ぱにっく54!メイドは二人に声をかけた。返事がない、ただの貧乳娘のようだ。
「お前、泥棒だったんか……」
大河は失望感に顔を曇らせる。遠目でシュプリンガーを見る。
ゴホン、シュプリンガーはわざとらしく咳き込む。
「盗んだわけではない。ただ、借りただけじゃ」
「それって、ただの借りパク……」
大河の口をキャッツが慌てて手で塞ぐ。
ふごふご、と塞がれたながらも大河は何かを言おうとしていた。 疑問符を浮かべたような表情をしながら、シュプリンガーが二人を覗いている。キャッツは清々しい作り笑顔を浮かべ、その場を切り抜けた。
やれやれ、と恥夜が呆れ顔で溜め息をつく。
「緊急時に備え、一つだけ、相手に危害を与える魔法を持ち出した。――それが、マジックアンプリファイアーじゃ」
インテグラはいやらしい笑みを浮かべながら口にした。
「緊急時、ですか……」
シュプリンガーもまた、いやらしい笑みを浮かべて口にした。
「そうじゃ、緊急時、だ」
目線が噛み合う。その間では様々な心理の探り合いが交われているのだろう。
「……まっ、今回は私の負けですから、素直に帰りますよ」
インテグラは後ろに立つ、恥夜を睨み付けた。
ふっ、と乾いた笑いを溢す。
「我が教会は、あなたが魔女になる日を心待ちしてますよ」
恥夜は目を瞑ったままだ。何の反応もしない。
再び乾いた笑いを溢す。
直後、硝子が割れたように繊細な音と共に、半透明な手錠が壊れた。
恥夜は目を開き、木刀に手を当てる。
「――よい」
シュプリンガーが一言、そう口にした。恥夜は木刀から手を放す。そこからは躊躇いの念は感じられない。
刹那、空気を引き千切ったような音と共にどす黒い渦が生まれた。鈍重な質感のある渦で、渦の回転がそれを感じさせる。
インテグラはどす黒い渦に足を踏み入れ、
「次に会う時は、私以外の教会の者も訪れることでしょう」
意味深な言葉を残し、どす黒い渦の中に消えていった。
インテグラが消えたと同時に、どす黒い渦は姿を消した。
ひとまず、危機は去ったということか。
シュプリンガーは大きな溜め息をつく。
「遅くまですまぬのう。とりあえず、私の正体は他言無用でお願いできるかのう」
ハイ! キャッツは威勢のいい返事をした。
大河はあくびをしている。恥夜は無言だ。
シュプリンガーは顔を引き攣らせている。半ば呆れているのだろう。
とりあえず、用件は終了したので、三人は解放された。
どうやら東洋学区の学園長室にいたようだ。
三人は螺旋階段を一段一段下りていく。
「そういや、神乳は何であそこにいたの?」
ふと、大河がそう尋ねた。
「神乳ではなく神知です。――ボランティアですよ。学区内の上位五名は監視官を行うので」
ふーん、と大河はつまらそうに頷く。
三人は螺旋階段を下り終え、校門まで足を運ぶ。
恥夜は知的な笑みをキャッツに浮かべた。
「キャッツ殿。姉上によろしく伝えておいてくれ」
「えっ、あ、はい」
三人は校門を抜ける。
恥夜はそのまま学生寮に足を進めた。が、残りの二人は校門手前で止まっていた。
「お前の姉ちゃん終わったな」
「何がですの?」
「いや、あの東洋学区ナンバーワンの神乳と交えるんだぜ? 勝ち目はないって」
ふふっ、キャッツは大河を嘲笑う。
「私のお姉様は、西洋学区ナンバーワンですのよ。勝敗は五分五分ですわ」
それより――、キャッツはそう口にしたところで言葉を区切った。
大河は何食わぬ顔でキャッツを見る。
「あなたの性別の話はどうしましょうか」
途端、ビクッ、と大河の体が震えた。思い出したのだろう。
大河はキャッツにナニを見られてしまったのだ。つまり、男であるとバレたいうことだ。
「聞いてくれ! あれには浅瀬よりも深い理由があって」
その時、急にキャッツが小動物のような小さな笑い声を発した。
大河の頭上に疑問符が二、三個浮かぶ。
「それを言うなら海より深い理由でしょう。――理由なら後日、ちゃんと聞かせてもらいます」
「ご、後日って……それまでにバラされたら」
「失礼ですわね。誰にも言いませんわ」
キャッツは、思い出す。
森で召喚獣に襲われた時、迷わず自分を助けようとしてくれた、大河の姿を。
キャッツは大河に背を向ける。
「私との決着はまだついてないのですから、それまでに退学されては困りますわよ」
「猫目……」
二人の間に友情が芽生える。
ゆっくりと丁寧に土から芽を出し、花へと育ち始め――
「もう決着はついてるだろ。いい加減にしろよ。あんましつこいと乳が萎むぞ。あっ、もうそれ以上、萎めないか」
ない。花は腐敗する。
キャッツの表情が鬼と化す。
憎悪と怨念の入り混じった、復習の塊みたいな声で、
「あなたって人はぁぁ……」
そう口にした。
大河が恐る恐るキャッツの顔を覗き、それを見た瞬間、学生寮へ向けて逃げ出した。
「白衣大河あああ!」
「ひぃぃぃぃ! ごめんなさ〜い!」
その夜、謎の悲鳴と無数の爆発音が朝日が昇るまで聞こえたそうだ。
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