ぱにっく94!桁違いの魔女との戦い!
――波紋が走った。
三つの波紋が浮かんでいる。
しかし、目前にラインヒルドの姿はない。
大河は相手を見失い、あらゆる角度を見渡した。
瞬間、鈍い打撃音と共に強制的に視界が空に変わった。
大河は足場から離れ、少し浮いている。
眼下の足場にはラインヒルドがいた。先程の水面の波紋――常人離れした動きが生み出したものだったようだ。
咄嵯の一撃に舌を噛んでしまった大河。口から少量の血を吐いていた。
「口を合わせて……!」
ブーケは大河の耳元でそう呟き、魔法名を囁く。
大河は囁かれた魔法名に合わせるように叫ぶ。
「フレアフラワー!」
真下で低空姿勢でいるラインヒルドに向けて、火花が散る。
竹が軽く爆ぜたような炸裂音が間髪空けずに尖り鳴る。
途中、火力が落ち、たどり着く前に消火された。
「その程度の魔法では――」
ラインヒルドは中空に浮く大河の足首を片手で掴んだ。
「相手になりませんよ」
風を切るように勢いよく振り回して、更に振り回して手を離した。
鼓膜を突き刺す勢いのある急激な摩擦音が響いた。ロケット花火の発射音と同じだ。
音の発生源はロケット花火ではなく、人間、大河だ。
右斜め上の角に向かって生身が飛ばされているのだ。
このまま行けば、柱への激突は確実だ。
三十メートル先に相手がいるため、気にすることなくブーケは魔法名を口にした。
「ドライフラワー!」
大河は柱に激突した。
室内を揺るがすような激震は――起きなかった。
クッキーがひび割れたような小さな音しか聞こえなかった。
大河は柱に激突した。
だが、柱は握った程度で全壊するくらいの脆い性質に変化していたのだ。
一部分しか性質変化できなかった為、全体の七割近くの柱が水面に向かって倒れてきた。
大河は最角にいるため、運良く当たらない場所にいる。
柱が水面を滅茶苦茶にし、天にも上り詰めそうな勢いのある波飛沫を巻き起こした。
それが身を守るのと同時に、あらゆる音を掻き消す壁の役割を果たしてくれていた。
大河は苦痛に顔を歪ませ、打たれた個所(顎)を擦っている。
「大丈夫!? タイガ!」
「何とかね……、ブーケのおかげだよ」
大河はぎこちない笑みを浮かべながら言った。
ブーケは不安そうな目で見つめている。
「これくらい大丈夫だよ。それより、何で魔法を使う時にブーケの口に合わせなきゃ駄目なんだ?」
「だって、大河が魔法使えないって知られたら……」
虚ろな眼差しを下に向けているブーケ。それを見てか、大河は言いたいことに気付いた。
「……そんな目しないでくれよ」
そう、大河が魔法を使えないと分かったならば、魔法を使っている術者を直接狙えばいいだけの話なのだ。
果敢に戦いに参加したブーケだが、心中では死を恐れているのだろう。
まだ年もままならない子供だ。肝が据わっているわけがない。
「安心しろ! 何が何でもブーケは俺が守るから」
大河は痛みを噛み締め、精一杯の笑みを浮かべた。
「タイガ……」
波の壁が崩された。
天より雨が降り注ぐ。
「魔法使いを名乗るなら――」
視界から雨が消えた。
明確に映し出された光景。
透き通るような青をバックに、ラインヒルドは宙にいた。
周囲には複雑怪奇な文字で形成された魔法陣が、六つ展開していた。
妖艶な紫に発光し、点滅している。
「最低でも“この程度の魔法“は使えないと駄目ですよ」
魔法陣から紫電の電流が重々しく炸裂していた。
六つの魔法陣の先には、大河とブーケがいる。
不運なことに場所は最角だ。
大河の瞳に紫電が差し込んでいた。
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