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第12話-寒冷対策
 クザン中将。
 原作の青雉大将であり、ニコ・ロビンの件などに代表される、ガープ中将と並ぶ人情味のあるキャラクターである事から、自分も好きなキャラクターだった。
 ……そう、だった、だ。
 何故過去形なのか?
 それは……漫画と現実は違う、って事をつくづく噛みしめているからに他ならない。

 考えてみれば、当たり前の話なのだが、クザン中将とて年がら年中命令違反を犯している訳ではない。
 彼は海軍のお偉いさんであり、当然基本的には命令に服している。そうした中で極稀に、どうしても納得のいかない命令や状況などによって、彼は命令違反を覚悟して、行動している。
 そして、これまた当たり前の話なのだが、命令違反の行動である以上、部下にも隠しての隠密行動となる。
 結果、我々の前に残るのは……仕事をサボりまくる上司の姿だけなのだ!
 漫画では、そんな日常がずっと描かれる訳はなく、陰で苦労している部下を尻目に、独自の動きを見せて、物語に絡む場面しか描かれない。
 だから、そうした、苦労してる海兵達が知らない行動を見て、漫画の読者は『いいキャラだなあ』と感じる訳だ。

 さて、では、そうした苦労している自分達はどうだろうか?
 今回の異動で俺は少佐になった。
 直属の上司はクザン中将づきの大佐だ。そうして、今日もまた……。

 「それじゃ、後任せるわ。適当にやっておいてくれ」

 クザン中将が、書類をまだ残したまま、そう言って立ち上がった瞬間、俺の手元で書類が皺になるのを理解しつつも、ぐしゃりと握り締められた。
 正面の席で仕事をしている大佐の手元でバキリと何かが砕ける音がした。
 愛用のアイマスクをつけたまま、外へ出て行こうとするクザン中将に俺達2人の怒声が響き渡った。

 「「仕事しろーーーーーーーーーっ!!」」

 サカズキ中将は確かに鬼のように厳しかった。
 部下に対して求められるものも多大だったが、当人がそれ以上に、艦で一番仕事をこなしていたから、まだ諦めもついた。
 クザン中将はそれとは逆だ。
 さて、現実に仕事をしているサラリーマンの皆さん。或いは未だ学生の身なれど何時かは働く事になる皆さん、少し考えてみて欲しい。
 自分達が一生懸命仕事をしている横で、自分の仕事を片付けもせず、それどころか部下に仕事押し付けて、自分は居眠りしている上司がいたら、どう思うか?
 答えは各自多少異なるだろうが、どう考えても良い気持ちになれない事だけは理解してもらえると思う。
 これで、せめて突然いなくなったりした時、何をしているのか。
 或いは漫画で見られるような、人情味ある行動を見せてくれてたりしたら、まだ多少は俺としては気持ちが落ち着くかもしれない。
 だが、そんなものは全然見せない。
 当然だろう、逃げたのがばれた、とはいえ、当人が関わったという事を海軍全体に隠しとおしたまま、昨年はオハラでニコ・ロビンを逃がしてるのだ、この人は。
 部下にそう易々と気付かれる程やわな仕事はしていない。
 
 加えて厄介なのは、クザン中将のヒエヒエの実の効果だ。
 この実は、原作を知る人なら知っていると思うが、攻撃力に関しては他の2人、黄猿大将や赤犬大将に大きく劣る。しかし、その実の最大の力は、本来弱点である筈の海が弱点にならない、という点に尽きる。
 何しろ、白ひげのグラグラの実による攻撃を受けて、バラバラになって海に落ちても、そのまま湾全体を凍らせて、浮上した白ひげのモビー・ディック号含めた4隻を閉じ込めてしまう程だ。
 お陰で、クザン中将は自身が悪魔の実の能力者でありながら、海に落ちたら、という心配をせずに自転車で海を渡る。
 まあ、早い話が、軍艦から自転車でこっそり抜け出されたら、追いかけようがないという事だ。
 
 まあ、彼の放任主義は、部下に任せるが、責任は自分が取るとしている分まだマシではある。
 信頼出来る部下に仕事を任せ、その結果起きた事柄で不都合が生じても、その責任からはクザン中将は逃げない。それは任せた自分の責任として認めているからだ。
 だが……それでも、だ。それでも、山のような仕事を押し付けられて、当人は気持ちよく昼寝してたら、矢張り腹は立つのだ。
 お陰で、異動が決まった時は楽しみだったのが、今ではすっかりサカズキ中将が懐かしくなってしまった……それに気付いた時には漫画読んでた頃とはえらい違いに自分でも愕然としてしまったものだった。


 さて現在、自分達が乗った軍艦は北の海を航行している。
 自分が異動になった理由は、説明されたが、どうやら上層部はとことん自分に不利な状況を今の内に体験させておく腹らしい。まあ、自分としてもいざという時頼れる上司がいる内に体験出来るのは良い事なので、文句を言う気はないのだが。
 寒冷地で自分の能力がどうなるか試してみたが、矢張り粘つきを感じるというか、固体化に近づいているようだ。
 ただ、尾を操る難易度は多少増すものの、元々自分は本来液体の水銀を攻撃の瞬間固体化している。
 つまりは、逆に攻撃は楽になる訳で、そういう意味では、どっこいどっこい、という感じだった。
 
 問題は、完全に固体化した時だ。
 これに関しては、クザン中将による『氷河時代(アイスエイジ』で実験を行った。
 まず、凍っても通常の超人系や獣人系の能力者のように動けなくなる、という事はなかった。
 自然系以外の能力者がこれを喰らった場合、固まって動けなくなる。砕かれれば、命を失うのだが、自分は固体化こそしたものの、普通に金属の体として動けたし、砕かれても再生出来た。

 『お前さん、本当に超人系の能力者としては規格外だね』

 と呆れたように言ったのは、クザン中将だ。
 いや、貴方達自然系の規格外に比べれば可愛いもんです。
 しかし、改めて自分の能力が『防御に関しては自然系並』と言われる理由が実感出来た。
 ただ、攻撃に関してはさすがに固体化してしまうと、『九尾』の使用は困難という事が分かった。動かすのにかなり力が必要な感じで、これでは普段のように自由自在に動かすのは厳しい。
 武器を生成するのはむしろ簡単なのだが……。

 『お前さん、武器の扱いは並だね』

 と、試しに武器を生み出して戦ってみたら、クザン中将に言われた。
 まあ、仕方ない。以前は武器の扱いも学んでみようと思っていたのだが、実際は無理だった。アレもコレもと手を出しては、どうしても器用貧乏にならざるをえない。
 それよりは誰にも負けない『唯一』を!と思い、素直に拳を鍛えている。
 何しろ、自分は幸いな事に武器と殴り合っても大丈夫な体だ。その為、当初予定では刀とかを習う予定だった未来のモモンガ中将(まだ大佐だった)らとは、結局、戦闘技能の鍛錬の相手としてだけお願いする形になっている。
 そこで、最近寒冷地用として、新たな技を作ってみた。

 「うおっと!」

 体から飛び出した槍が掠めて、クザン中将がかわした所へ更に襲い掛かる槍。
 現在の場所は極北地域にある海軍支部の一つ。
 この地域は朝晩には極端な温度低下が見られ、ここでは自分の体というか水銀も凍結する。 
 そこで単純に体から槍状の水銀を飛び出させる技を作ってみた訳だ。
 何しろ、元が柔らかかろうが、水銀はれっきとした金属。固体化すれば、人間の体なんぞ尖ってれば貫ける。
 移動に関してだが……。
 こちらは固体化するのを逆利用して、足の裏に車輪を作ってみた。所謂ローラーブレードって感じのを車軸を高速回転させて動く。
 
 「つか、お前っ!槍にさりげなく覇気纏わせてないか、っ!」

 「やだなあ、そんな訳ないじゃないですか」
 
 「ええ、全くですな。全く覇気なぞアスラ少佐は混ぜておりませんぞ。中将の見間違えでしょう」

 実を言えば、現在模擬戦でクザン中将に向けて連射される槍の中、牽制に突き出される槍にさり気なく覇気を混ぜてみたりしている。
 ……観戦中の大佐と目が合い、2人してニヤリと笑った。
 
 「お前らっ!俺が普段仕事してない事絶対根に持ってるだろうっ!」

 「「いえいえ、とんでもない」」

 ええ、思い切り根に持たせて頂いてます。
 本当に、サボるのも大概にせーよ、あんた自分達の上司なんだからさ。
 
漫画で見る限り、上司に欲しいのはクザン中将な気がしますが、実際に現実世界にクザン中将みたいな人が上司だったら、たまらんだろうなあ……と思いつつ書きました
私も社会人ですが、仕事をしない上司には本当に頭にきました……


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