ぱにっく129!天才の底力!エリクシル逆算作戦!
刃が空を割いた。
白銀の光が地に尾を引く。
白い外套が風に掻き乱され、粗雑な音を立てながら宙に溺れる。
爆音が地に叩き付けられた。
砂煙が外側に膨らんでいく。
弾丸のような速さで身を投げ出したインテグラが、鋼の剣を振るったのだ。
八十センチの刀身は何も捉えずに、地に突き刺さった。
砂煙の反対側に人影が見えた。インテグラは鋼の剣を抜き、勢い殺さずに横に振った。
砂煙が上下真っ二つに割れ、反対側の視界が露となる。
そこにラインヒルドの姿は無かった。
瞬時に周囲を見渡し、ラインヒルドを見つける。
ラインヒルドは放送席を右に突っ切っていた。
向かう先に人気はない。
インテグラはラインヒルドの後を追った。
走る足を止めぬまま、三歩先に赤色の宝石を放り込んだ。
乾いた金属音が突き刺さる。
刀身が赤色の宝石を喰らう。
瞬間、目が眩む程の勢いのある真っ赤な閃光が周囲に迸り、刀身に炎が走った。
白銀は真紅に変化する。
十数メートル先を走るラインヒルドの背を縦に割る。
刀身から五発の火の玉が発せられ、ラインヒルドに向かって飛んで行った。
ラインヒルドはその場で立ち止まり、背後を振り向いた。
目前に迫り来る五発の火の玉に向けて、右手で円を描く。
「サークルレッド!」
赤い光の円が現れた。
火の玉に向かって飛び込み、一発目の火の玉を打ち消した。
太陽に氷を放り込んだイメージ、一瞬にして火の玉は消えた。
ラインヒルドは体を反転し、再び、右手を突き出す。
「サークルレッド!」
二発目の火の玉も打ち消し、追尾して来る火の玉を順々に、左足を軸に反転しながら、受け流すように打ち消していった。
十数メートルも間合いが詰められ、六メートル付近まで来ていた。
インテグラは深海色と黄金色の宝石を二つ、上空に投げた。
「そんな低級魔法、凡才ですら使わないですよ」
剣を振り上げ、中空に浮かぶ二つの宝石と共に、地に叩き付ける。
ラインヒルドは対になるように回り、対峙する。
「どんな魔法であろうとも、魔法は魔法ですから」
右手で円を描く。
頭部に深い傷の付いた鮫が獰猛な瞳を突き刺し、大木のように太い体躯を折り曲げながら、突貫して来る。
「ジギャアアアア!!」
貫高い唸り声を叫び、鋭い牙を見せつける。
「サークルブルー!」
青い光の円が現れた。
鮫を引き付け、体を反転しながら、受け流すように打ち消す。
鮫が大粒の水玉となって盛大に弾ける。
視界が塞がる。
「……っ!」
瞬間、直線的な稲妻が水の壁を貫き、ラインヒルドの肩を射貫いた。
右肩に風穴が空いた。
ストラップのように腕が付け根からぶら下がっている。
迷いのある足の動き、体が揺らぐ。
インテグラは不敵な笑みを浮かべ、剣先を地に向けた。
「先程の威勢はどこへやら……。――私には解らないよ、ライン。何故に、この者達と共に戦っている?」
「約束したのです」
グランドの中心では、月陽学園の生徒達全員が自分よりも何十倍も大きい敵と戦っていた。
誰もラインヒルドに力を貸さない。
信じているから。
ラインヒルドは絶対に勝つと信じているから、力を貸さないのだ。
「インテグラ、私は貴方を越えて、彼女達と生活を共にするのです」
刀身が顔を向けた。
白銀のそこに反射する陽光、そして、ラインヒルドの張り詰めた表情。
「口だけなら何とでも言える。そういうのを虚勢と言うんだよ。“ラインヒルド“」
「――虚勢かどうかは、どちらかが倒れるかまで分かりませんよ」
剣が地から離れた。
六メートルの間合いを詰め、白銀の剣と共に迫る。
「……っ! なら、このまま倒れれてしまえばいい!」
闊歩しながら、果敢に振り上げられたその剣を地に叩き付ける。
「――捕縛結界発動!」
直前、インテグラを中心とした半径十五センチメートルに青い炎が走った。
青い炎は円を描き、足下から膝下までの間に神秘的な光を輝かせた。
青い炎の線が陣内を走り、六芒星を描き出す。
八方から長方形が食い込む。
インテグラが止まった。
陣外に立つラインヒルドが左手を見せた。
「エリクシル……? それがどうかし……!!」
インテグラは陣内を見た。
円を沿って見る。青い炎の下に水滴の跡が見られた。
その跡は一周し、円を描いている。
「“エリクシルの構造を逆算しました“」
青い炎がラインヒルドを不気味に照らす。
「エリクシルの爆発的な回復力を“爆発的な攻撃力“に変えた」
そう、ラインヒルドはわざと守りに徹していたのだ。
守りに徹するフリをしながら、空いた左手でエリクシルを撒き、円を描いていた。
余分な成分を加えられたエリクシルの魔法陣は、自慢の回復力を失う。
そこに反発する成分を含んだ魔法を放てば、自慢の回復力は最大の攻撃力に変わる。
インテグラは身動き出来ず、目と口以外は動かない。
「いつの間にそんなことを……今日、初めて使用したはずなのに」
「回復に使った一本、あの一本から全てを割り出しました」
インテグラの頭の中に戦慄が走る。
複雑な構造で成り立っているエリクシルだが、短時間でその構造の逆算をしていたのだ。
天才、ラインヒルドは。
攻撃に転じなかったのは全て、この一撃の為だった。
「捕縛結界解除」
インテグラの持つ剣が――魔法で造られた剣が陣に触れた。
焼き付く程に青い閃光が発する。
「私の名前はラインヒルド」
瞬間、火柱が空を青く燃やした。唸りを吠える。
炎の勢いが途絶えた時、あちこちに黒墨が付いたインテグラが、生まれたままの姿で倒れて落ちてきた。
ラインヒルドは三本の空瓶を地に落とした。
「私立月陽学園都市、東洋学区、凡才組に在席する者です」
地鳴りが轟く。
近場で爆弾が落下したような振動、地が揺らいだ。
七体の巨人が倒れた。
歓喜の叫び声が響く。
ラインヒルドはその声を聞き、静かに微笑みながら、ゆっくりと、地に倒れた。
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