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人狼への転生、魔王の副官 作者:漂月

本編

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人狼と裏切り官吏と悪徳商人

120話


 採掘都市クラウヘンは、ミラルディア北東部の端に位置している。ミラルディアでは最も古い街のひとつだ。偽聖女だったラシィの故郷でもある。
 北壁山脈の麓だけあっていろいろ採掘しているらしいが、一番の資源は岩塩だ。不純物を豊富に含む岩塩は色合いも美しく、色ごとに味も違う。
 ミラルディアが統一される遙か前から、ここは岩塩の一大産地として栄えてきた。


 それだけに、クラウヘン太守の家系であるディフォード家は発言力が強い。初代は人狼退治で名を挙げた英雄で、歴代太守たちも武闘派で鳴らしてきたらしい。
「元老院からすれば、やりにくい相手だと思いますよ」
 上着を余分に一枚羽織りながら、カイトが呟く。
「塩の生産っていう大事な役割があるし、岩塩の売買で金は腐るほど持ってる。おまけに元老院よりクラウヘンのほうが成立が先なんです」
 世俗的な権威だけが頼みの元老院としては、やりにくい相手だ。


 俺は彼の言葉にうなずき、ふと気づいたことを口にする。
「それにミラルディア統一戦争でほとんど損害を受けてない、というのもあるかな?」
「ああ、確かにそれもありそうですね」
 ベルーザやロッツォもそうだったからな。
 唯一の弱点が雪深い山間部にあることだが、それも考え方によっては強みでもある。冬場は攻め込まれる心配がほとんどない。


 そんな訳で、クラウヘンという街はなかなかの地位を築いているのだった。
 元老院には多額の資金を提供しているし、岩塩を安定した価格で市場に流通させている功績もあるので、元老院も強くは出られないらしい。
 そんな街から太守の家宝をぶんどっていくというのも、ちょっとどうかとは思うが。


「兵力はどれぐらいだ?」
 俺の質問に、カイトが即答する。
「衛兵は三百人ですが、猟師や元衛兵などで構成される自警団が六百人ほどいます。自警団のつながりで、市民兵もすぐに動員できますよ」
「なかなか手強いな」
「山奥ですからね。いざってときに自力で戦えないと、生き残れません」
 ラシィの故郷は、思ったよりもたくましい土地柄のようだ。


 街に入ろうとしたのだが、今回は逆にカイトの立場が少々具合が悪い。
「実は元老院からは、クラウヘンの市内には立ち入るなって言われてるんですよ。微妙な時期だから、周辺の調査だけにしておけって」
 どうやら敵の経費をせびり取って楽しむツアーも、ここまでのようだ。
 だがここからは、魔王軍の人脈が物を言う。


「心配しなくてもいい。城門に行こう。カイトの顔は強化魔法で一時的に印象を変えてやる。それでごまかせるはずだ」
「えっ? でもヴァイトさん、さすがに南部連邦の名前は出せませんよね?」
 さすがに俺も、ここで衛兵に「南部連邦からの使者だ」と名乗る気はない。どこでどう情報が漏れるかわからない以上、太守本人以外には知られないようにしたい。
 だから俺は、ちゃんと手を打っている。


 城門へと続く道端では、悪徳交易商マオがうんざりした顔で佇んでいた。
「遅いじゃないですか。そろそろ到着するはずだと思って、昨日もずっと待っていたんですよ?」
「お前が待ってなくてもいいだろうに」
 こいつは交易商や使用人を何人か雇っている。ベンチャー企業の社長みたいなものだ。


 するとマオは肩をすくめる。
「あなた本人が来るとなれば、何か大きな動きがあるんでしょう? 人任せにはできませんよ」
 俺は思わず苦笑した。
「少しは人を使ったほうがいいぞ」
「あなたが言っても、まるで説得力がありませんよ」
 マオが溜息をつくと、ジェリクも深くうなずいている。
「そいつの言う通りだ」
 だからなんなんだ。


 ただ一人、カイトだけがマオの顔をまじまじと見つめていた。
 そして静かに言う。
「お前はあのときの悪徳密輸商……」
 マオはふと首を傾げ、そして何かに気づいたようだ。
「あなたは元老院のクソ調査官じゃないですか」
「誰がクソ調査官だ!」
「賄賂を受け取らない官吏は全員クソ野郎ですよ」
 いや、それはお前が間違っている。


「なんだ、知り合いだったのか」
 俺が笑うと、カイトとマオは仇敵を見つけたような顔をして反論した。
「ヴァイトさん、こんなヤツに頼っちゃダメですよ!? こいつ、北部復興に使うとか適当なことを言って、石材を買い占めてたんですから」
 ああ、リューンハイトの城壁を建築したときのことか……。
 やっぱり何か、人に言えないような方法を使ったんだな。
 するとマオは澄ました顔で反論する。


「北部復興に使うという名目で集めてたんですから、いちいち調べなくてもいいでしょう。賄賂だってたっぷり渡したんですし」
「ふざけんな! 元老院の調査官が賄賂なんか受け取るか!」
 カイトが怒るが、マオはさらりと流した。
「あなたの上司は、喜んで受け取ってくれましたよ?」
「なっ!?」
「おかげさまで、石材は無事に買い集められました」
「この悪徳商人め!」
「清廉であろうとする姿勢は尊敬しますが、濁流に清水を一滴落としても無駄ですよ」
 ひどいヤツだ。


 俺が事前にマオに連絡を送っておいたので、俺たちはマオの部下ということで無事にクラウヘン市内へと入ることができた。
 宿に向かって歩きながら、彼は俺たちに念を押す。
「三人とも私の使用人という扱いですから、問題は起こさないでくださいよ?」
「もちろんそのつもりだが、保証はしかねるな」
「……まあ、そう言うと思ってました。塩田の件、本当に頼みましたよ?」
 俺とマオの会話を聞きつけて、カイトが嫌そうな表情を浮かべる。
「おいマオ、お前また何か悪だくみしてるな!?」
「元老院関係者が南部連邦の話に口を突っ込まないでもらえますか?」
 なんでもいいから喧嘩をするな。


 人狼と裏切り官吏と悪徳商人の集団で街を歩いていると、街の北側の様子が見えてきた。
 採掘都市クラウヘンの北側は城壁がなく、切り立った崖が壁のようにそびえ立っている。天然の城壁だ。
 崖の中腹には、今はもう採掘されていない岩塩の廃坑があちこちにある。ここが昔、小さな鉱山街だった頃の名残らしい。
 今は街の外に採掘場があって、そっちで掘っていると聞いた。
「あの廃坑は、今はどうなってるんだ?」
 俺の質問に、カイトとマオがほぼ同時に答える。
「貯蔵庫らしいですよ」
「貯蔵庫ですね」


「お前は黙ってろ」
 カイトがにらむと、マオが笑う。
「あなたは実際に見た訳ではないでしょう? 私はクラウヘン商工会の管理する廃坑に、実際に入ったことがありますよ」
「俺が行くと連中の不正がバレるから、なかなか入れてくれないんだよ」
「ほら見なさい。清廉すぎて毛嫌いされてるじゃないですか」
「それが俺の仕事なんだから、しょうがないだろ!?」


 この調子で喧嘩をされると困るので、俺は二人をたしなめる。
「二人とも、頼むからおとなしくしててくれ」
 するとカイトとマオは真顔でうなずいた。
「ヴァイトさんの頼みなら、しょうがないですね」
「ヴァイト様の頼みでしたら、喜んで」
 そしてまたにらみ合う二人。
 ずっと無言でついてきたジェリクが、頭の後ろで手を組みながら呟いた。
「人間ってのは、めんどくさいな……」
 まったくだ。
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