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旧作 作者:hayashi

シーズン3 第6章「真相」

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血塗られた作戦と真意

 国会襲撃事件の後、各地で行われていたシベリカ人デモ隊とトウア人愛国市民グループの間で衝突があり、多くの死傷者が出た。また暴行、恐喝、強盗、放火、強姦、殺人などの犯罪も多発していた。
 そして治安部隊がお手上げ状態になった頃を見計らったかように、各地方にあるそれぞれの『シベリカ人街』で同時多発的な爆破事件が発生し、全国で数万単位のシベリカ人が被害にあった。

 それから程なくして、ついに何者かによる『シベリカ人大量虐殺事件』が起き、一夜で二百人弱のシベリカ人が殺された。
「トウア人によるシベリカ人の虐殺が始まった」「本格的なシベリカ人への弾圧が始まった」とし、シベリカ人による大暴動があちこちで起き、一般トウア人が、暴徒化したシベリカ人らに襲われ、死傷者を出した。

 多くの店が破壊され、商品が強奪され、火が放たれた。
 街は荒れ果て、多くの店は閉じ、物流がストップした。

 トウア世論は「軍を出せ」と騒ぎ立てた。
 だが、ここであのミスズ先生がテレビで、こう訴えていた。
「国内で起きた犯罪に対して、軍が出動することは法に反しますっ、これは治安部隊で対処するべきですっ、他国の侵略を受けたわけでもないのに軽々しく軍に頼るのは間違ってますっ、平和主義が根底から崩れていきますっ」

 そんなミスズ先生に対し、多くの人が吼えた。
「もう犯罪の域を超えている。これは内乱だ、戦争だ」
「現実を見ろ、今の治安部隊に暴徒を抑える力はない。国がつぶれたら、法もへったくれもない。軍は国民を守れ」
「そもそも国会が襲撃された時も軍が速やかに出動していれば、こんなに多くの犠牲者が出なくて済んだんだ」
「ミスズ先生、あんた、国をつぶす気だろ。この非国民め。あんたはトウア国の敵だ」
「犯罪抑止に反対するということは、犯罪に加担しているってことですよ。平和主義者が実は偽善者だということがよく分かりますね」
「平和を掲げて人権侵害をなさるつもりですか」

 しかし、ミスズ先生は笑顔でこう言い返した。
「覚えてますかっ、皆さんっ。ほんの数年前の話ですがっ、銀行強盗事件が起きて、周囲の建造物が爆破され、テロが疑われた事件の時ですっ。あるコメンテータが軍を出動させるべきだった、と意見した時、皆さんはこう言いましたよねっ。こんなことで軍を動かすことは許されないっ、平和主義に反するっ、国内で起きた事件は治安部隊のみで解決すべしっ、軽々しく軍に頼るな、と。
 そう、軍に頼ると軍の存在価値が高まり、やがて軍国主義になり、平和が壊されると皆が騒ぎ立てましたっ。そして、そのコメンテータを『軍の手先』とし、好戦的な反平和主義者として国民の敵に仕立て上げ、社会的に葬り去り、寄ってたかって社会的制裁を加えましたねっ、お忘れですかっ。平和主義を掲げて人権侵害をしたのは皆さんのほうですよっ」

 場はシーンとなる。
 ミスズ先生の勝ち誇った顔がテレビ画面いっぱいに広がった。
「世間って怖いですねっ。本当の敵は誰でしょうねっ」

   ・・・

 このテレビ番組を見ていたセイヤとリサは思わずうなった。そう、ミスズ先生にとっての本当の敵は『無責任なトウア世論』だったのだ。

 しかしその後――ミスズ先生はもうテレビに出ることはなかった。突然、テレビ界から姿を消したのだ。
 週刊誌も『ミスズ失踪』と題してネタにしていた。学校の教師も辞めたようで、当然『平和と人権を守る教職員連合会』からも離れたという。ただ、この連合会は世間から見向きもされず、脱会する教職員が後を絶たず、消滅の危機に陥っていた。

 さらに2週間後、ミスズ先生についての続報が出た。最後にミスズが話題にしていた――数年前に銀行強盗立てこもり事件と建造物爆破事件で、軍を出動させるべきだと発言し、社会から抹殺されたコメンテータは、大学生時代のミスズの恩師だったという。
 当時、その恩師はトウア国立大学の教授だったが、社会からのあまりの非難に大学にいづらくなり、退職を余儀なくされ、その後すぐ失意の内に亡くなったらしい。

「今までの発言はミスズ先生の世間に対するささやかな復讐だった? ミスズ先生は世論の恐ろしさを教えてくれたのかも」
 リサは週刊誌を閉じると、深いため息をついた。

   ・・・・・・・・・・

 今のトウア社会では、あちこちで重犯罪が起きるのが当たり前になってしまい、治安部隊は大忙しだった。過重労働で倒れる隊員が続出した。
 国会襲撃事件の真相もまだまだ分からないことが多く、捜査中だった。シベリカ国が関与した証拠はまだ出てきていない。

 仕事に忙殺されながらも、リサは不安を感じざるを得なかった。
 ――重犯罪が後を絶たず、治安部隊の機能はマヒする一歩手前だ。そこへまたシベリカ人への大虐殺が起こり、トウア国が何の手も打てずにいるところを狙って、シベリカ軍が自国民を守るという名目を掲げてトウア国に攻めてくるのでは――と。そう、これはあの国会議事堂中央塔展望室で、セイヤとサギーがこれから起こりうることとして話していた。

 ……でも、あの時、セイヤはすでに手を打っていると言っていた……ほんの少しその手伝いをしたと。
 その時はリサは何のことだか分からなかった。その後、セイヤに訊いてもみたが、セイヤはごまかし、何も答えてくれなかった。 

 けど、ある日の夕食時、突然流れてきた緊急速報ニュースを見て、リサは『セイヤがすでに手を打ったこと』の中身を悟った。

 そのニュースとは――
 シベリカ国では今現在、あちこちで地方独立運動が発生し、アリア国では暴動が起きたという。しかもアリア人にはけっこうな武器や兵器が行き渡っており、アリアに住んでいるシベリカ人への攻撃が始まったということだった。

 またマハート氏を中心にした地方独立運動も激化し、シベリカ警察を相手に、武力で対抗するようになっていった。この連中もどこから手に入れたのか、高性能な武器や兵器を手にしており、手榴弾はもちろん、携帯ロケット弾もあちこちで使われ、このままでは内戦になると危惧されている。当然、シベリカ軍も出動しているが、犠牲者は日に日に増加しているらしい。

「これじゃ、シベリカは自国の紛争を抑えることで精一杯だよね。軍をトウアによこす余裕なんてなくなっちゃったよね。……でも独立運動の連中はどうやって武器や兵器を手に入れたんだろう。裏で支援しているのは……」
 リサは、黙々と食事をしているセイヤを見やった。

 が、セイヤは下を向いたまま、リサとは顔を合わせようとはしなかった。いつもなら、この手の話題になると考察し始め、とうとうとリサに聞かせるのに、セイヤは黙ったままだ。この話題には触れて欲しくないようだ。

 そういえば、ルイからもこの頃コンタクトがなく、メールの返信もあまり来なくなった。
 リサは、今シベリカ国で起こっている内乱に、クジョウ首相やルッカー治安局長と共にセイヤも何らかの形で関与したことをうすうす感じていた。そしてアリア国のことでは、おそらくルイも関わったのだ、と。

 そう、アリア人らと地下で深くつながっているルイは密かに『アリア独立運動』の協力をしていた。
 シベリカ国からのアリア独立を望むルイとアリア人組織、地方独立を望むマハート氏は手を組み、同時にシベリカ中央政府への攻撃を仕掛けたのだ。

 あのマハート暗殺未遂事件の時――1年半前、マハート氏がトウアにやってくる情報を得たルイは、マハート氏と接触するつもりだった。だから、マハート暗殺計画の件もかぎつけ、治安局に届けたのだ。そしてセイヤたちのおかげで暗殺が未遂に終わり、警察捜査隊に引き取られたマハートはその後、極秘でルイ・アイーダと会い、お互いの目的が同じであることを確認し、事を起こす時は手を組む約束を取り交わした。

 そんなルイを筆頭とするアリア人地下組織とマハート氏の作戦を、トウア国政府は裏で支援した。
 そして『ルッカーを窓口にしたトウア国政府およびクジョウ首相』と『ルイを窓口にしたアリア人地下組織およびマハート氏率いる地方独立運動家ら』の仲介したのがセイヤだ。セイヤはルッカーから篤く信頼され、ルイが信用に足るとする数少ない人物だ。

 ただ――支援をしたというのは聞こえがいいが……悪い言い方をすれば、武器や兵器を提供し、裏で戦争に加担したということである。
 セイヤはルッカーやクジョウ首相と共に、表にはできない血塗られた作戦に関与したのだ。ルイも、あのマハート氏も。

「私だけ蚊帳の外か」
 リサの嘆きに、セイヤは無言のまま顔を逸らした。

 ……いけない、私ったら、セイヤを追い詰めているかも……これは機密事項だ。だからセイヤは何も話せないのだ。

 とっさにリサは話題を変えた。
「ところでさ、この頃、物流が滞って、物資や食糧が手に入りづらくなってきたから、今度の休日、買い物一日がかりになるかも……レトルト食品や缶詰とか保存食、買いだめしておこうと思うの。洗剤と石鹸とシャンプーとティッシュペーパーも買い置きしておかないとね」

 ……食事の時くらい、仕事のことを忘れて、心穏やかに過ごしたい……

 全く違う話題になって、セイヤはホッとしたような顔になり、リサに視線を合わせた。
「でも今、食べているハンバーグ、けっこう美味しいでしょ。レトルトも捨てたもんじゃないよね。食事の用意するのもラクだし。この頃、仕事キツすぎるし、ほんとレトルトに助けられているけど……健康のこと考えれば、あんまり使いたくないよね」
 リサの何気ない生活感漂うおしゃべりを聞きながら、セイヤは適当に相槌打ち、食事を続けた。
 レトルトのハンバーグはそこそこイケていた。
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