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人狼への転生、魔王の副官 作者:漂月

本編

151/412

ドワーフ(?)の職人

151話


 エレオラ皇女は療養中だが、周囲に部下がいたほうが気持ちが落ち着くだろう。
 彼女のお気に入り士官は、ナタリアとボルシュらしい。
 ただボルシュは歴戦の強者なので少し不安が残る。
 ここは用心のために、ナタリアのほうをエレオラにつけておく。同年代の同性だしな。


 俺は今日もロルムンドの帝室系図を見つめながら、暗記に励んでいる。
 皇帝とその弟妹の御三家だけなら何とか覚えられるのだが、その周辺勢力まで暗記するとなると大仕事だ。
 ロルムンド軍の派閥、廷臣、各地の領主、輝陽教神殿、それに富裕層たち。
 しかもみんな自分の都合で動いているので、しょっちゅう鞍替えしたり、他派にすり寄ったりしている。
 また確定情報ではないものの、水面下でのつながりや反目が噂されていたりする関係もある。
 ややこしい。


 とうとう俺は、これらを記憶するのを断念した。
「俺には無理だ、カイト覚えてくれ」
「あ、はい。覚えました。全部」
「全部か? この周辺勢力の関係図も?」
「ええ。調査官でしたし」
 そういえばこいつは元老院の職員、つまり官僚だった。
 エリート様だ。
「……カイト、お茶いれてやろうか?」
「えっ、なんでですか?」


 優秀な副官を持って俺は大変楽になったので、カイトの分も茶をいれてやってくつろぐ。
 そのとき執務室のドアがノックされた。
「おい開けろクソ狼! ここに隠れてるのはわかってんだ!」
 ドアのだいぶ下のほうから、乱暴にノックする音と可愛らしい罵声が聞こえてくる。
 カイトが不思議そうな顔をしているので、俺は思わず笑いながらうなずいた。
「心配ない。俺の弟弟子だ」


 カイトがドアを開けた瞬間、疾風のようにもふもふしたものが飛び込んでくる。
「くたばりやがれ、クソヴァイト! 今日こそ決着つけてやるからな!」
 長い耳をぴこぴこ動かして叫んでいるのは、犬人ぐらいの大きさのウサギだ。毛は茶色く、耳はウサギにしてはやや短い。


 俺はあんまりウサギの品種には詳しくないが、ネザーランドドワーフに似ている気がする。
「リュッコ、元気そうだな」
「あったり前だ! てめえの息の根を止めるために、張り切って来てやったぜ!」
 床を激しく踏みならし、ストトトトとスタンピングを繰り返しているこいつが、ゴモヴィロア門下の魔術師リュッコだ。
 こいつは魔王軍の軍人ではないが、師匠が呼べば来てくれる。


 カイトが腰を屈めて、リュッコの顔を覗き込む。
「ヴァイトさん、なんですかこのウサギみたいな人は」
「兎人族だな。森や草原で暮らす、臆病だが平和的な魔族だ」
「臆病にも平和的にも見えませんよ、この人」
 初対面の人は、みんなそう言うんだよな。


「ちょっと見てろよ」
 俺は笑いながら人狼に変身してみせた。
 その瞬間、リュッコは漫画みたいに飛び上がる。
「ぴゃあぁっ!?」
 現れたとき以上の俊足で、リュッコは執務室の隅に駆け込んだ。カーテンにくるまって、ブルブル震えている。


「ククククソ人狼なんか、なななんとこわなくぞからな!」
 パニックになって、訳のわからないことを口走っている茶色い兎人。
 カイトが呆気にとられているので、俺は人間の姿になって服に袖を通しながら教えてやった。
「兎人は臆病だから、その反動で好戦的な態度で威嚇するヤツもいるんだよ。人狼の見た目が、兎人には特に怖いらしい」
「誰だって人狼は怖いですよ?」
 それもそうか。


 そのときモンザが書類を持って執務室にやってきたので、俺は彼女にリュッコをカーテンから引っ張り出すように頼む。
「こいつ、女の子には弱いからな。お手柔らかに頼むよ」
「あは、任せといて。おいでおいでー」
 モンザの顔を見て、リュッコは露骨にほっとした表情でカーテンからぴょんぴょん出てきた。


「あー、参った参った。人狼相手に俺のアンブッシュ殺法をお見舞いしてやるつもりだったんだが、女の子の前で残虐シーンはまずいよな」
 あ、こいつ余計なことを。
 モンザがリュッコを抱き抱えたまま、ニヤリと笑う。
「あたし、残虐なの好きだよ」
 人狼に変身した彼女を見て、リュッコが死ぬほど絶叫したのは言うまでもない。


「お前ら人狼は野蛮なんだよ。知的で繊細な兎人を見習えってんだ」
 可愛らしい声でぶつぶつ文句を言いながら、リュッコはアイリア卿の膝の上でタオルにくるまっている。ぷるぷる震えているところをみると、よっぽど怖かったらしい。
 悲鳴を聞いてやってきたアイリアは、リュッコを撫でてやりながら微妙に苦笑する。
「この方が、魔王陛下の言っておられた魔法道具の専門家の方ですか?」


「臆病すぎて暴走するところはあるが、そのぶん慎重で準備がいいんだ。リュッコが作る魔法の道具は信頼できる」
 俺がそう言うと、リュッコはアイリアの膝の上で得意げに尻尾をぴこぴこ振ってみせた。
「そうとも、俺に任せときゃ魔撃ジョーだかジューだか知らねえが、とにかく完璧に分析してガッチガチに魔改造してやる」
 改造は頼んでない。
 いや、頼むのもアリか。


 俺は回収した魔撃杖を机の上に並べた。見た目は本当に火縄銃やマスケット銃によく似ている。
 リュッコはアイリアの膝からピョンと飛び出すと、鷹のような目をして鼻をぴくぴくうごめかせる。
「ほう、ほうほう……こいつはおもしれーな」
 リュッコは背負ってきた大きな……といってもリュッコにとってはだが、とにかくリュックを開く。


 ずらりと並んだ工具を手にして、リュッコは得意げに胸を張った。
「まあ見てな。ここをこうするだろ。んで、こうするとここが外れるから、ここを押さえながら引っ張る……と、こっちが外れて、こうなるって寸法だ」
 マグロの解体ショーのように、鮮やかに魔撃杖を分解していくリュッコ。
 初めて見る武器なのに、手つきによどみがない。


「こいつはわかりやすいな。分解してて気持ちいいくらいだ。こりゃ日々の整備も楽しくなっちまうぜ」
「そうなのか?」
「ああ、極限まで単純化されてていい設計だ。魔術紋もお手本みたいに整理されてやがる。しかもだ」
 リュッコは紫色の光沢を持つ金属棒を引っ張り出して、両手でよいしょと担いでみせた。確かあれ、レアメタルだよな。
「この蓄魔鋼は容量にだいぶ余裕をもたせてある。放出用の魔術紋も二系統確保してあるしな。ちゃんと冗長性も確保してるってことで……あー、俺の言ってる意味わかるか、クソヴァイト?」


 そのへんのことは前世で聞いたことがあるな。
「余裕や予備がないと、故障しやすくなるんだろ? 戦場でそれは命取りになる」
 するとリュッコは「ケッ」という表情をする。
「その通りだよ。つーか、なんでわかるんだよ。お前、こういうの専門外だろ?」
 俺は曖昧な笑顔でごまかしておく。


 リュッコは魔撃杖を分解してみせると、耳をぴこぴこさせながら構造について俺に説明してくれた。
 それを簡単にまとめると、魔撃兵器は「魔力の水鉄砲」のようだ。
 使用者が魔力を操作し、自分の魔力を魔撃杖にチャージする。たくさんチャージすれば撃てる回数や威力が増すし、射程も長くなる。
「魔術師以外は使えないってことか」
「そうだな。まあ魔力の操作は訓練次第で誰でもできるが、まともな威力を出すには魔術師クラスの魔力がないとな」
 使い手に生まれついての素質が必要という点では、火薬銃に劣るようだ。
 そういう意味では弓に近い。


 魔撃杖が俺の予想と少し違っていたので、俺は改めて考える。
 こいつ、魔改造が大好きだったな。
「これ、魔術師以外の魔族にも使えるようにできないか? 六十挺ぐらいあると、今後の予定が随分楽になるんだ」
「んー……いやあ、そいつはちょっと……」
 そう言い掛けて、リュッコはハッとする。
「おうおう! 俺を誰だと思ってやがる! ゴモヴィロア門下随一の魔法職人、リュッコ様だぜ! 人狼ブッ飛ばすより簡単に決まってんだろ!」
 机の上で背伸びして、鼻をふすふすいわせる弟弟子。
 そりゃ人狼をブッ飛ばすよりは簡単だろう。
 じゃあお願いしておこう。
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