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人狼への転生、魔王の副官 作者:漂月

本編

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「元老院の密談」

109話(元老院の密談)


「これより元老院最高機密会議を執り行う。おのおの、着席されよ」


「それでザリアの件、どうなった?」
「メルギオは始末した。あの強情者め、冥府で後悔しておるだろうよ」
「後継者のシャティナは扱いやすい小娘だ。魔王軍との間に亀裂を入れるのはたやすいこと」
「魔王軍にメルギオ暗殺の疑惑を被せるぐらい、造作もないからな」
「万が一しくじったときは、シャティナも消してしまえばよい。太守の任命権は元老院が握っておる。手頃な傀儡を送り込め」


「しかし残ったザリア市民が蜂起して、魔王軍に肩入れする可能性も……」
「なくはないが、そのときのための常備軍であろう?」
「城塞都市ウォーンガングに駐留する投石機軍団が、ザリアの塔など打ち崩してくれるわ」
「城壁を持たぬ都市など、いかようにでもできる」


「申し上げます。ザリアに潜入中の部隊より、メルギオ暗殺に成功したとの報告です」
「ご苦労。それでシャティナはどうしている?」
「それが……魔王軍の部隊に護衛されて逃亡したところまでは判明しているのですが、以降の連絡がありません」
「どういうことだ?」
「逃亡したということは、我らの陰謀だと気取られたようだな」


「だが百人近い暗殺隊を編成して送り込んだのだぞ? 連絡がないということはあるまい」
「かといって、敵に寝返るとも思えぬ。よもや全員……」
「まさか」
「しかし魔王軍がザリアに送り込んできた外交官は、あの人狼の副官らしい」
「ヴァイトとかいったな」
「あやつか……忌々しい怪物め」


「なに、案ずるには及ばぬ。投石機軍団にはすでに出撃を命じておる。ザリアを破壊し、南部への見せしめとすればよい」
「しかし例の人狼がいるとなれば、そう簡単にはいかぬのではないか?」
「それも織り込み済みだ。ほれ、剣豪ヴォルザーブを知っておろう」
「あの大剣使いか」
「ランハルト計画の候補にも挙がった達人だな」
「左様。あやつに魔剣『人狼斬り』を与えておいた。戦場でまみえることがあれば、あれで人狼の副官めをしとめよ、とな」


「しかし『人狼斬り』の大剣といえば、クラウヘン太守の家宝。よく借り受けられたな」
「借り受けられるものか。元老院の権限で徴発したまでよ」
「それは……いささかまずかったのでは?」
「何を言う。太守は元老院の下僕に過ぎぬ。主従はわきまえてもらわねばな」
「ふむ。まあ事が終われば返せば良いのだし、その際に適当に感状でも与えておけば十分か」


「大変です!」
「何事だ、神聖な会議中だぞ!」
「投石機軍団がザリア攻略に失敗しました!」
「なっ!?」
「ありえぬ! 説明しろ!」


「報告によりますと、魔王軍の人狼ヴァイトと名乗る者が単身で撃退したとのことです。全軍による矢も投石も通じず、打つ手がなかったと」
「馬鹿馬鹿しい。おぬしらは知らんだろうが、人狼は奇襲を本分とする怪物だ。二千もの軍勢と正面から渡り合う力などあるものか」
「しかし現に……」
「それにだいたい、ヴォルザーブはどうした! あやつほどの腕前なら、相討ち覚悟であれば致命傷を与えられよう!」


「そ、それが……ヴォルザーブ様は戦死なさいました。一騎打ちを挑まれたのですが、ただの一撃で」
「役に立たぬヤツめ! ヤツの剣は回収したであろうな!?」
「いえ、軍が敗走してしまったため、投石機八基を含む装備の大半が戦場に遺棄されました。全て魔王軍に回収されてしまった模様です」
「なんというざまだ! 隊長たちを罷免せよ!」


「落ち着け、今は味方の処罰どころではない。策が完全に裏目に出てしまったぞ」
「再攻撃の準備をせねばならん。他に稼働する投石機はないか?」
「あるものか。統一戦争から何十年経ったと思っている」
「では北部から兵を集めるしかないな」
「無茶を言うな。魔王軍にさんざん痛めつけられたばかりだぞ。北西部の都市は復興の最中だ」


「北東部もクラウヘンは協力すまい。ただでさえ、最近あの街は反元老院派の不穏な動きが目立つ。太守の家宝を返せぬとあれば……」
「やむを得ぬ。シャルディールとヴィエラに討伐軍を組織させよ」
「あやつらは果たして、今も味方なのか? 位置関係を考えれば、シャルディールなどは相当怪しいぞ」
「過去の経緯を考えれば、ベルーザとロッツォも間違いなく反旗を翻すであろうしな」
「南部の都市は危なくて使えんな」


「ならば救国の英雄を作り出して、民衆の士気を鼓舞する案はどうだ? 義勇兵と資金を集めやすくなろう」
「ランハルト計画で痛い目を見たのを忘れたか」
「民衆も馬鹿ではない。同じ手はあと数年は使えまい」
「あれを潰してくれたのも、あの人狼だったな。忌々しい……」
「となると、兵を集めるのも難しいか……」


「……やはり、南部にも北壁山脈の件を伝えるべきでは?」
「その上で協力を求めろと? 馬鹿なことを言うでない。この期に及んで南部の連中に弱みを見せられるものか」
「その通り。逆に南北から挟撃を受けて、我らが滅ぼされるだけだ」
「我らがこの席に着く遙か昔に、融和路線は閉ざされたのだ。無念だが、今さら後には退けぬ」


「ならばいっそのこと、北壁山脈の向こうに使者を送るか?」
「なっ!? それこそ自滅行為ではないか!」
「我らの祖先が何のためにここまで逃れてきたと思っている!?」
「だがこのままでは、南部の諸都市は雪崩をうって魔王軍に味方するぞ」
「しかし……」
「まあ待て。ここはひとまず、魔王軍の出方をうかがうことにしよう」
「どういうことだ?」


「落ち着いて考えてみるがいい。魔族どもがいつまでも人間と協調できるはずがなかろう?」
「確かに南部者は頑固で分をわきまえぬ。そして魔族は傲慢で凶暴。そりが合うはずもない」
「左様。南部の連中もすぐに考えを改め、我らに泣きついてくるに決まっておる」
「なるほど、それもそうだな」
「魔王軍と南部の同盟が崩壊したところで、一気に進軍。魔王軍を討伐し、南部の諸都市を解放する」
「そうなれば南部ももはや、我らへの服従を拒否できまい」


「しかしただ座して敵の自滅を待つというのも、無策の極みよ」
「であれば例のヴァイトとかいう人狼、今のうちに排除しておいたほうが良いのではないか? 兵が怯えて使い物にならん」
「今回の件といい、やりづらくてかなわぬ」
「しかしヤツに太守殺しの汚名を着せる策は失敗したぞ」
「では暗殺……は、失敗したのであったな……」
「どうする……」
「どうと言われても……」


「いや、そのヴァイトという男、これだけ名を轟かせているとなれば相当な野心家に違いあるまい」
「しかも要職にありながら、ほぼいつも手勢のみで最前線を飛び回っておる。おそらく大した軍権は与えられておらんのだ」
「つまり魔王軍内部では疎まれていると?」
「おそらくな。ミラルディア同盟とて、そうであろう?」
「確かにこれほどの実績があれば、早めに潰しておかねば上の者の地位が危うくなる」
「眩しすぎる光は直視できぬ。そして、光を見る者の背中に暗い影を作るのだ」


「野心家ほど足元をすくいやすい者はおらん」
「特に、実績に見合う処遇を得ていない野心家はな」
「なるほど、餌で釣って勇み足になったところを失脚させるという寸法か」
「左様。大股で歩く者ほど、転ぶときは派手に転ぶものよ。魔王軍に与える打撃は計り知れぬであろうて」
「ではさっそく、その方向で策を練るとしよう」
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