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人狼への転生、魔王の副官 作者:漂月

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人狼の逆襲

107話


 ミラルディア同盟軍は、完全に腰砕けになっていた。
 矢も投石機も全く通用しない。接近戦を挑めば、矢の雨と人狼が待っている。
 一騎打ちを挑んだ騎士は一撃で死んだ。
 そんなふうに思っているところだろう。
 実際は俺ぐらい、全兵力二千人で押し潰せば簡単だ。
 ただし俺と戦う最初の何人かは間違いなく死ぬ。
 その何人かになりたいヤツは、今はもう誰もいないようだ。


 俺だって二千の軍勢は怖いが、ここは度胸だ。悪役らしさをにじませて、不敵に笑ってみせる。
『次は誰だと聞いているのだ』
 俺は敵兵の存在を無視しているかのように、ゆっくりと前進を開始する。
 それと同時に、人狼たちが一斉に遠吠えを始めた。


『おいヴァイト、なにやってんだよ!?』
『ストップ! ヴァイトくん、ストップ!』
『隊長がまた突撃しようとしてるぞ、誰か止めろ!』
『しょうがねえ、俺たちも行くぞ!』
『おう!』


 ……このような感じで俺は背後から仲間の苦情を浴びているのだが、人狼の遠吠えは人間には理解できない。
 やがて俺の背後に、人狼たちがマントを翻しながら続々と続いてきた。


『隊長、まじで突撃するんですか!?』
『いや、どう考えてもヤバいだろ? ヴァイト、戻ろうぜ!』
『でも見ろよ、敵が逃げかけてるぞ』
『どういうことだ?』


 あー、うるさい。
『お前ら、危険だからついてくるな!』
 思わず叫んだら、全員から怒濤のようなツッコミが返ってきた。
『危険なのに、隊長だけ行かせる訳にはいきませんよ!』
『なあヴァイト、もう突撃しないって言ったよな? 言ったよな?』
『いい加減に立場を理解しろよお前は!』
『無茶するなって、何回言えばわかるのかな? お姉さんそろそろ本気で怒るよ?』
 とんだ藪蛇だった。


 しかしこの「人狼たちが吠えながら前進してくる」というのは、士気低下中のミラルディア同盟軍にとっては相当な恐怖だったらしい。
「ばっ……化け物だあ!」
 敵陣で誰かが叫ぶ。
 それが士気崩壊の引き金となった。
「リューンハイトの悪魔が来るぞ! 逃げろ!」
「こ、こんな戦争してられるか!」
「あの迷宮の守護者がいる限り、どうしようもねえよ!」


 隊列両脇の弓兵たちが、そそくさと弓を担いで逃げ始める。
 投石機隊はというと、投石機をそのままにしてとっくに逃げ出していた。
 こうなると最前線で踏ん張っている槍隊も、何のために留まっているかわからなくなってくる。飛び道具の支援がもうないのだ。
「弓隊待て、逃げるな! くそっ! おい鼓手、退却だ! 槍隊全員に退却命令!」
 槍隊の指揮官らしいのが叫び、太鼓が鳴らされる。


 指揮官の許可が出たとなれば、もう戦う理由はない。
 槍隊は大盾も槍も投げ捨てると、身軽になって駆け出した。
 一番遠くまで逃げたヤツが、一番安全になれる。重い武具なんか持っていられない。
「逃げるんだ! 早く!」
「退却! 退却しろ!」
「うわああぁ!」
 鎧が重装備で足の遅い槍隊はパニックだ。見ていて気の毒になるぐらい逃げ足が遅い。


 ハマームが俺の横に来て、ぼそりと訊ねる。
「どうします副官、追撃しますか?」
 俺は苦笑した。
「無理に追う必要はない。無事に帰ってもらって、俺たちの恐ろしさを広めてもらおうじゃないか」
「承知しました」
 俺がずんずん歩いていくと、俺からなるべく遠ざかろうとミラルディア兵たちが散り散りになる。
 恐がりすぎだ。
 来たときの倍ぐらいの速さで、彼らは丘陵地帯の彼方に姿を消してしまった。


 敵が誰もいなくなってしまった戦場で、俺は頭を掻く。
「なんだかあっけなかったな」
 すると人狼たちが大笑いした。
 気楽なものだ。まともに戦ってたら、このうち何人が戦死してたかわからないんだぞ。
 だが敵が逃げてくれたおかげで、人的被害はゼロだ。
 この幸運がいつまでも続くはずはないが、とりあえず今回はこれでよしとしよう。


 敵がまた戻ってきたら面倒なので、俺は後片付けの指示をする。
「落ちてる武器はありがたく全部もらっておけ。投石機も分解してザリアに運び込め。無理なら破壊しろ」
「おう大将、うちの分隊に任せてくれ」
 そう応えたのは鍛冶師のジェリクだ。
 こいつの分隊には、鍛冶師と大工と石工がいるからな。何とかしてくれるはずだ。
 俺は……あの騎士でも弔っておくとしよう。
 ん? こいつの大剣、微妙に魔力を感じるな。あまり強力ではないが魔法の剣だったようだ。
 ちょっと調べてみるか。


 俺はザリア市街に戻ると、シャティナに鎧を返した。
「父上の鎧が俺を守ってくれた。この鎧が、ミラルディア同盟軍を追い返したんだ」
 ちょっと誇張気味に俺が言うと、シャティナは目を潤ませながら何度もうなずいた。
「ありがとう、ヴァイト殿。私は……」
 言葉が見つからないらしい。
 彼女が必死に太守らしい威厳を保とうとしているのが不憫で、俺は彼女の頭をくしゃくしゃと撫でてやる。
「無理して太守らしいことを言わなくてもいいんだ」
 シャティナはうつむくと、鎧を抱きしめて大声で泣いた。


 その後、俺たちはザリア衛兵隊と協力して内通者探しを始めた。
 俺がぶん殴った例の高官が情報を漏らしていたのは間違いないが、他にもいるかもしれないからだ。
 案の定、疑わしい衛兵が何人か見つかり、彼らはひとまず投獄された。取り調べはザリア側に任せることにする。
 なお、例の高官はいつの間にか毒殺されていた。口封じに敵が始末したらしい。
 お似合いの末路だが、尋問しておきたかったな。


「あの男め! 父上に重用された恩を忘れて裏切るとは! 私が自ら斬ってやろうと思っていたのに!」
 仇討ちに燃えるシャティナに、俺は言い聞かせる。
「裏切り者というよりは、最初から元老院の手先だったんだろう。その程度の下っ端に次期太守がいちいち手を下す必要はない。敵は元老院だ」
「しかし……」
「血の気が多いと損をするぞ」
 俺がたしなめると、人狼たちがなんか言っている。
「隊長が言ってもなあ……」
「魔王軍で一番血の気が多いのは、あの人じゃないか?」
「真顔で平然と突っ走っていくから困るんだよな」


 俺はシャティナを振り返って、思わず苦笑いする。
「ほらみろ、血の気が多いと損だろう? あんなに頑張ったのにな」
 不満そうだったシャティナが、それを聞いて思わず吹き出す。
 それから俺を見上げると、ちょっとにらんだ。
「ヴァイト殿は、その……ずるい、です」
「血の気が多いとかずるいとか、俺の評価はさんざんだな。まあいい、それよりもザリアの防衛計画をまとめよう」


 俺がそう言ったとき、ザリア衛兵が駆け込んできた。
「東から接近する軍勢があります! 騎兵のみで、およそ千騎弱!」
「千騎!?」
 シャティナが慌てる。
「しょ、所属はどこだ!?」
「ミラルディア同盟軍です!」
 まずいな、また戦か。


 そう思ったのだが、様子を見に出たアイリアが戻ってくる。
「旗印は確かにミラルディア同盟軍ですが、ヴィエラとシャルディールの軍旗も見えます。軍勢の一部はシャルディール兵ですね」
「では、アラムの交渉がうまくいったということかな」
 念のためにもう少し様子を見ようと思っていると、新たに伝令が駆け込んでくる。
「ヴィエラ太守様、シャルディール太守様が直々に救援に来られたとのことです! 援軍はヴィエラ騎兵隊六百、シャルディール弓騎兵隊二百!」
 どうやら投石機相手にバレーボールをする必要はなくなったようだ。
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