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旧作 作者:hayashi

シーズン4 第2章「殺害予告」

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えげつない事件

 新緑が眩しく、初夏を感じさせる陽気となっていた。シジョウ家にこの間買ったソファとテーブルが届いたので、業者の人にテレビの前まで運んでもらった。ベージュ色の布製のソファだが、部屋の様子がぐっと豪勢な感じになった。

 さっそくテレビを点け、ニュースを聞きながら『ゴリラ3兄弟』を並べ、ソファの座り心地を楽しんでいたリサはある報道に眉をひそめた。

 番組では『12歳の子どもが殺された事件』を扱っており――ここんとこ連日、10歳~12歳くらいの子どもが殺される事件が続き、無差別に子どもを狙った連続殺人の可能性が示唆されていた。これで3人目である。
 いずれも西地区と北地区と東地区で起きたことであり、リサらが所属する中央区治安部隊の管轄外の事件であったが、中央区でも話題になっていた。
 今回の西地区、そして以前、北地区と東地区で起きた事件については、その管轄の警察捜査隊がそれぞれに動いていたが、犯人の目星はつかめていないようだった。

「イヤな事件……」
 ついリサは独り言を漏らす。

 そこへシャワーから上がったセイヤが『ゴリラ3兄弟バスタオル』で頭を拭きながら居間にやってきた。もちろん、ゴリライラストがない裏面で。
「あ、ソファがきたんだな」
 そう言って『ゴリラ3兄弟』に目をやった。やっと寝室から去ってくれてホッとした。もちろんソファに居座られるのも愉快ではなかったが、寝室に居られるよりはマシである。

「うん……」
 リサは返事をしつつも、視線はテレビに向けたままだったので、セイヤもテレビへ目をやった。

「また子どもが殺された事件か……」
「これで3件目」
 いずれも刺殺であり、心臓を一突きされており、同一犯による連続殺人の疑いが出てきた。

「無差別なのかな」
 リサのつぶやきに、セイヤはテレビを睨みつけながら応えた。
「いや……3件ともそれぞれ犯行現場がかなり離れている……無差別ではない気がする」

「え、だって子どもだよ? 狙われる理由は何? 3人の関連性は? 3件の家族はそれぞれ交流もなく、お互い見知らない全くの赤の他人らしいし」

「この3件に共通する何かがあるのかもしれない。被害者の年齢が近いという以外に。ただオレたちの管轄外の事件だからな、詳しい捜査内容も知りようがないし……感触として、そう思うとしか言えないけど……」

 その時、ニュースでは被害者について近所の人の声を届けていた。
『ええ、7年か8年くらい前に越してきたんですが、当時、その男の子は病弱だったようで、いつもお母さんが心配している様子が伺えました……でもやっと元気になって、外を飛び回っている姿をよく見かけました……本当にかわいそうに……』

 やりきれない思いを吐くようにリサはため息をついた。せっかく新しいソファが届いてワクワク気分だったのにすっかり萎んでしまった。

 翌日、特命チーム7名はルッカー治安局長室に呼ばれ、ある任務を命じられた。

「今日から2週間、クジョウ首相の筆頭秘書マオー氏の孫および民主平和党ヤハー副首相の孫の24時間警護ですか……」
 任務内容を復唱しながら『ゴリラその1』ことゴンザレは怪訝な顔をしてしまった。特命チームが動かなければならないような仕事に思えなかったからだ。

「2週間後には国政総選挙がある。立場が立場だからな。公にしないということで、わが特命チームが担うことになった」
 ルッカーは机に両手を組みながら、ギロリとゴンザレを見つめた。まるで疑問を持つことは許さないとばかりに、その眼には威嚇の色が籠っていた。

 部屋は張りつめた空気になった。ルッカーの前に並んだ『ゴリラその1』ことゴンザレ、『ゴリラその2』ことアザーレ、『メガネ』ことフィオ、『クール』ことグレド、そしてジャンとリサは思わず視線を落とした。

 しかし、セイヤだけはそんな空気はどこ吹く風で、ルッカーから視線を逸らさず疑問を呈した。

「電話で『孫を殺す』と脅迫されたとのことですが、ボイスチェンジャーで性別が分からず、マオー氏もヤハー氏も、犯人に心当たりもないとのことでしたね。そしてその脅迫内容では、犯人は取引を持ち込んでいません。
 だとすると単なるイタズラや嫌がらせかもしれません。マオー氏とヤハー氏であれば、それぞれ一流の民間警備会社に頼むこともできたはずです。民間だって客の個人情報は守ります。なのに、なぜ特命チームが動くのですか?
 しかも24時間警護というのは尋常じゃありません。犯人が殺害に動くという根拠は何ですか?
 この犯人は2週間後に行われる総選挙に関係あるのでしょうか?
 しかしマオー氏もヤハー氏も犯人に心当たりはないのですよね?
 でもイタズラや嫌がらせとは考えず、殺されると思っているのですよね?
 矛盾してませんか?」

「お前は私の命令に従えないというのか?」
 ルッカーはセイヤへ射抜くような鋭い視線を移す。

「いえ、疑問に思ったことを述べただけです。今、かなり質問をさせていただきましたが、それだけ不自然だということです。これでは任務遂行に支障を来たします」
 セイヤの言うことはもっともだとばかりに、リサとゴンザレとフィオはつい頷いてしまった。ジャンとアザーレは口をあんぐりと開けて、セイヤとルッカーを交互に見やっていた。グレンは相変わらず無反応だった。

 ルッカーは少し顔の表情を緩め、苦笑した。
「……納得いかなければ上官にも臆せずに理路整然と物言いするか……お前らしいな」
 そう言うと、改めて特命チーム全7名を見回し、厳しい表情に戻った。
「今から言う内容は極秘扱い。外部に漏らせば厳罰対象となる事案だ」
 特命チーム7名は、この任務を行うに至った詳細な経緯をルッカーより説明された。

   ・・・・・・・・・・

 トウア国では2週間後、国政総選挙が行われることになり、各党の候補者は選挙運動に忙しい日々を送っていた。
 先の国会襲撃事件で、国会議員の7割が死亡あるいは重傷を負い、議会を遂行することが困難となり、今のトウア国は立法府が機能していない状態だ。

 事件後、トウア国はさらに治安が悪化し、暴徒が闊歩する混乱状態となり、一時は物流が滞り、戒厳令が敷かれる事態となったが、軍の出動によりやっと社会が落ち着いてきたので、クジョウ首相は解散することにし、総選挙の運びとなった。

 トウア国の法では、議員は解散と同時にその地位を失う。
 ただしクジョウ首相は、新しい内閣が発足するまでは「首相の権限」を持つ。首相は、解散や議員の任期満了による国会議員の地位を失っても、次の首相が決まるまで、その地位が保たれるのだ。

 そのクジョウ首相は世論調査では80パーセントの支持率があり、クジョウ氏が率いる民主平和党は大勝し単独過半数が取れるだろうと予想されている。クジョウも再び首相の地位を獲得するのは確実だった。

 そんな状況下で起きた『クジョウ首相の第一秘書マオー氏および民主平和党ヤハー副首相の孫の殺害予告脅迫事件』だが、なぜマオー氏とヤハー氏は、単なる悪戯とは思わず、自分の孫の命が狙われると確信しているのか――それは先の、ほかの地区で子どもが殺された3件の事件と関係していた。

「殺された3人の子どもと、マオー氏とヤハー氏の孫は、8年前の同じ時期にシベリカで密かに心臓移植手術を受けていた……それが共通点だったか……」
 特命チーム専用室に戻ったセイヤは誰に言うのでもなく、つぶやいた。

 犯人はマオー氏とヤハー氏に『先の3件の事件の被害者が8年前にシベリカで心臓移植を受けていること』を示唆し、孫を同じ目に合わせる、と脅したという。

 マオー氏とヤハー氏は脅迫を受けた後、選挙前の大事な時期ということもあり、治安局より先にまずクジョウ首相に打ち明けた。そしてクジョウ首相からルッカー局長に相談が行ったのだった。

「何で? 心臓移植すると誰かに恨まれるのか?」
 ルッカーが言葉を濁しながら説明したため、ジャンにはまだ何のことだがよく分かっていなかった。

「シベリカでは臓器売買ビジネスが横行していて、特に子どもを対象にした売買が盛んだという噂を聞きます。恨んでいるとすれば、心臓を取り出されてしまった子らの関係者かもしれません。だから殺され方が……心臓一突き……」
 ジャンの問いにセイヤが床をにらみつけ苦々しく吐いた。

「え? 臓器売買って……生きている子どもから心臓やら臓器を取り出すってことか? それって殺人じゃねえかっ」
 思わずジャンはセイヤの胸ぐらをつかみ、質問を続けた。
「まさか、殺された3人の子どもの親とマオー氏・ヤハー氏はそれを知りながら、自分の子どもや孫に心臓移植をさせたのか? 臓器売買に加担したってことか?」

「いえ、臓器売買に加担したというのは言いすぎです……でも、うすうす感じながら、移植手術を受けさせた可能性は否定できません」
 胸ぐらをつかまれたままのセイヤはジャンの視線を微妙に外しながら答えた。

「それを選挙前のこの時期に世間に知られたくない、だから極秘扱いなのか……臓器売買が疑われる移植手術にクジョウの秘書や党の重鎮が関わったことを世間が知ったら、クジョウ率いる民主平和党は大打撃だからな。なんだか胸糞悪いな……」
 吐き捨てるようにそう言うと、ジャンはやっとセイヤから手を放した。

 が、ジャンの怒りに同調することなく、セイヤは冷静にこう分析する。

「いえ、極秘扱いの理由は別にあります。
 トウア人が、しかもトウア国の政権与党である民主平和党関係者が、シベリカ人の子どもの臓器を買ったということで、このことをトウアにいる一般シベリカ人らが知れば、黙ったままでいるはずありません。またあちこちで暴動を起こす可能性があります。選挙の時に戒厳令が敷かれる事態になったとしたら大変です。その場合、選挙は無効になるかもしれません。 治安をこれ以上悪化させないで、速やかに選挙を行うべきです。極秘扱いは、国と国民のためなんです」

 本当ならば、この件はあくまでマオー氏とヤハー氏個人の問題で、民主平和党は関係ないのだが、世間はそう見ない。
 また、数人のトウア人が個人的にシベリカ人の子どもを食い物にしたのであって、このことでシベリカ人がトウア人全てに怒りを向けるのもおかしいのだ。

 しかし、シベリカ人の多くはそうは考えてくれないだろう。トウア人そのものを憎悪する。
 もちろん、その反対もしかり……一部のシベリカ人が何か個人的に犯罪を行った場合、トウア人は『シベリカ人が起こした犯罪』だとして、シベリカ人そのものを嫌悪する。

 こうして、お互い民族憎悪を募らせていく。それが今起こっている現実だった。

 この件を世間に知らせるとしても時期を考慮しないといけない。国と国民の利益になるかならないか、で判断するべきだ。それが正しいことかどうかは関係ない。世間に知らせたために起こりうるマイナス面があまりに大きければ、知らせないほうがいい――セイヤはそう考えていた。

 そこへリーダーのゴンザレが話に入ってきた。
「さっきの局長の話によれば、マオー氏はクジョウ首相の秘書をやめ、ヤハー氏は急病という名目で立候補を取りやめ、そのまま政治家を引退するそうだな……選挙が終われば、孫の護衛はおそらく民間の警備会社に頼み、引き継いでもらうんだろう。
 だが選挙が終わるまではシベリカの子どもを食い物にしたことは極秘だ。だから守秘義務違反に厳罰が伴うオレたちにお鉢がまわってきたのか……」

「2週間の警護期間の意味はそういうことだったのか。で、今までシベリカで心臓移植した子ども3人が殺されているから、マオー氏とヤハー氏の孫も殺される可能性が高いと判断したわけだ。じゃあ、やっぱりマオーもヤハーも心当たりあったんじゃねえか」

 ジャンの舌打ちの混ざったつぶやきに、セイヤは首をかしげた。

「いや、彼らは脅迫してきた犯人そのものには心当たりはなかったかもしれません。心当たりがあるのなら、オレたちは子どもの護衛するとともに、脅迫した犯人の捜査のほうも命じられていたと思います」
「ん……」
「マオー氏とヤハー氏に、先の3件の被害者と孫の共通点を示唆して脅したとはいえ、犯人は何も要求してこなかったのだから、脅迫したというより殺害予告をしたと捉えたほうがいいでしょう。それまでマオー氏もヤハー氏も、先の3件の殺人事件の被害者が、自分たちと同時期にシベリカで心臓移植を行ったことを知らなかったと思います。局長の話によれば、マオー氏とヤハー氏もクジョウ首相に打ち明けるまで、お互いの孫がシベリカで心臓移植を受けたことを知らなかったと言ってましたよね」

 さらにセイヤは話を続ける。
「それなのに犯人側は、その3件の被害者とマオー氏とヤハー氏の孫が8年前にシベリカで心臓移植を受けていることを知っていた……そんな情報を得られる立場にいたということです。
 対して治安部隊警察捜査隊側は、3件の殺人事件も管轄が違うところでそれぞれ捜査しているから、被害者の共通点なんて分からなかったと思います。心臓移植は8年前の話で、事件と関係あるとは考えなかっただろうし……」

「たしかに普通、8年も前のことが犯行動機になるとは思えないしな」
 ジャンも顎に手をやり、思案気に顔を床に落とす。

 それを引き継ぐようにセイヤは推測を述べた。
「今も、警察捜査隊は3件の被害者の共通点を知らないままかもしれません。オレたちもルッカー局長から話を聞くまで知りませんでしたから。選挙が終わるまでは世間に嗅ぎ付けられないようにしないとならないから、警察捜査隊に情報が行っていない……いや、行かせないようにしているのかもしれません」

「じゃあ犯人は、選挙が終わるまでこのまま野放し状態ってことか」
 ジャンは苦虫をつぶしたような顔を再びセイヤに向けた。

「だから、オレたちにお鉢がまわってきたんです。もちろん、警察捜査隊の連中だって守秘義務違反をすれば厳罰食らいますが、この事件に関わっているのは東・北・西地区の警察捜査隊ですから、あまりに人数が多すぎます。どこから漏れるか分からず、リスクが高すぎます」

「なるほど、このことを知る人物は限られるべきということで、オレたち特命チームが選ばれたのか」
 ゴンザレも頷きつつセイヤを見やった。

「犯人はすでに3人の子どもに手をかけてます。マオー氏とヤハー氏の孫も狙われる可能性は高いです。また先の3件の殺人事件には前もって脅迫はなかったのに対し、ヤハー氏とマハー氏のところには『孫を殺す』という脅迫があった……しかももうすぐ総選挙という時期に……このことはやはり引っかかりますが……」

 セイヤはまだ考え続けていた。

 ……あまりに引っかかることが多すぎる。心臓移植は8年前の話だ。なのになぜ、今になって?
 いや8年後の現在、やっと復讐者の手にその情報が入り、調べがついたから実行したということなのか?
 ……しかし、ならばなぜ、マオー氏とヤハー氏に『孫殺害予告』をする? 予告をすれば、当然相手は警戒し、その分、殺害実行が難しくなる。
 ……やはり選挙が関係しているのか?

 わざわざ選挙前のこの時期、このことが公になって得をするのは、クジョウ首相率いる民主平和党に敵対する勢力だ。だからマオー氏とヤハー氏にだけ殺害予告をし、マオーとヤハーが騒ぎ立て、公になることを狙った?
 ……だとすると、これは復讐ではない?

「ま、とにかくその孫とやらを護ろうぜ。そりゃ臓器売買なんて許せねえが、だからといって心臓移植した子どもが殺されていいことにはならないからな」
 思考の世界にいたセイヤをアザーレの言葉が引き戻す。

 グレドは相変わらず無口でこれといった反応は示さなかったが、厳しい眼差しをしていた。
 セイヤの話をずっと聞いていたリサはやりきれなさを抱えつつ、任務を遂行することだけを考えた。心臓移植をした子どもには罪はない……

 そこへフィオが話しかけてきた。
「セイヤ君っていつも冷静で理知的ですよね」

 なぜかリサには未だ丁寧語のフィオだ。
 リサはそんなフィオに微笑みつつ、心の中でつぶやく。
 ……でもね、セイヤ君は家ではけっこう幼稚で子どもっぽいところがあるんだよ……

 だが、リサの微笑みはすぐに消えた。今回の事件に、何か途轍もないおぞましさを感じていた。
 それなのに、自分たちは真実を知らされることなく、ただただ上からの命令に従うしかないのだ。

 こうして7名はミーティングを終え、クジョウ首相の秘書だったマハー氏の孫の警護にはジャン、セイヤとリサの3名が、ヤハー副首相の孫にはゴンザレ、アザーレ、フィオ、グレドの4名がつくことになり、それぞれ警護対象のもとに向かった。
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