ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
ぱにっく169!崩壊の序奏!
 大河は何もかもを諦めたかのように目を瞑った。
 ただ、その場で震えることしかできなかった。
 シェリルは脇目も振らずに、先を進んだ。
 着々と学園へと侵攻しており、彼女の計り知れない魔力が学内の電気系統全てを破壊し、建物に亀裂を走らせていた。
 肺を圧迫されたかのように、大河の呼吸は乱れていた。
 尋常じゃない量の汗が体中から吹き出ている。
 だけど、これ以上、先を進ませてはならない。
 恐怖に震えた足を強引に立たせ、大河はシェリルに向かって叫んだ。

「それ以上! 行かせない!」

 気付けば、体が前を向かっており、途端、右手が炎上した。
 夜闇に灯る赤黄色い炎。大河は右手に火の魔法を生み出していた。
 纏まりのない小さな炎が手の平で圧縮され、球体と化す。
 前方のシェリルまでの距離は、五メートル弱といったところ。
 果敢にも、大河は間合いを詰めていった。
 シェリルは止まらない。
 しかし、差が広がらない。
 追える程度の差しか出ない。

「わあああああ!!」

 絶叫にも似た叫び声を張り上げ、大河は火球を前方に押し出した。

「……えっ」

 火球が溶けていく。
 火だというのに、まるで火炙りにされた氷のように溶けていく。
 シェリルに当たらない。
 いや、当たる以前の問題だ。
 大河は世界の終わりでも間の当たりしたかのような目をしていた。
 シェリルは何事もなかったかのように、足を進めている。
 再び、その場に膝を崩した。
 大河はシェリルが侵攻する様を、ただただ見つめる他なかった。
 暗闇の中に吸い込まれていくようにシェリルが姿を消した。
 混線する思考に苦しむ中、その巨大な崩壊音が大河の耳に届いた。
 音の聞こえた方を――学園の方を見上げた。
 棟の頭が、見えなかった。
 暗闇の中にぼんやりと映っていた影も見えない。
 地が唸りを上げている中、生徒達の悲鳴が鳴り響いた。
 大河は足を立ち上がらせた。が、一瞬、ぐらついた。
 何とか持ち堪え、態勢を整えた状態となり、学園の方へと足を進めた。
 壁に空いた穴を潜り、迷路のように入り込んだ草木の道を掻き分けながら突き進んだ。
 徐々に悲鳴が近くなってきた。
 そして、棟の全体像が見えてきた。
 無惨に崩壊した棟の全体像が。
 入口で足が止まり、ただ呆然と眼前の惨状を眺めていた。
 二十棟もの建物が全て、真っ二つに斬り落とされ、更に細々と裂かれ、瓦礫の塊を砂同然の姿に変えていた。
 シェリル、ただ一人だけで。
 二メートルもの細長い日本刀が鞘に納められていく。
 逃げ遅れた生徒が数十名ほどいるが、早急な対応のおかげか、軽傷で済んだようだ。
 だが、もう逃げ場はない。
 真正面には、あの史上最強の魔女=シェリルがいるのだから。
 夜風が、塵と化した棟の残骸を運んでいった。
 一千人近い全校生徒と数名の教員が、シェリルを対峙する。
 その中に、ラインヒルドとインテグラがいた。
 シェリルはその二人を、ただただ、無言で見つめていた。


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。