラがキンジャール城の水脈を調べたとき、水の流れていない空洞も発見しているだろう。
 そのときは「枯れた水脈」として無視されたはずだが、もしかすると城の抜け道があるかもしれない。


「それとカイト、お前とラシィは北ロルムンドに来なくていい。湖上城に残って連絡係をしてくれ。それ以外は何もせず、なるべく静養していろ」
「いやでも、俺は……」
 反論しかけるカイトの肩に手を置いて、俺は笑う。
「慣れない異国の戦場暮らしで相当疲れているのはわかってるんだ。無理するな」


 カイトやラシィは軍人ではない。血なまぐさい戦場にいるだけで心を病んでいく。
 ラシィは偽聖女時代に多少荒事の経験はあるはずだが、人間同士の殺し合いとなるとまた別だろう。


 カイトは疲れの残る顔で、不承不承うなずいた。
「わかりました……。確かにここのところ、自分でも少し調子が悪いとは思っていました。心配かけてすみません」
「いや、お前たちが頼りになるからといって、戦場に連れてきた俺が悪いんだ」


「でもヴァイトさん、そうなると人手が不足しませんか? 人間のミラルディア人がいなくなりますし」
 カイトが心配そうな顔をしているので、俺は笑顔で振り返った。
「こいつがいるじゃないか。なあマオ」
「私ですか!?」
 マオが嫌そうな顔をしているが、俺はそんなの気にしない。


「お前なら、戦争の爪痕を見ても心を病んだりはしないだろ?」
「いえ、私も血なまぐさいのは苦手なんですが……」
 そう言ったマオだったが、カイトの顔を見て溜息をつく。
「とはいえ、カイトよりはいくぶんましでしょう。彼を連れていくのは私も反対です」


 エレオラ軍がどれほど行儀の良い軍隊だったとしても、戦闘集団である以上は必ず血なまぐさい痕跡を残す。
 それにアシュレイ軍はエレオラの統制が行き届かない。戦地で何をしているかわかったもんじゃない。市民への暴行や略奪があったかもしれない。
 そういう場所にカイトやラシィを連れていくのは少し不安だった。


 俺はマオの肩をポンポンと叩き、ニヤリと笑う。
「では決まりだな。頼りにしているぞ、同じ悪党として」
 マオは困ったような顔をして、それから横を向く。
「まあ……しょうがありませんね。できる限りお役に立ちます」
 よしよし、これで少し安心だな。
 必要な処理を大急ぎで済ませると、俺は人狼隊とエレオラ軍の騎兵二百を率いて北ロルムンドに向かうことにした。
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