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旧作 作者:hayashi

シーズン3 第6章「真相」

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救われる命と切り捨てられる命

「ほぼ、思い通りに行ったな」
 中央地区治安局長室で、椅子に浅く腰掛けたホッシュ・ルッカーは机の上で手を組み、うすい笑みを浮かべながら、目の前で直立しているセイヤ・シジョウを見やった。相変わらず鋭い目つきだ。

 が、セイヤは臆することなくルッカーに視線を合わせる。
「しかし、国会議員の8割がいなくなり、可決すべき法案がストップしたままです」

「とりあえず選挙だな。ま、ほとんどの国民は目が覚めただろうから、まともな政治家を選んでくれることを信じよう」

「……犠牲者のことを思えば、あまりに荒療治だった気もします」

「国会襲撃事件に限って言えば、一般市民は犠牲になっていない。犠牲者は治安部隊の隊員らと国会議員だ。彼らは『今までの世間』と『今までの法』に殺されたのだ」

「……国会襲撃事件ではついに軍は動きませんでしたからね」

「もちろん、軍に助けを求めず、治安部隊だけで対処するようにした私も同罪だ。が、最終判断は首相がした。首相は自分の命を危険に晒してまで、軍を動かさない判断を下されたのだ。つまり首相も同罪だ。しかし、軍を法でかんじがらめに縛りつけ、そうせざるを得なかったという点で、この国の罪だ」

 その言葉を聞き、セイヤはルッカーから少し視線を逸らした。首相はあそこまで危ない目に合うとは想定していなかったのでは、と思った。ルッカーは、首相がそう判断するよう、命の危険性にはあまり触れず、上手く仕向けたのだろう。
 そんなセイヤの疑問をはぐらかすかのように、ルッカーは言葉をかぶせた。

「ただ、本当の敵はシベリカ国……我が国の権益を狙う外国だ。シベリカ国に殺されたと言うのが一番正しい。『今までの世間』と『今までの法』は結果的にそれに加担してしまったのだ」

「……」

「世間は国家権力の恐ろしさばかりを取り上げるが、本当に一番恐ろしいのは世間だと思わんかね?」

「ええ、たしかに民主主義社会である以上『世間という空気』は政治に多大な影響を与えます。だから、シベリカ工作員はまず世論操作を仕掛けてました」

 思えば、あの『トウア水力発電所立てこもり事件』も、シベリカ国の作戦を有利に進めるための世論つくりとして行ったと推測できる。民主主義国家トウアに多大な影響を与えているのが『世間の空気』だからだ。

「一番の権力者である『世間の空気』は変わった。これからトウア国は変わるだろう。犠牲者の死を無駄にしてはいけない」

「超法規的措置で、軍が街の治安を取り締まるようになったのですから、すでにトウア国は変わりました」

「たしかに……多くの国民が軍の働きを歓迎し、期待しているしな。つい最近まで考えられなかった現象だ」
 ルッカーは口では笑っていたが、目は笑っていなかった。
「ただ軍にばかりお株をとられていては、私たち治安部隊の存在価値がなくなってしまう。だから治安部隊にも軍並みのスキルを持ってもらいたい。我が国は強くあらねばならないのだ。じゃなければ、またシベリカのような大国に狙われ、翻弄されるだろう。私は軍と治安部隊の垣根を取っ払いたいんだ」

「特命チームに来た軍からの出向組4人がその象徴ですね……」
 セイヤはつぶやくように言うと、探るようにルッカーを見つめた。
「それに4人は例の作戦にも関与したのではありませんか? アリア国やマハート氏率いる地方独立運動家へ武器や兵器の密輸、運搬の手助けをする実行部隊として動いた……反平和的な超法規的措置に関わってしまった4人を、軍から引き離して近くで監視するために、うちで引き取ったのでは?」

「ま、それは機密事項になる」
 ルッカーは人差指を立てて振った。おどけた笑顔に見えたが、その鋭い眼光は「これ以上、追究するな」と言っていた。
「君にもルイ・アイーダへの口利きや、シベリカ国の地方独立運動を手助けする綿密な作戦計画を立ててもらった。マハート氏を引き込めという君の案もなかなかのものだった。本当にご苦労だった」
 いや、すでにルイとマハート氏は手を組んでいたのだが、今回の作戦にマハート氏のグループを組み入れ、ルイとアリア人地下組織との連携がスムーズにいくよう、セイヤがルッカーに口添えをしたのは確かだった。

 セイヤは一礼をし、治安局長室を出た。
「強くあらねばならないか……」
 思わず、ひとりごちてしまった。そして、あの軍出向組4人のことを考えた。

 そう、例の機密作戦にて――あの4人は武器や兵器の密輸、運搬、あるいはその後方支援をしていたのだろう。そして、戦場を経験した……
 アリア国やシベリカ国の周辺地域は不安定で、犯罪者やテロリストらが跋扈し、しょっちゅう紛争があり、無法地帯と化している。武器や兵器の密輸、運搬はそういった地域を経由する。彼ら4人は、紛争による人の死も見てきただろう。その中には損傷の激しい死体もあったはずだ。
 そしておそらく4人は……自分の身を守るために、任務を遂行するために、人も殺した……。『シベリカ食品加工工場』での容赦ない殲滅もこの経験があったからこそだ。
 そんな彼らからすれば、治安部隊所属のオレたちは相当ぬるく見えただろう。だから最初は、オレたちを見下すような態度になってしまったのだろう。

 居酒屋でフィオが言っていた『辛い経験』とはこのことだった……戦場で損傷の激しい死体を目の当たりにし、そして、人を殺し、自らの手を血で染めた……。
 いつの間にか、セイヤは己の手を見つめていた。

 ……オレもあの4人と同じだ……
 ……オレはシベリカ国の内乱の手助けをした。内乱を起こす連中から見れば『正義の独立戦争』『革命』だ。しかしシベリカ国から見れば、それは国を乱そうとする『テロ行為』ということになる。
 ……正義は、立場によって変わってしまう。善悪で量れるものではない。
 ……それでも、多くの人が犠牲となる内乱の手助けをしたオレも間接的に殺人に加担したことになる。
 ……オレの手はすでに多くの人の血で染まっている。

 しかし、その代わりに助かった命もある。
 本当ならば、トウア国に住むシベリカ人のさらなる大量殺戮があったはずだった。そのことを名目にシベリカ軍がトウア国に介入する予定だった。が、シベリカ軍は自国の内紛を収めなくてはならず、トウア国まで手がまわらなくなり、トウア国に住むシベリカ人大量殺戮作戦は中止となった。またトウア国へのシベリカ軍の侵攻がなくなったということで、多くのトウア人が救われたことも事実であった。

 ……結局、何を先に救いたいか、優先順位の違いで、救われる命と切り捨てられる命があったということだ。すべての命を救うのは不可能だ。

 そう思いながらも、セイヤは手をずっと眺めていた。
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