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人狼への転生、魔王の副官 作者:漂月

本編

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「カイト調査官の動揺」

116話(カイト調査官の動揺)


 嘘だ。俺は今、悪夢を見ているに違いない。
 あの伝説の人狼、悪夢の化身が目の前にいるなんて。
 一番出会いたくないヤツに出会ってしまった。最悪だ。


 俺は探知魔法の使い手、過去を見通す魔術師だ。
 情報の扱いは心得ている。
 もちろん、不要な情報には決して触れないよう、厳しい訓練を受けてもいた。知りすぎた者の末路は知っている。
 だが今回ばかりは、その用心が裏目に出てしまったらしい。


 ザリア太守シャティナ卿の家庭教師だと思っていた、理知的で穏やかそうな男。
 ただの側近だと油断していたら、とんでもない化け物だった。勝ち誇ったような笑顔を浮かべながら、この男は人狼に変身したのだ。
 それもただの人狼じゃない。
 リューンハイトの黒狼卿。
 魔王の代理人と称される、最強最悪の化け物だ。
 俺は馬鹿だ。間抜けだ。
 この邪悪な魔族は、俺が油断して何もかもベラベラしゃべるのを、愉悦を含みながら聞いていたに違いない。


 魔王軍と太守たちを対立させるために、元老院が仕組んだ罠。
 太守たちに反魔族の思想を吹き込むというあまりパッとしない策略に、俺は最初から乗り気ではなかった。
 だが命令は命令。元老院の忠実な官吏として実行に移す。
 そしてそれを全部、魔族に聞かれてしまった。
 俺はどれだけ馬鹿なんだ。
 元老院のお偉方といい勝負だ。


 こうなったら俺は殺されるだろう。投石機の石弾を打ち返してくるような化け物だ。逃げきれる可能性は全くない。
 俺が探知魔法で読みとった過去の情報には、このナイフの持ち主が殺される瞬間まで記録されていた。
 戦いを挑もうとした瞬間、ナイフの持ち主は何もできずに首をもがれていた。自分が殺されたことにすら、最期の瞬間まで気づいていなかった。
 俺みたいなただの人間が、どうにかできる相手じゃない。


 くそっ、いつもこうだ。いつも裏目だ。
 がんばってもがんばっても、何も報われやしない。言われた通りに職務に励んで、頭を下げて、見下されて、それでも働いてきたのに。
 元老院のアホどもにこき使われて、任務にも失敗し、挙げ句の果てにこんな場所で人狼に殺されようとしている。
 なんでこんな目に遭わなきゃいけないんだ。


 目の前では地獄の闇を切り取ったような人狼が、牙を剥き出している。膨大な魔力が渦を巻いて、辺りを支配している。
 これが人狼の王と名高い黒狼卿の力か。
 恐怖で目がくらむ。
 四百人の兵を皆殺しにし、二千の軍勢を蹴散らし、勇者すら噛み殺したという、殺戮の化身。
 ただの一撃でトゥバーンの城門をぶち抜いたという噂も、この威圧感を見れば納得できる。
 変な話だが、感動すら覚えてきた。
 確かにこれなら、何もかもぶっ飛ばせるだろう。
 究極の暴君、無敵の破壊者だ。


 笑っている。
 人狼が笑っている。
 お前などいつでも殺せるといわんばかりに、人狼が笑っている。


 笑え、笑いたければ好きなだけ笑えよ。
 どうせ俺なんか、笑われる程度の価値しかない小物だ。元老院に嫌気がさしつつも、元老院から給金をもらって生きている小物だ。
 だが怪物に笑われながら、馬鹿な密使として死ぬのも気に入らない。
 せめて最後ぐらいは、俺は俺として死んでやる。
 もう元老院なんか知ったことか。
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