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人狼への転生、魔王の副官 作者:漂月

本編

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古都の会談

137話


 ヴィエラ太守フォルネが妙な方向でがんばっているのは任せておくとして、俺は俺で魔王軍の戦力を整えることにした。最後にモノを言うのは、やはり武力だろう。
 俺は魔王軍の幹部たちを集め、定例会議を開く。
 騎士団長のバルツェから犬人隊の古参兵に至るまで、身分の上下に関係なく重要人物に集まってもらっている。


「ロルムンドの正規軍は、ごく小規模だが精鋭だ。さらに投降した傭兵団や騎士団を傘下に加えている」
 各都市の市民兵や衛兵には日々の務めがあるが、傭兵や騎士は純粋な戦争屋だ。いつでも使える状態とみていい。


 魔族だらけの中、カイトが壁に貼った資料を示す。
「各傭兵団は最大でも数十人程度の小集団ばかりですが、元老院直属だった騎士団も同じようなものです。最小規模の聖ニキト記念騎士団は、騎士が五名」
 五名って。
「直前に設立された聖モルテウス記念騎士団から人員を独立させて作ったので、これが限界だったようですね。ま、槍持ちの従卒とか色々ついてきますから、総勢では二十人ぐらいですが」
 それを聞いたバルツェが、思わず溜息をつく。
 竜人族には耐えられないだろうな、こういう非効率な集団。


 このごちゃごちゃの戦力を、エレオラはロルムンド軍方式で再編成したようだ。
「今は傭兵隊と騎士団は、どちらも百人ずつの部隊に再編成されています。規模はちょっとわかりませんが、ウォーンガングにいるのは合計で三千ぐらいかと」
 その全員がプロというのは、かなりの脅威だ。
 彼らはどういうときにどう動くべきか、いちいち指示しなくても行動してくれる。


 それからカイトは別の資料を示した。銃のような代物が描かれているが、これが「魔撃杖」の外観である。
「こちらがエレオラ皇女直属の親衛隊『魔撃大隊』が使用している武器ですね。噂では『魔撃杖』というらしいです」
 詳しい性能についてはまだ不明な点が多いが、射程距離についてはおおよそわかった。弓よりは短いか、あるいは威力の減衰率が高いようだ。
 そうでなければ、弓の間合いの外から城門を吹き飛ばしていただろう。


 俺は口を開く。
「判明しているのは威力ぐらいだが、相当なものだ。条件にもよるだろうが、巨人族にも一撃で致命傷を与えられるだろう」
 一同が微かに動揺している。それだけの兵器が相手だと、戦術を見直す必要が出てくるからだ。
「こいつを何とか奪って、魔王軍で解析したい。おそらく魔法の道具だと思われるので、現在専門家を召集中だ。現状ではこれぐらいしか話せることがない」


 すると紅鱗騎士団長のシューレが挙手した。
「ときにヴァイト殿、ロルムンド側からは何か外交的な働きかけはありましたか?」
「それがまだ何もないのです、シューレ殿」
 実は俺も困っている。
 北部の九都市を支配下に置いた時点で、何か言ってくると思ったんだがな……。


 だがもしエレオラ皇女が北部の支配だけで終わらせるつもりなら、とっくに南部に使者を送っているだろう。
 なかなか態度を明らかにしないのは、こちらに知られたくない本音があるということだ。
「私が直接エレオラ皇女と接触した限りでは、彼女はかなりの野心家に思えました。油断はできません」


 シューレは竜人族屈指の美女と讃えられる美貌で……といっても俺にはよくわからないが、とにかくうなずいた。
「わかりました。必要ならグルンシュタットに配置している兵力を派遣します。いつでも要請してください」
「ありがとうございます」


 その後は各部署からの報告や要請を直接聞いて、俺はまた執務室に戻ってくる。魔王軍と評議会の両方で仕事をしているから、とにかく忙しい。
 気楽な副官生活を夢見ていたのに、どうしてこんなことになってるんだろうな……。
 評議会の書類仕事を片づける前にお茶でも飲もうかと湯を沸かしていたら、アイリアがやってきた。


「エレオラ皇女から評議会に会談の要請が来ました。『今後のミラルディアのあり方について、ロルムンドの代表として南部連邦と相談したい』とのことです」
「ようやく来たか。すぐに準備しよう」
 ゆっくり茶を飲む暇もないが、これで少しは事態が進展しそうだ。


 会談は南北の緩衝地帯に近い都市、古都ヴェストで行われることになった。北部の都市だ。
 戦闘があったウォーンガングに呼ばないところをみると、あそこには見せたくないものがあるのかもしれないな。
 会談の席で評議員たちが襲撃されないとも限らないので、会談には俺とアイリアだけが赴くことにする。護衛はもちろん人狼隊だ。


 古都ヴェストは前世のヨーロッパの観光地を思わせるような、風光明媚な都市だ。
 極寒のロルムンドから逃亡してきた奴隷たちが築いた「南国の楽園」である。脱出できた喜びが爆発したかのように、町並みにも随所に工夫が凝らされていた。彫刻や噴水など、凝ったオブジェが多い。
「いい町ですね、ヴァイト卿」
「ああ、リューンハイトの新市街もこんな感じにしたいな」


 会談場所はヴェスト太守の館で、俺はそこで久しぶりにエレオラ皇女と再会することになる。
 今日の彼女はドレス姿だ。こうしてみると、さすがにお姫様だと感心させられる。中身は怖いけどな。
 俺の隣では、アイリアが微かな緊張感を漂わせている。表情は穏やかだが、いつもと雰囲気が違う。
 どうやらエレオラ皇女の危険な人柄は、アイリアの目にも明らかなようだ。


 エレオラ皇女は優雅な仕草で、俺たちに日当たりの良い窓辺の席を勧めてくれた。寒いロルムンドでは、南側の窓辺が貴人の席なのだという。
 だが会議室の周囲からは、武装した人間の微かな物音や匂いが伝わってくる。
 護衛の兵士だと思うが、暗殺者を兼務していないとは断言できない。
 窓際は危険だな。
「貴人といえば、皇女殿下ほどの貴人はおられない。我々は末席で結構だ」
 俺は窓から狙撃されない席を選び、アイリアを座らせる。


「お初にお目にかかる、アイリア卿、ヴァイト卿。突然の招きにも快く応じていただき、感謝に堪えぬ」
「こちらこそ御尊顔を拝し光栄だ、エレオラ皇女殿下」
 そう、公式には初対面なのだ。
 俺はなるべく平静を装ったが、あっちはごく自然に落ち着き払っている。
 やっぱり王様とか皇帝とかの一族っていうのは、心の鍛え方が違うようだ。


 軽い自己紹介と世間話の後、本格的な交渉が始まった。
 由緒正しい庶民の俺は内心びくつきながらも、がんばって交渉にとりかかる。
「ミラルディア解放軍は、南部連邦とどのような関係を御希望か?」
 俺の警戒心剥き出しの質問に、エレオラ皇女はさらりと答える。
「私は解放軍の支援者に過ぎぬので、それについて回答する権限を持たぬ。ただ、ロルムンドとしては同胞の保護が何よりも重要だ」
 立場をうまく使い分けて、言質を取られないようにするつもりらしい。女狐め。


 だったらこっちも、ぐいぐい攻め込んでやるか。
「ではロルムンドとしては、具体的にはどのような方針をお持ちか?」
「ロルムンド人の子孫たちは北部に集中している。南部連邦に服従を要求するのは筋が通らぬであろう。連邦とは良い関係を築いていきたい」
「大変結構ですな」
 俺はにこやかにうなずく。
 絶対信じてやらねえ。


 そこにアイリアがさりげなく発言した。
「連邦には魔族の住人も多数おります。彼らとの関係はいかがなされますか?」
 あ、そうだ。忘れてた。魔族代表なのにダメだな、俺は。
 するとエレオラは上品に微笑みつつ答えた。
「もちろん、連邦市民としての待遇を約束する。解放軍支配下の都市にも、自由に来ていただいて構わない」
 魔族は北部市民から嫌われているから、実際にはそうそう簡単に行けない。彼女が安請け合いするのもそういう理由だろう。


 俺たちはエレオラ皇女がボロを出さないかとあれこれ質問してみたが、彼女の返事は模範解答の連続だった。
 譲れる部分は気前よく譲り、無理な部分は「私は解放軍の指導者ではないので決められない」など、もっともらしい建前をつけてやんわり拒絶する。
 逆に彼女は俺たちの手の内を知ろうと、さりげなく質問を重ねてくる。


 こうなってくると素人の交渉力では限界があるので、俺はアイリアに任せて茶ばかり飲んでいた。
 二人とも穏やかで理性的な会話をしていたが、水面下では壮絶な殴り合いを展開する。
 会話の内容や表情、口調などではわからないが、人狼の嗅覚なら汗の匂いでわかる。これは命がけで敵と戦うときの匂いだ。
 張りつめた雰囲気の中、俺は無表情を維持しつつ必死で耐えた。
 怖かった。


 交渉の結果、ロルムンド帝国とミラルディア連邦は友好関係を結ぶことで合意した。解放軍にも協調を呼びかけてくれるという。
 いくつかの協定を結び、とりあえずは平穏が保たれることになる。
 無用な争いを避けるため、境界線に近い都市に兵をこれ以上増やさないことも決定した。
 もっともこっちは最前線に骸骨兵を大量配備しているし、あっちも城塞都市ウォーンガングに主力を置いている。
 やりあうつもりなら、いつでも戦争できる状態だ。


 帰途、アイリアは溜息をつく。
「さすがでしたね、エレオラ皇女は」
「ああ、有利な条件や情報は何も引き出せなかった。だが貴殿のおかげで、こちらも不利にならずに済んだ。ありがとう」
 政治に疎い俺では、とても無理だ。後半の俺は相づちを打っていただけで、ほとんど内容を理解できていない。


 するとアイリアは緊張が解けたのか、ようやく笑顔をみせた。
「未熟で拙い私の交渉が、多少なりともお役に立てたのなら光栄です。今後も一緒にがんばりましょうね」
「ああ、長期戦になりそうだ。アイリア卿、よろしく頼む」
 外交と軍事の両面で、しばらくは緊張し続けることになりそうだ。
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