ぱにっく74!180番目の真実!空虚の魔法・リバースアンプリファイアー!
青空が見えた。半径三十メートルの型に収められた青空だ。
地中から青空を仰ぐ。何時もより遠くにある。
大河とキャッツは穴の中に落ちていた。
背中を強打し、全身に激痛が走り、体のあちこちが悲鳴を上げている。
熱い痛みに襲われ、体が嫌な汗を掻いていた。
土埃が汗に付着し、より不快感を感じさせる。
「…………」
動悸の乱れが激しい。喋る間も譲ってくれない。
大河とキャッツは痛みに涙を浮かべながら、時が流れるのを待った。
待つことしかできないから。
痛みで意識が飛びそうだ。かろうじてそれを繋ぎ止めているのは、シュプリンガーの存在と言えよう。
幸い、シュプリンガーを傍に置くことはできた。後は巨人を倒すだけだ。
しかし、そんな余力、二人にはない。
喋ることさえままならない状況下で動くなんてことをしたら、死に繋がる可能性すらある。
だけど、地上にいる生徒達は戦うことができない。
地下にいる二人が唯一戦える人材なのだ。
友達を救えない。
キャッツは痛みに涙しているわけではない。
それすらもできないから、泣いているのだ。
前方にいる大河が完全に気絶していた。額から血を流し、顔を仰いだまま気絶していた。
キャッツに回復魔法を唱える余力はない。先程の、巨人の落とし穴に使った魔力が相当なものだったのだ。
元々、人間を対象とした魔法であるため、それ以外が対象となると相応の魔力を消費してしまうのだ。
キャッツに回復魔法を唱える余力はない。厳密に言えば、それを唱えれば自分が命を落とす危険性があるということ。
だけど、絶対ではない。
そう、絶対ではないのだ。
キャッツに回復魔法を唱える余力はない。死ぬかもしれないから。
それを理解した上で唱えた。
雪のように真っ白な光が、生徒手帳から弱く発せられた。
声にもならない声で魔法名を呟く。
「…………」
手のひらサイズの小柄の少女が生まれた。白い布を被り、背中に両翼が生やした白い妖精だ。
あどけない表情をした妖精が大河の元へ飛んでいった。
キャッツは重い瞼と格闘しながら、その様子を見た。
だが、最後まで見ることは許されず、意識は途絶えた。
白い妖精は大河の頭上をくるくると回りながら、その両翼から光の粒子をばら蒔いた。
光の粒子が大河に振りかかる。
数秒後、大河の眉尻に皺が寄った。
ゆっくりと……瞼を開いた。
大河が目覚めたのを確認し、白い妖精がキャッツの元に戻る。
白い妖精の後を大河は目で追った。
前方。ゴミ箱に捨てられた人形のようにボロボロとなったキャッツが首だけもたれた状態で倒れていた。
「猫目……!」
大河は立ち上がり、不安定な足並みで前進する。
キャッツの元に歩み寄る。その周囲を白い妖精が無邪気に飛び回っていた。
血相を変えて肉迫してくる大河に驚いたのか、白い妖精は煙を巻いて姿を消した。
「おい! 猫目……!」
大河はキャッツを横にし、心臓の部分に耳を傾けた。
僅かに聞こえる心音。風前の灯火よりも酷い状態かもしれない。
大河は白い妖精を探した。しかし、白い妖精は帰ってしまった。
大河に治す術はない。
魔法が無いのではなく、使えないのだから。
「だ、誰か! 猫目が……!」
誰もいない。
周囲には誰もいない。
キャッツを救えるのは、大河だけしかいない。
だけど、大河に救える術はない。
魔法が無いからではなく、魔法が使えないのだから。
大河は下唇を噛み締めた。握り拳を巨人に叩き付ける。
何度も何度も叩き付けた。
悔しいから。悔しさをぶつけるしかできない。
「お前のせいだ! お前のせいだ! お前がいなければ猫目がこんな目に遭うことはなかったんだ!」
大河は涙声で叫んだ。
鼻水をすする。
拳が砕けるような一撃を、思いっきり叩き付けた。
直後、ハーフパンツの後ろポケットが神々しい光を発した。
それは、熱かった。いや、温かった。人肌に触れているような優しい感覚だ。
大河は涙を腕で拭い、生徒手帳を取った。
神々しい発光を見せるそれに苦戦しながらも、大河はその文字を口にした。
表面に表示された180番目の魔法名を。誰も知ることのない魔法名を。
『リバースアンプリファイアー……?』
瞬間、目前の巨体が“掻き消され“始めた。
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