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人狼への転生、魔王の副官 作者:漂月

本編

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謀略の燃える音

122話


 俺は太守が市内の館に戻るのだと思っていたが、彼の行き先は意外な方向だった。
「大将、どんどん山奥に入っていくぜ。あいつ、どこに行く気だ?」
 俺はマオが作ったクラウヘン周辺の見取り図を取り出し、行き先を確かめる。
「この近くに太守の山荘がある。たぶんそこだろう」
「人間ってのはよくわからんな……なんでこんな街の外に、わざわざねぐらを作るんだ?」
 ジェリクとしては、城壁に守られていない場所に住居を建てるのが信じられないらしい。
 俺たちも隠れ里では苦労したからなあ……。


「表向きは狩りのためってことになってる」
「実際には?」
「街の中には入れたくないが、内密に会いたい。そういう人間と密談をするにはちょうどいいのさ」
「なるほど。大将、よくそういうのすぐにわかるな」
 前世で色々見てきたので、偉い人がそういう場所を隠れ蓑に使うのはなんとなく想像がつくんだよ。


 俺は太守に「人狼斬り」を返すつもりで来たのだが、さすがに今は持ち歩いていない。
「ジェリク、『人狼斬り』を取ってきてくれ。それとカイトたちに脱出の準備を」
 ジェリクはうなずいたが、少し緊張した声で訊ねる。
「大将、また何かやらかす気か?」
「いや、念のためだ。陰謀が動いているようだから、用心しないとな」  俺はそう返事をしたが、ふと気づく。
「また」ってなんだよ。


 俺はジェリクが「人狼斬り」を取ってくるまでの間、太守の様子を観察させてもらうことにした。
 山荘は木造の二階建てで、山の中腹にひっそりと建っている。
 木々に隠されるように存在している上、クラウヘン市街からは見えない位置にあるのが実に胡散臭い。
 おかげで忍び寄るのも楽だけどな。


 山荘の周囲には、クラウヘン衛兵の出で立ちをした兵士が三人。本当にクラウヘン衛兵なのかは不明だ。
 それと、山荘内には多数の人の気配があった。
 うっかり踏み込むと危ないな。
 俺は戻ってきたジェリクから「人狼斬り」を受け取ると、彼を付近の警戒に出す。
 さて、太守殿はどこかな?


 人狼は対人特化のハンターだから、人間の匂いを嗅ぎ分けるのは得意だ。一度覚えた匂いなら、警察犬のような精度で追尾できる。
 俺も初対面で人の顔を覚えられなかったときは、匂いで覚えるようにしているぐらいだ。
 貴族は何かしら香料のようなものをつけているので、識別は簡単だ。
 俺は記憶した匂いをたどり、山荘の二階に窓から潜入する。
 太守の本館ならもう少し警備も厳重なのだろうが、ここの警備は手薄だ。


 忍び込んだ場所は人気がない、会議室のような広間だった。長机が置かれていて、暖炉にはまだ真新しい薪が燃えている。薪の燃え具合からすると、これから使われる予定の部屋のようだ。
 廊下に続くドアと、奥の部屋に続くドアがひとつずつ。
 奥の部屋には人の気配。微かな物音と匂いで判別できるが、武装した大柄な男が一人いる。太守ベルッケンだ。


 微かにベルッケンの声が聞こえる。
「天に輝く我らの主よ、偉大なる光輝の救い手よ、闇を照らしたまえ。温もりを与えたまえ……」
 輝陽教の聖句だな。お祈りの時間のようだ。
 邪魔をすると悪いな。
 意外にも護衛は全員階下にいるようなので、俺は会議室で待たせてもらうことにした。
 人間の姿に戻るかどうか迷ったが、潜入中なので直前までは人狼のままでいることにする。


 ベルッケンはおそらく、ロルムンド帝国と密通している。
 そんな彼への働きかけとして最初に必要になるのは、「何もかもお見通しだぞ」というやや強めの態度だ。
 その後で、「まあそれはそれとして仲良くしない?」と軟化する方向でいこう。
 ロルムンド帝国が南部連邦をどう認識しているのかも、その中で聞いていくことにしよう。


 そう判断した俺は暖炉に一番近い上座に陣取り、「人狼斬り」を長机の上に置いて、のんびりとくつろがせてもらう。
 お祈りが終わったら下座に移動して、ちょっと声をかけさせてもらうか。
 暖炉の温もりと、薪のパチパチとはぜる音が心地よい。この音は栗だろうか。栗の薪は、燃えるときの独特の音で愛好家が多いと聞いたことがある。
 隣の部屋から聞こえる聖句も、張りのある落ち着いたいい声で子守歌のようだ。
 危うくうとうとしそうになったとき、ドアが開いた。


「なっ!?」
 ベルッケンの第一声は、それだった。がっしりした体格に精悍な顔つきの、見るからに生真面目そうな武人だ。
 しまった。タイミングをみて先に一声かけるつもりだったのだが、うっかりしていた。
 おかげで俺は上座にふんぞりかえって腕組みしているというスタイルで、ベルッケンと対面することになる。
 しかも人狼の姿で。


 しかしベルッケンは太守だけあって、動揺は最小限だった。
 俺の姿を見て緊張した表情を浮かべているが、いきなり斬りかかってきたり悲鳴をあげたりはしない。大した自制心だし、状況判断も的確だ。
 一方の俺はというと、内心で顔を覆いたくなるような気持ちで自分の間抜けっぷりを後悔していた。
 器の違いがひどすぎる。


 仕方なく、俺は腕組みしたままベルッケンを見る。
「はじめまして、太守殿。私はミラルディア連邦の評議員、ヴァイトだ」
 自分でやってきて自己紹介までしておいてなんだが、南部連邦の幹部がこんな場所にいるのってなんかおかしくないか?
 同じことはベルッケンも思ったらしく、額に冷や汗を浮かべながらつぶやく。
「ヴァイト……黒狼卿か!? 使者ではなく、本人なのか?」
「左様。まだるっこしいのは苦手でな」
 今さらどうしようもないので、もうこのまま悪役路線でいくことにしよう。


 俺は「人狼斬り」を示した。
「先日、ザリアの近くでこの剣を拾った。この『人狼斬り』、ディフォード家の家宝と聞く。それゆえお返しに参上した」
 壊してしまったことは後で謝ろう。
 するとベルッケンは軽く息を整えて、こう返した。
「私を殺す気か?」
「それなら貴殿が祈りを捧げている間に、神の御許に送っている。そうではない。『人狼斬り』を返すついでに、貴殿の陰謀について話を聞こうと思ってな」


 ベルッケンは警戒しながら、室内に入ってくる。
「『人狼斬り』は元老院が強引に持ち去ったものだ。聞けばザリア攻めの際に一騎打ちに使われたとか」
「そうだ。そのいざこざで、貴殿と元老院の関係が悪化していることは承知している。そして貴殿がロルムンド帝国と関係を深めていることもな」
 半分ぐらいは推測だが、外れていたら謝ろう。


 ベルッケンは手近なイスの背もたれに手を置いたが、さすがに人狼の前でイスに座る勇気はないらしい。
「さすがは黒狼卿だ、何もかもお見通しということか……。ではその上で、私にどんな話をさせるおつもりか?」
「なに、簡単なことだ。貴殿の謀略が連邦にどのような結果をもたらすのか、知っておきたくてな」
 それは本当に知っておきたい。
 南部連邦はこれ以上勢力を広げるつもりはないから、今後北部で何が起きようが関係ない。
 うまく折り合いをつけることはできると思う。


 ベルッケンは苦悩の表情を浮かべる。
「それは……私にもわからんのだ」
 どういうことだ?
 だが嘘をついている匂いではない。
 そのとき、俺は人の足音を感じ取った。
 人狼の聴覚にはバレバレだが、武装した人間の忍び足だ。高度な訓練を受けているような足取りだが、一人だ。
「ところでベルッケン殿。廊下に誰かいるようだが」
 俺がそう言うと、ドアがゆっくりと開いた。
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