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人狼への転生、魔王の副官 作者:漂月

本編

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第一次リューンハイト防衛戦(前編)

13話


 俺たちがリューンハイトを占領してから、半月ほどが過ぎた。
 リューンハイトは交易都市としての姿を取り戻し、街にも少し活気が戻ってきた。
 とはいえ、占領前は交易路が交わる拠点で、隊商が頻繁に往来していた街だ。以前ほどではない。
 しかし今は、魔物との交易という新たな商機を得た。


「景気はどうだ?」
 俺は今、南門に集まっている犬人たちの隊商を視察に来ている。
 軍属ではない犬人たちが、ざっと数十人。荷車も十数台停まっていて、その周囲に人……いや犬人だかりができている。
「あ、ヴァイトくん」
 南門の責任者を務めるファーンお姉ちゃんが、俺を見て笑顔を浮かべた。
「景気いいよー。みてみて、こんなに銀細工もらっちゃった」
「賄賂はダメだって……」
 ファーンお姉ちゃんが持っている銀の指輪と首飾りを見て、俺は溜息をつく。


 強者が絶対とされる魔族の世界で、賄賂がどうしてダメなのかを説明するのは難しい。俺は早々に諦めた。
「ねえヴァイトくん、犬人って銀を腐らせるんじゃなかったっけ?」
 ファーンお姉ちゃんが不思議そうな顔をして銀の指輪をつまんでいるので、俺は説明してやる。
「あれは人間の流したデマだ」
「デマ?」


 きょとんとしているファーンお姉ちゃんに、俺はさらに続けた。
「犬人の銀細工は、そこらの人間には真似できないからな。それが気に入らない人間たちが、嘘の噂を流したんだ」
 おかげで犬人たちは鉱山地帯から追い払われ、森に隠れ住むようになってしまった。気の毒な話だ。
 そこまでされても犬人たちは特に恨んでいないだけに、よけいに気の毒に思える。


 俺はファーンお姉ちゃんに、ここの様子を尋ねる。
「人間相手の商売は、うまくいってるのか?」
「ええ、上々ね。最初は怖がってたけど、犬人の見た目と態度で、すぐ慣れちゃったみたいよ」
 見ればちらほらと、人間の商人たちも集まってきている。まだ少しおっかなびっくりといった様子だが、値段交渉はさすがだ。


「この銀細工のスプーン、五十本全部買うから五本分まけてくれんかね?」
「三本分ならいいよー」
「よし、商談成立だな」
「犬人さん。帰りの荷に、南方の海岸で作った塩はいらないかい?」
「あー、塩より砂糖がいいかなあ」
「あるよあるよ、ちょいと高いけどね」


 うんうん、悪くない感じだ。戦力としては頼りないが、犬人たちを連れてきて良かった。
 俺は銀細工を見てにやけているファーンお姉ちゃんに、念のために釘を刺しておく。
「揉め事があったら、リューンハイトの商工会にちゃんと報告してくれよ。勝手に握りつぶさないようにな」
「はぁい」
 ファーンお姉ちゃんはノリが軽いが、正義感は強い方だ。大丈夫だろう。たぶん。


 少し休憩しようと、俺は隊商が運んできた南国の果実を買う。前世のパイナップルに似ているが、断面は鮮やかな緑色だ。
「これ美味いのか?」
「んー、ボクは好きだけどねえ」
 ボルゾイ似の犬人が差し出した輪切りを受け取り、代金を支払う俺。
 香りは文句無しにいいが、糖度はまあまあだな。前世の果物がいかに甘く工夫されていたか、改めて実感する。


 名前も知らない緑のパイナップルをもぐもぐ食べていると、急に犬人と人狼たちがざわめきだした。
「どうした?」
 部下の返答より早く、俺の耳が異変を察知する。
 非常用の犬笛だ。北門の方から、かすかに聞こえていた。


 警笛は三回。
 敵襲だ。


 俺が命令するより早く、ファーンが立ち上がる。
「南門を閉じて! 付近の隊商は市内に避難するように通達!」
 俺は緑のパイナップルを飲み込むと、その場で変身した。
「ウオオオォ!」
 周囲の人間たちが腰を抜かしているが、今はそれどころではない。この姿にならないと、遠吠えができないのだ。


「アオオオォーン!」
 人狼隊と犬人隊の全軍に、非常呼集を通達する。俺の声だから、すぐにみんな動き始めるはずだ。
 俺はすぐさま、南門の人員から人員を選抜する。
「ジェリク隊、モンザ隊、ハマーム隊、俺についてこい! 残りは別命あるまでここを守備だ! 市民を守れ!」
 その途端に、指名された部下たちが一斉に変身した。あちこちで悲鳴があがるが、この際仕方ない。

「行くぞ!」
 三隊十二人を引き連れて、俺は南門を後にする。屋根を伝って走っていくと、あちこちから人狼の遠吠えが聞こえてくる。


『敵ダ』
『近イ』
『手強イ』


 遠吠えの内容は、どれも敵襲を告げるものだ。瞬時に連絡を取り合えるのは、人狼ならではだ。
 ただこの遠吠え、単純なので時制の概念がない。
 今のでいうと、「手強イ」というのが実際に交戦した感想なのか、手強そうに見えるというのか、想像するしかないのだ。
 頼むから、まだ交戦しないでいてくれよ。


 俺は太守の館に戻ると、ここからも三隊引き抜いた。合計二十四人、人狼隊の約半分だ。
 俺たちが北門の城壁に駆けつけると、当直の犬人たちが震えていた。
「ヴァイト様、敵です!」
「わかったから、もう犬笛は鳴らさなくていい。どこだ?」
 俺はジャンプして、城壁の物見塔に飛び乗る。他の人狼たちも思い思いの場所から、敵を観察した。


 褐色の体毛を持つ人狼、ハマームが冷静な口調で呟く。彼は砂漠の出身で、人狼のくせに目が良い。
「隊長。旗印を見たところ、ミラルディア同盟軍のようです。所属はトゥバーン」
 トゥバーンというと、リューンハイトの北にある工業都市だな。確か、弓騎兵を保有していたはずだ。
 しかし不可解だ。


 のんびりした性格のモンザが、のんびりと首を傾げている。
「トゥバーンって、そんなに大きな街じゃないでしょう? 見た感じ、歩兵と騎兵で四百ぐらいじゃない?」
「攻城兵器の類も見あたらないな」
 鍛冶屋の息子のジェリクが、やはり首を傾げていた。


 たかだか四百の兵では、人口の割に広大なリューンハイトを包囲するのは不可能だ。かといって、城門を破る能力もなさそうだ。
 しかし狂人の集団でもない限り、勝算もないのに戦いを仕掛けてくるはずがない。
 あの兵力でリューンハイトを攻略する勝算があるはずなのだ。
 ということは、考えられるのはひとつだ。


「モンザ隊とスクージ隊は、すぐに城門前を警備だ! 不審な動きをするヤツがいたら、片っ端から捕縛しろ!」
「了解っと」
「はいっ!」
 八人の人狼が北門へと降りていく。
 俺の見込み違いであってくれればいいんだが……。
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