ぱにっく65!そして、太陽が月に変わったのだった。
シェリルの人差し指。その指先に光の粒子が集束していく。
大気を飲み込むような騒騒しい吸引音が轟く。
やがて光の粒子は一つの稲妻と化し、指先で暴れ捲る。
鉄を熱で溶かした時のような、焦臭い硝煙の臭いが鼻につく。
大河はその形成までの流れを、片時も離すことなく目に焼き付けていた。
「撃つ気か? そんなもん俺の魔法で防いでやる!」
力強い眼差しでシェリルを睨む。――が、その時だ。
大河を包み込んでいた桃色の球体が消えた。シャボン玉が割れたように、ほんの一瞬で。
シェリルの指先にはまだ魔法がある。大河はポケットから生徒手帳を取り出し、魔法の残量を確認した。
『0』
希望を打ち砕く、数字。
絶望が大河を襲う。
我を疑うように弱々しい声で呟く。
「そんな……だって百回近く回数はあったはずなのに」
0。何度確認しようが0だ。
先程の巨人の拳を防いだ時。その時に残っていた回数全てを使い切ってしまったのだ。
早い話は、ブランド品と同じだ。
大河の魔法はあくまで偽物であり、本物ではない。
本物より質の落ちた物。それが偽物だ。
本物ならあの程度の拳を難無く防げただろう。しかし、偽物は何十枚も重ねて、ようやく本物と同等の効力を発揮できるのだ。
発揮してしまった今、大河は無防備だ。
「魔法を弄んだ罪は主の命より重い」
人差し指が大河の方に向けられた。指先でほとばしる稲妻。
「――冥に滅されよ。現世の女よ」
大河は力強く目を瞑った。
無駄だと分からずに、両腕で壁を作っている。
シェリルの指先から稲妻が放出された。
「リミッターリミテッド!」
直前、大河でもシェリルでもない女性の声が響いた。
校門前で息を切らしている、シュプリンガーがいた。
シュプリンガーが叫んだそれは、時間を止める魔法名だった。
リミテッドと付くからには、止められる時間も限定されているのだろう。
しかし、その時間内なら時間を止めることが可能だ。
毅然とした態度でシュプリンガーは前進する。
何も言わずに、ただ前進していく。
シェリルの横を通り過ぎ、大河の元に近寄る。
大河が持っていた生徒手帳を軽く指先で叩く。魔法の回数表示が消えた。
シュプリンガーはその足で恥夜の元に近寄る。風穴の空いた脇腹に温かい光を当てた。
傷口が、みるみる内に塞がれていく。
シュプリンガーはその温かい光を周囲にも撒き散らした。
軋んだ衝撃により作られた建物の傷に、光のベールが優しく包み被さる。
傷を負った全てが修復されていく様を見て、シュプリンガーは安堵の笑みを浮かべた。
しかし、それはほんの一瞬の笑みだった。
シュプリンガーはシェリルに歩み寄る。
小声で呪文のような何かを呟く。すると、空間に亀裂が入り、シェリルが訪れた時と同じ、深い闇の空間が現れた。
シュプリンガーはシェリルを脇に抱え、生徒達に目を向けることなく、その深い闇の中に足を踏み入れた。
ゆっくりと亀裂が元に戻ろうとしていく。
ゆっくりと、ゆっくりと。
「楽しかった。ありがとう」
亀裂が元に戻った。
魔法が切れ、時間が動き出す。
そこに、シェリルはいなかった。
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