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艦魂年代史外伝シリーズ第十五弾は駆逐艦『初月』の話です。
ソロモン海に散った駆逐艦『綾波』と今作の『初月』、そして幸運艦『雪風』は太平洋戦争に詳しい人なら誰でも知っている英雄駆逐艦です。
今作はそんな『初月』の最後の死闘を描かれています。どうか最後まで読んでください。
艦魂年代史外伝 初月絶対防衛戦
作:黒鉄大和



 一九四四年十月の終わり、フィリピン沖を舞台に日米両海軍最後の決戦が行われた。
 世界海軍史上最大の海戦と呼ばれ、両軍がほぼ全力を挙げて戦いに挑んだ海戦――レイテ沖海戦。
 日本海軍は残存艦艇のほぼ全力を挙げてこれに挑み、戦艦『大和』『武蔵』以下残存全戦艦を投入。さらに日本最後の機動部隊をも投入し、まさに最終決戦に相応しい意気込みであった。
 戦力自体はとても十分とは言いがたいものだったが、それでも米軍にとっては史上最大の難敵である。
 一方の米海軍も万全の防御体制で日本海軍を迎え撃つ準備を終えていた。
 大小合わせて三〇隻を超える空母と強力な水上打撃部隊で海を埋め尽くし、陸海軍基地航空隊も参加して日本海軍を待ち構えていた。
 空母艦載機だけでも一〇〇〇機を軽く超え、基地航空機も数百機の航空部隊を保有しており、日本艦隊の頭を米軍機で埋め尽くしても余りが出るような航空部隊。
 それに比べて日本海軍は大型空母は『瑞鶴』のみ。残りは軽空母しかない上に、参加空母数はたった四隻。しかも艦載機は飛行機不足の為に四隻全部で一一六機しか揃わず、米軍の戦力と比べると焼け石に水にもならない戦力であった。
 日本機動部隊の生みの親にしてマリアナ沖海戦で采配を振るっていた小沢治三郎中将率いるそんな弱小日本機動部隊の任務は――囮作戦であった。
 主力である栗田健男中将率いる戦艦『大和』『武蔵』『長門』を中心に構成された四〇隻の強力な水上打撃部隊を無事にレイテ湾に突入させる為に、敵機動部隊の攻撃を吸収するのが機動部隊の役目であった。
 栗田艦隊を無事にレイテに突入させる為、小沢艦隊は全滅覚悟で出撃した。
 レイテ沖海戦は十月二三日〜二五日にかけて行われたが、二三、二四日は作戦はうまくいかず、栗田艦隊は敵機のすさまじい空爆に晒され、戦艦『武蔵』など数隻の艦艇が落伍した。
 小沢艦隊はなんとしても敵機動部隊を引き付けるようと工夫をした。その成果あって二五日、敵機動部隊は小沢艦隊を目指して北上を開始した。小沢艦隊はそれを確認すると反転北上し、敵機動部隊を栗田艦隊から離した。
 結果、栗田艦隊は最難関であるサンベルナルジノ海峡を突破した。
 作戦が成功した小沢艦隊は最後の詰めとして自分達を目指して迫る敵機動部隊をできるだけ引き付けておく事。
 そして、十月二五日の朝、エンガノ岬沖海戦と呼ばれる海戦が幕を開けた。
 旗艦・正式空母『瑞鶴』以下軽空母『瑞鳳』『千歳』『千代田』。航空戦艦『伊勢』『日向』他軽巡洋艦三隻、駆逐艦八隻の小沢艦隊を数百機の敵機が襲った。
 十時間にも及ぶ激闘の末、空母全滅。その他数隻も沈没し、生き残った艦艇も傷だらけだった。
 多くの犠牲を出して作戦は成功し、空母を全て失った小沢艦隊は救助の為の駆逐艦数席を残して撤退を開始した。
 救助活動をする秋月型防空駆逐艦三番艦『初月』、六番艦『若月』。
 二隻は群がる漂流者達に浮き輪やロープを下ろして救助を進める。
 そんな救助作業を行う『初月』の甲板に威風堂々と輝く秋月型駆逐艦自慢の対空射撃に特化した主砲である六五口径三八式十cm高角砲の第二砲塔の上から少し奇妙な具合に跳ね上がって額を覆い隠すクセっ毛を小さくポニーテールでまとめた少女が悲しげにそれを見詰めていた。
 彼女はこの駆逐艦『初月』の艦魂。
 初月は甲板に向けていた目をそっと離して夕暮れにオレンジ色に照らされる海を見詰めた。
 夕焼けに赤く染められる頬を、一筋に雫が流れた。
「秋月姉さん・・・」
 この作戦には秋月型駆逐艦は他にも一番艦『秋月』、六番艦『初月』、七番艦『霜月』も参加していたが、『秋月』と『霜月』は壮絶な戦いの中で命を落としてしまった。
 秋月姉妹長女である秋月は防空駆逐艦として空母を守る事を誇りにしていつも嬉しそうにそれを語っていた。そんな姉の最後は今でも鮮明に目に焼きついている。
 激戦の中、軽空母『瑞鳳』に敵機から放たれた魚雷に自らの体を《盾》として滑り込ませて迫った魚雷を全て受け大爆発。艦体を真っ二つに折って一瞬のうちに轟沈した。
 ――実に姉らしい最期であった。
 そんな姉が命を懸けて守った『瑞鳳』も、敵機のすさまじい猛攻撃を受けて沈没した。
 このオレンジ色の海のどこかに姉は沈んでいる。そして、
「瑞鶴司令・・・」
 いつも笑顔で開戦以来から日本機動部隊の重要な人物として活躍し、マリアナ沖海戦で戦死した姉の後任として機動部隊旗艦に就任し、これが初陣であった。しかし、彼女も今はこの海のどこかに沈んでいる。
 この作戦の前に初めて会ったが、とても優しい人で、水兵でしかない自分達を士官と同等に扱ってくれた。
 その優しげな笑みを絶やさぬよう、絶対に彼女を守ろうと心に決めた。
 しかし、自分達防空駆逐艦が命を掛けて守らなければならなかった彼女も、結局死んでしまい、護衛役の自分が生き残ってしまった。死んだ姉なら自決するような失態だが、初月は生きている事が嬉しかった。でも、死んだ姉や妹、司令官は二度と戻って来ない。そんな現実が彼女の心を悲しませ、涙となって頬を流れる。
 オレンジ色の海に沈み行く一日の終わりを告げる哀愁の夕日を見詰め、初月はさめざめと涙を流す。その時、
「初月姉さん」
 そんな彼女の横に彼女に似たセミロングの少女が現れた。
 彼女は駆逐艦『若月』の艦魂。初月の妹である。今では七人いた秋月姉妹も彼女と自分、そして作戦不参加の涼月だけとなり、自分が姉妹で一番の年長者となってしまった。
「初月・・・」
 すっかりやつれてしまった初月を見て、若月は悲しげに瞳を揺らす。
「姉さん。疲れてるでしょ? 少し休んだら?」
 心配そうに自分を見詰める妹に、初月は小さく首を横に振る
「いいの。こうしていると、気が紛れるから」
「でも・・・」
 若月は初月の服の裾をそっと掴み、上目遣いに自分を心配そうに見詰める。そんな彼女を心配かけまいと初月はそっと微笑む。
「大丈夫よ。これくらいさっきの死闘に比べればたいした事じゃない」
「そ、それはそうだけど・・・」
「若月。私達に与えられた任務は、何?」
「生存者の救出」
「なら、それを完遂させましょう。それを終えてこそ、私達の任務は全て終わるわ」
 初月の優しげな笑みに、若月は一瞬悲しげに首を振ると、小さな笑みを浮かべ、そっとうなずいた。
「そうだよね。がんばろうね」
 初月はその後雑談混じりに救助状況を報告すると、自艦に戻った。
 一人になった初月が再び空を見詰めた時には夕日はもう落ちて、空は深い藍色に染まっていた。

 救助作業を続ける二隻だが、先に『若月』が本隊を追う事になった。
『初月』の甲板の上で初月が若月を見送っていた。
「じゃあ、無事に兵士達を日本に連れ帰ってね」
「もちろん。姉さんも後から来てよね」
「わかった。じゃあ、一旦ここでお別れね」
「うん。バイバイ」
 若月は初月に抱き付くと自艦に戻った。直後、いまだ救助作業を続ける『初月』から『若月』が北に向かって離れていった。
 次第に暗闇の中に消える『若月』に向かって、初月は敬礼して見送った。

 それから半時も経たない頃、海の向こうに一隻の艦影が見えた。
 第二砲塔の上で海を見詰めていた初月は警戒してそれを見詰めていたが、その緊張は艦種を見て解けた。
 接近する艦影は長良型軽巡洋艦二番艦・軽巡洋艦『五十鈴』であった。
 両艦は互いに接近すると、発光信号で状況を報告し合う。
 そんな中、初月は『五十鈴』の艦橋に移動した。駆逐艦に比べたらずっと広い『五十鈴』の艦橋に着くと、そこでは三つ編みをした『五十鈴』の艦魂が色々な資料を見詰めていた。
「五十鈴さん」
 初月が声掛けると五十鈴は振り向き、小さな笑みを浮かべた。
「初月。無事だったのね」
 とても優しげな笑顔を放つ五十鈴に、初月も嬉しそうに笑みを浮かべる。
「はい。救助作業を続けていたらこんな時間になってしまいました」
「そう。ご苦労様」
 そう言って五十鈴は小さな笑みを浮かべ続けるが、その表情はどこかやつれていた。
「五十鈴さん相当疲れてますね」
 初月の言葉に五十鈴の笑み悲しげに揺れた。
「千代田を捜して海を駆けずり回ったからね。ちょっと疲れたわ」
「そうですか。千代田さんは行方不明のままですか」
 この時軽空母『千代田』は敵機の爆弾を数発被弾して航行不能となって本隊から落伍して単艦で海を漂流しており、後に敵巡洋艦の攻撃を受けて撃沈された。
『千代田』の捜索を任された『五十鈴』は単艦で『千代田』を捜して海を走り回っていて『初月』と偶然接触したのだ。
 五十鈴は手元の資料に目を戻すと悲しげに小さく首を振った。
「どうしたんですか?」
「遠征作戦の上に過度な戦闘。そして『千代田』の捜索で海を走り回ったせいで、もう燃料が残ってないのよ」
「そうなんですか」
 南方資源地帯との補給路を死守する為の今回の作戦だが、すでにシーレーンは敵潜水艦や敵機に脅かされている。その為燃料である石油の確保が難しく、今作戦に参加した全艦艇の燃料は作戦には問題ない量だったが、『千代田』を捜して海を走り回った『五十鈴』は予定外の出費で燃料不足に陥っていた。
「もう戻らないと帰れなくなるんだけど、まだ『千代田』は行方不明だし」
 困ったように資料を見詰める五十鈴に初月は笑みを向けた。
「それなら私が代行しましょう」
 胸を張って言う初月だが、五十鈴の表情は晴れない。
「え? でも・・・」
「私にはまだ燃料の余裕はあります」
「でも、あなたはすでに多くの兵員を乗せてるじゃない」
「このまま千代田さんを見捨てる事なんてできませんよ」
 初月の暖かい言葉に五十鈴は優しげな笑みを浮かべる。
「あなたは優しい心の持ち主ね」
「そんな事ないですよ。私はただ、今も助けを求めているかもしれない人を見捨てたくないだけです」
「それが優しい心よ」
「私だけが特別じゃありませんよ」
 そう言って初月は遠い闇の空を見詰めた。
 月明かりと星の輝きだけが辺りをうっすらと照らす闇夜は幻想的な雰囲気に包まれていた。
 夜空に宝石をばら撒いたかのようにキラキラと星が煌き、金色に輝く月が美しい。
 一瞬、ここが戦場であるという事を忘れさせてしまうほどの空間は、どれだけ年月だ経とうと、どれだけ人々が争うと、変わる事はない。
「星が、きれいね」
 五十鈴の何気ない言葉でも、初月の心にじーんと何か暖かいものが流れ込んだ。
 こんなきれいな星空の下に、自分の姉や尊敬する指揮官、仲間が眠っていると思うと、ちょっとだけ悲しみが消えた。
「そうですね・・・とても・・・」
 二人はしばし美しいの夜空を見上げ続けた。
 その後『五十鈴』は『初月』から離れて本隊を追いかける為反転した。
 甲板にいる両艦の兵達が手を振って別れを惜しみ、初月と五十鈴も『初月』の艦橋で敬礼をし合った。
 そのまま無事に別れると思われたその時、
 ドドンッ! ドンドンッ! ドドォドンッ! ドォンッ!
 すさまじい爆音と共に二隻のまわりに無数の水柱が立ち上り、二隻は激しく揺れた。
「な、何ッ!? 一体どうしたの!?」
「ま、まさか・・・ッ!」
 突然の事に慌てる初月に対し、五十鈴は顔を真っ青に染めて窓の外を睨み付けた。
 月明かりの下の闇には何も見えない――その瞬間、闇夜の水平線の向こうに無数の光がほとばしった。すぐに二隻のまわりに水柱が荒れ狂った。
「敵艦隊からの砲撃よッ!」
 五十鈴の言葉に今度は初月が顔を真っ青にする番だった。
「敵襲ッ!」
 二人に遅れて敵に気づいた『初月』艦長が急いで艦内に怒鳴る。
 闇夜の向こうから一方的に砲撃する敵艦隊を睨み、五十鈴は悔しそうに唇を噛んだ。
「まさかこんな所まで来るなんて・・・っ!」
 悔しそうに唇を噛み、真っ白になるほど拳を握る五十鈴。
 しばし驚愕で思考が停止していた初月ははっ! と正常に戻ると慌てて五十鈴に叫んだ。
「五十鈴さん! あなたは早く逃げてください! ここは私が食い止めますッ!」
 初月の言葉に五十鈴は目を見開いて驚くと、力いっぱい首を横に振って彼女の言葉を拒否する。
「何言ってるのよ! 私も戦うわ!」
「無理です! もうあなたには燃料が残ってないじゃないですか!」
「そ、それは・・・」
 確かに、もう『五十鈴』には帰る分の燃料しかない。今ここで帰らないと燃料が足りずに日本に帰る前に海を漂流するしかなくなる。
 悔しそうに唇を噛む五十鈴に、初月は真剣な顔で叫ぶ。
「五十鈴さん。私が敵を引き付けます。その間に逃げてください!」
「初月・・・」
 五十鈴はしばし沈黙したが、無数の爆音に後押しされ、五十鈴は初月に向かって最上敬礼をし、静かにその場を去った。五十鈴が消えると、『五十鈴』は急いで撤退を始めた。
 初月は水兵用の軍帽を深く被り直すと自分の定位置である第二主砲塔の上に瞬間移動し、敵艦隊の砲撃の閃光を見詰める。
 この時『初月』を攻撃したのは米巡洋艦部隊(重巡洋艦三隻、軽巡洋艦一隻、駆逐艦十二隻)だった。
 圧倒的な戦力を前にして一瞬顔が恐怖にゆがむが、一度パンッ! と頬を両手で叩いて気合を入れると、真剣な瞳で闇夜の敵艦隊を睨み付け、不敵に笑みを浮かべた。
「今や私達駆逐艦の英雄になった夕立さんや綾波さんも、こんな戦い行ったのでしょうね。私も、英雄に負けぬようがんばらくちゃね」
 初月は腰に挿してある軍刀を鞘から引き抜いて構えると、金色に輝く月に剣先を向けた。
 月の光を反射してキラキラと煌く刀を見詰め、初月の表情から完全に少女のものが消え――侍の顔になった。
 ドガアアアアアァァァァァンッ!
 すさまじい爆音と共に主砲が唸り、空中でまばゆい光を辺りに振り撒いた。
 闇夜に一瞬にして神々しい光が灯り、闇夜の向こうに隠れていた敵艦隊の艦影が見えた。
『初月』が放った照明弾が、開戦の合図となった。それを見て、初月は咆哮した。
「日本海軍の誇る最強の対空砲を味わえッ! 主砲発射ッ!」
 すさまじい速度で刀を振り下ろした刹那、『初月』の前部第一、第二主砲が火を噴いた。
 六五口径三八式十cm高角砲――通称《長十cm高角砲》は自慢の長い砲身から砲弾を撃ち出すと狙った敵に砲弾の雨を降らせた。
 敵の砲撃閃光とは明らかに違う光が敵駆逐艦を包み、次いで爆音が空気を震わせた。
 初月は小さく笑みを浮かべると、再び剣を振り込んだ。
 このままこの強力な敵艦隊を野放しにすれば、『五十鈴』は危険に晒される。本隊だって被弾して速度の遅い艦もいる。追いつかれれば、それこそ一巻の終わりである。
 十六対一という絶望的劣勢な状況の中、仲間を守る為、殿となった『初月』は全速力で海を翔けた。

 沈没した小沢艦隊旗艦・空母『瑞鶴』の代行として急遽旗艦となった軽巡洋艦『大淀』に陣を張る小沢長官に『初月』から至急電が入った。

 ――我、敵水上艦艇ト交戦中――

 無数に上がる水柱と爆音が響く中、『初月』は左へ右へと大きく蛇行航行して敵の砲弾や魚雷を回避する。そんな中でも『初月』の主砲は敵艦に向かって砲弾を連発した。
 ズドンッ! ドンッ! ドドンッ! と響く主砲の砲撃音と閃光がほとばしる中、主砲の上で《侍》となった初月は敵を睨み付けながら刀を振るって奮戦していた。
「右舷二時方向の敵巡洋艦らしきものに一斉砲撃ッ!」
 照明弾で薄暗く照らされる海の上に駆逐艦より大きな敵艦が浮かび上がっていた。その艦に『初月』の全主砲が一斉に砲弾を撃ち出した。
 砲弾が命中して燃える敵艦を一瞥すると、初月は再び次の敵を捜す。幸か不幸か敵艦は掃いて捨てるほどいる。
「左舷敵駆逐艦視認ッ! 一斉砲撃及び右舷四時方向の敵駆逐艦へ魚雷一斉発射ッ!」
 すさまじい砲撃と雷撃が撃ち出され、敵駆逐艦二隻は炎上した。
 攻撃すると『初月』は次弾・次本装填をしながら敵艦の反撃を避ける。
 海を翔ける魚雷群を次々に避け、敵艦から撃ち出される無数の砲弾の雨をひたすら避け続ける。
 主砲の上で奮闘する初月は刀を構えて次の敵を睨む。
「九時方向に敵大型巡洋艦視認ッ! 魚雷一番二番――あぐわっ!」
 刀を敵に振り落とす寸前、敵艦の砲弾一発が命中し、『初月』の艦中央部ですさまじい爆音と共に大爆発が起きた。それと同時に艦魂である初月の体も裂け、真っ赤な血が彼女の身を染めた。
「こ、この程度で――ぎゃあああぁぁぁっ!」
 火災によって目立った『初月』に敵艦隊は一斉に砲撃を加え、無数の砲弾が『初月』の艦体を撃ち砕いた。
 吹き飛ぶ人と瓦礫、怒り狂った龍のようにすさまじい炎、もうもうと天に上がり夜の闇をより黒く染める黒煙。
 燃える『初月』の主砲の上で方膝をつく初月の端整な顔は自らの血で赤く染まり、唇の端からは赤い血が一筋流れている。
 体は体で黒い軍服はボロボロに焼け焦げ、千切れ、無残な姿になっている。さらにおびただしい量の血が流れ出て、彼女の体を赤く染めていく。
 肩を激しく上下させて呼吸する初月は悔しそうに敵艦を睨み付けると、唇から流れ出る血を軍服の袖で拭き取り、軍刀を杖代わりにしてゆっくりと立ち上がった。
「まだ、倒れる訳にはいかないのよ・・・ッ!」
 気合を振り絞って立ち上がると、炎上しながらも『初月』は一斉に砲雷撃を行った。
 次々に撃ち出される砲弾と魚雷はほとんど外れるが、その中のいくつかは敵艦に命中して赤く紅蓮に燃え盛った。
 無数に上がる水柱が立ち上る中、傷だらけの『初月』はそのボロボロの体を引きずって敵の攻撃を避け続けるが、すでに速度は最大速度の半分も出ないほど『初月』は弱っていた。
 満身創痍で低速になった『初月』は敵の攻撃を次々に受けて爆発し、艦上構造物は爆発と共に粉々に破壊されて瓦礫と化し、兵達は真っ赤に染まって絶命する。
 初月は痛々しい悲鳴を上げる。
 反撃の為に再び主砲が唸った刹那、突如初月の後ろで閃光と爆風、爆音が響いた。
「ギャアアアアアァァァァァッ!」
 初月は今まで以上の絶叫をしてその場に倒れた。
 艦橋が吹き飛び、傷ついた初月は顔を押さえて血が出るほど唇を噛んで激痛に耐える。
「目が、目が・・・ッ!」
 初月は左目を押さえて唇を噛む。
 見開かれた右目からはぼろぼろと涙が流れる。そして、左目からは赤い血が流れ出ていた。
 爪が折れるほどの力で鉄の床を引っ掻き、唇を噛み切り、初月は再び立ち上がった。
 手を外すと、そこには見るも無残に右目を失い、赤い血を流す初月がいた。
 初月は痛みに耐えながら艦魂の力で眼帯を発現させると、それを右目に付け、隻眼となった初月はすさまじい形相で敵を睨む。
「もう二度と負けられないのよこの私はッ!」
 マリアナで味わったあの敗北が蘇る。
 旗艦・空母『大鳳』、瑞鶴の姉である空母『翔鶴』を目の前で失った時、自分は何もできなかった。何もできず、殺されてしまった。
 もう二度と、あんな辛い思いはしたくない。
 もう二度と、仲間を失いたくない。
 もう二度と、負けたくない。
 そんな思いが彼女の弱り切った体に最後の力を振り絞らせる。
「砲撃可能全主砲、発射可能全魚雷発射管一斉発射ッ!」
『初月』の攻撃可能な全砲門及び魚雷を全て撃ち出し、敵に向かって最後の攻撃をする。
 爆発に爆発が起き、敵艦数隻が爆発した。
 燃える敵艦を見て、初月は小さく笑みを浮かべた後、その場に崩れ落ちた。
 次の瞬間、『初月』は眩い光に包まれた・・・

『初月』の戦いは終わった。
 十六対一というすさまじい劣勢の戦闘はすぐに終わりを告げるだろうと米海軍の誰もが思っていた。
 しかし、『初月』は仲間を守る為に孤軍奮闘し、そして見事に殿を完遂させた。
 その壮絶な戦闘は実に二時間にも及んだ。
 米艦隊は燃える『初月』に近づくと照明弾を放ち、絶句した。
 二時間にも渡って自分達を翻弄していた敵はてっきり巡洋艦だと思っていた。しかし、目の前に燃える原型を留めていないほど破壊された敵艦は予想を裏切り駆逐艦であった。
 米艦隊は『初月』との激戦で時間を取られ、小沢艦隊追撃は不可能になってしまった。
『初月』は大傾斜・炎上しながらもいつまでも浮き続けていた。
 連装砲身の片方が折れた第二主砲塔の上で、初月は気絶していた。
 ボロボロになった体はもうぴくりとも動かず、静かに閉じられた隻眼が彼女の永眠を物語っていた。
 その血が付きながらも穏やか過ぎる寝顔は一体何を表しているのだろう。
 きっと、仲間を守れたという想いが、彼女の顔をこんなに優しげにさせているのだろう。
 激務を終えた初月はその短き生涯についに終止符を打った。

 ――駆逐艦『初月』、敵巡洋艦部隊十六隻と空前絶後の激戦を繰り広げ、二時間にも及ぶ戦闘の末についに沈黙。午後八時五七分、激闘の末に見事殿を完遂させ、ついに力尽き、海の底深くへと沈んでいった――


さて、どうでしたでしょうか?
何か綾波編と被りますね。
そもそも僕はあまり海戦は得意じゃないんです(←致命的?)。そんな僕が戦闘重視の作品を書くのはある意味暴挙です。
そんな感じで完成した初月編ですが、あまり期待通りとはいきませんでした。
さて、次の作品で名誉挽回します。
次の作品の説明の前にちょっとおわびが。
海軍講座編ですが、私情の為削除させていただきました。
継続困難な状況の上いくつか間違った情報を掲載していた為、削除という結果になってしまいました。
読者や関係者(?)には多大なご迷惑をお掛けして申し訳ございません。
さて、そんな状況なのでおわびとして次の作品はなるべく早めに出すつもりですが、今執筆しているのでどうなるかわかりませんが、がんばります。
次作は短編としては初めて大和が登場します。
次の作品の舞台は本編にあった戦艦『大和』の最後の戦いである坊の岬沖海戦です。
主人公は十勇士の各キャラで構成され、坊の岬沖海戦を大和以外の十勇士の視点から見た作品となっております。
少し本編と被る所はあると思いますが、なるべく完成度の高い作品を目指してますので、どうか待っていてください。













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