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旧作 作者:hayashi

シーズン3 第5章「国会襲撃」

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最終決戦へ

挿絵(By みてみん)
 国会議事堂に向かって、サンルーフ付の車1台とコンテナを乗せたトラック2台が疾走していた。

 仲間と共にトラックのコンテナの中に潜んでいるサギーは笑みをこぼしながらマシンガンを撫でる。久々の本格的な戦闘を前に高揚していた。ようやく公安の監視がゆるくなり、連中の目を盗んで、この戦いに参加することができたのだ。

 トラックの前を走る車は狙撃を目的として改造されており、サンルーフから携帯ロケット弾が撃てるようになっている。
 国会議事堂近くまではスムーズに事が運んだ。パトロール隊に見咎められて、検問を受けることもなかった。

 そう、パトロール隊は今、あちこちで行われているシベリカ人によるデモ隊やそのデモを襲撃する愛国市民グループの連中に手を焼き、大忙しだ。機動部隊も投入されている。この騒ぎに乗じて、一般人の犯罪も増えている。警察捜査隊も特戦部隊も『シベリカ人街』で起きた『シベリカ加工食品工場』の事件の処理もあり、手一杯の状態だ。特戦部隊は『シベリカ加工食品工場』でその戦力をだいぶ削がれたという。

 ……ただ気になるのは、治安局長直属だという特命チームの存在ね……サギーは視線をぼんやりと上に移した。
 諜報員によると、そのチームには軍から出向してきている隊員もいて、特戦部隊よりも優秀とのこと、そして、そこにはセイヤとリサもいると聞いていた。それ以上の詳しい情報はサギーのもとには入ってきていなかった。
 ……ま、彼らのことはどうでもいいわ……サギーの頬がかすかに緩んだ。

 一番注意を払うべきはトウア国防軍だ。軍の特殊部隊を相手にするとなると厄介だった。でも……我々が国会に突入した時点では、軍はまだ動けないはず……サギーはあれこれ考えをめぐらせる。

 トウア国では、国内で起きた事件については治安部隊が対応することになっていて、軍を動かすことは超法規的措置になる。しかも明確な戦争行為となる攻撃を受けるまで軍が動くことはない。動かすにしても議会を通してからになる。つまり、軍が動くまで手続きを踏まねばならず、相当の時間がかかるのだ。それがトウア国の法となっている。

 本当におめでたい法だと、サギーはほくそ笑む。
 何のための軍隊なんだか……ま、攻める我々としてはその甘さに助けられているのだけど……と、あまりの可笑しさに、つい噴き出した。我々が仕掛けた『軍こそ平和を乱す悪の権化であり、軍をなくすべきだという絶対平和主義』をトウア世論に浸透させた結果、トウア国民は自国軍を敵視するようになり、簡単に動かすことができないように法で縛った。ジハーナ人といい勝負のゆるい民族だ。

 ――だから、シベリカ中央政府はトウア国に目をつけたのだ――

 今回の我々の任務は国会を襲撃し、首相や大臣らを殺害し、トウア国の中枢を破壊することだ。トウア国は命令系統が混乱し、一時的に統治能力を失うだろう。
 その後、多くの一般シベリカ人が虐殺される手筈になっている。同胞の殺害は心苦しいけれど、大義のための多少の犠牲は仕方ない。そして、シベリカ軍が自国民保護という名目を掲げて、統治能力を失ったトウア国の侵略を開始する。

「トウア軍が動くまでに片付けなければ……」
 サギーはマシンガンを抱え直し、その銃身へ軽く口づけをした。
 隣に座している男がサギーに目をやったが、無言だった。その男の左の口元から頬にかけて大きな傷跡があった。

 そこへトラックに伴走するかのように、2台のバイクが近づいてきた。1台には少女が、もう1台には少年が乗っていた。

「サラ、キリル……来たわね」
 バイクの音を聞きつけたサギーはその方向へ顔を傾ける。
 サラ、キリル――彼らは『シベリカ加工食品工場』でひと暴れした後、こちらに合流することになっていた。この二人は『トウア人の子どもへの無差別銃撃工作』でも活躍し、治安部隊を蹴散らし、逃走を果たした優秀な工作員だ。身体能力はずば抜けている。トウア国の治安部隊や軍の特殊部隊にも引けを取らない。特にサラは天才だ。少女だと侮れば、痛い目にあうだろう。

 ……ああ、早くトウア国がつぶれる様が見たい……その時、やっと私はラクになれる……

 そんなサギーの、マシンガンを抱く防護手袋の中の左手薬指には指輪がはめられていた。そのひっそりとした小さな輝きは手袋に隠れ、誰の目にも触れられることはなかった。
 ――その輝きはサギーだけのものだった。

   ・・・・・・・・・・・・

 トウア国会議事堂は歴史を感じさせるアンティークな雰囲気の石造りの美しい建造物だ。

 左右対称に第一本会議場と第二本会議場とに分かれ、その部分はそれぞれ3階建てとなっており、地下1階は国会議員専用図書館、1階には事務室と議員食堂、2階は本会議場と委員長室、3階は議員控え室と本会議場傍聴席がある。

 その第一・第二本会議場の間の中央部には塔がそびえ立ち、3階中央広間から螺旋階段で最上7階まで行ける。4階は資料館、5階6階は吹き抜けとなっており、7階は展望室だ。そこにはトウア建国記念碑が置いてある。展望室からは海も望める。
 国会が開かれていない期間は、一般人も国会議事堂を見学することできるが、今は国会開会中なので、一般人の立ち入りが許されるのは中央塔の7階展望室のみである。

 重装備の特命チームと特戦部隊を乗せた輸送ヘリ2機は国会議事堂を目指していた。
 そこへ、国会議事堂へ向かう不審な車とトラック2台が連なって現在走行中という連絡が入ってきた。停車するよう呼びかけても無視し、そのまま走り去ったという。

 その2分後、国会議事堂前にバリゲートを張っていた警護部隊の列が銃撃された。手榴弾も使用され、警護部隊のほとんどがやられたという知らせが入ってきた。
 さらにその1分後、正門にロケット弾が打ち込まれ、その近辺にいた警護部隊は壊滅状態となる。

「ロケット弾? まるで戦争だな」
「こりゃシベリカ国が完全に絡んでいるな」
「ま、確固たる証拠がなきゃ、あの国はしらばっくれるだろうよ。兵器の密輸も世界のあちこちで行われているらしいからな。今じゃ、装甲車を破壊できるロケット弾も携帯できるようになったし、国家が直接関わってなくても、ちょっと大きいテロ組織なら簡単に戦争レベルの犯罪を起こせる時代だ」
 ヘリの音に負けじと『ゴリラその1』と『ゴリラその2』がそれぞれがなりたてるように話しているのを、セイヤは覚めた思いで聞いていた。

 ――今まで警戒心もなく、あまりにぬるかったトウア国の落ち度だ。シベリカにターゲットにされて当然だ――

 今も国会議事堂では多くの命が奪われているだろう。
 セイヤは、ルッカーの言葉を思い起こしていた。
 ――犠牲がなければ世間はきれいごとというぬるま湯につかったまま、厳しい現実と向き合おうとしない――

 国会議事堂正門にロケット弾が打ち込まれたという知らせを受けてから、1分ほどで輸送ヘリは国会議事堂上空に着いた。

『ゴリラその1』『ゴリラその2』とセイヤは大型防弾盾を、リサと『メガネ』『クール』は機関銃や小銃を背負う。できるだけ早く国会議事堂に入り、テロ集団を殲滅しなければならないということで、特命チーム6名は上空からファストロープ降下で次々に降りていき、着地と同時に行動を開始した。

 ファストロープ降下の訓練を受けていない特戦部隊はヘリが着地するまで待ち、特命チームより遅れて、国会議事堂へ向かうことになる。

 特戦部隊より先に地上に降り立った特命チームは国会議事堂正門から表玄関を目指した。
 建物の1階にある窓は全て鉄格子がはめられてあり、第一本会議場がある議事堂の中に入るには表玄関か裏口の2箇所の出入り口しかない。

 正門に到着し、表玄関へ続く道を行く特命チームはあまりの惨状に足を止めた。
 車とトラックに乗ってきた敵は32名いたが、国会議事堂に侵入したのは26名だという。正門に続き、ロケット弾が打ち込まれたという表玄関は破壊され、そこには負傷した多数の警護隊員らが横たわっていた。手足がちぎれ、内臓も飛び出した損傷の激しい死体もあちこちに散乱しており、コンクリートの地面が血だまりになっていた。
 敵と思われる死体も転がっていた。ロケット弾の被害を免れた残りの警護隊員は逃げずに、敵の国会議事堂への侵入を阻止しようと戦ったのだ。
 その傍らには、敵が乗ってきたと思われるトラック2台と車、バイク2台が乗り捨てられていた。

 セイヤとリサは、正門から表玄関まであちこちに転がっている死体を凝視した。地面は血で染まり、人間の肉片が飛び散っていた。顔は背けなかった。破壊された表玄関からは未だ粉塵がパラパラと落ちてくる。

「へえ……お前ら、けっこうグチャグチャな死体を見慣れているのか。特に女、いい度胸じゃねえか」
 意外そうに『ゴリラその2』がセイヤとリサを見やった。

「必ず、被害者の姿を頭に刻み込みます。そうすれば、自分の手を血に染めるのに躊躇しなくなりますから。躊躇すれば負けます」
 リサは無表情に答え、小銃を持つ手に力を込めた。

「もしかしたら、まだ戦争したことのない軍隊より、オレら治安部隊のほうが悲惨な死体を見慣れているかもしれません。ま、それだけトウアの治安は悪くなったということです」
 セイヤも何の感情も込めず淡々と答えた。

 それを聞いた『ゴリラその2』が眦を上げ「フン、オレらも本当は……」と言いかけたところ、めずらしく『クール』がつぶやいた。
「守秘義務」
「おっと、いけねえ……そうだった」
 ハッとしたように『ゴリラその2』は口をつぐみ、それ以上しゃべろうとせず、『ゴリラその1』を追った。

 セイヤは何かを察したように『ゴリラその2』の背中を見つめた。そして思う……ルッカーも自分もすでに血塗られた道を歩んでいるのだと。だから、この殺戮が行われた光景を己の目に焼き付けた。これら殺害された警護隊員や護衛官たちは、世間の目を覚ますための生贄とされたのだ……ルッカーと、それを黙認した自分に。

「おい、足を止めるな。負傷者は後から来る救助隊に任せる。行くぞ」
 機関銃を構えた『ゴリラその1』が注意し、周囲を警戒しつつ、中庭を抜け、表玄関から国会議事堂へ入った。その後を『ゴリラその2』『クール』『メガネ』、そしてセイヤとリサが続く。
 目指すは2階にある第一本会議場だ。
 本日、そこで重要法案が審議されており、クジョウ首相はじめ国会議員の重鎮らが出席している。第一本会議場の出入り口や議事堂内部にも護衛官がいるので、敵26名はそう簡単に突破できないはずである。

 議事堂に入ると、あちこちで銃声が聞こえた。護衛官が第一本会議場を死守するべく戦っていた。しかし護衛官の装備はあまりに軽い。武器は拳銃のみ、防弾ベストは着用しているものの、ヘルメットもつけていないので、頭を狙われ、殺されていった。

 特命チームは、まず狙撃担当『メガネ』『クール』『リサ』と、大型防弾盾を持つ防御担当『ゴリラその1』『ゴリラその2』『セイヤ』に分かれた。そして、それぞれ狙撃担当と防御担当とでバディを組み――『ゴリラその1』と『メガネ』、『ゴリラその2』と『クール』、セイヤとリサの3組は、第一本会議場へ向かう。

 1階廊下には護衛官の死体はもちろん、敵の死体も転がっていた。無慈悲な殺戮が行われた廊下は血の海だった。
 階段は2箇所あった。1つは一般人が使用する表階段。もうひとつは議員とスタッフのみ使用できる非公開の裏階段。
 一般用とされている階段を『ゴリラその1』『メガネ』、非公開の階段を『ゴリラその2』『クール』、セイヤとリサが行くことになった。

『ゴリラその2』の持つ大型防弾盾に『クール』は身を潜めながら、裏階段に潜んでいた敵を次々に撃ち倒していった。セイヤとリサはそれを援護し、背後を警戒しながら2階へ上がる。

 2階の廊下にも多くの護衛官と敵の死体があちこちにあった。セイヤとリサ、『ゴリラその2』とクールは、跳弾による被害を防ぐため廊下の真ん中を進んでいく。
 その時、大きな爆発音がした。
 第一本会議場のドアが2箇所が爆破され、今まさに敵が入ろうとしている。

 そこに笑みを浮かべているサギーの姿があった。まるで楽しくて仕方がないというような笑みだった。
 あの『少女』もいた……そして、少女と共に子どもたちを撃ったあの少年も。そう、あの時、セイヤとリサが取り逃がした犯人2人がそこにいたのだ。

 さらに――その後に続いた男の顔を見て、思わずリサは顔を強張らせた。
 男の左口元には大きな傷跡があった。忘れもしないあの傷跡……兄さんを殺した銀行強盗犯と同じだ……リサは男を凝視した。

 今ここに、セイヤとリサが捕まえたい人物が全てそろっていた。
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