ぱにっく1!魔法が解除されて大変なことに!
淡い澄色の照明が光るシャワールーム。湯の雨がタイルを弾き、立ち込める湯気が網目模様のガラスを曇らせる。
個別で分けられたシャワールームは一人一つ占領する形で使用されている。
女子生徒達の黄色い声がキャッキャッと響く中、出入口から二つ先の場所から裏返った悲鳴があがった。
「ひゃあああ!」
悲鳴の原因は、己の双方の乳房を背後より鷲掴みされていたからだ。手中に丁度よく収まる膨らみを搾り込むように揉む。
悲鳴の主はその場に座り込み、掴まれていた手を強引に引き離す。
胸をタオルで隠し、背後を振り向く。
背後に立っていたのは、身長一七十センチ前後のガッチリとした体型をした女だった。
黒髪のストレートヘアーで、一見男性と見間違えるくらい凛々しい顔つきをしている。
「直に触るのだけは止めてって言うたやん、大河〜」
どこか腑の抜けた感じのある声で注意する、のほほんとした表情をした、身長百五十センチくらいの小柄な女。
黒髪のショートカットで、何かを感知しているのか頭上には二本のアホ毛が飛び跳ねている。
昆虫の触覚にも似たそれは、入浴中だろうが水中だろうが関係なしに常時立っている状態だ。別名“鉄壁のアホ毛“だ。
胸揉み女こと白衣大河は大して悪びれる様子もなくケラケラと笑いながら、友人である関西虎鉄の背中をバシバシと叩いていた。
「悪い悪い。だってさー、制服越しからだと生の感触が伝わらないじゃん?」
「お前はオヤジか」
冷静な突っ込みを入れたのは虎鉄の隣の場所を使用している、関西神戸だ。双子で虎鉄の姉である。
紅色に脱色されたストレートヘアーは腰本にまで行き届くほど長くて艶がある。前髪は片側に寄せてあり、片面だけ額が露になった状態だ。
感情にあまり起伏が起きず、まったりとした性格をしている。その点は妹とかなり似ている。
お先〜。次々と利用者達が出ていくのに気づき、関西姉妹はシャワーを止めた。
大河は既に出る気満々の状態だ。タオルを肩に掛けながら、いつでも出れるぜと小さな胸で主張している。
「別にいいじゃん。減るもんじゃないんだからさー」
三人はシャワールームを出て、扉を閉めて電気を消す。無人のシャワールームが真っ暗になった。
シャワールームまでの通路間にロッカーがあり、そこに着替を蔵ってある。
通路の床はゴム製の床で防水加工されているようだ。
奥行きのある通路は距離して五十メートル近くはある。ここでなら短距離走のタイムも測れるだろう。
ロッカーを開けて中の物を取り出して着替える。
ここ、私立月陽学園都市は女子高である。つまり男性は居らず、それどころか“部外者さえ立ち入ることのできない“造りになっているのだ。
そうともなれば生徒達は皆解放的だ。着替えでも裸を隠す者は居るには居るが、大半は気にしない者が多い。
早めに着替えを終えた大河はロッカーを閉め、ポケットから一枚の生徒手帳を取り出した。
手帳と言っても外見はカードの形をしており、要は生徒を識別するための物だ。色は透明で、中心に金文字で『バカ』と記されている。
ロッカーの脇にカードを差し込んで縦に下ろす。読み込み成功と同時にロッカーが自動的に施錠された。
「そもそも揉む以前に触ったらダメだ」
愚痴を溢しながらも神戸は着替えを終えた。残るは虎鉄のみとなるが、彼女だけは未だに下着と格闘している最中だ。
「揉めるほど無いくせに……」
大河はボソッとそう口にする。しかし、神戸の耳には届いていたらしく顔から湯気が噴く。
妹の虎鉄は人並みに胸の膨らみがあるが、神戸の胸は大河と良い勝負だ。
神戸にも胸に膨らみがあった時期があるが、いつの間にかシャボン玉が割れたのように消えた。怪奇現象でも何でもない。自然と無くなっていったのだ。
「お前にだけは言われたくない」
大河は元々膨らみが無い。生まれた時からそこだけが成長していない。もはや誰かに成長期を盗まれたとさえ感じるくらいだ(盗めるものではないのだが)。
「俺は貧乳に誇りを持ってるからな!」
と自慢げに言いながら、無い胸をポンッと叩く。
そんな乳話に華を咲かせる中、ようやく虎鉄が着替えを終えた。
カードを差し込みロッカーの施錠を確認したところで学生寮に足を運んだ。
ケラケラと賑やかに笑い声を上げている大河だが、その時既に“彼女“の身に異変が起きていたことを誰も知る由は無かった。
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