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人狼への転生、魔王の副官 作者:漂月

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182/415

ドニエスクの皇子たち

182話


 宴席に戻った俺は、肉をもりもり食いながらレコーミャ卿たちとバカトークを繰り広げていた。
 レコーミャ卿たちが「エレオラ殿下とどうやって知り合ったのかお聞きしたい」と言い出したので、不都合な部分は伏せた上で語る。
「そこで私は慌てて、その山荘から逃げ出したのですよ。あんまり慌てていたので、ドアと間違えて窓から飛び出してしまいました」
 どっと笑う一同。


 エレオラ派のペーティ卿が、目尻を拭いながら訊ねてくる。
「しかしそこは、山荘の二階だったのでしょう? お怪我はありませんでしたか?」
 ひさしをつかんで屋根に飛び上がったんだけど、普通の人間は慌てているときにそういうことはしないので伏せておく。


「それが運良く、怪我ひとつせずに逃げ出せました。このときばかりは、尻の皮を厚く産んでくれた母に感謝しましたよ」
 また大笑いだ。
 半分以上は雰囲気で笑ってくれているだけだと思うが、理由なんか何でもいいからみんなで笑えば少しは仲良くなれるだろう。


 少し離れた場所では、エレオラが澄ました顔でドニエスク派の貴族たちとやりあっている。
 以前のように無言で耐えるのではなく、冷たい笑みを浮かべて容赦なく相手を斬り捨てていた。
「それで? 貴殿が私ぐらいの年頃には、どこで何をなさっていたのか?」
「それは……」
 恰幅のいい年輩の紳士が、言葉に詰まっている。
「戦功自慢も結構だが、相手を見てなさるべきだな」
 美人が冷笑すると、やっぱり迫力があるな。
 いいぞ、負けるなエレオラ。


 俺はそういう怖いやりとりは苦手だから、味方陣営の引き留めを頑張るとしよう。
「それでも何とか、クラウヘン太守のベルッケン殿に『人狼斬り』をお返しできたのでホッとしました」
 戦場で拾った名剣を持ち主に返しに行ったら、そこでばったりとエレオラに出会った話はこれで終わりだ。


 するとさっきのペーティ卿が、こんなことを教えてくれた。
「『人狼斬り』は三百年ほど前に随分作られましたからね。ミラルディアに渡ったものが現存していたとは驚きですよ」
 もしかしてロルムンドにはいっぱいあるのかな?
 あれで斬られるとただじゃ済まないから、一応気をつけとこう。


 そんなことを思っていると、別の貴族たちが楽しげに言う。
「しかしそれを、うっかり壊してしまわれるとは」
「うっかり壊れるようなものではありませんよ」
「決闘卿の手にかかれば、魔剣もひとたまりもありませんな……」
 なんか凄く受けてるので、俺も一緒になって笑っておく。
 ロルムンド人の笑いのツボは、未だに解明されていない。


 そうこうしていると、笑い声に惹かれたのか一人の少年が近づいてきた。まだ十代前半だろう。
 しかしきちんと正装しているので、ロルムンドの貴族社会では成人とみなされる。元服を済ませたばかり、といったところか。


「あの、失礼します。ヴァイト卿でいらっしゃいますか?」
「そうですが、君は?」
 すると彼は顔を真っ赤にして、慌てて名乗った。
「リューニエといいます。あっ、ええと、爵位はまだありません」
 しどろもどろになっている少年に、俺は笑いながら一礼し助け船を出してやる。
「はじめましてリューニエ殿、何か御用ですか?」
 相手が子供でも、社交の場に正装して来ている以上は一人前として扱うとしよう。


 リューニエは顔をパッと輝かせて、俺に近づいてくる。
「さっきのお話、もっとお聞かせください! 戦場で魔剣を拾われたときの一騎打ちとか!」
 あー……いや、あれは一撃で決着ついちゃったからな。
 話を膨らませようがないんだが。


 俺は期待のまなざしに重圧を感じつつも、正直に事実だけを告げる。
「相手の騎士を一撃で倒してしまったので、特に話すことはないのですよ、リューニエ殿」
「一撃で!?」
 リューニエの顔が興奮で紅潮してきた。
 ぐいぐい迫ってくる。


「叔父上も常々、戦場での働きを熱望しておられますが、僕もそうなのです! どうすればそんなに強くなれるのですか!?」
 人狼に転生すれば一発だよ。
 その叔父さんとやらにも、教えてやるといい。
「おいリューニエ、何をしてるんだ?」
「あっ、叔父上!」
 今なんか聞き覚えのある声がしたぞ。


 振り返ると、ウォーロイ皇子が呆れた顔をしてこちらを見ていた。
 叔父上って、こいつのことか?
 じゃあこの少年は……。
「リューニエ殿、もしかして君はドニエスク公の?」
「あ、はい! ドニエスク公は僕の祖父です! 申し遅れました、僕はリューニエ・ボリシェヴィキ・ドニエスク・ロルムンドです!」
 なんですと。


 ウォーロイ皇子がさりげなく俺とリューニエの間に割って入り、彼を俺から遠ざけた。
「すまんな。この子は兄上の一人息子で、ドニエスク家の跡取りだ。危なっかしいので目が離せん」
 なるほど、イヴァン皇子の息子か。


 つまり帝室の男系男子、いずれそれなりの順位で帝位継承権を持つお子様だ。カイトが横にいないので、名前を聞いても誰だか全くわからなかったのは失敗だった。
 もう少しサービスしておけば良かったかな?


 ウォーロイ皇子は甥の頭をくしゃくしゃ撫でると、俺にわざと聞こえるようにこう言った。
「こちらはミラルディア随一の猛将だ。エレオラ殿のところで厄介になっている。わかるな?」
「はい、政敵ですね」
 そんなに面と向かって言わなくてもいいじゃないか。
 あと政敵にそんなに憧れのまなざしを向けるのはやめなさい。


 リューニエ皇子は俺に近づこうとしては、ウォーロイ皇子にさりげなく阻止される。
 そしてまた近づこうとする。
 子犬みたいだ。
「ヴァイト卿、もっと戦場の話をお聞かせください! 他にはどのような戦で指揮を執られたのですか?」
「ああ、そいつは俺も興味があるな。ヴァイト卿、差し支えのない範囲で聞かせてやってくれないか?」
 ウォーロイ皇子までもが、俺の話を聞きたそうにしている。
 ダメだろ、あんたお目付役なんだから。


 しょうがない。俺はウォーロイとリューニエに、いくつかの戦場話を聞かせてやった。
 小さな交易都市だったリューンハイトに玩具売りとして潜入し、精鋭五十六名で一気に攻め落としたこと。
 トゥバーン弓騎兵との戦い。
 そしてトゥバーン攻略。
 詳細を話すと軍機に抵触してしまうし、何より魔族の話はロルムンドではしづらい。
 詳細を伏せざるを得ないので、どうしてもそっけないものになってしまう。


 だがそれが逆に、この二人の心をつかんだようだった。
「ヴァイト殿は凄い活躍をされているのに、とても淡々と語られるのですね! かっこいいです!」
「なあ、もっと詳しく聞かせてくれないか、ヴァイト卿」
 そう言われても困る。


 そこにイヴァン皇子がやってきた。
「リューニエ、ウォーロイ。何をしているのかね」
「あっ、兄上」
 ウォーロイ皇子は兄の顔を見た瞬間に「しまった」という顔をする。
 イヴァン皇子は歳の離れた弟に苦笑してみせた。
「父上がお呼びだ。それと父上とバルナークにも、何か軽食を頼む」
「ああ、俺が作って持っていこう。使用人たちは手一杯だろうからな」


 弟の返事に、イヴァン皇子は眉をひそめる。
「お前はまた、そうやって身分もわきまえないことをする。それでもし使用人たちが父上のお叱りでも受ければ気の毒だろう?」
「俺が取りなしておくから大丈夫だ。悪いが失礼させてもらうぞ、ヴァイト卿。またな」
 これ幸いと逃げていくウォーロイ皇子。


 イヴァン皇子は俺に向き直ると、軽く会釈した。
「息子の話相手になってくれていたようで、感謝する。まだ礼儀もわきまえぬ未熟者ゆえ、非礼もあったと思うがお許し願いたい」
「いえ、私も楽しい時間を過ごせました」
 俺はイヴァン皇子ともう一度会話するチャンスを得たので、そそくさとリューニエ皇子を追い出しにかかる。


「リューニエ殿、また機会があれば戦場のお話をしましょう」
 おしゃべりの終了を遠回しに告げられ、しょげるリューニエ皇子。
「あ……はい。長々とお引き留めしてしまい、申し訳ありませんでした。とても楽しかったです」
 ごめんな。
 俺は君のパパに用があるんだよ。


 ぺこりと一礼して去っていくリューニエ皇子を、俺とイヴァン皇子はじっと見つめていた。
 イヴァン皇子はぽつりとつぶやく。
「貴殿のことだ。私が妻を亡くして再婚していないことも承知しているのだろう?」
 あ、そうなんだ……じゃあリューニエは忘れ形見ということか。
 いや、彼を手懐けて利用しようなんて全く考えてないからな。


「一人息子のリューニエは元服したばかりで、まだ十二だ。元服には早すぎるのだが、ドニエスク公が早く元服させろとしつこくてな。拙速はいかんと口癖のように言う割に、孫のことになるとせっかちで困る」
 そうぼやくイヴァン皇子の顔は、今この瞬間だけは一人の父親の顔だった。
 ずっとそういう顔していればいいのに。


「ところでヴァイト卿は未婚と聞いているが……」
 前世からずっと未婚です。夫婦ってのが、よくわからないんだよな。
 前世じゃ両親は不仲だったし、今世じゃ物心つく前に父親が死んでたから、俺は円満な夫婦というものを知らない。だから婚活もしていない。
 とはいえ、ロルムンドの社交界で独身というのは信用度が低いので注意が必要だ。
 何より男色家疑惑が出てるしな……。


 俺は適当にごまかしておくことにした。
「リューンハイトに婚約者がおります」
「そうか。お相手はミラルディア貴族かな?」
「ええ」
 一瞬、アイリアの顔が脳裏に浮かんだ。
 悪いがこれも外交のためだ。どうせバレやしないから、ちょっとだけ名前を借りておくぞ。
「リューンハイト太守の家系、アインドルフ家の令嬢です」
「名前は存じている。南方から来た一族だとか」
「よくご存じで」


 俺はこの話題から逃げたい一心で、イヴァン皇子に質問を返した。
「それよりもイヴァン殿下は再婚なさらないのですか?」
 彼はドニエスク家の嫡男だ。家系存続のためにも、もっと子供を作る必要がある。ウォーロイ皇子は独身だしな。


 するとイヴァン皇子は寂しげに笑った。
「そうしたいのは山々なのだ。しかし私は、女性の好みにはうるさくてな。……妻を超える者はどうしても見つからないのだよ」
 彼の指には、既婚者であることを示す指輪が光っている。
 たぶんこれは、亡くなった奥さんのことが好き過ぎて再婚できないタイプだ。
 悪いことを聞いてしまったな。


「ヴァイト卿、私と貴殿は立場を異にする者同士だが、それだけに貴殿に借りを作ったままという訳にもいかない」
 借りって何のことだ?
「息子が世話になった礼をさせていただきたいのだが、良いだろうか?」
「いえ、そのようなことはお気になさらず」
 あんたたちが「礼」っていうと、暗殺しにくるとしか思えないんだよ。


 だがイヴァン皇子は歩きだし、バルコニーから俺を手招きした。
「心配なさるな。これを御覧に入れたいだけだ」
 彼が取り出したのは一冊の本だ。紙はまだ新しいが、装丁は擦り切れてボロボロになっている。愛読書らしい。
 ……魔撃書じゃないよね?


 仮に魔撃書だとしても、俺を殺すのは無理だろうけどな。
 俺は内心でびくつきながらも、なるべく悠然とした足取りでバルコニーに向かって歩き出した。
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