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人狼への転生、魔王の副官 作者:漂月

本編

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スヴェニキ城奪還戦

193話


 俺は翌朝、さっそくスヴェニキ城攻略にとりかかった。
 スヴェニキ城から戻ってきた俺を、ファーンお姉ちゃんが出迎えてくれる。
「どうだった?」
「いやもうそれが、今にも矢を射かけてきそうな剣幕だった」
 俺はまず最初に、降伏勧告の使者として直接出向いた。
 だが、城主であるリャーグ伯爵は顔面蒼白で怒鳴り散らし、ほとんど交渉にならなかった。


 同行していたカイトがメモを取りながら、やれやれといった具合に溜息をつく。
「無理もないですよ。今さらアシュレイ側に戻ったところで、前より立場が悪くなるだけですし」
「ああ。降伏しても確実に城主の座は奪われるし、下手すれば一族郎党処刑だからな。降伏するはずがない」


 ファーンお姉ちゃんが首を傾げる。
「じゃあどうして、降伏勧告なんかしに行ったの?」
 ファーンお姉ちゃんはそう言いながら、ワインの入ったマグカップを俺に差し出してくれる。
 俺たちは今、山陰に隠れるように野営している。火を使うと居場所がバレるので、体を温めてくれる飲み物は酒しかない。
 俺はワインで口を潤し、笑ってみせた。


「楽して城内に入るためだよ。カイト、城門の構造は確認できてるな?」
「あ、はい。跳ね橋、それに鉄格子の落とし戸が二つ。左右の監視塔が邪魔ですね。射手が大勢いました」
 カイトがメモしているのは、城門の見取り図だ。
 通りすがりにチラッと見ただけで、ここまで調べてしまったらしい。
「よくここまで調べたな」
「城の構造なんて、だいたい決まりきってますから。見当をつけて探知魔法を使えば一瞬ですよ」
 さすがは元老院直属のエリート様だ。


 俺はそれをジェリクに手渡す。
「こいつをブッ壊して城を丸裸にする。ハマーム隊を護衛につけるから、お前の隊で城門をやっつけてくれ」
 人狼隊の鍛冶師ジェリクはメモを一瞥し、ニヤッと笑う。
「あいよ、大将。……はん、この程度の落とし戸なら丸太でも噛ませときゃ十分だぜ。跳ね橋は鎖を切ってやりゃ開きっぱなしだ」


 ジェリクの説明によると、これらの設備は人間の軍隊を想定したもので、魔族や魔物との戦闘は想定されていないという。
 ロルムンドは人間が魔物を駆逐してずいぶん経つから、兵器などは全て対人用に最適化されている。
 おかげで人狼にとっては、やりやすい環境だ。


 さて、降伏勧告も拒絶されたことだし、リャーグ伯爵には覚悟を決めてもらうとするか。
 日没後、俺は人狼隊を集めて命令する。
「ジェリク隊とハマーム隊が城門を破壊する。他の隊は見張りを始末しろ。隠しきれないと判断したら、派手に騒ぎを起こして城内を混乱させてもいい」
 俺の指示に、みんな興奮を隠せない様子だ。


 今にも飛び出していきそうな人狼たちに、俺は細かい段取りを伝える。
「連絡は犬笛を使うが、暴れる段階になったら遠吠えで構わん。手加減は無用だ」
「いいの? いっぱい殺しちゃうよ?」
 モンザがちらりと上目遣いに俺を見る。


 こいつは俺の性格をよく知ってるからな。
 だが俺は力強くうなずいた。
「慣れない異国での強襲戦だ。手加減する余裕はない。油断すれば俺たちが死ぬ」
 スマートな戦い方を選べるほど、今の俺たちに余裕はない。
 降伏勧告も拒否されたしな。


「各分隊、負傷者が出たらすぐに俺を呼べ。こんな戦いで誰も死なせるな。行くぞ!」
「おう!」
 俺たちは変身すると、夜の雪原を走り出した。


 スヴェニキ城は平野に建っていて、防御力よりも利便性を重視した造りになっている。
 俺たちは城の近くの森に入り、そこで先遣隊と合流した。
 待機していたラシィと護衛たちが、俺たちを見て無言でうなずく。
 うまくいったようだ。


 俺は人狼隊に命令する。
「あの木から、そっちの岩までの幅に、ラシィの幻術がかけられている。城兵からは雪原にしか見えない。はみ出さないよう、一列縦隊で駆け抜けろ」
 ここから城までの直線ルート、幅五メートルぐらいの一帯に幻影を被せ、俺たちが城に接近するのを気づかせない作戦だ。


 ラシィが額に汗を浮かべながら、懸命に魔力をコントロールしている。
「もうちょっと広くできたらいいんですけど、どの角度から見てもバレないようにするのって意外と難しくて……」
「並みの幻術師にはできない芸当だからな。さすが大賢者ゴモヴィロアの弟子だ、大したもんだよ」
「えへへ」


 そこから先は簡単だった。
 城の堀も城壁も、人狼の襲撃を受けることは想定されていない。堀なんか簡単に飛び越えられるし、城壁も突起だらけで簡単に登ることができた。
 古い城だと魔物の襲撃にも備えた造りをしているのだが、スヴェニキ城は隙だらけだ。
 俺たちはいくつかに分散して、城内へと侵入する。


 城門の破壊が完了すれば、待機させているアシュレイ皇子直属のロルムンド軍七千が城内に突入する。
 スヴェニキ城の兵力は二千ほどだから、城門が破壊された時点で勝負は決まったようなものだ。
 そっちはジェリク隊に任せることにして、俺はもうひとつの任務を片づけておくことにした。


 俺は昼間に覚えた城主の匂いをたどり、彼の執務室に窓からお邪魔した。変身を解いて、きちんと服装も整える。
 暖炉の前でうたた寝をしていた男に、俺はそっと忍び寄った。
 昼間見た、太り気味の中年男性だ。
「リャーグ伯爵とお見受けする」
「その声は!?」
 ぎょっとした顔で振り返ったリャーグ伯爵に、俺はわざとらしく会釈した。


「伯爵、今宵は戦の相手として再び参上した。降伏なされよ。これが最後の勧告だ。さもなくば一騎打ちにて、貴殿の命を戴く」
 俺が軽装なのを見て、リャーグ伯爵は壁にかかっていたレイピアを慌てて取る。
「貴殿、どこから入ってきた!」
「窓からだ」
「ここは三階だぞ!?」
 その高さならジャンプすれば届くんだよ。


 リャーグ伯爵がレイピアを構えたところで、俺は彼に言う。
「降伏なさらんのか。では、覚悟はよろしいな?」
「無論だ! この決闘狂め、貴殿こそ生きて帰れると思うなよ!」
「御冗談を」
 その瞬間、俺は人狼に変身した。
 信じられないものを見たという顔で、リャーグ伯爵の目が大きく見開かれる。
「なにぃっ!?」


 俺は軽く床を蹴り、二メートル以上踏み込んで伯爵をしとめた。
 彼の喉に爪を突き刺し、苦しむ暇を与えないうちに絶命させる。
「貴殿の命、確かに貰い受けた」
 人狼と一騎打ちなんて不幸もいいところだが、裏切り者として処刑されるよりは、城主のまま討ち取られるほうがまだマシだろう。
 だから恨まないでくれよ。


「リャーグ様、何事ですか!?」
「曲者がい……うわあぁっ!?」
「化け物だ!」
 その直後に駆け込んできた衛兵たちを、俺は続けざまに倒す。姿を見られた以上、生かしてはおけない。
 城内のあちこちで戦闘が始まったらしく、漂う血の匂いが濃くなってきた。みんな無事でいてくれよ。
 そのとき、城門の方向からジェリクの遠吠えが聞こえてきた。


『獲物ハ仕留メタ』


 城門の破壊に成功したらしい。手際がいいな。
 そうとなったら長居は無用だ。城主も始末したし、もう組織的な抵抗は不可能だろう。
 俺は人狼隊に撤収命令を下す。
『狩リハ終ワリダ』
 そう遠吠えすると、あちこちから了解の遠吠えが聞こえてきた。
 どうやら損害は出ていないようだ。


 俺は護衛のファーン隊に合流すると、城兵を蹴散らしつつスヴェニキ城を後にした。
「兄ちゃん、何人倒した?」
「俺は八人。お前は?」
「十二人だ! やった、兄ちゃんに勝ったぜ!」
 再集結した人狼たちが、返り血に染まった顔で嬉しげに武勇を自慢している。一番嬉しそうなのは、やっぱりガーニー兄弟だ。


「なあ、ウォッド爺さんはどうだった?」
 ガーニー弟が無邪気に訊ねると、白い人狼は微笑みを浮かべる。
「さあのう……四十を超えた後は、数えるのが面倒になっちまったのう」
「よんじゅう」
 ガーニー弟が沈黙すると、年輩の人狼たちが大笑いした。
 狩りは腕っ節だけじゃないからな。俺たち若手は、まだまだベテランには勝てないよ。
 それにしても、あの短時間で四十は凄いけどな……。


 こちらの死者は当たり前のようにゼロだ。閉鎖空間で人間相手に奇襲をしかけるのは、人狼が最も得意とする戦い方だ。
 多少手傷を負った者がいたが、帰り道に全員治療してやった。
「あー楽しかった!」
「ほんと、いつもこれぐらい暴れられたらいいのにな」
 狩猟本能を満たして御機嫌の人狼たちと入れ替わるように、潜伏させていたロルムンド近衛師団の行進曲が聞こえてくる。
 いいタイミングだ。


 人狼隊が近くの野営地に戻ったところで、俺は急いで着替えて馬に乗る。ここからは人間としての行動だ。
 ここから先は誰が指揮しようが勝利は確実だが、人狼が暴れた痕跡は極力隠蔽しておかないとな。
「俺は人間の姿に戻って、あっちの指揮をしてくる。みんなは休んでろ。カイト、ラシィ、あとついでにパーカー。悪いが少し手伝ってくれ」
「はい、ヴァイトさん」
「が、がんばります!」
「なんで兄弟子の僕がついでなのかな!?」
 俺は魔術師たちを率いると、近衛師団に合流するために馬を走らせた。
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