ぱにっく63!行け!魔法使い達……!
午後十二時。
試験終了を告げる鐘が鳴った。同時にそれは休憩を意味する。
試験から解放された生徒達が、疲れきった表情で会話しながら、試験会場となる店から出ていた。
足並みは重く。中には肩を借りて歩く者もいる。
無人と化していた校舎前通りが人波で溢れ返っていた。
校舎前通りの中心。それら全ての者達がシェリルに魔力を吸い取られていた。
シェリルは周囲の喧騒に耳を傾けずにいる。
一際目立つ格好をしているためか、シェリルは周囲の的になっていた。
芸者さんかな? と疑問を抱く生徒がほとんどだ。
鐘が鳴り終わろうとしていた。
刹那、周囲から続々と生徒が倒れる物音がした。人がドミノのように倒れているのだ。
生徒達の疲労感は試験によるものではない。
シェリルに魔力を吸い取られていたからなのだ。
それでも、天才組の生徒達は数名立っていられた。
シェリルは少し興味を抱いたのか、それらに目を向けた。
シェリルの目に恥夜が入る。恥夜の顔は左頬を吊り上げた状態になっていた。
「汝、名を何と申す?」
恥夜は腰差していた木刀に手を当てた。
「恥夜……神知恥夜」
何の反応もせずに、シェリルはそのまま歩き進めた。
歩みを止めるべく、背後から恥夜が精一杯の力で叫ぶ。
「待て……!」
シェリルは歩みを止めない。後ろを振り向くことすらない。
恥夜の体が落ちた。が、木刀を杖代わりにし、何とか持ち堪えた。
先ほどまで立っていた、恥夜以外の天才組の生徒達も倒れてしまった。
道端には人の川ができている。
豊富な経験や実績から、恥夜はシェリルを異端者と認識した。
恥夜は、今にも崩れてしまいそうな積み木のように脆い状態と化していた。
それでも尚、果敢に立ち向かった。
木刀を脇に構えながら、不安定な足並みで走り出す。
目指す先は前方――異端者の元。
シェリルの背中はがら空きだ。喧嘩慣れしてない素人でも一発入れられそうなくらいだ。
その時だ。
「グウオオオオオオ!!」
恥夜の背後から未曾有の雄叫びが高々と轟いた。
地が恐怖するように震え、地鳴りを引き起こす。
恥夜は巨大な人影で隠れていた。
ゆっくりと後ろを振り向くと、そこには“七つ目の巨人“が仁王立ちしていた。
全長五十メートル近くはあるであろうそのデカ物は、小さな水滴の塊で――魔力の塊で構築されていた。
常に沸騰しているかのように、体の外側の線が震えている。
青い炎で炎上したようなその巨人。読んで字の如く、人間が巨大化したような姿形をしていた。
唯一、異なる点を挙げるとするならば、その顔面の中心に並んだ七つ目だろう。
眼球を直接埋め込んだ形をしている。ゼリーの中にチェリーが入っているような感じだ。
瞬きすることはない。常に開眼された状態でいる。妙な威圧感がある。
「――生か死か。汝に選択の権利を与えます」
象と蟻。体格差が全然違う二匹の生き物。現状を表すなら、まさにそれだ。
もちろん、恥夜が蟻だ。
ただそれは、体格差での話だ。
恥夜の心は、蟻のように小さくはない。
恥夜は頬を震わせながら笑う。
「私は力に屈しません」
金属が軋んだ音と共に巨人の腕が上がる。
拳が太陽を隠す。シェリルは歩み続ける。
「其れが己の選んだ十字架ならば、命の果てまで背負い続けなさい」
巨人の拳が振り下ろされた。
地が悲鳴を上げる。
八方に広がる地の亀裂。鮮血が周囲に飛び散る。
拳が血を付着した状態で上がる。
蛙の死骸のような恥夜が――いなかった。
シェリルの背後に恥夜はいた。木刀を背中に突き立てている。
「私は力に屈しない。そう言ったはずです」
「汝の言葉は我の元に届いています」
刹那、恥夜の眼光がかっ開いた。
脇腹から“幻ではない本当の血“が流れていた。
シェリルの人差し指から硝煙が出ていた。
背中に鮮血を塗り付けるように恥夜が倒れた。
シェリルは歩き進める。
幾多の生徒達を地に置いていきながら。
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