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旧作 作者:hayashi

シーズン3 断章

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心の拠りどころ―シベリカ少年工作員キリルの独白

 オレは孤児院で育った。
 そこは木造建ての粗末な施設だった。食事も足りず、いつも腹を空かせていた。

 ――シベリカ国にはたくさんの孤児院がある。貧しくて子どもを育てきれず、子を捨てる親がけっこういるからだ。
 それでも孤児院に預けてくれる親はまだいい。中には子どもを売る親もいる。売り飛ばされた子どもは、おそらく売春か臓器売買に使われるんだろうな……

 貧しさが全ての元凶だとして、シベリカ中央政府はこの状況を何とかしようとしている。
 工作員となったオレはそのために働いている。

 小さい頃からオレは運動能力だけはあった。自惚れてるかもしれないが、周りと較べてもかなり抜きん出ていた。
 9歳になった頃――先生からある場所に行くように指示された。連れて行かれたところは何かの訓練所のようなところだった。

 オレの生活の場は、孤児院から国家諜報局工作員特殊訓練養成所に移った。
 そこには少年少女もたくさんいたが、訓練生の中ではオレが最年少だった。少年少女は皆、孤児院出身だ。

 が、程なくして、オレよりも年下の女の子が訓練所に入ってきた。その女の子は8歳だった。最年少訓練生の座は奪われた(笑)
 その女の子――ここでの名は『サラ』――はあまりしゃべらず、おとなしかった。喜怒哀楽を表さず、死んだような瞳をしていたが、頭は良かった。短期間で数カ国の語学をマスターした。爆弾やトラップづくりもなかなかのものだった。運動能力も高く、射撃も上手かった。

 ただ、サラは親から捨てられたのではなく、売られたらしい。そしてその売られた先から逃げ出し、役所で保護され、孤児院に入ったという。
 そう、彼女の親は、子どもを臓器売買の業者に売り、子どもの命を金を換えたのだ。彼女の瞳が暗い理由が分かった気がした。

 オレは捨てられ、サラは売られた。
 どっちも親にとっては「いらない子」だった。

 けど……親から捨てられたオレたちを国は拾ってくれた。必要な人間だと選んでくれた。人よりも抜きん出ていると、人よりも優秀だと認めてくれたのだ。

 訓練はキツかったが、孤児院での暮らしよりは刺激的だった。それに腹いっぱい、飯を食わせてくれる。出される料理もそこそこ旨かった。
 粗末な食事、そして誰にも期待されない孤児院での生活よりも、訓練所のほうが自分には合っていた。課題を上手くこなせば褒められるし、国家に期待されるのは、けっこう気持ちよかった。初めて自分に価値を見出せた気がする。生きる意味を見つけたんだ。

 国のために働き、結果を残せば、国の英雄になれるという。オレの名前を冠した病院あるいは道路、橋が造られる。殉国したら、オレが生きた証を国が残してくれる。

 もちろん、ちょこっと家族というものに興味もあるが、赤ん坊の頃に親に捨てられ、家族のことはまるで記憶にないオレにはあまりよく分からない。オレにとって、家族よりも国だった。国はオレを必要としてくれた。それはオレにとって生きる拠りどころになった。

 工作員としての訓練が終わり、オレはサラと共にトウア国へ行き、そこで仕事をするようになった。
 彼女とは一緒に任務に就くこともあれば、別々の時もあった。

 百貨店で子どもを銃撃することになった時も、特に何も感じなかった。
 子どもだからといって、特別に何かを思うこともない。単なるターゲットだ。
 ……とはいっても、その子どもらに恨みがあるわけでもないし、やっぱり手加減してしまった。オレが撃った子どもは死んではいないはずだ。急所は外したから。

 オレは子どもだからといって優遇されたことも、甘くされたこともない。大人と同じ扱いだった。訓練所では事故死する子どももいた。
 別に訓練所でなくても、オレの国では子どもの死は日常的だった。病気でもよく死んでいた。

 オレたちに銃撃された子どもの親は嘆き悲しんだらしいけど、親に悲しんでもらえるだけで充分幸せだよな。
 だから、かわいそうとも思わない。うらやましいくらいだ。こっちでは、親に捨てられたり、売られたりする子どもがたくさんいる……そんな子どもに較べたらな。

 それにな、親に売られたシベリカ人の子どもの臓器を、トウア人がこっそり買っているんだぜ。自分の子どもを救うために。
 シベリカ人の子どものほうが、よほど悲惨だ。今まで百数十人は犠牲になっているんじゃないだろうか。ほんの数人、子どもが銃撃されたくらいで、トウア人は何を騒いでいるのか不思議だった。

 オレは死ぬのは怖くないぜ。国会襲撃の指示を受けた時は死を覚悟しつつも興奮した。

 だけどその時――ふと、オレが死んでも悲しんでくれる者がいないことを、ちょっとだけ寂しく思った。
 ま、殉国すれば英雄として、オレの名前を冠した道路や橋ができるだろう。それは誇らしい。

 ――国はオレに誇りを与えてくれた――

 そういえば、子どもを銃撃した時も、国会襲撃の時もサラと一緒だったっけ。
 サラと一緒に死ねるならいいか……特別に好きというわけじゃないけど、一緒に仕事をするうち、ちょっと気になる存在になっていた。少し情も移ったかな。

 でも……今、オレはベッドに寝かされているようだ……白い天井が見える。口に何か被せられている……酸素マスク? どうやらトウアの病院にいるようだ……治安部隊の連中に撃たれたところまでは覚えている。

 ……死ななかったのか……
 ……彼女はどうなったんだろう……

 このまま回復してしまえば、トウアの警察捜査隊の事情聴取が待っている。
 法改正されれば、未成年のオレにも自白剤が使用されるかもしれない。自白剤は訓練所でも打たれたことがあるから、そこそこの耐性はあるけど、どのくらい耐えられるか……

 いや、それより死を選びたい……国の英雄になりたい。
 ……監視の目を盗んで、何とかしなければ……でも、体が動かねえ……
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