ぱにっく29!夏を先取りしすぎて大惨事なった!
その場にいる全員が口を開けたまま固まっていた。
視線は全て、桜紅色と白色を基調としたベースギターに向けられている。
大河の足元にはバレーボールがポツンと落ちていた。
「た、大河?」
関西姉妹は大河を見ながら、そう呟いた。
言葉の中には『何それ?』という意味が含まれているのだろう。
大河は首を横に振っていた。俺にも分からないと主張している。
取り敢えず関西姉妹は落ち着き、冷静に向き合うことにした。
神戸は大河の肩に手を置く。
「お前、どこにいきたいんだ……?」
「俺にも分からない……」
「深刻やな……」
三人は絶望に浸っていた。絶望という名の底無し沼に嵌っていた。
神戸は静かにボールを拾う。
「取り敢えずサーブは私が打つよ。そのギターが魔法によるものなら何かあるはずだ。それに賭けよう」
大河と虎鉄は頷き、前衛に付いた。互いに前傾姿勢となる。
大河は前傾姿勢のまま、ベースギターを肩に掛けて持っていた。
サイズが大きい上に持ってる本人がスクール水着を着用しているものだから、傍から見ればただの変人にしか見えないだろう。
相手チームの前衛、右折が大河を蔑んだ目で見ていた。
「要領の悪い人のことをバカと呼ぶんですよ」
大河は肩を落としていた。
虎鉄は右折のことを真っ直ぐな目で睨んだ。
「ええ加減にしいや。それ以上、大河を悪く言うてみ、うちが許さんよ」
「許せない? 許せないなら何ができるの? バカみたいに踊る姿でも見せてくれるの?」
亜理子が力強く笛を吹いた。
神戸は大河の真似をし、ボールを下から打ち上げた。
「――うちらは負けんよ」
空高く飛ぶボールは打ち上げ過ぎたせいか、最初の時より滞空時間が長めだ。
同時に相手コートに入るかどうかが怪しい距離である。
いや、このままでは入らない。
大河の頭上からボールが落ちてきていた。
ゆっくりと空を掻き分けながらボールが落ちていく。
「…………ヤロ」
大河が何かを呟いていた。
隣に立つ虎鉄にさえも聞こえないほどの小さな声でだ。
ボールが大河の横を過ぎていき、
「バカヤロ――――!!!」
大河の叫び声が会場全体に響き渡る。ベースギターから鋭く上昇した音が轟く。
瞬間、会場の空気が歪んだ。
複雑な波状が一斉に広がり、相手コート側に幾重にも重なった衝撃波が飛ばされた。
同時に、着地する筈だったボールが浮上し、突風の軌道を生み出しながら相手コートに叩き込まれた。
その場に立つことさえままならない衝撃波に、右折左折はおろか後衛にいる最中までもが後ろに引きずられていた。
衝撃波の影響は人に限らず、貪欲に物を喰らう。
着用していたビキニが熱で溶かされていくように破けているのだ。
あまりの衝撃波にビキニも耐えきれなかったのだろう。右折左折は別として、最中の胸がひしゃげていた。
到頭、相手チーム全員がコートの外に飛ばされてしまった。
「きゃああああ!」
衝撃波が静まっていく。
場外から観戦していた者達のビキニも押さえていなければ剥がれていただろう。
しばらくの間、会場の空気が空虚に包まれた。
「……ば、バカ組、一点!」
亜理子が遅れて審判を行う。大河も関西姉妹も喜ぶ余裕はない。
まさに衝撃的だった。その余韻が残っていた。
――衝撃はまだ終わってはいなかった。
その衝撃に最初に気付いたのは、大河の隣に立つ虎鉄だった。
「……どないしたん、大河!?」
「何が?」
大河が着用していたスクール水着が、虫に食われたように穴が空き始めていた。
空いた部分から肌が晒される。その勢いが止まる様子がない。
マジックアンプリファイアー。所有者の感情により効能が変化する魔法。間違いなく天才以上に値する魔法だろう。
しかし、そのデメリットは過酷だった。
「俺の水着がああ!!」
着衣しているものが消えていくこと。
学園長が大河専用に考えた、唯一無二のデメリットである。
そう、このままでは大河の裸体が晒され、下半身の異物がお披露目されてしまうのだ。
現在の点数は三対二である。
少なくとも残り七点は入らないと試合は終わらない。
勝ちを望むならば、残り八点は必要だ。
世界一どうでもいい選択が、大河には迫られていた。
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