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人狼への転生、魔王の副官 作者:漂月

本編

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狼の皮(前編)

162話


 首都シュヴェーリンまでの道中、俺は様々な光景を目撃した。
 農奴の扱いが悪い村や傲慢な領主もいれば、身分差をあまり感じさせない村や穏和な領主もいる。
 どの領地にも共通してるのは、長年の伝統でスタイルが確立されている感があることだった。


「ヴァイトさん、ロルムンドって歴史を感じさせますね」
 我が側近にして元偽聖女様のラシィが観光気分で語りかけてきたので、俺は思わず笑った。
「そうだな。共和制崩壊後に三つの国に分裂して三百年ほど、統一戦争が終わって帝国ができてからも二百年以上が経っているからな。ミラルディアよりずっと古い」


 俺の説明にラシィがうんうんとうなずく。
「そうか、そうですよね。ミラルディアは統一戦争終わって百年も経ってないですし、連邦になったのなんかこの間ですからね」
 前世の王朝や幕府に置き換えてみれば、社会が成熟するには十分な時間だというのがわかる。


 俺があれこれと邪悪な企みを巡らせている背後では、人狼隊のみんなが観光気分でわいわいしゃべっている。
 みんなその気になれば独力でミラルディア領まで歩いて戻れる自信があるから、敵地にいても特に悩んだりしない。人狼の良い点でもあり、悪い点でもある。
 そしてそんな最も人狼らしい人物の一人が、ファーンお姉ちゃんだ。


「ヴァイトくん、私もあのモフモフの鳥に乗ってみたかったな……」
 ファーンお姉ちゃんが慣れた手綱さばきで馬を操りながら、ちょっと残念そうに言う。
 俺は首を横に振った。
「騎鳥は山岳戦や市街戦に使うもので、長距離の行軍だとすぐにバテちゃうらしいよ」
「そっかあ……残念」
 首尾一貫してモフモフに弱いファーンお姉ちゃんだった。


 ファーンお姉ちゃんは一般兵士で、魔王軍での称号を持っていない。だが魔王軍では人狼隊の陰の実力者と考えられている。
 そこで俺はファーンお姉ちゃんを正式に副隊長に任命し、士官待遇で今回の任務につきあってもらうことにした。
 どうも身内びいきみたいで気が引けていたんだが、人狼隊のみんなも賛成してくれたのでよしとしよう。
 帰ったら師匠にかっこいい称号をつけてもらうとするか。


 俺はファーンお姉ちゃんに声をかける。
「ところでファーン、俺は帝都に着いたら交渉に専念するよ」
「うん、そのためのヴァイトくんだからね」
「そのときには魔術師たちも全員連れていくから、人狼隊だけで動く機会が増えると思うんだ」
 そうなると問題になるのが、この血の気の多い戦闘種族たちだ。
 身内の余計なトラブルだけは困る。


 するとファーンお姉ちゃんはにっこり笑って、厚みのある胸をばいんと叩いてみせた。
「任せといて! ガーニー兄弟のやんちゃも、モンザちゃんのおちゃめも、ジェリクくんの……ジェリクくんは大丈夫だよね。とにかく全部面倒見ておくから、安心してね」
 頼もしい。頼もしすぎる。
「ありがとう、ファーン。いつまで経っても、ファーンには頭が上がらないなあ」
「ふふ、みんなのお姉ちゃんのつもりだから」
 本当、いつもお世話になってます。


 やがて俺たちは数日間の旅路を終えて、帝都シュヴェーリンに到着した。
 帝都は長大な城壁に囲まれた貴族街と、その周辺に広がる市民街に分かれている。
 市民街には城壁がないが、帝都近辺には危険な生物や盗賊はいない。根こそぎ駆逐されてしまっている。


 帝都の人口はおよそ七万と推定されている。ただしこれは自由民と貴族たちだけの数で、奴隷は含まれていない。
 ミラルディアの魔都リューンハイトはといえば、魔王軍の駐留軍を含めても人口が一万にも満たない。
 ミラルディア最大の都市イオロ・ランゲでさえ、二万そこそこだ。


「でかいですね……」
 カイトがつぶやいたので、俺もうなずく。
「まともに戦争になったら勝ち目はないな」
 国としての規模がまるで違う。
 だが、エレオラの副官ボルシュが苦笑する。


「ミラルディアに軍を送るのは大変でした。山岳地帯に強い騎鳥の部隊があったので何とかなりましたが、他は全員軽装歩兵ですから」
 ボルシュは首を振り、しみじみと述懐する。
「登山用の装備とは別に、戦闘用の装備を一式持たねばならないのです。かなりの額の軍資金も輸送しなくてはなりません。困難な任務でした」


 俺たちの会話を聞いて、エレオラが苦い口調でつぶやく。
「坑道ができる前の進軍だったので、山脈越えで部下を六名失ったよ。練度の低い一般部隊なら、この数倍は消耗していただろう」
 山岳慣れした皇女直属の親衛隊でも五%ほどの損失か。
 ちょっと嫌だな。


 そんな会話をしつつ俺たちは壮麗な城門を抜け、帝都の貴族街へと入る。
 ミラルディアを中世前半とすると、こっちは中世後半ぐらいだな。
 王宮に入って中庭に人狼隊を待機させ、俺とエレオラ皇女は側近だけを伴って王宮に入る。


 パーカーがふとつぶやいた。
「予想はしていたが、ずいぶんと立派な街だね。ミラルディアとは比較にならない」
 俺も同感だが何となく悔しいので、こう返しておいた。
「師匠たちミラルディアの先住民が滅んでいるから、今のミラルディアには三百年しか歴史がない。しょうがないさ」
 ロルムンドの歴史は途絶えることなく、ずっと前から歴史が続いている。


 そしてその歴史の集大成が、豪華絢爛な謁見の間にいる皇帝陛下だ。
 ……と思ったが、玉座に誰も座っていない。
 代わりに玉座の横に、華やかなイケメンが立っている。ちょっと線が細いが、前世の日本ならモテモテだろう。
 俺は理由もなく不愉快になる。


 花瓶に活けて飾っておけばよさそうなイケメンは、涼しげに笑顔を浮かべた。
「エレオラ、お帰りなさい」
 皇女殿下を呼び捨てにできるということは、あれが本家筋の皇子様か。つまり皇太子殿下という訳だ。
 名を……なんだっけ。
「アシュレイ殿下です」
 カイトがそっと耳打ちしてくれる。偉いぞ副官。


 エレオラは無表情のままアシュレイ皇子に一礼し、こう訊ねる。
「陛下の御病状が思わしくないのですか?」
「ええ。申し訳ありませんが、僕が代わりに報告を受け取ります。よろしいですか?」
 良いも悪いもない。相手は次期皇帝だ。


 エレオラはうなずき、ロルムンド帝室の作法にのっとって報告を行う。彼女は「ミラルディア全土を掌握した」という偽りの報告を済ませた。
 バレないようにあれこれ工作はしているから大丈夫だと思うが、問題はここからだ。


 アシュレイ皇子が俺を見る。
「あなたがミラルディアの指導者ですね。報告は受けています。エレオラの偉業に大きく貢献してくれたと」
 全部嘘です。
 俺は進み出て、恭しく一礼する。


「私めがミラルディア連邦評議員、ヴァイト・グルン・フリーデンリヒターにございます。ヴァイトとお呼びください」
 今の俺に名字はないが、さすがにそれだとロルムンドでは格好がつかない。
 そこで師匠のミドルネームと先王様の名をお借りすることにした。許可は取ってある。


 アシュレイ皇子はうなずき、俺にこう声をかけてきた。
「わかりました、ヴァイト卿。あなた方ミラルディアは、我々ロルムンド帝室に忠誠を誓いますか?」
 俺は愉悦を含んだ笑みで、深々と頭を下げる。
「陛下への忠誠を示すために、私はここに来たのです」
 別に適当に嘘をついても良かったのだが、なんとなく嫌だったのでごまかす俺。
 どこの陛下とは言ってない。


 俺の真意に気づいていない様子で、アシュレイ皇子は満足そうにうなずく。
「既に陛下のお許しは頂いています。陛下に代わって、このアシュレイ・ウォルトフ・シュヴェーリン・ロルムンドが、ヴァイト卿に『客爵』の地位を認めたいと思います」
 西ロルムンド王国の時代から続く、異国の貴族に対する地位だ。客分の爵位だから客爵だ。
 これで大手を振って貴族として行動できるぞ。


 しかしここで、俺は最初の試練に直面する。
「ただその前に、ヴァイト卿」
「何でしょうか」
「あなたはミラルディアで『黒狼卿』と呼ばれていますね? あなたが人狼だからというのが、その理由だと聞いています」


 アシュレイ皇子はこう続けた。
「輝陽教は魔族の存在を認めていません。もしあなたが本当に人狼であれば、地位を認めることはできません」
 武装した衛兵たちに警護され、魔術師らしい文官が謁見の間に入ってくる。
 皇子はこう言った。
「帝室直属の魔術師に、あなたの本当の姿を調べていただきます。よろしいですか?」


 俺は微笑み、魔術師に手を差し伸べながら答える。
「いかようにでもお調べください、殿下」
※明日11月29日(日)は定休日です。
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