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第一章
軟紅花瓶:二
 泣きじゃくる初春を宥めつつ、佐天は白井の行方を窺う。
「まだ分からないからね。ほら、早く後を追わないと見失っちゃうよ」
慌てて通りに戻ると、随分遠くまで白井たちは進んでいた。急いで建物の影から飛び出すと、後ろから大声で初春たちを呼び止める声がした。
「やっと見つけた。初春さ~ん、佐天さ~ん」
「み、御坂さんも呼んだの?」
「当然です。超能力者《レベル5》がいれば怖いもの無しですから」
 白井と同じ常盤台の制服を着ている少女は、名を御坂美琴と言う。その可愛らしい外見に似合わず、学園都市に七人しかいない超能力者《レベル5》の第三位、通称『超電磁砲レールガン』と呼ばれる能力者である。

 最高最強の電撃使い《エレクトロマスター》と一緒なら、大能力《レベル4》の空間移動テレポート能力者を尾行することなど児戯に等しい、というのが初春の主張だった。
「うわ、マジで男の子と歩いてるわ。あの黒子がね~」
「御坂さん、何か思い当たることとか無いですか? ていうか御坂さん知ってました?」
「知らないわよ。常盤台は女子校だもん。男の子と知り合う機会なんてそうそう無いのよ」
 御坂や白井の通う常盤台中学校は、学園都市でも五本の指に入るほどの名門校であり、世界有数のお嬢様学校として内外に知られている。能力開発分野での英才教育を徹底しており、強能力《レベル3》以下の能力者はどれほどの権力者であろうと入学を許されない。
 学校の立地は、他の女子校と隣接して出来た『学舎のまなびやのその』という特殊な敷地内に建設されている。『学舎の園』は敷地内の生徒と特別な許可を得た人物以外の出入りを厳しく規制している上に、敷地内に女子校しかないこともあり、殆ど女性しか存在しないという、『学舎の園』というよりは『女の園』といった環境である。

「案外、風紀委員ジャッジメントの同僚とかじゃないの?」
「初春は知らないって言うんですよ。同じ風紀委員ジャッジメントなら、初春だって知ってるはずだし」
「それもそうね。ま、後追ってればその内分かるでしょ」
 三人仲良く物陰から顔を出して確認すると、白井たちはごくごく普通のコンクリートで出来た四角い校舎の中に入っていった。
「あれって、ウチらの学校じゃない?」
「私たちの学校、ですね。というか、あそこ風紀委員ジャッジメントの第一七七支部ですね」
「それって、やっぱり風紀委員ジャッジメントってことじゃ……」
 御坂に指摘され、むむむっと額に皺を寄せて初春が悩む。確かに初春は第七学区の風紀委員ジャッジメントの全てを把握しているわけではない。ここまでくると、何だか友達を巻き込んでまで騒ぐことではなかったような気がして、初春は恥ずかしい思いに駆られた。
「こうなったら、直接確かめるしかありません。行ってきます!」
「ちょっと、行くって何処へ?」
 初春は大きく息を吸い込んで覚悟を決めると、信号を渡って白井の入っていった学校へ走り出した。釣られて佐天や御坂も後を追って走った。

 玄関でスリッパも借りず、くつ下でぱたぱたとリノリウムの冷たい廊下を走り抜け、『風紀委員活動第一七七支部』というドアの横にある指紋、静脈、指先の微振動パターンを解析するセキュリティシステムに荒々しく手を当てて解除すると、ノックもせずに勢いよくドアを開け放った。
 バーン! という大きな音。
 中に居た風紀委員ジャッジメントが、一斉に初春を見る。勿論、中に居た白井も「う、初春? 今日は非番ではありませんでしたの?」と驚いた様子である。
 そんな白井を一顧だにせず、ずかずかと大股で近づくと、初春は白井の横に座っている男に向けてずびしっと指を突き出した。
「白井さん、この人、誰ですか!!」
小さな室内を、飴を転がすように甘ったるい叫び声がこだました。


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