挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
人狼への転生、魔王の副官 作者:漂月

本編

202/415

雪砦の攻防(後編)

202話


 そのとき、砦の北側から伝令が駆け込んできた。
「北側に敵歩兵! 総数不明ですが、かなりの規模です!」
「攻城兵器は?」
「確認できていません!」
 南側には一万以上の兵がいるのに、さらに別働隊を用意していたのか。
 こちらの射手がそう多くないと見積もって、火力を分散させて近づく気だな。


 伝令の顔がひきつっている。
「現在、第二〇五魔撃大隊が応戦中ですが、弾が足りません!」
 あっちは手薄だからな。魔撃兵が一度に撃てる弾数は限られている。魔力切れになったら、彼らはただの役立たずだ。
 やむをえん。


「クロスボウ隊、全員北側に回れ! 防壁を乗り越えられた場合に備え、槍隊も五百ほど向かわせろ!」
 魔撃兵器と違ってクロスボウは矢が減るから嫌なんだが、そうも言っていられない。
 籠城初日で陥落なんてことになったら、エレオラ軍は壊滅だ。
 いざとなったら人狼化してでも戦うぞ。
 だが最後の切り札を使う前に、もう一枚切り札がある。


 俺は南側の指揮を魔撃兵の大隊長たちに任せると、カイトを連れて北側に回った。
 さっき伝令を飛ばしたので、人狼隊と共にラシィとパーカーが準備に取り掛かっている。
「準備できてるか!?」
「ばっちりさ」
 落ち着き払ったパーカーの簡潔な言葉が、やけに頼もしく聞こえる。
 こいつの声が頼もしく思えるときは、だいたい俺に余裕がないときだ。
 少し落ち着こう。


 俺たちの切り札、魔撃ガトリング砲。
 ゴモヴィロア門下の魔法職人リュッコが作り上げた、おそらく世界初の機関銃だ。
「ヴァイトさん、魔力充填できました! いつでも撃てます!」
 ラシィが緊張しきった顔でうなずいたので、俺もうなずき返した。
「よし、さっさと片づけちまうぞ!」


 砦の北側は深い森になっていて、投石機などは展開できないが歩兵の急襲には弱い。
 弓の射程分だけ木は伐っておいたが、それでも暗闇から敵兵が飛び出してくるのはなかなか怖い。
 今は魔撃兵たちが応戦しているが、手数が足りていないな。
 防壁に取り付いている敵兵がいる。


「クロスボウ隊、防壁に取り付いた敵を排除しろ! 槍隊、白兵戦用意!」
 クロスボウは真下に向かって撃つのは苦手だが、魔撃兵器をぶっ放すと小規模だが爆発が起きてしまう。防壁にダメージが入ったら嫌だ。


 ガーニー兄弟が顔を真っ赤にして牽引し、ガトリングを雪のトーチカに搬入する。
「そんなに慌てなくていい! それより壊すなよ!」
「お、おお!」
 搬入が終わると、俺たち魔術師四人は機銃掃射の準備に取りかかる。
「さて、やるか。カイト、索敵しろ。ラシィは表示だ。パーカーは静かにしてろ」


 必要な指示を飛ばすと、三人とも即座に応えてくれる。
 カイトが探知魔法を使い、魔力の波をアクティブソナーとして使用する。得られた情報は、魔法を使ってラシィに伝達。
 ラシィはそれを幻術にして投影してくれた。敵兵が赤い光点として、手元の地形図に映し出される。
 パーカーはいじけていた。


 明滅する光と叫び声のせいで、人狼の知覚は役に立たない。ラシィの表示するマーカーだけが頼りだ。
「真北じゃなくて、北西から来ているのか」
 俺たちからみて左側が、敵の密度が濃い。
「悪いが死んでもらうぞ」
 ガトリング砲の砲身を左に向け、俺はレバーを回そうとした。


 動かない。
「おいこれ凍ってるぞ!?」
 俺が驚くと、カイトがハッと気づいた。
「潤滑油がミラルディア産ですから……」
 一応北部から凍りにくい潤滑油を取り寄せたのだが、それすらロルムンドの酷寒に耐えきれずに凍ってしまったらしい。


「ええい、早くしないと」
 するとパーカーが沈黙を破った。
「落ち着くんだ、ヴァイト。火で温めればいい」
 しかし俺の代わりにラシィが慌てる。
「でっ、でもパーカーさん、私たち火は作れませんよ!? 松明取ってきます!」


 そのとき、パーカーはカタカタと笑った。
「『私たち』に、僕は入っていないんだ。ほら」
 パーカーの掌にボッと炎が生まれる。魔法の炎だ。
「パーカー、破壊魔法までマスターしたのか!?」
「初歩の初歩だけどね、エレオラに教えてもらったんだよ。さ、早いとこ温めてしまおう。こいつなら松明より調節も楽だよ」
 またこいつに頭が上がらなくなるな。


 俺は改めてハンドルを握り、暗闇に砲口を向けた。
「いくぞ!」
 通常の魔撃兵器はほとんど発射音がしないが、こいつは砲身が回転するのでかなりうるさい。
 歯車の音と共に、光がパパパパパッと連続して発生する。
 おお、うまくいったぞ。


 光弾全部が曳光弾みたいに光るせいでまぶしくてよく見えないが、カイトが即座に探知魔法を使う。
「命中! 四人倒しました! 五人! 六人!」
 全然わからないけど、ちゃんと当たってるのか。
「ヴァイトさん、右に修正! 少し下です!」
「あっ、投影します!」
 ラシィが慌てて映像を修正し、地形図の上の光点が立体的に配置された。


 俺はカイトの言葉を信じて、さらにぐるぐるとハンドルを回す。
 放たれる光弾の一発一発には、人間の四肢をもぎ取るほどの威力がある。それがフルオートで連射されているから、凄まじい火力だ。
 だが最初に装填されていた魔力が減ってきて、光弾に勢いがなくなってきた。
「魔力供給!」
「僕のを使ってくれ。もう暖気は十分だろう」
 パーカーは砲身の機関部を温めるのを中止し、本体への魔力供給を開始する。みるみるうちに光弾が輝きを増してきた。


 この頃にはもう、敵は防壁から数メートルのところにまで迫っていた。
 魔撃兵も遠くを狙わず、引きつけてから確実にしとめるスタイルに移行している。的ならいくらでもある。


 一般兵はクロスボウの踏み輪に慌ただしく足をつっこみ、脚と背中の筋力で弦を引っ張り上げている。クロスボウは再装填に時間がかかるのが欠点だ。
 そして防壁の上では、味方の槍兵たちが敵の長梯子を押し返していた。そこらじゅうに攻城用の長梯子がかけられ、危険な状態だ。
 敵の矢を受け、転落する槍兵も出ている。


 数が多すぎるが、もうこれなら狙う必要もない。薙ぎ払ってやる。
「この野郎!」
 俺は敵の密集地帯に向けて、ガトリングの光弾を掃射し続けた。俺自身も魔力を使い、弾幕を維持する。もう人狼には変身しないことに決めたので、持てる魔力を全部ぶちこんでやる。
「ヴァイトさん、左から敵の増援です!」
「こっちか!」


 俺がガトリングの照準を動かした瞬間、森から敵兵の一団が飛び出してくる。歩兵の小隊だ。
 だが光弾の乱れ撃ちが彼らを襲い、まるで熱湯をかけられた氷のように部隊が消滅していく。数秒で半数以上が倒れた。
 逃げていく残党は放置して、俺は迫る敵をさらに撃ちまくる。
 敵の様子を見ながら、味方の指揮もする。
「伝令! 南側の様子を確認してこい! ハマーム隊、東側を警戒しろ! モンザ隊は西だ!」


 どれぐらい戦っていただろうか。数十秒のような気がするが、時間の感覚が完全にわからなくなっている。
 ふと気づいたときには、動く敵の姿は見えなくなっていた。
 森の奥へと逃げていく敵兵と、そこかしこの雪を赤く染めて動かない敵兵。それ以外の敵はいない。
 カイトが探知魔法を使い、砦周辺の人間の数を調べる。
 そして大きく溜息をつきながら言った。


「反応ありません……北側の敵は撤退しました」
「よし」
 どこかで再集結して再度突撃してくるかもしれないが、時間が稼げたのは大きい。
「魔撃兵、警戒しつつ休息を取れ! 呼吸を整えろ!」
 呼吸法は魔力回復の基本だ。
 北側の魔撃兵の大半は魔力切れになっていると思うが、一発でも撃てるようにしておかないと後が続かない。


 俺は北側の警戒をカイトに任せることにして、南側に走る。
「カイト、敵が来たらお前が撃て! 敵の矢に気をつけろよ!」
「わ、わかりました!」


 俺が南側に駆け戻ると、こちらも半数以上の魔撃兵が魔力切れになっていた。
 だが同時に、敵の攻勢も弱まりつつある。光弾に照らされる景色は、そこらじゅう敵の死体だらけだ。
「魔撃兵、よくやった! 撃てる者以外は下がって休息しろ! 東側と西側から魔撃兵を呼べ! それぞれ二個小隊を南側と入れ替えろ!」


 幻想的な月明かりの雪原で、地獄のような応酬はしばらく続いた。
 しかし北側の別働隊が敗走したことが敵にも伝わったらしく、南側の敵も突然後退を開始する。
 一度退くとなると彼らは迅速で、あっという間に戦場から姿を消してしまった。
 辺りに静寂が戻ってくる。


 銃眼にへばりついていた魔撃兵が、顔についた雪片を拭いながら隣のクロスボウ兵を振り返る。
「か……勝ったのか?」
「わからん……」
 クロスボウ兵は弦を引く手を止めて、俺のほうを振り返った。
「ヴァイト様?」


 俺は耳を澄まし、戦闘の音が完全に途絶えたことを確認する。駆け寄ってきたカイトがうなずいているので、間違いないだろう。
 だから俺は堂々と胸を張り、にっこり笑った。
「勝ったぞ、諸君」
 その瞬間、砦を揺るがすほどの歓声がわき起こった。
※明日1月24日(日)は更新定休日です。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ