ぱにっく194?木刀と付き合ってください(斬!)
「僕と付き合ってください!」
透き通るような青空に、一人の男子生徒の声が響き渡った。
校庭からは、食後の運動を満喫する学生達の清々しい声が聞こえる。
丁寧にお辞儀までしている青年の前に、校内で最も人気のある女子生徒・神知恥夜がいる。
季節は夏に入ったばかりだ。
白い半袖のブラウスにチェック柄のスカートを履いている。これが当校の夏服となるのだが、この夏服を他の女子生徒が着ても、大抵の男子生徒は見向きもしない。
いや、女子生徒個人に問題があるわけではないのだ。
むしろ、当校の女子生徒を他校に送れば、間違いなく人気が出るだろう。
だが、当校では難しい。
難しいというより、女子生徒自体も諦めており、それどころか、異性に抱くような甘酸っぱい感情まで持つ者さえいる。
そう、全ては、彼女・神知恥夜に問題があるのだ。
正確に言えば、神知恥夜の胸だ。
何を食べたらそうなるのか、恥夜の胸はあまりにも発育し過ぎている。
中学生なんて比じゃない。テレビとかで起用される巨乳タレントだって比じゃない。
人は彼女の胸をこう称する。
霊長類最強の乳だ、と。
霊長類なめんな、と。いや、こっちは言ってないが。
とにかく恥夜の発育は異常なのだ。
その異常なまでに膨らんだ胸が全校生徒を引き付け、恋愛関係に支障を及ぼしているのだ。
そんな恥夜だが、これまで告白されてきた男の人数は優に三百人以上はいる。
この数値は、=当校の男子生徒全てと結びつき、同時にフッた人数とも結びつく。
告白してくる者全てが、恥夜の胸目的で挑んでくるのだ。
恋愛感情を抱いているのかさえ分からない。
そんな、女を道具と思うような男とは、恥夜は付き合えない。
彼女の敷居が高いわけではなく、大半の女性は同じ答えを出すことだろう。
今回もまた……と思うが、今回告白してきた男子生徒は、前例のない、健全な性格をしていた。
ルックスは平凡だが、それでも不健全な性格をした男よりか幾分もマシだ。
男子生徒の名は、平良宗雄。剣道部所属の“転校生“だ。
恥夜は武道に励む男が密かに好みだったりする。
自分自身も武道に励んだりし、テレビなどで試合を視聴したりもしているくらいだ。
「私でよければ、付き合おう」
平良は顔を上げた。
恥夜が笑顔で手を差しのべている。
その時、平良はオーケーをもらったことに気付いた。
「ありがとうございます!」
平良は何度も何度もお辞儀をし、礼を口にした。
一週間後。
特に約束を交してはないのだが、二人は誰にも口外せずに付き合っていた。まあ、近いうちに広まることは請け合いだろうが。
二人は同じクラスであり、しかも席が隣同士という、神様に恵まれてるとしか思えないくらい素晴らしい環境にいた。
授業中は真剣に勉学に取り組み、休み時間が来ると、二人は話していた。
というより、授業中に恥夜に声をかけても、返事を返してくれないのだ。
あまりにもしつこく言うと、今は授業ですよ、と、一喝を入れられる。
そんなことで自滅したくない平良は、授業は真剣に取り組むことにしたわけだ。
周囲の疑惑の目線を浴びながらも、二人は会話を進める。
「デート?」
平良は恥夜をデートに誘っていた。学校では交流が深められないため、外で深めるしかない。
恥夜は釈然としない表情しながら、しばし思考を働かせる。
「はい。よかったら今週の土曜日とかに一緒に出――」
「一緒に修行したいのですね。いいでしょう。私でよければ付き合いますよ」
絶句する平良。
もしや、恥夜の言う“付き合う“は、修行に付き合う、ということなのだろうか。
内心、不安になっていた。
しかし、いずれにせよ恥夜と休日を共にできることは変わりないため、平良は潔く返事をした。
「よろしくお願いします!」
何故か敬語。
そんな微笑ましい(?)光景を、鋭い眼光を飛ばしながら眺める者達がいた。
校内でも有名な不良グループである。といっても、ルックス的には平良に負けず劣らずの平凡っぷりが窺えるが。
日は流れ、約束の土曜日となる。
待ち合わせ時間は、午前七時。一般的なデートだったらあり得ない待ち合わせ時間だ。
これは恥夜が指定した時間だ。平良が休日の部の練習があるため、邪魔できないとのことだ。
確かに、平良も入部早々、無断欠席はしたくないので、そこは互いに了解している。
待ち合わせ場所は武道館前だ。校内の片隅に建てられている、一階建ての武道館だ。
現刻は六時四十五分。
気分が高まり過ぎて、平良は予定より早めに来ていた。
ちなみに終わったらすぐに部活に参加するので、私服ではなく制服を着ている。
恐らく、恥夜も制服、もしくはジャージを着てくるだろう。
部室がズラリと並んだ建物の角から、足音が聞こえた。
こんな時間に学校を出歩くのは、いるとしても教員くらいしかいない。
だけど、どの部活も始まってないので、恐らく、恥夜だ。
喜びのあまり、平良は誰かも確認せずに振り返り、
「おはよう! 恥夜さん!」
と、言ってしまった。
そう、言ってしまったのだ。
角から現れたのは、例の不良グループだ。
不良グループという割りには、律儀に制服で登校しているのだが。
「おはよう、平良“クン“」
不良グループのリーダーが、険悪な表情をしながら口にした。
まんまと罠に嵌った平良の姿を、リーダーの両端に立つ手下二人が笑って見ていた。
平良は一歩、退いた。
足首に竹刀がぶつかる。
「ど、どうしたんですか? こんな朝早くに」
平良が完全に青ざめている。
「どうしたって? いやさ、たまたま君達の話を耳にしてさ、よかったら僕達も修行に参加しようと思ってね」
そうは言っているものの、不良グループは竹刀を持っていない。明らかに別の目的がある。
「――いいですよ。共に汗を流しましょう」
不良グループの背後、制服姿の恥夜が立っていた。
愛用の木刀を道具入れに入れた状態で肩にかけている。
「恥夜さん!」
不良グループのリーダーが後ろを振り返る。
振り返り際に、恥夜の肩を掴んだ。
「そんなことよりもさ、もっと“別なこと“して汗を流そうよ」
「恥夜さん!」
平良は恥夜の元へ駆け出した。
が、途中、手下二人組の足に進行を阻まれた。
顔面から転倒しそうになった直後だ。
地面に人影が映った。
平良の頭上のリーダーの姿があった。
それは、一瞬の出来事だった。
リーダーが言葉をかけた直後、肩にかけられた腕を恥夜が思い切り振り払い、投げ飛ばしたのだ。
振り払った時、不運にも道具入れの先端がリーダーの頬を抉り込んでいた。
しかし、それ以上に不運な事が、もう一つ起きていた。
転倒しそうになっていた平良が伸ばした手の先が、恥夜の胸を鷲掴みにしていたのだ。
制服越しからとは言え、恥夜の乳房を触ったものなど、誰一人としていない。
まして、鷲掴みにされたことなど一度もない。
転倒しそうという危険な立場でありながら、平良は幸せ絶頂な表情をしていた。
瞬間、平良の顔面に木刀が入り込んできた。
「えっ?」
恥夜の強烈な一撃が、平良の顔面を真っ向から捉えた。
「っぷし……!」
あえなく転倒。
転倒に負傷より、恥夜の一撃による負傷の方が大きそうだ。
冷酷な表情をした恥夜が、子犬のように脅える手下二人組を睨み付けた。
手下二人組の視界には、例の殺人的撲殺兵器がある。
「ひいいいい!」
手下二人組は逃亡した。
恥夜は負傷して倒れる二人に、絆創膏を二枚、渡した。
「男は信用できません」
そんな勘違いから捨て台詞を吐いて、恥夜はその場を立ち去った。
その捨て台詞が同時に別れの言葉となった。いや、元々付き合っていたわけではないのだが。
この日を境に、平良と不良グループは仲良くなったようだ。
そして、この日から、恥夜は常に木刀を常備するようになったのだった。
「やはり、男は信用できません」
赤面しながら、恥夜は呟いた。
完。
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