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召喚されといてなんだけどおうち帰りたい  作者: かんむり
第2章 災禍の渦と勇者の伝承
19/80

18話 『管理者』★

 ―前回までのあらすじ―

 気持ち悪くなってきた。


「クンクン……なんかクッセぇなー」


 アレルは具合を悪そうにしているネーアを睨みつけながら、辺りの匂いを嗅いでそう呟く。

 それを耳にしたメルオンは、ネーアの肩を担いで前にいるアレルの元へ寄った。


「なあアレル。薄いがこの黒いモヤは……世界の果てと関係あるんじゃないのか」


「ンなこと知るかっテェのー……ただこりゃマ素で間違いねェよ。ソイツ、注意しといた方がイイ」


 意外とまともに返事をしてきたアレルに驚くメルオンだが、段々息を荒くしていくネーアを気にかけて立ち止まり、彼女を壁際に座らせる。

 そして前を行くメリィ以外の3人へ声をかけた。


「グルッド、お前らは先行っててくれ!オレは嬢ちゃんをいったん休ませる」


「ハァ……ァ……ハァ……」


「ネーア、すごい汗だよさ……」


「……わかった、奥で待ってる。この先は灯りがついてるはずだから、落ち着いたら来てくれ」


 グルッドはネーアを見て頷くと、一言だけ残して進んで行った。

 メルオンはネーアの額と手首に手を当てて、熱と脈と診る。


「………熱いな。脈もかなり速い、このまま行かせるわけには」


 そこまで言って、ネーアはメルオンの手を取って言う。


「ハァ……大丈、夫です……ハァ、気にしないで下さい」


「大丈夫なわけあるか!そんなに汗かいて、息も切らして明らかにこのモヤが原因だろう!外へ出た方がいい」


「で、でも…」


 メルオンがネーアにそう言うが、メリィは何か言いたげにメルオンを見た。


「オイラ見たのさ。お城でネーアは世界の果てのモヤに触れててもなんともなかったのさ」


「城で……?グルッドと何やってたかは知らんが、現に体調を崩してる。嬢ちゃんはオレが抱き上げるから、なにか灯りになるような魔法を頼む」


「……わかったさ。――《アトイラ》!」


 メリィがそう唱えると、彼の額からのびる角?の先に灯火が灯る。

 メルオンはネーアとお姫様抱っこをする形で抱き上げ、3人は一旦来た道を引き返した。

 そして依然として息を荒げているネーアは、モヤから遠ざかっていくにもかかわらずその症状を悪化させ………―――次第に意識を失っていった。



挿絵(By みてみん)




 =========


「ん……うぅ……――!!!」


 真っ暗闇の中で目を覚ましたネーアはそのまま勢いで飛び起きる。

 目を凝らしても何か見える様子はない。

 それは一週間前、世界の果ての一連で訪れた空間や精神世界のようなところに酷似していた。


「ボク、あれから気を失って……じゃあここは・・あの時の?」


<一週間か、想定よりもいささか早かったな人間……いや、今は人獣か>


 聞き覚えのある声が空間に響き、ネーアは上を見ながら振り向く。


「この声……あの時の」


<さよう。我はここ《中心世界セントラル・ビギニング》の管理者である>


「始まりの…中心?何言ってんだかさっぱりだ……」


 理解できないという意を示すネーアだが、管理者を名乗るその声は聞く様子もなく一方的に話を進める。


<ぬし、少々興味深いところはあるがまだその時ではないな。〝前回〟の宣告通り、記憶の一部を贄としていただくとしよう>


「なッ………!?」


 余計に頭が混乱してくる。

 まだ世界の果てにたどり着いてすらいないはず。

 記憶が正しければ長い穴倉の途中で体調を崩し、メルオンに抱えられて外へ向かっているはずだった。

 前回はしっかりと世界の果てに入った。そしてそこから正気を取り戻すまで、一連の中でこの世界へ迷い込んだのだ。

 だが今回は全く勝手が違う。

 軽くモヤに触れていた程度なのに何故ああも体調を崩し、このような事態になるのか。

 持ち前の情報では全く理解ができなかった。


「前回といい今回といいまるで意味……ガッ!!!???」


 突然頭を〝黒い何か〟に鷲掴みされ、同時に強い頭痛に襲われる。


「が……あ…あああ……あアああアアあァアァァ!!」


 腹の底から悲鳴を上げる。

 真っ暗闇の空間も相まって、恐怖が精神的ダメージとなって伴う。

 そしてその耳元で囁くかのように、管理者は彼女に言った。


<我の想定を超えた褒美だ。一つだけおしえてやろう……ぬしに残された〝願い〟の数は>


「ア……ああ・!!!」


 訳が分からなかったネーアでも、その言葉は鮮明に頭に響いた。

 これを絶対に聞き逃してはならない!

 それだけははっきりわかり、痛みと恐怖に駆られる気をどうにかそちらへ向ける。


<――――あと〝4つ〟だ>


 それと同時に、頭の感覚と痛みが治まった。

 咄嗟に自分の絶対に忘れてはいけないことを思い出そうとしてみる。

 ――家族の名前、友達や学校のこと、自分がこの世界に来た経緯、初めて世界の果てに触れて起こったこと………すべて鮮明に、異常なく思い出すことができた。


「記憶は……大丈夫な、はずだ……じゃあ今のは一体」


 考えようとしたところで、またしてもその空間に声が響く。


<………贄は確かに頂いた。そして我はぬしに少しばかり興味が涌いた。――特別に〝次回だけ〟は贄を取らず、一つだけ望みを聞いてやろう>


「は!?ちょっと待て!!!だったら今、ここで――」


<では行くがよい>


 ネーアの叫びもむなしく、そこでやり取りは終わった。





 ===[グレン荒野] 竜の穴倉入り口===


「―――待っ!!!」


「うおっ!」


 ネーアが跳ね起きると、覗き込むように様子を見ていたメルオンは大きくのけ反った。


「……ここは」


「もう大丈夫なのさ?」


 メリィは、メルオンが持っていたタオルを取ってネーアに渡す。

 ネーアはそれを受け取って汗を拭いて辺りを見回した。

 外はもう日が沈みかけており、数時間は気を失っていたようだった。


「穴倉の入口だ。今頃グルッド達は奥についてる頃だろう……具合はどうだ、無理はさせられねえが」


「あ、はい……大分、楽になりました。ありがとうございます……ご迷惑かけて、すみません」


 ネーアが俯いて謝ると、メルオンは頭をなでて穴倉の方を向く。


「何、確かにちと迷惑はかけちまったかもしれねえが気にするな!嬢ちゃんが大変なのはわかってる。それを分かったうえでオレ等一緒にいるんだ、遠慮することはねえよ」


「……ありがとう…ございます」


 ネーアは照れ顔でお礼を言う。

 そしてその視線の先……膝の隙間に見据える地面に何か異物のようなものが見えた。


「これは………ああっ!?」


 その赤黒く染まったものを拾い上げてみてみるが、それが何かわかった途端、ネーアは反射的に放り投げてしまった。


「おいどうしたいきなり……ッ!?」


「どういうことなのさ……」


 その様子を見ていたメルオンとメリィが追ってみるが、ネーアと共に言葉を失ってしまう。



 ――投げ捨てられたそれは、人間の耳の形をしていた。




 ===竜の穴倉 最奥===


 ようやっと奥のだだっ広い空間にたどり着いたグルッド、神官、アレルの3人。

 ドラゴンによって天井をぶち破られたその空間は瓦礫の山であふれていたが、それでも数千人は優に収容できるであろう広さであった。


「……おかしい」


 最初に異変に気が付いたのは先頭を行っていたグルッド。

 後に続いて2人もそれに気が付く。


「フム……〝無い〟の。で、何故あやつがそこにおる?」


「………あいつァ」


 その空間、中心にあったはずの世界の果ては跡形もなく消え失せていた。

 そして代わりに1人の人物がそこに立っている。



 驚きを隠せない3人に振り向いたその容姿は、ネーアそのものだった。





 つづく

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