ぱにっく18!……やっぱバカでエロいだけかも?
数十分後、大河は学園長室から退室した。
扉の前に立っていたメイドが無機質な声で尋ねる。
「了承の印はもらいましたか?」
立ち止まり、大河はスカートのポケットから生徒手帳を提示した。
了承の印が押されているのを確認したメイドは大河と共に階段を下り、縫うように庭園を進み校門を抜けて、大河のみ西洋学区を後にした。
メイドが竹箒を使い、境界線周辺を払う。
その様子を学園長は自室の枠から覗いていた。
数十分前、大河は学園長にこう告げていた。
「……ちょっとまて」
大河は無い知恵を搾り出し、答えを導き出す。
「今という幸せを手放すなってことは、胸を揉み続ける手を離すなってことだよね?」
恐ろしく解釈の仕方を間違えているのだが、大河にとっての幸せとは胸を揉むことであるのは確かだ。
「いえ、ですから……」
「とにかく今すぐ男に戻るって選択肢にないからな! 俺はずっと女でいるよ!」
もちろん胸も揉み続ける! 大河は堂々と宣言した。
学園長は深く溜め息をついた。半ば呆れたご様子だ。
悩ましげに頭を指先で押さえながら、学園長は降参するように告げた。
「……分かりました。あなたの幸せがそれなら、私は何も言う権利はありません」
「じゃあ!」
大河が顔を明るくさせる。
「ただし、本当に今のままで居てもらいます」
源泉を掘り当てたように明るい表情から大量の汗が噴き出た。
今のままで居てもらう、つまり、ナニの付いたままで居てもらうということだ。
「衛生面を考慮し、入浴時に限り一時的に女性に戻しますが、それ以外の時は男性のままで居てもらいます」
大河は学園長にしがみ付く。
「そんなケチくさいこと言わないでくれよ〜」
必死の懇願を振り払うように、学園長は大河に背を向け、四角い枠側に足を進めた。
「あなたもこの学園の生徒であるので、これ以上の特別扱いはできません」
学園長は大河に手を差しのべた。頬を膨らませて睨みながら大河は疑問符を浮かべる。
なに? と不満気に問う。
「生徒手帳を貸してください」
大河はスカートのポケットから生徒手帳を取り出し、乱暴な素振りで手渡した。
学園長は生徒手帳に触れる触れないかの境界に位置に手を置いた。
月光の差し込むその場所に淡く優しい光が膨れた。掴めそうで掴めない雲のような質感を感じさせる不思議な光だ。
不思議が故に人を惹き付ける何かがそこにあり、大河は吸い込まれるように見入っていた。
「魔女というのは、その名の通り女性が成るものです。つまり、男性である大河は魔女に成る以前に魔法が使えません」
魔法が使えない魔女見習い。そんなレッテルが大河に知らぬ間に貼られていたのだ。
案内書で魔法の存在が見えなかったのは才能ではなく、単純に大河が男性であるからだ。
「マジックアンプリファイアー、――魔法が必要になった時、その名を口にしなさい」
大河の生徒手帳に入力された、たった一つの魔法『マジックアンプリファイアー』。魔法を使えない魔女見習いの役に立つものなのかは、本人はおろか学園長にすら分からなかった。
淡く優しい光が消え、空間が夜の闇に包まれる。
学園長は大河に生徒手帳を返した。
大河は軽くお辞儀をし、その場を後にした。
――そんなやり取りが数十分前に行われていたのだ。
月を眺めながら、学園長は呟く。
「彼女は魔女に成りうるかもしれませんね。“学園長“」
学園長の胸元から黒猫が顔を見せる。鈴の音色を鼓膜に浸透させた。
「その名で呼ぶでない。変装がバレたらどうする。気をつけい」
学内全員が学園長の名を知らない。
何故なら、本当の学園長をまだ知らないからだ。
魔法で偽造された学園長なら会っているのだが。
その黒猫の名はシュプリンガー。
私立月陽学園都市の長である。
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