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第四章
気になるレベル5?:三
「……『対抗手段カウンターメジャー』を、私に教えてください!」
 俯き気味だった佐天は、今度は打って変わって廷兼郎の顔を真正面から見据えた。その気迫を伴う言葉に、廷兼郎も敏感に反応する。

 確固たる決意デターミネーションを秘めた強い瞳だ。どうやら今まで俯いていたのは、単に気まずかっただけではないらしい。
「何故、『対抗手段』を身につけたいのかな?」
 努めて柔らかく包み込むような声音で、廷兼郎は訊ねた。

「私、能力が無いから、いざってときは友達に守られてばっかりで、でも、それじゃ駄目だって思ってて。だから私も、強くなりたいんです!」
 『強くなりたい』という言葉が、殊更に廷兼郎の体に心地よく染み渡る。
 まるで親和性の高い物質同士を合わせたように、それは何の抵抗も無く結びつく。
「一応年長者として、言うべき事は言わせてもらいます」
 だからこそ、廷兼郎は気を落ち着かせ、佐天の覚悟を見定めなければならない。

「強くなる方法は『対抗手段』だけではないし、学園都市における『強さ』とは、とかく能力レベルで計られることが多い。そういう意味で、能力開発を頑張るほうがいいと、僕は思いますよ」
 『対抗手段』は、あくまで能力者と戦うための方法論である。学園都市が推進している能力開発とは、言わばそのコンセプトを真逆にしている。
 警備員アンチスキル風紀委員ジャッジメントといった、特殊な役職に付いている人間以外に、みだりに吹聴していいものではない。
「『対抗手段』は白井さんや初春にも教えてるんでしょ。だったら能力者でも使えるってことですよね」
「それは、勿論ですよ」
「能力開発はちゃんと受けます。勉強もします。だから、教えてくれませんか?」

 むうっと、廷兼郎は深く考え込んだ。
 佐天の申し出をどう断ろうか思案しているのではない。むしろ佐天の思いに、自分はどうやって貢献してあげられるか、真剣に悩んでいた。
 能力者と戦うことにおいて、『対抗手段』は最適であると廷兼郎は自負している。そこは問題ではない。肝心なのは、どの程度まで『対抗手段』を教えるべきかということである。
 廷兼郎とて『対抗手段』を完全無欠に身につけているわけではない。それに『対抗手段』自体が研究の途中であり、廷兼郎自身の力量も未だに発展途上である。

 それでも彼の習練の程は、女子中学生が易々と肩を並べられるような次元ではないので、まさか廷兼郎も佐天をその道に引き込む意図は無かった。
 しかし、簡単な護身術を教えるのみというのも気が引ける。勿体無いということではなく、小手先で生半に身につけた技術というのは、却って自分を危険へと導くことになりかねない。
 『対抗手段』の精神をしっかりと身に付けられて、かつ女子中学生の体にも負担にならない程度が一番好ましい。
(風紀委員の人たちに教えているのと、変わらないかもな)
 廷兼郎が教導訓練を行なっている風紀委員には、下は小学生から、上は高校生まで存在する。警備員に教える場合は、大人の相手をしなければならない。年齢も体力も違う彼らにも効果的に教えるため、『対抗手段』はより修練しやすくて、早く強くなれて、体を壊すリスクの少ない練習方法を模索してきた。

 佐天に悪い気もするが、平均的な女子中学生にも身につけられる『対抗手段』の練習方法を確立するには、好都合な出来事かもしれない。
「出し惜しみするようなものでもありませんし、僕で良ければ手解きしますよ」
「ホントですか!? ありがとうございます!!」
 佐天は初めて会ったときの快活さで喜んだ。それを見ていると、何だか廷兼郎まで嬉しい気分になってくる。

 そのとき、天啓が廷兼郎の体を打ち貫いた。佐天と初めて会ったときを回想しながら、別のところで違う歯車が流れるように回転している。
「佐天さんて、御坂さんと友達ですよね?」
「まあ、よく一緒に遊んでますけど」
 佐天と初めて会ったとき、確かに御坂がその場にいた。自分の記憶違いではないことを確認してから廷兼郎は切り出した。
「いやあの、交換条件、ってわけじゃないんですけど、出来れば御坂さんに会わせてもらえないかな~、なんて、言ってみたりしちゃったり……」
「別にいいですけど」
「ホントですか!? ありがとうございます!!」
 佐天に負けない活気で、廷兼郎は喜んだ。
 超能力《レベル5》への道が、僅かながらに開けてきたのだから、これは喜ばずにはいられなかった。



 佐天と会ったその日の夜、廷兼郎は網丘の決めたトレーニングメニューに従い、街中でのジョギングを行なっていた。
 まだG―1トーナメントが終わって日が浅く、廷兼郎の体からは完全にダメージが抜け切ったわけではない。今日か明日までは、メニューを抑えて体力の回復に努めるようにと、網丘から命じられていた。
 体の調子を確かめるために、軽く走りながらそこら中を飛び跳ねる。井上に殴られたダメージも、凍傷も治りかけ、調子は上がってきていた。
 今すぐ能力者と戦っても構わないと、廷兼郎は息巻いていた。それは体の調子が元に戻ってきたことに加え、レベル5の御坂美琴と戦う機会が得られるかもしれないと思っているからだ。
 だが、勿論今は大事を取って模擬戦を組んでもらえない。それに模擬戦をまともに行なうと、結構な出費となる。そうそう行なえないのが現状だった。

「お前、G―1に出てたレベル0だよな」
 おろっ? と変な声を上げて、廷兼郎は後ろを向いた。どうやら今日の廷兼朗は、走れば呼び止められる運勢らしい。
 廷兼郎は半身のまま、呼び止めた男を見る。
 中肉中背の、これといった特徴の無い体つきだ。どこのかは分からないが、学生で間違いはないだろう。しかし服装だけは破けたジーパンに革ジャンと、どこか退廃的な感じがする。

 見た目の大きさから言えば廷兼郎もそう大差ないが、彼の場合は見えやすい外側ではなく、体の奥にある内側の筋肉を発達させ、体脂肪率も抑えに抑え、高密度に凝縮した上での線の細さである。
「何だよ? 少しは口きいたらどうなんだ?」
 黙って自分を見つめる廷兼郎を奇異に思ったのか、男はそんなことを言った。
 彼の言葉を、廷兼郎はこれ見よがしに鼻で笑う。

「俺とお話がしたいのかい? 悪かったよ。まさかファンがいるとは思わなくてね」
 敵意を漲らせ、眼光鋭く睨む相手に思ってもいないことを告げる。それは相手にとって挑発以外の何物でもない。
「寝ぼけてんのか?」
「そうかもな。あんたの能力で覚ましてくれるとありがたい」
 そう言ってようやく、廷兼郎は男に対して構えを取った。

 廷兼朗がやる気になったのを受け、男が何かを捧げ持つように右の掌を掲げると、そこに突如として闇を明るく照らす光が灯る。
発火能力者パイロキネシストか」
 廷兼郎の言葉に、男はにこりと笑って返す。
「ご名と――」
 その顔に、手刀が横殴りに叩きつけられた。

 情緒も風情もケレン味もない、単なる一撃だった。
 顎を打ち抜いた手刀を返し、掌で男の顔をがっちりと握り、寸分の間も入れず発勁。
 廷兼郎の左手はそのままに、男の顔だけが隣の壁にぶち当たる。
 台詞を言い終えた直後に左の二連撃を食らった男は、舌を噛み潰してしまったが、そんなことに気が付くような意識はすでに無かった。
「今日は気分が良い。本来、街中での危険な能力行使を取り締まるのが風紀委員だが、見逃してやるよ」

 実のところG―1トーナメントが終わってから、廷兼郎がこのような輩に絡まれるのは、一度や二度では済まなかった。
 そしてそれは、廷兼郎や網丘の思惑のうちだった。

 一応は最強の能力者を決めると謳っている大会で優勝した無能力者。己の強さに自負を持つ能力者ならば、これを放って置くわけがない。
 そんな能力者の心理を逆手にとって、廷兼郎は労せず、そして法も犯さず能力者との戦闘を経験できる。
 模擬戦を組むのは無理だが、突発的な衝突に関しては、全て廷兼郎の裁量に任されている。
「だから、また来い。また、相手をしてくれ」
 聞こえてはいないだろうとは思いつつ、廷兼朗はそれだけを話しかけ、トレーニングを再開した。


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