桃缶ぱにっく!ブレイク・オブ・クロニクル!(66/168)PDFで表示縦書き表示RDF


桃缶ぱにっく!ブレイク・オブ・クロニクル!
作:俺とキルマシーン



ぱにっく66!スコティッシュフォールドは郡を抜いて可愛い!


 何事もなく進む、日常。
 誰も何も疑うことなく、食堂へと足を進めていた。
 大河と恥夜は、唖然としながら棒立ちになっていた。
 まるで隔離された空間に立たされているような、そんな心境に置かれている。
 他愛もない話に花を咲かせていた。当然だ。大河と恥夜の二人以外は異端者の存在を知らない。
 学園長の存在すらも。
 大河は恥夜の元に駆け寄った。

「神乳……!」

 恥夜は風穴の空いていた個所に目を落とし、奥歯で悔しさを強く噛み締めていた。
 大河は近寄り難い威圧感を感じたのか、数歩手前で立ち止まった。

「神知……?」

 顔を下に向けたまま、

「私は、弱い……!」

 恥夜は力強くそう叫んだ。
 大河の瞼が重く乗っかる。
 叫び声に反応し、校舎前通りを歩いていた生徒全員が後方を振り向いた。
 隣同士で首を傾げている。
 頑に縛られていた涙腺がほどけた。恥夜は鳴咽していた。

「弱くない人間なんていないよ」

 伏せていた顔を上げる。
 頂点に立つということは、並大抵のことではない。
 周囲の期待や印象を崩すような真似はできない。いや、鈍感な人間ならそんなのは気にすることでもないのだろう。
 しかし、恥夜は違う。
 確かに恥夜は天才だ。だが、天才である以前に一人の女性なのだ。
 弱音を吐きたい時もある。
 今、彼女の頬に流れるそれは、神知恥夜という一人の女性が見せた、弱い部分だ。

「皆、弱い部分(もん)をぶら下げてるんだ」

 大河もそうだ。
 大河も弱い部分をぶら下げている。
 ただ、それを出さないだけ。
 それを知っているから、笑う。笑えるのだ。

「思いっきり泣いたほうが気が楽になるよ。きっと」

 恥夜は大河を一目見て、涙を拭った。

「……ふふ、貴方に慰められるなんて、――――そうですね、ありがとうございます」

 恥夜は空を仰ぐ。
 その表情に迷いは見られない。

「皆さん、聞いてください」

 校舎前通りがざわめく。

「現在、ある事情により、学園長殿はいません」

 ざわめきが一層増す中、大河は恥夜に耳打ちする。

「何で事情を話さないんだ? 言ったほうがいいよ」

「学園長殿の考えを察するなら、極力、私達(せいと)に事情を知られたくないはずです。
 知れば、自分の犯した過ちが火の粉となって振りかかりますから」

 そっか……、と大河は独り納得した。

「事情は話せないのですが、とにかく学園長殿がいない今、我が学園には学園長代理が必要とされます」

 恥夜は前進する。
 生徒達の視線の横を毅然とした態度で歩く。
 まさにそれは、頂点の名にふさわしい態度と言えよう。

「本来なら別の先生方に一任すべきではあるのですが――」

 バッ、と勢いよく後ろを振り向く。
 東洋学区に属する生徒全てを壮観する。

「私に任してはもらえないでしょうか」

 賛否両論の意見が生徒達の中で飛び交う。
 さすがに生徒兼学園長代理というのは受け入れ難いのだろう。

「――先生は適任だと思いますよ」
 恥夜は後ろを振り向いた。

「亜理子先生……!」

 そこには、バカ組の担任である、久能亜理子(くのうありす)がいた。

「我が学園の長に求められるのはただ一つ。魔力です」

 亜理子は清楚な微笑みを浮かべながら、こう言った。

「正直な話、教師(わたしたち)の魔力より、生徒(かみち)さんの魔力の方が格段に上回っています」

 先生は嘘を吐きません。恥夜の疑いの目を振り払うように、亜理子は力強く口にした。

「事情は後で聞かせてもらいます。それでもいいと言うなら、前向きに検討させていただきます」

 亜理子は恥夜の不安を掻き消すように笑った。

「ありがとうございます」

 恥夜を深くお辞儀をした。
 その誠意ある姿を見て、亜理子はホッと笑みを浮かべた。

 話し合いの結果、負担を半分にすることで合意された。
 西洋学区の学園長代理にスコティッシュ・アイ(キャッツの姉)を任命し、
 東洋学区の学園長代理に恥夜が任命された。
 そして、一学期最後の月となる、八月を迎えるのであった。












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