【-1日目~】ダイジェスト型異世界トリップ補助型大魔導師 Part,1【30日目まで】
異世界生活-1日目
面接へ赴く車中、唐突に前のキャリアカーから落ちてきた廃車によりオレはこの世界と別れを告げた。
気づけば白い世界で妙にノリの軽い爺さんに異世界への転生話を持ちかけられる。
他に選択肢もないので承諾すると、ポイントを与えられ、そのポイントを使ってスキルを選べといわれた。
趣味で読んでいた異世界物小説によくある設定であったため苦笑しつつも選択開始。
生粋の現代日本人であるオレは剣などの武器なんて使えない。
せいぜいがずっと続けている空手くらいなものだ。
しかし魔物がいるらしい世界で空手が通用するとは思えない。
それ以前に魔法が使いたい。
結果、オレは魔法系のスキルを充実させた。
ここで爺さんから1つ忠告が来る。
魔法は3種類のどれかに特化させた方がよいらしい。
攻撃、回復、補助。
この3種類だ。
そうしなければどれも中途半端で面白味がないらしい。
さらにはどれかに特化してくれればおまけとして病気になりづらい体をくれるそうだ。
そういえば選べるスキルに病気耐性のようなスキルはなかった。
これはぜひともほしい。
そしてオレが選んだのは補助だった。
異世界生活1日目
異世界に降り立ってまず確認したのはもらったスキル。
ここであの爺さんがかなり悪辣な存在であることが判明した。
なんと異世界物の定番とも言える異世界語や鑑定といったスキルが魔法にしか存在しないのだ。
もしも魔法特化にしなかったり、特化させた際の選択肢を間違っていたらオレはとてつもない苦労をするはめになったみたいだ。
なんと攻撃と回復に特化した場合翻訳魔法と鑑定魔法が使えなかったのだ。
危なかった。
あのジジイ、やべぇ。
しかし何はともあれ、オレは翻訳魔法や鑑定魔法がある補助魔法特化。
ひとまずは安心だ。
初期位置はどうやら見渡す限りの大草原。
今のところ敵影――魔物もいないのでさっそく魔法を試してみた。
オレの選択は間違っていなかったどころかかなり汎用性があることが判明した。
即効性はないが治癒能力を向上できる補助魔法や、身体能力を引き上げる補助魔法。
さらには武器や防具に魔法を付与できる補助魔法といったかなりの汎用性をもっていた。
さっそく索敵魔法で周辺一帯を調査するといつの間にか魔物が近づいていたらしい。
身体能力補助と拳に炎を付与し、治癒能力も向上させると戦闘準備は整った。
もともと空手をやっていたので襲い掛かってきた魔物――狼のようなやつはあっさりと撃滅できた。
飛び掛ってきたところへ前蹴り一閃。
めり込んだ爪先から炎が広がりそれで終わりだ。転がった死骸から炎が草に燃え移ったときはあせったが。
道を探しながら移動し、襲ってくる魔物を返り討ちにする。
街道を発見するまでに返り討ちにした魔物の数はかなりの数にも上った。
ここはどうやら危険地帯のようだ。あのジジイ……。
街道に出てからは魔物の襲撃は減ったものの街の近くに行くまで人と遭遇することはなかった。
無事街に入れた。
入街税とかは特になかった。
翻訳魔法のおかげで言葉は問題なかったが、補助魔法特化にしなけれ大変なことになっていたのは言うまでもない。
街は所謂城塞都市であり、中世ヨーロッパ調だったが糞が垂れ流されていたり異臭が立ち込めていたりはしていなかった。
門番に聞いたところ魔物素材の買取所は定番の冒険者ギルドの外に設置してあるらしいので売却してみた。
ギルド登録などはせずとも、誰でも売却できるらしい。
ギルド登録には金がかかるし、審査も必要らしいので助かった。
……ただ補助魔法の亜空間収納に死骸丸々入れてきたので解体料金を別途取られた。
現代日本人に解体なぞできると思うなよ。
ひとまずまとまった金が手に入ったのでお奨めの宿を聞きそこへ宿泊した。
異世界生活2日目
目が覚めたら全て夢だった、という儚い思いは当然ながら儚く散った。
今日は道中拾った癒草、苦毒草、痺毒草、乱毒草などを使ってポーションを作ってみることにした。
補助魔法には調合魔法というものが存在する。
魔物を撃滅してそれを売って生計を立ててもいいがどうせならポーションを作りたい。
補助魔法には様々な生産系魔法があるようなので活用するべきだろう。
それに攻撃や防御に関する補助魔法はそれなり程度の威力しかでない。
怪我の治療も即効性があるわけではないのであまり危ないところへはいけないだろう。
調合魔法を使う際には道具があるとクオリティや量が向上するらしい。
なので買ってきた。
そこそこの出費だったが必要経費である。
まず出来たポーションはローポーション。
調合魔法があり、魔法特化のスキル構成であるオレが行えばかなりのクオリティのポーションが作れてしまうようだ。
チラッと冒険者ギルドで確認しておいたポーション系の値段を考えてもなかなかだろう。
完成したローポーションはポーション系のアイテムの中でも下級品。
だがそれぞれにクオリティランクがある。
オレが作ったローポーションのクオリティは希少級。
下から4番目のレアリティだが、冒険者ギルドで販売されていた100mL程度の希少級ローポーションで昨日倒して売却した狼モドキの総額の約83倍にもなる。
癒草5本と魔力水――練成という補助魔法で水から作れる――で作れるのでこちらの方が遥かに効率的だ。
あぁちなみに癒草は街から大分遠い、狼モドキがたくさんいる場所にしか生えていなかった。
しかも癒草は苦毒草や痺毒草なんかと見た目そっくりだ。
鑑定魔法がなければオレには区別がつかない。
さらには毒草系の方が遥かに生えている。
まぁ採ってきた癒草はまだある。
亜空間収納は時間が止まるので劣化もない。
実に便利だ、補助魔法。
しかし攻撃や回復特化では取得できない魔法だったので本当に危うい選択肢だった。
調合道具を購入したときに店員から教えてもらえたのだが、ポーション系のアイテムは統一された規格の瓶に入れて販売しなければいけないそうだ。
その瓶には極々簡単な特化された鑑定魔法が付与されており、中の液体のクオリティが瓶に表示されるらしい。便利だ。詐欺防止にもなる。
というわけで、一緒に購入してきた瓶に完成したローポーションをいれていく。
癒草5本で100mL瓶10本分できたようだ。
ちなみにクオリティを落として量を増やすことも出来る。
魔力水と調合魔法がなければ出来ないが、希少級ローポーション100mLを薄めて1つ下の上級にすると10倍の量になる。
も1つおまけに1つ下の中級にすると、さらに10倍。
最下級となる下級でさらに10倍。
希少級100mLで下級が100L分できてしまう計算だ。
ポーションは基本100mLで販売されているようなので下級ローポーションで販売したらかなり稼げる。
だが作るのにも量が量だけに時間がかかる。
かなり面倒くさい作業になるだろう。瓶の購入などもあるし、余程暇でもなければやらないだろう。
異世界生活3日目
冒険者ギルドにローポーションを売りつけに行った。
この街――ファラの街では慢性的なポーション不足らしい。
いやこの街だけじゃない。大抵の場所でポーションは慢性的に不足している。
ポーションは基本的に消費期限が存在し、期限をすぎると効果が一切発揮されなくなる。
冒険者という職業に怪我はつきもの。
ポーションの需要はなくなることはないどころか消費期限という制約もあり、いつでも供給不足なのだ。
さらにレアリティが高いポーションは調合魔法の技量が高くなければ作り出せない。
当然レアリティが上がるとポーションの効果は飛躍的に上昇する。
希少級ローポーションとなると、ローポーションの上のランクとなるミドルポーションの中級よりも回復量が増えるらしい。
ミドルポーションの上のランクのハイポーションの下級ほどの回復量があるそうだ。
値段も当然ランクが高い方が高くなる。ハイポーションクラスになると手に入れるには金を積むだけでは無理になってくるそうだが。
ちなみに冒険者ギルドに売りつけたローポーションは下級を20本と中級を2本。
レアリティを下げたのはあまり派手に売り捌いて既得権益を侵すのを防ぐと共に目をつけられるのを阻止するため。
ちなみに薄めれば10倍の量が作れるとはいっても、ランクが1つ上がるごとに10倍の値段になるわけではない。
瓶の数が増えたり販売するときに時間がかかったり、と色々面倒ではあるが仕方ない。
ちなみに調合師――調合魔法を使える人をこう呼ぶ――かと聞かれたので、そうだと答えておいた。
調合師は数が少なく、どこでも引っ張りだこなために冒険者ギルドでも優遇してくれるそうだ。
事前に調べた通りである。
おかげで冒険者ギルドの登録費用が無くなった。
審査は3日後に同じ量とクオリティのローポーションをもって来る事。
もちろん買い取ってくれるそうだ。きちんと合格をもらえればさらに買取金額を増やしてくれるという話でもある。
異世界生活4日目
下級ローポーション20本と中級ローポーション2本をさくっと調合。
魔力水で薄めるだけの簡単なお仕事です。
だがいずれはなくなるだろう。
なので癒草を採取しにいくことにした。
冒険者ギルドでは買取は行っているそうだが、販売は行っていない。
癒草はポーションの主材料のため常に品薄なのだ。
初期位置に向かって転移する。
さていきなり登場のこの転移だが、補助魔法だ。
とても便利な補助魔法特化なオレ。
しかしマーキングした場所にしか飛べないのが残念といえば残念。
だが半日走ったり歩いたりしないといけない距離に一瞬で飛べるのはとても助かる。
癒草を探しながら狼モドキを拳に付与した氷でぶち抜く。
今回は炎ではなく、氷を付与してみた。焼畑農業はもう勘弁。
実に便利だ、補助魔法。
癒草よりも毒草系が溜まって行くがこの辺は想定内だ。
前回だって比率的に1:30くらいだったし。
半日うろついて狼モドキを2桁後半近くまで撃滅したところで街へ戻ってランチタイムだ。
ファラの街の飯はまずくはない。だがうまくもない。
おそらく香辛料などの調味料関係が手に入りづらいのだろう。
お菓子系も販売されていないし、あっても蜂蜜がちょっとかかった程度のものだ。しかも糞高い。
午後は毒草を調合してみる。
魔力水でかなり薄めると解毒関連のアイテムが出来た。
薄めないと各種毒薬になるので使い道に困る。
魔物に効くのだろうか?
毒薬や解毒薬はどうやらローやミドルなどのランクがないらしい。
だがレアリティは存在している。
完成した毒薬と解毒薬は安定の希少級。
毒薬を薄めなければ出来ない解毒薬は当然大量に出来たが。
異世界生活5日目
とりあえず、観光。
結構ファラの街は広い。
色んな人がいる。人間、獣人、ドワーフ、エルフ。
普通にエルフがいることにちょっとびっくりしたが、周りの人は別に普通にしているのでそういうものなんだろうと思っておく。
街の中央の広場には大量に露店が出ており、そこでのんびりした。
相変わらず飯はあまりうまくない。
異世界生活6日目
冒険者ギルドに審査用のローポーションを売りつけにいってギルドカードをゲットした。
ギルドカードがあると何が違うかというと、冒険者ギルドへ売却するときにランクに応じて色がつく。
その他施設での割り引きが適用される。
税金関連が減税される。
ランクが高くなると冒険者達から尊敬される。
税金なんてあったのか。
そういえばギルドカードで宿代が割引されたっけ。
さらに冒険者の場合は依頼の報酬からも引かれているらしい。
オレはまだ依頼を受けたことがないのでどうしようかな。
とか思っていたら調合師として冒険者ギルドへ登録しているため税金は大幅に減税されているらしい。
なのでオレの場合は依頼の報酬から税を引かれることはないそうだ。
まぁ依頼受けるかどうかわからんけど。
だってポーションで稼げてるし。
次はいつポーションを売りに来てくれるのかとせっつかれたので、とりあえず3日後ということにしておいた。
なるべく早く頼むとは言われたが知らんがな。
異世界生活7日目
金はたっぷりある。
なのでたっぷり寝た。
異世界生活8日目
冒険者ギルドにローポーションを売りつけてから癒草をゲットするために大草原で狼モドキを撃滅作戦敢行。
何人か冒険者を見かけるものの気にせずに撃滅撃滅。
一向に減らないこの狼モドキは一体どういう生態系をしているんだ。
異世界生活9日目
昨日約束よりも早くローポーションを売りつけておいたので今日は冒険者ギルドに行く必要はない。
なのでこの間回りきれなかった場所を観光する。
具体的には武器屋とか防具屋とか。
補助魔法のおかげでそういったものが一切いらなかったのだが、さすがに昨日の撃滅作戦中に多少の怪我を負ったことから重要性を再認識。
防具屋で動きを阻害しない程度の重量と形状の革鎧など一式を購入。
かなり高かった。防具ってすげーするのな。びっくりだよ。
懐が少し寂しくなったので冒険者ギルドに新しく売りつけるアイテムの作成をすることにした。
ポーション系は3日置きという約束なので、今回はパス。
毒薬はそんなに数は出来ていないのでこれもパス。
なので解毒系のアイテムを量産する。
魔力水で毒薬を薄めるだけの簡単な作業です。
これもポーション同様同一規格の瓶に入れる。
……黙々と作業をしているのだが、だんだん面倒臭くなってくる。
単純作業すぎて辛い。
魔力水で薄めてしまえばあとはオレじゃなくても出来る作業だ。
具体的には柄杓で瓶に移してコルク栓で封をするだけ。
そういえばファラの街はでかい街なので当然スラム街がある。
低賃金で労働してくれる人がたっぷりといるわけだ。
異世界生活10日目
スラム街は悪臭漂う、もとい死臭漂う酷いところだった。
本当に同じ街の中か、ここは。
道端には死んだ目をした汚いやつらが寝ている。
死んでるんじゃないかと思うようなやつらもいるし、路地にはピクリとも動かないのも大量にいる。
オレの身形は服屋でそろえた一般的な平民服というやつでその上に革鎧をつけている。
なので襲われるといったことはない。
ただオレを見るスラムの住人の視線はいいものではない。
適当に道端の死んだ目をしたやつよりは、もうちょっとマシなやつらを探しているとこれまた薄汚れた子供が近寄ってきて花を買ってください、だと。
1本10ラル――ファラの街で使われている通貨単位はラル――ということで買ってやった。
ちなみに100ラルでガチガチに固い鈍器のような黒パンが1個買える程度だ。
それを期に物売りの子供が大量に押し寄せてきたのはいうまでもない。
即効逃げた。
異世界生活11日目
逃げた先で見つけた孤児院にまたやってきた。
昨日はちょっと話をして終わりだったが、しっかりと子供達を集めて待っていたようだ。
孤児院長は薄汚れた服を着た20歳くらいの女性だ。顔色悪し。
子供は下は3歳、上は12歳まで20人くらいいる。成長不良気味、顔色悪し。
スラム街自体は酷い有様だが、治安は最悪というわけではないらしい。
そうでなければ孤児院などやっていられるわけがない。
だがオレには関係ない話だ。
オレがほしいのは単純作業をやってくれる労働力。
そう、その労働力がこの孤児院の子供達である。
さすがに3歳児にやらせるわけにはいかないので、作業をするのは8歳以上の7人だ。
とはいっても作業自体は非常に簡単なのでさっそく説明してやらせる。
7人もいるので魔力水で毒薬をもっと薄める。
出来た物から亜空間収納にポンポン放り込む。
亜空間収納は珍しい魔法ではあるが珍しい止まりだ。
なので人前で使うのは今更である。冒険者ギルドで最初に狼モドキを売却するときにも見せているし。
ただ、その容量は当然個人差があり、オレほど物が入る人は早々いない。さすが魔法特化。
1日作業させて大量に解毒系のアイテムが作れた。
異世界生活12日目
ローポーションを冒険者ギルドに売りつけて、昨日作った解毒系も売りつけてみた。
結果はなかなか好評。
だがやっぱりポーション系の方が買取価格は高い。
作業工程は大して変わらないのに……微妙だ。
孤児院でまた解毒系の単純作業をさせる。
支払っている賃金はかなり安い。
下級ローポーションを2本も売ればお釣りが来るくらい安い。
だが子供達にとっては、孤児院にとってはかなりの報酬らしい。まぁスラム街だしな。
異世界生活13日目
撃滅作戦遂行中。
ここの生態系はおかしい。
狼モドキの数がまったくもって減らない。
おかしい。異世界おかしい。異世界こわい。
癒草があんまり見つからない。
毒草ばっかり溜まるのはやめてほしい。
解毒系は薄めるんだからそんなに毒草いらないんだ。だから溜まる一方だ。どうしよう。
異世界生活14日目
さすがに3回目にもなるとオレが監視する必要もないだろう。
制作できる数は決まっているので、それに足りなければ報酬から差っぴくと告げてあとは任せる。
子供達と院長は神妙な顔つきで返事をしていた。
スラム街から戻ると武器屋にやってきた。
頼んでおいた篭手が今日受取日なのだ。
今まで拳を保護する補助魔法で覆ってから付与系をかけていたが、篭手があった方が火力が出るらしい。
赤鉄鋼という赤くて通常の鋼よりもずっと耐久性が高い鉱石を使用した篭手の方が火力が出るのは当然である。
かなりごつい見た目だが両拳をぶつけてガンガンと鳴らしてみても変形すらしない。
なかなかよさげだ。
ちなみにお値段は結構した防具よりもさらに高い。
装備に金かかりすぎじゃねぇ?
異世界生活15日目
ローポーションを持って冒険者ギルドに殴り込みをかける。
もとい、納品した。
篭手のせいで懐がとても寂しいので今日も撃滅作戦実施中。
まったく減らない狼モドキにはもう飽きている。
でもこいつらくらいしかこの辺にいないし、癒草もこの辺が一番生えているらしい。冒険者ギルド調べ。
でも全然癒草みつかんねぇ。
異世界生活16日目
孤児院に単純作業を押し付ける。
ちなみに一昨日はちょろまかされることもなかったので今日も任せることにした。
一応足りなかったら云々は言っておいた。
撃滅作戦中、冒険者が遠巻きに見物していた。
めっちゃ視線を感じるし、索敵魔法にはビンビン引っかかってるしうざい。
帰ってきて冒険者ギルドの買取所で戦利品を売却ついでに聞いてみたら、どうやら魔氷の調合師というなんか痛い中二ネームの人が有名になってきているらしい。
……はい、オレでしたー。
異世界生活17日目
不貞寝した。
異世界生活20日目
復活するのに3日かかった。
というか食っちゃ寝が気持ちよくて中二ネームなぞ最初の1日目でどうでもよくなっていたのは内緒。
冒険者ギルドにローポーションを納品してみたが、約束の日にこなかったのでちょっと怒られた。
でも口約束であり、書面契約も何もないものなのでソレを指摘したらなら契約しようと満面の笑みで言われたので逃げた。
異世界生活21日目
久しぶりに孤児院に作業を押し付けにいったらなんか強面と揉めてた。
どうやらやっぱり孤児院は借金塗れらしい。
せっかく作業を押し付けておける場所が見つかったのに逃すのもめんどい。
借金を肩代わりすることにした。
ちょっと足りなかったので冒険者ギルドに作り置きしておいた解毒系とローポーションを売りつけて金を確保。
強面連中から孤児院の権利書――担保になってた――をゲットした。
院長と子供達にものすごく感謝されたが、そんなことより作業してくれ。
……孤児院の権利書をゲットしたためにオレが孤児院のオーナーになった。どういうことだ。
異世界生活22日目
孤児院の帳簿とかを見せられた。
オレが作業を押し付けるまでは完全に赤字。
どうやって収入を得ていたのかというと、院長が春を売ったり、子供達がチマチマ仕事したり。
……ふむ。
鑑定魔法を院長に使ったら性病にかかっていたので、病気に微妙に効く補助魔法とか色々かけてみた。
完治するには時間がかかる。
何せ補助なのだから。
だが院長は涙を流して感謝してくれた。安い。
それともう売春関連はやめさせた。また魔法かけんのめんどい。
オレが孤児院のオーナーになったので解毒系だけじゃなく、ローポーションの瓶詰め作業もさせることにした。
ローポーションは解毒系に比べてかなり高いので警戒していたのだ。
だがオーナーとなってしまったのでその権力を存分に行使することにした。
足りなくても結局はオレのところに戻ってくる。
子供達にはどこにも行き場などないのだから。
異世界生活30日目
色々してたらあっという間に一週間経ってた。
孤児院は正直汚い。
なので大改装をした。
補助魔法の万能さはすごい。
子供達に身体強化系や体力強化系の補助魔法をかけて、ガンガン働かせた。
ついでに孤児院のでこぼこの庭を整地したり、木材を購入してきて補助魔法で加工したり。
雨漏り、隙間風、虫。
孤児院では常識だったので徹底的にやった。
なんということでしょう。
あのみすぼらしくて汚らしくて長居したくないこと請け合いのぼろ小屋が立派な孤児院に大変身。
10人単位で身を寄せ合って眠っていた大部屋はいくつもの綺麗な4人部屋――2段ベッド2つとクローゼット2つ――に。
Gが我が物顔で徘徊していた厨房は虫の一匹も見当たらない見事な厨房に。
院長室とオーナー用の個室も完備し、毎日汲み上げるのが大変だった井戸にはポンプまで設置された。
……ここまでやれば十分だろう。
その日からオレは宿を引き払ってこの孤児院で寝泊りすることにした。